【インプレッション・リポート】
ボルボ「S60」

Text by 日下部保雄


 ボルボと言えば自他共に認める高い安全性だ。各メーカーともに安全への取り組みには懸命になっているが、ボルボのそれは筋金入り。まだ安全に対して周囲が冷淡で会った時代から、安全なクルマとは何かについて真剣に取り組んできた。それはボルボの代名詞となり、今に至るボルボのタグラインとも言えるものになっている。

 一方で、ボルボは欧州メーカーらしく(派手ではないが)モータースポーツにも取り組んでおり、ラリーやツーリングカーレースにワークスチームを送り込んでいた。それがボルボの、安全でだけではないダイナミック性能を織り込んだバランス感覚のあるクルマ作りに貢献することになった。中国、吉林の傘下に入った現在も、ボルボはWTCC(世界ツーリングカー選手権)にも顔を出し、高いパフォーマンスを発揮している。

歩行者を検知する「ヒューマン・セーフティ」を標準搭載
 繰り返すが安全はボルボの生命線。そしてボルボの目指すものは事故のない世界を作ることにある。そのために以前より、段階的に多くの注目すべきセフティデバイスを積極的に取り入れており、アクシデントの軽減に努めている。

 記憶に新しいのはボルボのSUV「XC60」に搭載された「シティ・セーフティ」。これはレーザーセンサーを使い、渋滞時などのように時速30km/h以下で障害物を感知した時にブレーキをかける準備をするシステムだ。時速15km/h以下なら障害物の前で自動的に停止することが可能。

 それ以上、30km/h以下ならかなり衝突時に衝撃を回避することができる。障害物検知は6mの測定範囲に入ってからになるので、自車の速度が高い場合にはシティ・セフティは機能しない。もっともひっきりなしにブレーキをかけることになると、それはそれで煩わしい。

 そしてS60で導入されたのは「ヒューマン・セーフティ」。こちらはシティ・セーフティが障害物を検知するものだったのに対して、単眼カメラで人間などの障害物を発見してブレーキをかけるシステムになる。身長80cm以上の歩行者をカメラが判断して、時速35km/h以下なら警報を発し、さらに衝突を回避できないとシステムが判断した場合、ブレーキをかけて止まることができる。それ以上の速度でも衝突が回避できないと判断した時はブレーキをかけるので、障害の減少にも役立つ。

 ちなみに実験車があったが、前方に置かれた人形に対して約25km/hで接近していくと、直前で1Gのフル制動をして、人形の前で完全停止することができた。私がよそ見をしているシュチュエーションを作り上げるわけだが、障害物が接近してくるのは本能的に怖かった。

 

 日本では交通事故の死亡者の約35%が歩行者。事故死者数は減っているものの、歩行者が事故に合う割合は高くなる傾向にある。また追突事故の93%がドライバーの前方不注意という統計数字となると、これらのシステムの有効性の高さがよく分かる。

 スバルが複眼カメラを使ったアイ・サイトでぶつからない車をアピールして、高い評価を受けているが、ボルボではそれをレーザー・レーダーと単眼カメラで実現している。

 もちろんボルボの安全システムはこれだけではなく、セーフティ・パッケージにはヒューマン・セーフティのほかに斜め後方死角にクルマが入ったら警告するシステム(BLIS)や全車速追従機能つきオートクルーズ、レーンを逸脱しそうになった時に警告音を発するレーン・デパチャー・ウォーニングなどが含まれる。25万円のオプションはなかなか魅力的だ。ちなみにシティ・セーフティは全グレードに標準装備になる。

 これによってS60は歴代ボルボの中で最高の安全性を誇るモデルになった。

4気筒と6気筒をラインアップ
 さて、ボルボS60の概要だが、大きく分けて3つのグレードがある。FFで4気筒1.6リッターターボの「DRIVe」、直列6気筒3リッターターボ+AWDの「T6 AWD SE」と「R-DESIGN」だ。

 4気筒の1.6リッターターボは最近のボルボが推し進める直噴エンジンで、軽くターボ過給することで低速からトルクアップさせ、優れたドライバビリティを目指している。それでも最高出力は132kW(180PS)/5700rpmになり、最大トルクも1600rpmから240Nm(24.5kgm)を発生しているので、1.6リッターと言う排気量から想像するよりよっぽどパワフルで粘り強い。このエンジンの組み合わせはFFのみとなるが、ブレーキエネルギー回生システムを使っているので、燃費にも若干の貢献をしている。1.6リッターターボ搭載車はボルボ初のエコカー減税対象車であり、自動車税及び取得税が50%減税となる。

 一方のボルボらしい横置き直列6気筒エンジンを搭載したT6は、ターボ過給でさらにハイパフォーマンスを発揮する。こちらも2100rpmから最大トルクの440Nm(44.9kgm)を発生しているので、排気量の大きさとターボとの相性はよい。

 このパワートレインは電子制御AWDシステムとの組み合わせで常にホイール回転とエンジンスロットル、ブレーキをチェックしているので、路面状況に応じてトラックションをコントロールすることができる。基本的なAWDシステムはボルボが使い慣れているハルデックスを介したタイプになる。

 

1.6リッターとは思えない力強い走りと軽快なハンドリング
 では実際にハンドルを握ってみる。1.6リッターターボのDRIVeは215/50 R17のコンフォートパフォーマンス系のタイヤを履いている。デザイン上のバランスは取れており、新しい時代のボルボらしいスカンジナビアンデザインの塊感のあるものになっている。「シンプルで高品質なデザイン」とボルボが言うとおりと感じられた。

 インテリアも同様で、日本車とはもちろん、欧州車にもない微妙な面構成を持ったデザインで、特にあたかもそれだけが浮き上がるようなアルミ製のセンタースタック(センターコンソール)は、最近のボルボのインテリアデザイントレンドになっておりユニークで心地よい。

 S60は、第一印象よりは実際の重量は軽い。DRIVeの場合は1540㎏に収まっているので、最近の軽量ボディーのトレンドに則っている。燃費にとって軽量化は大きなポイントだ。低回転から240Nmのトルクが出ているので、大排気量の自然吸気エンジンのようにスムースで力強い。エンジンは6500回転からイエローゾーンが始まるが、そこまで回すのは現実的ではない。このエンジンの真骨頂は低速トルクの強さと中間回転域のピックアップのよさにあり、1.6リッターエンジンとは思えない快適なパフォーマンスと、力強い走りにある。

 乗心地は目地などの通過ではアタリが柔らかく、大きなショックは伝えない。ただフロントが大きな凹凸を通過した際にはFFらしくガツンとした入力が感じられる。総じて気持ちよく乗っていられるサスペンションチューニングだ。

 ハンドリングは、フロントエンドに4気筒+ターボを積んでいるが、慣性モーメントを大きくは感じないので、ハンドル操作に対する回頭性は納得のできるレベルだ。FRのようなスッキリとした感じのライントレース性はないものの、軽快なハンドリングでスポーティなドライブフィールを持っている。レーンチェンジなどでは軽快なフットワークを見せる。ただしスピードが上がってコーナーでのハンドル舵角が大きくなると、ちょっとスピードが上がると、フロントの外側に荷重が掛かかり予想以上のピッチングを示すことがある。ただこれも揺れが収まらないということではないので、それほど神経質になることではない。

 トランスミッションはツインクラッチの6速AT。フォルクスワーゲンのツインクラッチ「DSG」に比べて滑らかで、スタートからスムースに発進できる。トルコンに近い感覚でドライブできるので違和感はない。レスポンスの点ではDSGに歩があるが、ボルボのツインクラッチはクルマの特性によく合っている。またトルクのあるエンジンだが、発進でアクセルが過敏に感じることもなく、微低速でもスマートなのは好ましい。

 ちなみにインパネにある「DRIVeモード」スイッチを押すと、クルマが惰性で走るようなケース(下り坂などでクルージングしているような場合)、クラッチを切って回転抵抗を減らして燃費低減を図ることができる。モードスイッチのON/OFFでドライバビリティにほとんど違いはないので、通常はONで使用することになるだろう。

6気筒モデルは車格に応じた味
 続いて直列6気筒ターボエンジンを横置きに搭載したT6は、さすがにパワフルでトルクがあり余っている。低回転から直列6気筒らしい硬質な回転フィ-ルで高回転まで一気に駆け上る。FFでは強烈なトルクステアに見舞われても不思議はないが、実際にはそれほど意識しないですむ。さらにT6はAWDと組み合わせているので、イザとなれば4輪でトラクションを稼げるため、FFに比べて安定感は高い。初期の横置き直列6気筒搭載のボルボに比べればかなり洗練されたシャシーになっている。

 もちろん、FRとは違って基本的にはトルクを前輪で受け止めているので、ハンドルに伝わる反力はあり、最小回転半径もかなり大きいので、狭いところはあまり得意ではない。しかし、トルクにゆだねたクルージングは結構楽だ。ちなみにこちらのタイヤサイズは235/45 R17となる。

 乗心地は1.6リッターターボよりは硬めで、フロントから来る突き上げも強めだが、ダンピングはしっかりしている。それでも凹凸でタイヤが接地を失うことはほとんどないので、郊外路から高速道路まで一定したリズムでドライブできる。さらにハンドルの応答性はサスペンションが固められていることもあって、シャープで舵の効きもよいのが特徴だ。1.6リッターターボほどの軽快感はないが、車格に応じたドッシリした味を出している。

 またこれも1.6リッターと共通したドライブフィールだが、ステアリング剛性の高さがT6のハンドリング、安定感に大きく貢献しており、欧州フォード車と似た味は好感が持てる。

 静粛性に対して基本的な遮音は優れているが、タイヤのパターンノイズが入ってきやすい。これは1.6リッターターボも同様で、すべての音を遮断しようとしていないので、耳につく感じになってしまっている。

 操作系ではスイッチ類の配置にややバラバラな印象があるが、使い慣れると適度な分散配置はわかりやすいかもしれない。

 最後にキャビンについて触れておくと、フロントシートからの視界は太いAピラーのためにやや斜め前方の視界が遮られるケースもある。シートは革も含めてソフトなクッションでユッタリしており心地よい。リアシートのレッグルーム、ヘッドクリアランスともタップリしているし、4人分のスーツケースが入りそうな大きなトランクルームと相まって、スペースには不足はないだろう。


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2011年 3月 18日