【インプレッション・リポート】
スバル「レガシィ ツーリングワゴン&B4」

Text by 岡本幸一郎


レガシィ ツーリングワゴン 2.0GT DIT(右)と、セダンタイプのB4 2.5i EyeSight(左)

 大柄なボディーにアクの強いデザイン、メカニズム面の大変更など、それまでの4世代からガラリと変わった現行の5代目レガシィは、2009年に登場した。その後もスバルらしく毎年改良を行ってきたが、C型からD型へと移り変わる3年目の今回は、「全性能進化」をコンセプトに、内外装、パワートレイン、足まわりとボディー、各種装備の細かな部分にいたるまで、内容的にはフルモデルチェンジなみの大がかりな改良を行っている。

 エクステリアも一見して印象が変わっているが、近くで見るよりも少し離れて眺めたほうが、変化がより感じられるように思う。車内に乗り込むと、インテリアの質感が向上していることもすぐに感じ取れる。

ツーリングワゴン 2.0GT DITB4 2.5i EyeSightB4 2.5i EyeSightをドライブ中。インテリアの質感も向上した

2.0リッター直噴ターボの2.0GT DITと、2.5リッター自然吸気の2.5i EyeSightに試乗
 最大の注目はパワートレインにある。1つは、いよいよ世に出た「DIT」と呼ぶ2.0リッター直噴ターボエンジン「FA20DIT」。そして、フォレスターやインプレッサに順次採用されてきたロングストロークタイプの水平対向エンジン「新世代ボクサーエンジン」の流れをくむ2.5リッター自然吸気エンジン「FB25」の搭載だ。さらには、スバル独自のCVTであるリニアトロニックも、それぞれのエンジンにあわせて最適化した新しいものが搭載された。なお、これまでレガシィの主力エンジンとして搭載されていた、ショートストロークタイプのEJ系は、5速ATと組み合わされた2.5リッターターボの「EJ25」が残るのみ。そのほかアウトバックにのみ、水平対向6気筒3.6リッターの「EZ36」が従来どおりラインアップされている。

 今回は、2.0リッター直噴ターボエンジンを搭載した「ツーリングワゴン 2.0GT DIT」と、2.5リッター自然吸気エンジンを搭載した「B4 2.5i EyeSight」を借り出し、ところどころで乗り換えながら、一般道、ワインディング、高速道路など300kmあまりを走行してみた。エンジンフィールは、性格こそ異なるものの、それぞれ上々だ。まず2.5iの印象から述べるとFB25型エンジンは低~中回転域がトルクフルで、リニアトロニックの応答遅れもなく、ペダルワークに対するツキもよかった。

最高出力221kW(300PS)/5600rpm、最大トルク400Nm(40.8kgm)/2000-4800rpmを発生する2.0GT DITの2.0リッター直噴ターボエンジン
左が86/BRZのトヨタD-4S用ピストン、右がスバルのDITピストン。ピストンヘッドの形状が異なり、直噴制御の違いがあることが分かるスバルDITピストンD-4Sピストン
最高出力127kW(173PS)/5600rpm、最大トルク235Nm(24.0kgm)/4100rpmを発生するFB25エンジン。自然吸気のため、シンプルな作り
左がFB20用ピストン、右がFB25用ピストン。同系列のエンジンながら、ヘッド形状が異なったものになるFB25用ピストンFB20用ピストン

 3つの走行性能を切り替えることの可能な「SI-DRIVE」を、燃費に配慮する「I(インテリジェント)」モードにセットしても、ストレスを感じることもない。メーターパネルに内のマルチインフォメーションディスプレイに表示されるグラフィックスでは、「I」モードの性能曲線は、よりスポーツ志向の「S(スポーツ)」モードよりも立ち上がりの角度がなだらかに描かれていて、いかにも遅そうなのだが、実際にはちょっと違う。

 中間加速こそやや穏やかになるものの、出足はスッと軽く前に進むので、市街地でも物足りなさを感じることはない。SI-DRIVEを切り替えながら、いろいろなシチュエーションを走ってみたが、高速道路での再加速や首都高速の合流のようなシチュエーションでも、意外やiモードのままで不満なく走れた。

2.0GT DITのコクピットSI-DRIVEの切り替えも、ステアリングスポーク右部にモードは、メーターパネル内のマルチインフォメーションディスプレイに表示される

 B4 2.5i EyeSightにはアイドリングストップ機構が付くのだが、気温約25度程度の下でエンジンを始動させ、1kmも走らないうちからエンジンが止まることに驚いた。もちろんインプレッサでも感じたのと同じく、頻繁によく止まり、素早くスムーズに再始動する。

 一方のツーリングワゴン 2.0GT DITは、思いのほか痛快な走りを楽しませてくれた。正確な情報を知るまでは、欧州車によくあるように効率を最重視した、いわゆるダウンサイジングターボをイメージしていたのだが、そんなことはなかった。もちろん燃費にも大いにこだわっているというが、本質的にはハイパフォーマンス重視。2.0リッターで300PS、トルクは400Nmとなり、かなりの高性能ユニットだ。

 ドライブすると、実際にもかなりパワフルで、とくに4000rpm以上で本領を発揮する印象。既存の2.5リッターターボよりも格段に力強い加速をする。この感覚は今までのスバルのターボエンジンになかったものだ。

 レッドゾーンはFB25と同じく6000rpmからというのが、ちょっともったいないくらい。逆に4000rpm以下は、本来の実力からすると、なりを潜めている感じだが、ダウンサイジングターボでは不得意といわれる低速域のドライバビリティも、高トルク対応リニアトロニックの巧みな制御が上手くカバーしているようだ。しかも燃費は、「2.5GT」に搭載される既存の2.5リッターターボより2割も向上している。実燃費も、感触としては、自然吸気のFB25に対しても、通常の走行時は同等で、差がつくのはほぼアイドリングストップ相当分という印象だった。

SIドライブを切り替えると、「I」「S」「S#」でかなり印象は違う
 筆者としては、せっかくこうしたエンジンを積んだクルマを買ったならば、「I」モードにしておくのはもったいなくて、よほどでなければ「S」をデフォルトと捉えてよいのではと思う。

 「S#」を選ぶと、クロスレシオの8速ATのような段付き感のあるフィーリングとなるのが面白い。8速もあると煩雑という声もあるようだが、筆者は8速でよかったと思う。

 高トルク対応のリニアトロニックのフィーリングは、ダイレクト感があり、応答も素早く、筆者がこれまで体験したどのCVTよりもよい。ただし、出足の飛び出し感がちょっと気になり、それは「I」モードにしても変わらない。以前にスバルの開発者が、「飛び出し感はないほうが好ましい」と話していたように記憶していて、実際これまでのスバル車では往々にしてそうなっていたと思うのだが、このDITはやや飛び出し感がある。個人的には、リラックスして乗る際には、やはり飛び出し感はないほうがよいと思う。たとえばSI-DRIVEを活かして、「S」モード以上は現状でもよいので、「I」モードでは、その部分を抑えてくれてもよかったのではないだろうか。

 また、心なしかCVTのバリエーターの発する音が気になった。今回、トランスミッションケースの板厚を上げたり、新たに板を追加するなど、音や振動を抑える対策を施したとのことだったのだが、それでも気になったのは、ほかの要素による音が小さくなって、相対的に目立ったせいかもしれないし、あるいはCVTとはそういう音がするものだということを知っているので、余計にそうだったのかもしれない。決して不快というほどのものではないにせよ、気になってしまった部分ではある。

 ちなみに、「I」モードで100km/h走行時のエンジン回転数は、2.5i EyeSightが約1750rpm、2.0GT DITが1700rpmをわずかに下回るあたり。ショートピッチのバリエーターを採用したDITのリニアトロニックは、わずかに既存のものより変速比幅も大きくなっているそうだ。また、使用燃料は、2.5i EyeSightがレギュラーガソリン、2.0GT DITがハイオクガソリンになる。

 今回のD型は、C型に対してフットワークの印象も大きく変わった。全車共通のC型からの変更点は、サスペンションまわりでは、ダンパー、ブッシュ、マウント、スタビライザーなどの強化。それに合わせてボディーについてもクレードルの溶接やサポートサブフレームリアを追加するなどしている。

 ダンパーのチューニングの方向性は、大まかにいうと縮み側を緩め、伸び側を強め、スタビライザーも強化することで、ロール角速度を抑えたとのこと。もっともスポーティな位置づけとなるDIT搭載車には専用チューニングを施し、リアのスタビ径を増すなどしている。往年のspec.Bの再来といったところだろう。

 ドライブしてまず感じるのは、ステアリングのしっかり感が増したことや、従来に比べて、より応答遅れのない、一体感のある走りになったことだ。そして、2.0GT DITのほうが軽快感があり、キビキビと走れる。2.0GT DITのほうが車重は重めだが、一連のチューニングが効いているようだ。ただし、市街地での乗り心地は硬く、荒れた路面で感じる突き上げはやや強め。そのわりにハードなコーナリング時のロールは大きめだ。一方で、高速道路では、の硬さが心地よいフラット感をもたらす。このパワフルなエンジンと引き締まった足まわりを組み合わせた2.0GT DITがもっとも真価を発揮するのは、高速道路といえそうだ。

 一方の2.5i EyeSightも、今回はビルシュタインと18インチタイヤを履くS Packageではなく、「EyeSight(ver.2)」搭載のベーシックモデルだったが、走りの基本的なキャラクターは、こうしたベーシックなモデルも、C型に比べるとスポーティな方向に振られている。

 もっともそれを感じるのが、操舵に対する応答性の高さ。ただし、コンフォート性については、よくなった部分もある半面、落ちたように感じる部分も多々見受けられる。正直、1つ前のC型の仕上がりがなかなかよかったと感じていたので、新たな要素がいろいろ入ったことで、かなりD型の乗り味は変わり、その新しくなった状態におけるベストセッティングには達していないように思えなくもなかった。

セダンとツーリングワゴンの走行性の違いに関しては、今回は同グレードではないので横並びでの比較はできないが、ツーリングワゴンはやはり後ろの重さを感じるのと、セダンのほうが、走りの一体感もタイヤの路面に対する追従性も上だ。また、ツーリングワゴンは、もっと多人数で荷物もたくさん積んだ状態に照準を合わせているせいか、乗り心地も硬めにセッティングされている。

 ツーリングワゴンが欲しいからレガシィを選ぶというのは、もちろんあるだろうし、ツーリングワゴンはツーリングワゴンでよくできているが、セダンのほうがより上質な走りを身に着けていることはお伝えしておこう。

 4WDシステムについては、これまでリニアトロニック搭載車のセンターデフはアクティブトルクスプリット式となっていたが、前輪よりも後輪に大きな駆動力を配分するVTD-AWDが新たに組み合わされた。ステアリング舵角、ヨーレート、横GなどのパラメータをVDCのシステムからの信号を使い、より緻密な制御を実現すべく取り組んだとのことで、とくに低μ路での発進時のホイールスピンや、限界域でのタックイン、タイトコーナーブレーキングなどを抑制する上で効果を発揮すると言う。

 今回のテストドライブでは、ドライ路面のみの走行で、あまり限界走行を試したわけではないため、それほど体感できなかった。ただし、このVTD-AWD機構により、資質としては、よりスポーティな走りが期待できるようになっていることには違いない。

進化したEyeSight(ver.2)
 レガシィでは、いまや9割の装着率を誇ると言うEyeSight(ver.2)も、さらに進化した。D型レガシィでは、EyeSightについていくつか細かな変更がされている。1つ目は衝突回避性能の向上だ。

 EyeSightのプリクラッシュブレーキには、警報のための予備制動と、停止するための回避ブレーキの2種類がある。従来は0.25G程度だった予備制動を、今回は一気に約0.4Gまで高めた。これにより警報効果とともに、衝突回避性能も向上した。速度でいうと、公表値ではないが、これまで約30km/hまでであれば回避できたところが、40km/h程度でも大丈夫になったと言う。

進化したEyeSight(ver.2)EyeSight(ver.2)の動作もマルチインフォメーションディスプレイで確認できるアイドリングストップ中であることを示すアイコンが回転計下部に、積算アイドリングストップ時間がマルチインフォメーションディスプレイに表示される

 また、従来はプリクラッシュブレーキが作動したあとは、すぐに解除されたが、D型ではドライバーが何かアクションを起こすまでブレーキが保持されるようになった。これはドライバーがパニックに陥って二次的な事故が起きることを防ぐのが目的だ。ちなみにブレーキの保持は、始めはVDCで行い、一定の時間が経過すると電子ブレーキに切り替わる。

 さらに、カーブ走行時の前走車や、ゆっくり横断している歩行者の認識など、検知性能の精度が向上した。これにより不要なシーンでの作動を防ぎ、必要なシーンでの作動率を高めることに成功していると言う。加えて制御そのものについても、たとえば遅いクルマに追いついたときに、従来はちょっとヒヤっとする場面があったところ、そこの応答性を改善するなどしている。

 また、EyeSightでは、アイドリングストップ機構との協調制御を行い、追従によるクルーズコントロール走行中は、ブレーキを踏まずにEyeSightによって停止するとアイドリングストップが作動するのが特徴的。停車時間が長ければ、この場合も自動的に電子ブレーキが作動する。そして、レジュームスイッチかアクセルペダルの操作によりエンジンが再始動し追従走行も再開される。

 クルーズコントロールの設定車速のステップも、これまで5km/h刻みだったところ、1km/h刻みと細かくされた。さらに、これらEyeSight関連のデバイスがどのように機能しているか、作動状況がメーターパネル内にあるマルチインフォメーションディスプレイに表示されるようになった。

 そのほか、マッキントッシュのオーディオシステムの音質向上、シートベルトリマインダーの全席装備、パワーウインドースイッチの全席オート対応、ブレーキオーバーライドや欧州車では常識のワンタッチレーンチェンジ装備など、細かなところも抜かりなく進化している。

 このD型レガシィで、やはり気になるのは、2.0リッター直噴ターボエンジン搭載車の2.0GT DITだと思う。2.0GT DITのEyeSight搭載車の発売については、マッチングを図るのに時間を要するため、2012年9月になるとのこと。2.0リッター直噴ターボエンジン搭載車の購入を検討する人でも、EyeSightは付けたいと考えるだろうが、2.0リッター直噴ターボエンジンでEyeSightを搭載したレガシィに関しては、ひとまず待つしかない。

 出力221kW(300PS)、トルク400Nm(40.8kgm)という、2.0GT DITまでの性能を求めないユーザーには、むしろ自然吸気モデルの2.5i系を積極的に勧めたい。こちらのほうが普通に使う上では乗りやすく、もちろん質も十分に高いクルマである。

 ところで、ふと思ったのは、2.0GT DITならMTがあってもよいのでは?ということだ。レガシィが現行型となってからMTの販売比率が低かったことから、D型ではついにMTが廃止されたわけだが、それはこれまでMTに相応しいエンジンがなかったからではないかと。決して自分がMTを欲しいからいうわけではないが、2.0GT DITであれば、あえてMTに乗りたいというユーザーの期待に応えることができると思うのだが。スバルさん、いかがでしょう……?


インプレッション・リポート バックナンバー
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2012年 6月 21日