【インプレッション・リポート】
GM「キャディラック エスカレード」

Text by 川端由美



 キャディラックのラグジュアリーSUV「エスカレード」。日本では三井物産オートモーティブが扱っていたが、同社によるGM車の販売終了にともない、エスカレードはGMジャパンが引き継ぐことになった。そのエスカレード最新モデルに、デトロイトで試乗した。

頼もしい大柄なボディー
 ロボコップ、エミネム、そして自動車。デトロイトの“名産”を挙げたら、それだけで紙面が尽きてしまいそうだ。モータウンのあだ名の通り、アメリカの自動車産業の故郷であり、今でもデトロイト・スリーが本社を構えるこの町には、古きよきアメリカが残されている。その一方で、この国が抱える失業や貧富の差といった問題も凝縮した町だからこそ生まれる新しい文化の息吹も感じさせる。不思議な町だ。

 ダウンタウンにあるGM本社で鍵を受け取り、電動で飛び出すステップを足がかりに、立派なサイドシルを越えてエイヤ! と座席に乗り込む。

 走り出すとすぐに、廃墟と思しき落書きされたビル郡が並ぶエリアに差しかかる。ヒップホップ・スターが乗るような悪っぽさ丸出しのキャディラック エスカレードの試乗ステージとして、これほどしっくりくる場所はない。信号で止まってフードを目深にかぶった“ブラザー”と目が合っても、おびえることなくコラムシフトをDレンジに入れて、堂々とアクセルを踏み込んで走り出すべきだ。

 発進した途端、フロントに搭載された6.2リッターユニットがグワッという唸り声を上げて目を覚ます。大排気量V8らしい豊かなトルクが湧き上がり、低回転域からでも2.5t級の大柄なボディーをグイグイと引っ張ってくれる。

サイドステップは電動で格納される6.2リッターのV型8気筒エンジンシフトレバーはコラム

 カナダとの国境を隔てるデトロイト川に沿った幹線道路に出て、郊外に向かって走り出す。運転席からの視線が高く保たれているおかげで、湖を望む美しい景色を堪能できる。当然、周囲の交通の状況を察知しやすく、大柄なボディーゆえの安心感もあって、運転していて非常に頼もしい。

 快適なのは、運転席だけではない。左右独立の2列目はフロントシートと同じく、ゆったりとしたかけ心地で見晴らしもいい。それと比べて、3列目シートはエクストラの感が否めないが、1、2列目よりも着座位置が高く、3列目に座っても押し込められているという印象はない。

 レザーとウッドを奢ったインテリアの質感は高く、張りのある大振りなシートに身を預けたまま、どこまでも走っていきたくなる。ステアリングの中立付近があいまいな印象だが、アメリカの荒れた道ではこれくらいがちょうどいい。むしろ、欧州車のようにあまりインフォメーションに富んでいても疲れてしまう。

 

アメリカン・ラグジュアリーの真髄
 ひとしきり穏やかな景色を堪能した後、GMの技術の中枢であるテックセンターに向かってステアリングを切る。フリーウェイの合流では、最高出力403PS/5700rpm、最大トルク563Nm/4300rpmを生む6.2リッターV8エンジンの大きな力が頼もしい。いったん流れにのってしまえば、6速ATが最適な回転数を選んでエンジン回転数を抑えて走る。

 1500rpm以下の低回転域でも豊かなトルクを発揮するため、街中での唸り声とは別人のような静粛性の高さを誇る。ただし、いくら低回転を保ってもこのボディー重量と大排気量では、アメリカのEPAによるモード燃費はシティが13mpg、ハイウェイは18mpgと決して低燃費とは言えない。

 もちろん、近年のエコ・コンシャスの高まりに対して、ハイブリッド・モデルという答えも用意している。GMとメルセデス・ベンツの共同開発に加えて、BMWも採用した2モードハイブリッドは、48km/hまではモーターのみで走るEVモードを持つのが特徴だ。332PS/50.7kgmを発揮する6リッターV8ユニットと60kWのモータ2基の組み合わせによって、2.8tものボディーを走らせる。

 5144×2007×1928mm(全長×全幅×全高)の大柄なボディーは、日本では取り回しに困るかもしれない。最小回転半径は約6mと大きく、ステアリングの操作感も機敏とは言いがたい。燃費性能も時代に逆行するような数値である。

 しかし、アンコの詰まった張りのあるシートに身を預けて、どっしりと信頼感のあるステアリングを握れば、アメリカン・ラグジュアリーの真髄を味わえるのは間違いない。

 


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2012年 2月 24日