レビュー

【タイヤレビュー】スタンダード低燃費タイヤ「エコス ES31」をテストコースで試す

ヨコハマタイヤのテストコース「D-PARC」を疾走

 ヨコハマタイヤ(横浜ゴム)から3月に発売されたスタンダード低燃費タイヤ「エコス ES31(エコス・イーエスサンイチ)」の試乗会が、茨城県北部にある同社のテストコース「D-PARC(Daigo Proving-ground and Research Center)」で開催された。

 エコス ES31は、既存の「DNA エコス(ディ・エヌ・エー エコス)」の後継製品。DNA エコスについて少し述べると、発売は2001年と古く、いち早く低燃費に着目して開発されたスタンダードタイヤである。DNA エコスの商品コンセプトは多くの消費者の共感を呼び、加えて販売価格が安価であったこともあり、シリーズ累計3300万本以上の販売を誇る人気モデルとなっていた。

 DNA エコスに置き換わるエコス ES31は、その優れた基本性能とコンセプトを受け継ぎながら、12年分の進化を遂げたものとなっている。DNA エコスは低燃費タイヤのラベリング制度がスタートするよりもはるか前に生まれた商品だが、現代のエコス ES31のラベリングは、転がり抵抗性能「A」、ウェットグリップ性能「c」にグレードされている。DNA エコスと比べると、エコス ES31は、転がり抵抗が11.5%低減した一方で、ドライ制動性能は3.6%、ウェット制動性能は実に14.1%も向上していると言う。

転がり抵抗性能「A」、ウェットグリップ性能「c」にグレードされるスタンダード低燃費タイヤ「エコス ES31」

 3月の発売時点では、軽自動車から大型ミニバンのインチアップにも対応する145/80 R13 75S~225/45 R18 95Wの全30サイズをラインアップ。まだ設定のないサイズについては、DNA エコスが継続販売されるのだが、今後順次エコス ES31に置き換わっていく。価格レンジは、従来のDNA エコスと同等のところにあるようで、気軽に購入しやすい低燃費タイヤだ。

前作DNAエコスをすべての面で上回るエコス ES31。サイズラインアップも13インチから18インチまでと幅広い。現時点では30サイズだが、将来的にはDNAエコスを置き換えるため、より大径、より低偏平率なものがラインアップしていくのだろう

まずは転がり抵抗をチェック

 エコス ES31の外観は、ぱっと見だとあまり変哲のない素直なトレッドパターンで、4本の太いストレートグルーブが、いかにも排水性がよさそうな印象。タイヤサイドを見ると、「エコス」や「YOKOHAMA」ロゴが凸から凹となっていて、空力に配慮されていることが分かる。商品名はエコスブランドであり、同社の低燃費タイヤブランド「BluEarth(ブルーアース)」ではないものの、その横に刻印された「BluEarthテクノロジー」のマークが、この商品がどういう性格のタイヤであるかを伝えている。

 試乗会のプログラムは、まず既存のDNA エコスと新しいエコス ES31の転がり抵抗とウェットグリップの差を確認する比較実験からスタートした。ただし、自分で運転するのではなく、スタッフが行うデモ走行を目で見て確認するセッションだった。

 転がり抵抗については、荷台を斜めにした状態で固定したキャリアカーに実験車両(プリウス)を載せ、ブレーキを解除して、どこまで進むかを計測し、それぞれのタイヤでどのくらい差がつくのかを試す。万全を期して、参加者の目の前でスタッフがエアゲージを挿し、指定空気圧(前230kPa、後220kPa)になっていることを確認。同じ車両でタイヤを履き替え、それぞれ2回ずつ行い、平均値で比較する。

 結果は明快だった。DNA エコスでは、平均値は67.2m (1回目63.9m、2回目70.4m)となった。1回目と2回目で1割近くも差があったわけだが、実は、この日は風が非常に強く、D-PARCのあたりも12m/s程度は吹いていたらしいので、少なからず風の影響を受けたものと思われる。

 そして、エコス ES31で同じようにテストを実施。見ていると、スロープを降りて地面に着地したときの勢いからしてすでに違う。さらに、DNA エコスでは50m地点を越えたあたりで、だいぶ前に進もうとする力が弱まり、いつ止まってもおかしくないように見えたのだが、エコス ES31では60m地点を過ぎでもまだ勢いがある。これは80mに届きそうだなと思っていたら、実際にも平均値で実に83.9m(1回目84.1m、2回目83.7m)に達した。11.5%も低減したという転がり抵抗による差は、さすがに顕著に表れた。

このような台から実施
タイヤを履き替える作業
実験前には空気圧を測る。空気圧が転がり抵抗に大きく影響するため
転がり具合を計測

ウェット性能も比較

 続いてウェット性能。こちらは水を撒いた路面に進入し、80km/hからフルブレーキングを行い、完全に停止するまでの距離を比較するという方法で実験を実施。なお、車速や距離の計測にはGPSを使用し、目標速度と進入車速の差については、

補正制動距離=(目標速度/実測速度)2×制動距離

 という計算式で補正した数値を採用している。

 ウェット制動性能については14.1%も向上しているとのことだが、この実験結果を見てもそのとおりの傾向が出ている。DNA エコスでは、平均で34.0m (1回目33.8m、2回目34.2m)となったのに対し、エコス ES31は30.7m(1回目30.9m、2回目30.5m)という結果となっていた。なお、現場にいた開発者に聞いたところでは、エコス ES31のために専用コンパウンドとして開発した「ナノブレンドゴム」の恩恵が大きいとのことだった。

ウェット制動シーン
停止距離はGPSで計測。進入車速の違いは、補正式で計算
実験の結果。転がり抵抗の実験は風の影響が大きく出ているが、ウェットはタイヤの差による結果が出ている。転がり抵抗の実験にこれだけ風が影響するというのは、ある意味興味深い結果だ

D-PARCの周回路をエコス ES31で思い切り走行

 転がり実験およびウェット制動実験が見ているだけだったのに対し、ここからはヨコハマタイヤのテストコース「D-PARC」の周回路や凸凹道を模した特殊路面を使っての実際の走行だ。エコス ES31を装着したマツダ「デミオ」、ルノー「カングー」、ホンダ「N-ONE」の3台を、旧商品等との比較ではなく、それぞれ単体でドライブした。

車種タイヤサイズタイヤ銘柄
ホンダ「N-ONE」155/65 R14 75Sエコス ES31
マツダ「デミオ」175/65 R14 82S
ルノー「カングー」195/65 R15 91S
いよいよ試乗。エコス ES31の基本数値は優れていたが、さて乗り味は

 全体的に共通して感じたのは、同じクラスの他社のスタンダード低燃費タイヤと比べて、あまり硬さ感がなく乗り心地がよいこと。そして、車内で感じる音があまり騒々しくないことだ。転がっていく感じは低燃費タイヤらしく抵抗感が少ない。アクセルを軽く踏み込むとスーッと滑らかに加速していき、アクセルOFFにしてもすぐに速度が落ち込まない。それでいて引き換えに失った諸性能があまりない、という感じである。

 硬さ感は少ないが、しっかり感はあり、グリップ感にも不安はない。素早くステアリングを操舵したときの反応もそこそこカチッとしている。

 ドライブレーキ性能についても、3.6%向上しているとのことで、新旧で比較しないと違いが分かりにくい部分ではあるが、100km/h以上からのフルブレーキングを試しても、しっかりと路面を掴んでいる感覚があり、よく止まるという印象だった。

エコス ES31とのマッチングが非常によかったカングー。高速走行性能やブレーキフィーリングも非常によく、安定して止まってくれた

 N-ONEとカングーは全体的にあまり気になることもなく、心地よく乗れた。

 N-ONEの155/65 R14というタイヤサイズは軽自動車の上級モデルにおける標準的サイズだが、軽自動車としては長めのホイールベースである車両の特性との相性もよく、100km/h以上の高速走行での安定性への不安はなく、乗り心地もわるくなかった。また、N-ONEの場合はクルマ側のパワートレイン系の遮音がやや行き届いていないせいもあってなおさらだが、タイヤが発する音もほとんど気にならなかった。ブロックを貫通させないラグ溝の採用により、車外通過騒音が低減していることも少なからず効いているはずだ。

 一方、デミオの試乗車はスカイアクティブモデルだったのだが、同モデル(およびCVT車)はデミオのその他のグレードよりも指定空気圧が高く、今回の試乗車ももちろん指定空気圧(フロント:250kPa、リア:220kPa)に調整されていたせいもあってか、ギャップ通過時の音が大きく、やや跳ね気味で、微振動が出ている点が気になった。また、コースに設定された、不整路を旋回しながら通過するポイントでは、走行ラインがずれてしまいがちだった。

一方、やや跳ね気味だったデミオ スカイアクティブ。低燃費を狙ったクルマのため、指定空気圧が高いのが影響しているように思えた

 しかし、これはクルマとの相性、ひいては空気圧の問題だと思われる。空気圧をスカイアクティブではないデミオ並(フロント:230kPa、リア:210kPa)に落とすと、気になった部分はかなり払拭されるのではないかと思う。標準装着タイヤではもう少し気にならなかったように記憶してるのだが、それは高い空気圧でも音や振動などわるい部分が出にくいよう配慮したタイヤとなっているのかもしれない。

 そのあたり、燃費をとくに狙って空気圧が高めになっているクルマの場合は、やはり大なり小なりクルマとの相性はあると思う。その点、車両重量の大きいカングーのほうが、微振動や跳ねる印象もなく、逆に、120km/hからの高速レーンチェンジなどを試してみても、車両重量に負けて腰砕けになる印象もなく、なんら問題なくドライブできた。乗り心地や音についてもあまり気になることはなかった。

軽自動車ながらコンパクトカーに匹敵するシャシーポテンシャルを持つN-ONE。こちらとのマッチングもよく、100km/h以上からのブレーキングも車体ブレを起こすことなく止まってくれた。コンフォート系タイヤのような分厚いしなやかさはないが、乾いた軽快感を持つタイヤだ

 エコス ES31は、転がり抵抗性能「A」、ウェットグリップ性能「c」という低燃費タイヤになりながら、快適性をはじめトレードオフとして失ったものがほとんどないと言えそう。開発者が「目標としていた性能はしっかり確保した」と断言するとおりの仕上がりだった。それでいて価格競争の厳しいスタンダードタイヤであるところはありがたい。新しくなった低燃費スタンダードタイヤの本命モデルであるエコス ES31は、多くの人にオススメできる完成度であった。

スタンダード低燃費タイヤらしく、対称パターンを持つ。両サイドのしっかりしたブロックが、パターン剛性などを支える。2列目のブロックの角も、ビベリング加工のように角が落とされていて、接地圧の適正化を図っている
やや斜めの角度から見たエコス ES31。一見シンプルに見えるが、ジグザグのリブ面など、細かな配慮がなされている
テストコースを相当周走った後のエコス ES31のトレッドパターン。均一な汚れ具合と荒れ具合が接地圧の正しさを語る

岡本幸一郎

1968年 富山県生まれ。学習院大学を卒業後、自動車情報ビデオマガジンの制作、自動車専門誌の記者を経てフリーランスのモータージャーナリストとして独立。国籍も大小もカテゴリーを問わず幅広く市販車の最新事情を網羅するとともに、これまでプライベートでもさまざまなタイプの25台の愛車を乗り継いできた。それらの経験とノウハウを活かし、またユーザー目線に立った視点を大切に、できるだけ読者の方々にとって参考になる有益な情報を提供することを身上としている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。