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マツダ、人間中心思想を追求した新型「Mazda3」。開発主査とチーフデザイナーに聞く
マツダ 商品本部主査の別府耕太氏、デザイン本部 チーフデザイナーの土田康剛氏に話を聞いた
- 提供:
- マツダ株式会社
2018年12月10日 00:00
- 2019年初頭から北米より順次発売予定
マツダが11月27日(現地時間)に世界初公開した新型「Mazda3」のハッチバックとセダンは、今後展開される新世代商品群のトップバッターの役割を担う存在だ。マツダが目指す「走る歓び」を追求して、極め続けることで、ユーザーから信頼され、かけがえのない存在になるという「マツダプレミアム」を体現するモデルとなる。
その新型「Mazda3」が一般公開された米国 ロサンゼルスの「LAオートショー 2018(LOS ANGELES AUTO SHOW)」会場において、マツダ 商品本部主査の別府耕太氏、デザイン本部 チーフデザイナーの土田康剛氏に話を聞くことができたので、ここにお伝えする。
――まずは、新型「Mazda3」開発における開発主査という役割について聞かせてください。
別府氏:主査という仕事を単純化して説明しますと、AKB48の秋元康氏のようなプロディーサーという役割になります。AKB48に“会いに行けるアイドル”といったコンセプトがあるように、われわれにはデザイナーやエンジニア、実験メンバー、生産部門までさまざまな人がいて、自分は全体の活動の方向性やコンセプトをマネージメントする役割を担っています。今回のプロジェクトで言いますと、すべての性能をジャンプアップさせて1段高いところに飛んでいくというお話と、お客さまに対しては単純に競合車と比べて優れているというだけでなく、お客さまの心が揺さぶられて恋に落ちるような、それぐらい魅力のあるクルマにするという方向性を決めて、それを具現化するという役割を担いました。
――すべての性能をジャンプアップさせるということですが、それを実現させるために取り組んだことは?
別府氏:このクルマは大きく3つの価値を持たせています。1つ目はエクステリアデザインの領域で、セダンとハッチバックでそれぞれに個性を持たせました。クルマを企画するにあたって世界各国のお客さまに実際に合ってインタビューしてきて、セダンとハッチバックでまったくお客さまが違うことが分かりました。セダンのお客さまは格式あるものの中で自分らしさを失いたくないと頑張っている人たち。ハッチバックはルールに縛られることなく感性の赴くままに生きてみたいと思う人たち。それぞれの人たちに対して、心が揺さぶられるようなエクステリアデザインをまとわせようと、セダンとハッチバックで区別化しようと考えました。
別府氏:2つ目は、マツダの「走る歓び」に直結するダイナミック性能の飛躍的な進化です。これまでの、乗りやすい、運転が楽しいというところからもう一歩踏み込んで、このクルマに乗ることで人間の能力が引き出されて、感性が研ぎ澄まされるといった領域に到達するというのを大きな目標としました。技術的には新しく開発したシートが大きな特徴で、骨盤を立たせることで、もともと人間が持っているバランスを保持する能力を引き出して、最大限、運転に集中して自分の心と体が活性化されるということを狙いました。
別府氏:3つ目は、移動体としての室内空間の質を高めました。1つは絶対的な静粛性で、残念ながら現行モデルはNVHは苦手な部分でしたので、そこを飛躍的に改善してかなりの静粛性を担保しました。その上で、お客さまが移動するときに楽しんでいただけるようオーディオシステムをゼロから見直して、通常のクルマのスタンダードなスピーカーの配置から、より音をよく聞くための最適なカタチにレイアウトをチェンジしていて、社内では“走るオーディオルーム”と呼んでいるくらい室内空間の質を高めました。
――ハッチバックを見た印象は、ほとんどスポーツカーと言っていいほどのスタイルだと思いますが、セダンとハッチバックで大きく印象を変えたその狙いというのは?
別府氏:限られたリソースの中でセダンとハッチバックの印象を大きく変えることには、社内ではすごく議論がありました。このクルマの属するCセグメントはグローバルではクロスオーバーモデルにお客さまが流れていて縮小傾向です。しかし、われわれのミッションは、お客さまに再び“ワオッ”と言っていただく、その結果このクルマに恋に落ちていただくことを標榜していたので、セグメントが縮小しているという理由で区別化をしないということは考えませんでした。このクルマを見ていただいて「僕はクルマに興味ないけどカッコいいから乗ってみたい」「このクルマに乗るために免許を取りました」という人がたくさん出てくるくらいまで、絶対的に魅力を高めていくことに目標を置いていたので、効率とは違う視点で、セダンとハッチバックのあるべき姿、理想像を描きにいったというのが強い動機です。
世界初となる圧縮着火を実用化したガソリンエンジン「SKYACTIV-X」
新型「Mazda3」のパワートレーンでは、量産車として世界初となる圧縮着火を実用化したガソリンエンジン「SKYACTIV-X」に加えて、最新のガソリンエンジン「SKYACTIV-G」に1.5リッター、2.0リッター、2.5リッターの3種類を用意。また、ディーゼルエンジンの「SKYACTIV-D」には1.8リッターを設定する。
「SKYACTIV-X」には回生と加速の補助を行なうベルト駆動のISGと24Vのリチウムイオンバッテリーを組み合わせたマイルドハイブリッド「M Hybrid」が組み合わされることになり、「M Hybrid」についてはそれぞれの仕向地に合わせて「SKYACTIV-G」との組み合わせも検討しているという。続いて、新開発の「SKYACTIV-X」を採用した狙いについて聞いた。
別府氏:「SKYACTIV-X」は、単純なハイパワーや大きなトルクというより、走りのクオリティを非常に高めたというのがお客さまの価値になると思います。アクセルを踏めば踏んだだけ走りますし、1~2mmのペダルワークにも応えます、奥深いところの進化が大きいと考えていますので、分かる人に乗ってもらいたいというエンジンになっています。基本となる「SKYACTIV-G」のモデルでも新しい世代の進化を十二分に堪能していただけるので、そこからさらに究極の人馬一体を味わいたい方に「SKYACTIV-X」を選んでいただく、そういった設定としています。
――パワートレーンもエクステリアの印象の異なるセダンとハッチバックに合わせて、走り味をそれぞれで変えている部分はあるのでしょうか?
別府氏:これだけクルマのエクステリアが違うなら、走り味も変えてもいいんじゃないかという議論がありました。われわれはクルマの性能機能を詰めていく中で人間中心という考えを置いて、人間にとって自然な動きをする、不快な動きをしないという環境を作り出す上で、ダイナミック性能については、クルマとの対話、操作フィードバックみたいなところは1つであるべきとの結論にいたり、今回はあえて差別化、区別化はしないという決断をしました。ただ、これについてはお客さまにクルマに乗っていただいて、いろんなフィードバックをいただきたいと考えています。
人間の持つバランス能力を最大限に引き出すことを追求した「SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE」
新型「Mazda3」に採用された新世代車両構造技術「SKYACTIV-VEHICLE ARCHITECTURE」では、人とクルマとのさらなる一体感、クルマがまるで自分の体であるかのように、クルマの存在を意識させないほどの「究極の人馬一体」を追求したといい、ドライビングポジションやHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)、運転視界、オーディオサウンドに最新の知見と技術が導入された。
その一例として、新型「Mazda3」のために新開発したシートは、骨盤下部、骨盤上部、大腿部の3点で骨盤をしっかりと立てるとともに、シートバック上部で胸郭重心を支えることで、脊柱のS字カーブを維持できる構造が採用されている。
――2つ目の開発ポイントとして、人間の能力が引き出されて感性が研ぎ澄まされることを目指したといいますが、具体的に取り組んだことは?
別府氏:1番の目玉となるのはシートです。人間が座ると骨盤が寝てしまいます。骨盤が寝てしまうと背筋が曲がってしまい、もともと背骨や首が持っているクッション機能が失われてしまいます。今回採用したシートは骨盤を立たせるように大きく変えていて、人間が本来持っているバランス保持能力が発揮されます。骨盤を立たせることで上体の可動域が広がり、頭もしっかり安定してステアリングを切りやすくなりますし、疲れにくくなり、人間がもともと持っている集中力が発揮され、心と体が活性化されていくことにつながっていくと思います。
――そういった部分を含めたクルマ全体の進化というのは、一般のドライバーでも感じられるものでしょうか?
別府氏:例えば、家の駐車場からコンビニに買い物に行くといったごくごく日常の領域で感じられると思います。信号が赤になって停止線に向かって停止していくときに、狙ったとおりに止まれる。あるいは交差点を曲がるときに修正舵を与えなくても狙ったとおりに曲がれるといった、そういうクルマになっていると思います。
セダンとハッチバック、まったく異なる2つの個性
新型「Mazda3」では深化した「魂動デザイン」を採用。そのうえで、ハッチバックではエモーショナルさを、セダンではエレガンスさを追求したという。続いて、デザイン本部 チーフデザイナーの土田康剛氏に話を聞いた。
――ハッチバックはコンセプトモデルにおいて事前にデザインを公開していましたが、セダンについては今回初めてデザインが公開されました。セダンに込めたデザインの狙いについて聞かせてください。
土田氏:セダンについてはお客さまが求めるものを素直に表現しました。セダンにはフォーマリティが求められていて、服に例えて言うとスーツになると思います。ジャケットとシャツとパンツがあってその様式が決まっていますので、まずはそれを当てはめました。クルマのデザインと言うと、ボンネット、キャビン、トランクという3ボックスの伝統を表現して、過度なウェッジをやめて水平方向に持ってきました。その上で素直に美しいデザインを乗せることでセダンに仕上げています。
――ハッチバックのスタイリングをサイドから見ると、もはやスポーツカーのような印象を受けます。セダンとハッチバックで大きく印象を変えた理由は?
土田氏:それには背景がありまして、グローバルではスモールSUVが増えていて、実際にハッチバックのボリュームが減っています。このままだとハッチバックはシュリンクしてなくなっていくという危機感がありまして、もう1度ハッチバックをデザインで蘇らせるためにも、ハッチバックの持っているスポーティでパーソナルな部分に特化したいという狙いがありました。スポーツカーのように感じていただいたのも、合理的で使いやすいというものから、もっと個人的に運転する楽しみとかスポーティな部分を表現した結果がこのハッチバックのデザインだと思います。
――新型「Mazda3」を紹介する広報資料の中に「マツダプレミアム」という言葉が登場しました。プレミアムを目指す上でデザインで取り組んだことは?
土田氏:プレミアムという言葉についてデザインで考えているのは、デザインのエモーショナルさとか、デザインを作る上での手間に対して対価をいただけるようなブランドになりたいと思っていることです。われわれのデザイン開発においては今でも手作りにこだわっていて、クレイモデルも世界一に近く消費していますし、ステッチの1つといったディテールへの作り込みも一切気を抜かずに手間ひまをかけています。ですので、マツダの目指すプレミアムというのは、既存のプレミアムブランドにある価値ではないところにあると思います。
人とクルマの一体感を高めたインテリア
新型Mazda3のインテリアでは人とクルマとの一体感をこれまで以上に強めるため、コックピットのすべてをドライバーを中心に左右対象にレイアウトするとともに、コックピットに必要な要素以外のものをシンプルにすることでコックピットの存在感を引き立て、運転に集中できる心地よい空間を作り上げたという。最後にインテリアの進化について聞いた。
土田氏:インテリアでは、ドライバーが座ったポジションにペダルレイアウト、ステアリングの位置がピタッと収まる人間中心の設計となっているのが現行モデルだと思います。新型「Mazda3」では、そこからさらにアームレストやルーバー類といった部分のレイアウト、空間作りについても、人がピタッと収まる人間中心の設計にしようと考えました。
土田氏:そこで、インテリアのデザインやスタイリングを始める前に、デザイナーとエンジニアが一緒になって、まずは骨格の部分を直すことに取り組みました。人を中心としてすべてのものを左右対称となるレイアウト作りや機能作りをして、そのうえでデザインやスタイリングをしています。これにより人とクルマの一体感が高まって、ひいては人馬一体のクルマ作りにつながっていくと思います。一方で人馬一体に必要のない無駄な要素については削いでいくという作り方をしています。
土田氏:人間中心という考え方を理想に置くことでデザイナーとエンジニアがお互いに協力し合うことができ、エンジニアがレイアウトしたものに、われわれはデザインを乗せていくということができました。その成果の一例を示しますと、ステアリングからコマンダーに手を移動するといった腕の動きについても、筋肉の使い方まで研究していまして、肘を置く位置、コマンダーを操作する手の動き、人間に対する負担が少なくなることをコンセプトにレイアウトされています。
【お詫びと訂正】記事初出時、本文内のSKYACTIV-Xに関する説明に間違いがありました。お詫びして訂正させていただきます。