インプレッション

ゼロエンジニアリング「ROADHOPPER Type5 EVO」/「ROADHOPPER Type9 EVO」

ROADHOPPER Type5 EVO:286万2000円

ROADHOPPER Type9 EVO:340万2000円

ROADHOPPER Type5 EVO

 ROADHOPPERシリーズの元になっているのは、バイクパーツの開発・販売元であるプロトの1事業部としてスタートし、その後独立した「ZERO ENGINEERING(ゼロエンジニアリング)」によるハーレーダビッドソンのカスタム車両だ。ゼロエンジニアリングはワンオフカスタムパーツによって独特のスタイルに仕立て上げるビルダーとして知られ、そのデザインは「ゼロスタイル」とも呼ばれている。エンジンを強調するように配置された鋼管パイプで構成される「グースネックフレーム」などにより、極端なロー&ロングの車体ディメンションを実現し、その斬新なスタイルは世界的に注目を集めている。

 ゼロエンジニアリングのカスタム車両はエンジニアの手で1台1台製造されていたが、そのカスタムDNAを受け継ぎつつさらに完成度を高めて量産化を果たしたのが「ROADHOPPER」シリーズとなる。2016年は新たに「ROADHOPPER Type5 EVO」と「ROADHOPPER Type9 EVO」の2車種が追加され、以前から変わることのない強烈な個性をアピールしている。

ROADHOPPER Type5 EVO

ROADHOPPER Type5 EVO。鋼管パイプが用いられたユニークな形状のグースフレーム
1337ccの米S&S製エンジン
しなやかに動くスプリンガーフォーク
リアはリジットのため、シングルシートに衝撃吸収のためのスプリングがセットされ、一定の乗り心地を確保
カスタム感あふれるインジケーター類
目立つ大径フロントタイヤ。乗車中もタイヤやブレーキキャリパーが見えるのが新鮮だ
リアサスペンションのないリジットフレーム

ROADHOPPER Type9 EVO

ROADHOPPER Type9 EVO
Type9 EVOのエンジン周り
ブラック基調の洗練されたデザインが光るエキゾースト
Type9 EVOは独自のリンク機構を用いたリアサスが装着されている
こちらもタイヤは太く、ハイトがある。ブレーキラインにプロトが販売するスウェッジライン プロが用いられているところにも注目
ROADHOPPER Type9 EVO

 どちらの車両も、ハーレーダビッドソンのエンジンチューンも手がけるエンジンメーカー米S&S製のエボリューションエンジン(排気量1337cc)を搭載。排ガス規制などにより燃料噴射装置に電子制御式のフューエルインジェクションが採用されることの多いなかで、キャブレターに電子制御を組み合わせて規制をクリアしながら最適なパフォーマンスを実現しているのも特徴だ。

 フロントにはオールドスタイルなハーレーダビッドソンの1要素でもある「スプリンガーフォーク」がセットされている。ただし、古い設計のパーツをそのまま利用しているのではなく、車体に合わせて独自に設計・開発したもの。そのスプリンガーフォークが支えるフロントタイヤは、扁平率が高いためにハイトがあり、大胆にフェンダーレスとしていることもあって、外から眺めても、乗っている間も目を引く。

「Type5 EVO」と「Type9 EVO」の最も大きな違いは、リジットフレームであるかそうでないか。Type5 EVOはリアサスペンションのないリジットフレームで、一般的にはロングな車体ではあるが、それでもコンパクトなシルエットを見せている。一方のType9 EVOはリアサスペンションを装備しつつ、ローなスタイルを崩さないようスイングアームやリンクに工夫が施され、Type5 EVOと比べてもかなりロングな車体として穏やかな乗り心地を実現しているのだ。

現代的バイクの対極にある乗り心地を体感して、ますますバイクが好きになる

 今回は主にリジットフレームの「Type5 EVO」に試乗することができた。一般的なアメリカンよりもさらに低いと感じる車体。足下のステップ位置はミッドコントロールで、これ自体は珍しいポジションではないが、ハンドルバーがフラットに近い形状で低い位置にあるせいか、他のバイクでは経験したことのない不思議な前傾気味の乗車姿勢を取る。両手両足を等しく斜め下に投げ出し、地を這うように走るバイクを優しく抱きかかえているような感覚だ。 エンジンの鼓動はまさしくVツインのハーレーを感じさせるものだが、ゴロゴロという心地よい重厚感がある。

ROADHOPPER Type5 EVO

 アメリカンも含め最近の現代的なバイクを基準に考えた場合、乗り味についておおざっぱに言ってしまうと、パワフルだが機敏に加速させるような使い方は難しいし、ブレーキはコントローラブルでも強力なストッピングパワーを発揮するものではない。ハンドリングはひたすら重くて“立ち”が強く、車体が極端に低いから当然バンク角も少ない。振動で両手両足がしびれそうだったり、正直なところネガティブに思える部分ばかりだ。

 乗ってすぐに、最新技術で固められた現代的なバイクとは全く異なる乗車感覚をおぼえるけれど、しかし、しばらく乗っているとその全ての感覚がプラスのイメージに変わっていく。がぜん面白くなり、自然と笑みがこぼれてしまう。そもそも公道を走る以上、猛烈な加速性能の必要性は皆無だし、強力なブレーキシステムもこの車体にはオーバースペックだ。ハンドリングが重たくても、クイックに操作しようと思わなければ十分に安定して曲がっていく。

一見ネガティブに感じてしまう部分が、全てポジティブな印象になる不思議な感覚

 路面やエンジンから伝わってくる感触をハンドルやシート、ステップに置いた足でしっかり味わいながら、全身に風を受けつつ走るのが、バイクというものではなかったか、という根源的な問いかけをしたくなる。バイクで走ることは少なからずマゾヒスティックな部分があったはずだ。それに対抗するかのように快適さや高速性能、旋回性能を追求した現代のバイクとは、ROADHOPPERは完全に対極の位置にある。本当の意味での「バイク好き」が乗りこなしたい、古くて新しいバイクであると感じた。

 ちなみにType5 EVOのリジットフレームは、「リジット」という言葉からイメージされるような乗りにくさは全くなかった。シートのスプリングがきっちり仕事をしていて、リアからの大きな振動を吸収して身体の負担は軽減しながら、路面の情報をありのまま伝えてくる。まるで常に車両と対話しながら走っているかのようだ。1段上のしなやかさを提供してくれるType9 EVOと比べて、走りに多少の慎重さは必要になるが、リジットならではのダイレクト感ある乗り心地を味わえば、改めてバイクという乗り物、あるいはROADHOPPERが大好きになってしまうだろう。

リアサス付きのType9 EVO。乗り心地はType5 EVOよりしなやか

日沼諭史