【インプレッション・リポート】
三菱自動車「デリカD:5」

Text by 日下部保雄



 三菱自動車工業のミニバン「デリカD:5」に、アイドルストップを装着したモデルが2011年12月も押し迫った時期に登場して、実用燃費の向上を図ることになった。アイドルストップ付モデルは前輪駆動モデルだけで、この年の10月にデビューした「RVR」や「ギャラン・フォルティス」に装備されたアイドルストップ付と同じメカニズム、同じ系列のエンジンを搭載する。

 三菱自動車は可変バルブタイミング&リフトのMIVECエンジンを得意としているが、この技術とアイドルストップを組み合わせることで、とかく悪化しがちなミニバンの燃費の向上を図ろうと言うものだ。

 デリカに搭載されるMIVECエンジンは2リッターの「4J11型」で、ギャランやRVRの1.8リッターの排気量を拡大したものだ。いずれもSOHCで、吸気のバルブリフト量の可変を行うことと、吸排気バルブの開閉タイミングをシンプルな機構でまとめたものだ。通常はDOHCでカムを2本使うが、三菱自動車では1本のカムとすることで、ヘッドまわりのパーツの削減と小型・軽量化を図ることができた。可変機構は電動モーターで駆動しているためにコントロールしやすく、さらにスロットル制御は吸気バルブを直接コントロールしているために負荷を小さくでき、ポンピングロスを減らすことが可能になっている。

4J11型MIVECエンジンは最高出力110kW(150PS)/6000rpm、最大トルク191Nm(19.4kgm)/4200rpmを発生。10・15モード燃費は15.0km/L、JC08モード燃費は13.6km/L

 なかなか三菱自動車らしいアイデアに富んだエンジンだ。出力は1.8リッターの「4J10型」に対して4J11型は102KW(139PS)から110KW(150PS)にパワーアップし、トルクも172Nmから191Nmに向上している。

 このエンジンの特徴はピークの数字を追わず、実用域の使いやすさに主眼を置いていることで、この目標は実用燃費にも現れている。低速トルクがあって、発進時もアクセル開度が小さい状態で加速してくれるため、結果的に燃費もよくなる。とくに3000rpmぐらいのトルクの山が使いやすく、それ以上の回転でも出力が向上していくフィールは損なわれていない。トップエンドは6000rpmほど、さすがに高回転での伸びは鈍くなる。

 アクセルの踏み加減と加速感は自然なフィーリングで、ドライバーに余計なストレスを感じさせず、使いやすいエンジン特性だ。また回転フィールは滑らかなものの、加速時のエンジン音はちょっと安っぽくノイジーだ。

 組み合わされるトランスミッションはCVT。他のCVTと同じようにトルコンを持つタイプだが、エンジンとの相性もよく加速感が自然で、エンジン回転だけ先行するような感じもない。またステアリングの裏側に配置されたシフトパドルの配置も妥当で、エンジンブレーキなどをかけるときは使いやすい配置だ。ただ、パドルを使うとマニュアルモードが優先されるようで、Dレンジに戻すにはいったんレバーを倒すか、パドルの長引き操作が必要になるので、この点は慣れるまで時間が必要だ。

ボディーサイズは4730×1795×1850mm(全長×全幅×全高)、ホイールベース2850mm

 ただし、マニュアルモードでのパドルレスポンスはなかなかシャープで好感が持てる。変速ショックを感じるほどのつながりの速さで、パドルを使った場合はこの方がメリハリが効いてよい。エンジンブレーキ効果も高い。

 アイドルストップは、車両の停車とともにスムーズにエンジンストップが働く。信号などで停車すると、すぐにエンジンを止めにいく。これだけエンジンが止まると、止まらないときに不安になる。ブレーキペダルから足を緩めるとエンジンをすぐにかけにいくが、このタイミングも遅からず早からずで丁度よい。さらに大容量のスターターで再始動時のエンジンの振動も小さく、ごく自然にエンジンが回っている感じで好ましい。この制御にMIVECのコントロールを駆使して、一番再始動に適した領域を使っているのは想像に難くない。CVTとの統合制御も巧みにバランスしており、滑らかさには大いに感心する。

 エンジン停止時にもエアコンと統合制御を行い、キャビンが快適に過ごせるように停止中もエアコンは微妙に作動している。この点の“おもてなし”はさすが日本車だ。余談だが、エアコンが強力に作動するような場面ではアイドルストップをしなくなる。居住性優先の設定だ。

 さらに坂道で停車した際、エンジンが停止してもバックしないようにASC(アクティブスタビリティコントロール)によってブレーキ制御を行っているので、突然クルマが下がって驚くようなことはない。

 パワートレーン系の完成度はなかなか高く、2リッターという排気量でも4WDよりも100㎏ほども軽いので、比較的大柄なデリカD:5でも結構よく走る。ちなみに2WD(FF)車の車重は1690㎏(パッケージオプション込み)なので、パワーウェイトレシオは11.2㎏/PSとなり、2.4リッターの4WDと比較しても(約10.5㎏/PS)それほどそん色がない。大荷重になったときはさすがにパワーに限界があるが、低速トルクが豊かで走りには大きな不満はない。

デリカD:5のインテリア

 キャビンに入るノイズは、ミニバンでは重要になるリアからの音がよく遮断されており、静粛性が高くて快適だ。乗心地は硬めだが、バネ上がバタバタするような性質のものではなく、パッセンジャーも穏やかに乗っていられる。ハンドリングも重心高は高いが、操舵性などはミニバンとして妥当なもので、日常的な高速走行では不安感をまったく感じさせない。

 セカンドシートの広さはたっぷりとしており、セパレートの2列目(ベンチタイプも選べる)をちょっと前に出せば3列目もレッグスペースに余力があり、大人が2列目、3列目に丁度よく座れる。ただ、3列目シートは左右に折りたたむタイプに収納されるシートで前後長はそれほど大きくない。

 このほか、デリカD:5は至るところにちょっとした応用ができるアイテムも搭載されており、使いこなすと長い付き合いができそうだ。ノア/ボクシーやセレナサイズのミニバンよりもちょっと大きく、Lクラスミニバンよりは小さいサイズは貴重な存在でもある。

2列目、3列目は大人が丁度よく座れるサイズだが、3列目シートの前後長はそれほど大きくない

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http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/

2012年 3月 9日