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スバル、ニュルブルクリンク24時間レースをクラス2連覇。調和と統合、そして成長でつかみ取った勝利

スバル&STIによるニュルブルクリンク24時間レースへの挑戦。2019年はSP3Tクラス2連覇、総合でも暫定18位に入る圧巻の強さだった(※記事掲載時点でレース結果は暫定。7月6日に更新された暫定結果で、総合2位のチームが失格となり、スバル&STIの総合順位は暫定19位から暫定18位に繰り上がった)

 2019年6月20日から23日にかけてドイツ ニュルブルクリンクで開催された「ニュルブルクリンク24時間レース」。新設のグランプリコースと、まるで峠道のような北コース(ノルドシュライフェ)を組み合わせた全長25.378kmのコースを文字どおり24時間走り続ける過酷なレースとして知られている。

 コース全体の高低差も約300mあり、特殊な形状をしたコーナー、荒れた路面、荷重の抜けがちなエリアなど。ニュルブルクリンクは世界的にも著名なサーキットで、そのチャレンジングなコースレイアウトで24時間争われるニュル24時間は、サバイバルレースとなることが多い。

ニュル24時間に挑み続けるスバル&STI

ニュルブルクリンクはアップダウンの大きい世界でも有数の規模を誇るサーキット。ニュルブルクリンク24時間レース開催時は、GPコースと北コースを合わせた25.378kmの全長で争われる

 このニュルブルクリンク24時間レースに、2008年から挑み続けているのがスバルと、スバルの用品開発やレース活動も担うSTI(スバルテクニカインターナショナル)。スバル&STIは、コーポレートテーマである「安心と愉しさ」を追求するため、この過酷なレースに参戦。2019年のニュル24時間開催前の時点で、SUBARU WRX STIで5度のクラス優勝(SP3Tクラス:排気量2.0リッター未満のターボ車部門)を達成している。

ニュルブルクリンクへの挑戦|STI

https://www.sti.jp/motorsport/nbr_history/

 2019年のチーム構成は、チーム総監督にSTI 辰己英治氏、辰己総監督を支える監督にはSTI 沢田拓也氏(STI プロジェクト推進室 NBRプロジェクト 主査)。ドライバーは、カルロ・ヴァン・ダム選手、ティム・シュリック選手、山内英輝選手、井口卓人選手の4人。昨年と同様の布陣でニュル24時間に挑む。

チーム総監督 STI 辰己英治氏(左)、チーム監督 STI 沢田拓也氏(右)。2人でスバルチームの指揮を執っていく
STI 社長 平岡泰雄氏。予選から駆けつけ、チーム全体のサポートを行なう。平岡氏はSUBARU WRX STIに搭載されているEJ20型エンジンの初期設計担当者でもある

 とはいえ、スバル&STIチームは単に勝利を目指すだけのチームではないこともよく知られている。スバル&STIチームの特徴としては、必ず各地のディーラーから選抜されたメカニックが、ニュル24時間のメカニックとして参加している。そしてそのメカニックは1年のみの参加となっており、ニュル24時間の過酷な挑戦を、強烈な体験として体に刻み込む。単に勝利を目指すなら毎年同じメカニックで挑むのが効率もよいところではあるが、スバルの主眼はニュルの体験をスバルディーラー全体で共有すること。多くのディーラーメカニックがニュル24時間に参加することで、それはスバルの文化として刻まれていくことになる。

 2019年のニュル24時間に参戦したディーラーメカニックは以下のとおり。

北海道スバル 高橋学希氏
福島スバル自動車 浦山大介氏
北陸スバル自動車 上田佳孝氏
静岡スバル自動車 野澤佑介氏
名古屋スバル自動車 三木武士氏
大阪スバル 山川征俊氏
滋賀スバル自動車 伊室洋治氏
広島スバル 霜﨑芳樹氏

スバルチームの朝礼。予選日朝の風景。予選日にしなければならないことを全員で確認する
STIのベテランメカニックから講義を受けるディーラーメカニック。工具の位置などを確認していく
車両後部で打ち合わせ。当日の戦略などを調整しているのだろうか?
タイヤ交換などチェック。SUBARU WRX STIには、車両後部にディーラーメカニックが所属する販売会社名が書かれていた

 彼らは全国から選抜されたディーラーメカニックのため、腕は確かだ。ただ、レース特有の作業、レース車独特のメンテナンスなどがあるため、メカニックはレース1か月前に行なわれるQFレースからドイツに飛ぶ。1か月レースメカニックとしての訓練を受け、本番のニュル24時間までに急激な成長を期待されている。

独自の取り組みを行なう、スバルのニュルブルクリンク24時間。ファンと一体になった挑戦

スバルのピット作業を見守っていた現地のスバルファン。「I'm a SUBARIST」と書かれたポロシャツを着ていた

 先述したようにスバルとしてのニュルブルクリンク24時間レース挑戦は、2008年から始まっている。車種は先代のインプレッサ WRX STI(GRB)、監督は当時STI車両実験部長だった辰己英治氏で、ドライバーは吉田寿博選手、松田秀士選手、服部尚貴選手、松田晃司選手の4人。インプレッサの世代こそ新しくなったものの、この年から毎年ニュル24時間に挑戦し続け、参戦体制や参戦マシンの地道な改良を積み上げてきている。

 ニュル24時間レースでは、メインのピットエリアが狭く、パドックエリアでのピット作業をしているチームがある。スバルもその一つで、メカニックの作業を見ることができ、多くの観客がスバルのピット作業を興味深く見ている。そしてその観客の半分以上は、スバルのオフィシャルウェアやオリジナルTシャツなどで熱く応援していること。ドイツのスバリスト(シャツには、I'm a SUBARISTと書いてあるが、オフィシャルシャツには見えない)が続々と集まってきたのでは?と言えるほど、外国においてもファンの心をがっちりとつかんでいる。

 もちろんそれは、日本のファンも同様だ。スバルは関連会社のスバル興産と共同でニュル24時間応援ツアーを2011年から用意。外国のレースを観戦したいファンへの参加ハードルを引き下げるとともに、ファンとの特別な時間を持つことで、ファンと一体になった挑戦を続けている。これはほかには見られない取り組みで、スバルのファンに対する姿勢が見える部分だ。

スバルピットに貼り出される「声援は力だ」の応援フラッグ。日本から持ち込んでいる

 そして、日本から応援するファンの声を届ける取り組みも実施。スバルは、このニュル24時間、SUPER GT、全日本ラリーとモータースポーツに参戦しているが、2018年後半から「声援は力だ」応援フラッグという取り組みを開始。これは、予選など決勝前に応援フラッグを掲示し、ファンにメッセージを書き込んでもらおうというもので、このメッセージは選手やチームにとって大きな力になっていると言う。

スバルトランスポーターにも「声援は力だ」応援フラッグを貼り出し、現地に訪れた人からのメッセージを募る
さまざまな人が英語などでメッセージを書いていた。現地ファンのスバル人気が分かる

 2019年のニュル24時間では、あらかじめスバル本社などに「声援は力だ」応援フラッグを掲示し、メッセージをファンに書き込んでもらったものをドイツに持ち込んでいる。多くのメッセージが届けられており、スバルピット、パドックピットに貼り出されていたほか、現地でのメッセージも募集。日本から持ち込まれたメッセージも多かったが、この現地で書き込まれたメッセージも多く、スバルの人気を如実に表わしていた。

STI 社長 平岡氏は、スバル&STIの取り組みを、「ニュル24時間レースは“チャレンジ”であり、人を育てる」と語る。そして「ファンとの距離が近いね」とも

 このような継続的なニュル24時間への参戦、そしてディーラーメカニックの派遣などの取り組みをSTI 平岡社長は「ニュルブルクリンク24時間レースは“チャレンジ”という位置づけ」と語った上で、「人を育てるという意味で、非常に需要なチャンスだ思う」と言う。

 平岡氏は、スバルにおいてはEJ系などのエンジン開発に携わり、現在のスバルの主力製品となっているFA/FB系エンジンには企画段階から参加。スバル技術本部 エンジン設計部 部長などスバルの開発畑を歩いてきた人物だが、STIの社長に就任したのは2019年4月。そのため、レース参戦のためにニュルブルクリンクに訪れたのは初めてとのこと。

 そのため、「ファンとの距離が近さが印象的」と語るとともに、ドイツという外国の地にもかかわらず現地や日本からのスバルファンがパドックを訪ねて応援してくれることは、「チャレンジして勝つ」「人を育てる」という重責を担う中で、とてもうれしく思っているようだった。

2019年のニュル24時間は高い気温に配慮し、SUBARU WRX STIを徹底的に進化

2019年仕様のSUBARU WRX STIには、辰己総監督のさまざまなアイデアが盛り込まれている

 2019年のニュル24時間に挑むSUBARU WRX STIは、2018年のレースでクラス優勝をしたものの、各種トラブルが出た関係で大幅に手が入れられた。また、2019年のニュル24時間は、例年と異なり開催時期が5月から6月下旬へとずれた。そのため、レース時の気温が大きく上昇することが予想され、その温度対策にも配慮されているのがポイントになる。

 スバル&STIチームを率いる辰己総監督は、24時間強いレースをすることを目標としており、そのための対策は徹底的にやってきたという。そのこだわりは、多くの人にスバルのクルマはよいクルマだと容易に理解してほしいため。「例えば、AというクルマとBというクルマがあった場合、どっちがいいクルマかと説明するのはなかなか難しい。でも、ニュル24時間を走りきり、クラス優勝すると誰でもいいクルマだと分かる。説明不要なんですよ」と言い、過酷なレースをトラブルなく、強い形で24時間走りきることを目指している。そのための改良を、2019年仕様のSUBARU WRX STIに施したという。

各部が丁寧に改良されたSUBARU WRX STI。外観は2018年仕様と似ているが、中身は別物と言ってよいほど進化している

 マシン自体は2018年仕様をベースにしているが、2018年仕様ではタイヤの偏摩耗が見られたことからサスペンション設定を変更。具体的にはスクラブ半径(タイヤの旋回中心となる、キングピン軸の延長線とタイヤ接地面中央部までの距離)を変更し、タイヤの負荷を軽減。さらにタイヤの負荷を軽減するためと、熱いレースの中でのブレーキ能力を確保するため、ホイール素材&ホイール形状も変更している。ホイール素材はマグネシウム合金からアルミニウム合金に変更し、タイヤへの攻撃性を軽減し、形状を工夫することで大径ブレーキローターの採用を可能とした。これによりホイール1本あたり100gの重量増となるが、タイヤへの攻撃性を減少させることで、トータルで得られるメリットは多い。

 また、2018年はマフラーの騒音規制関連で、ドライバーが思い切りアクセルを踏めなかった部分があるといい、マフラーの騒音規制を余裕でクリアする容量4リッターちょっとの大容量マフラーに変更。これで3kg程度重くなったとのことだが、ドライバーが思い切りアクセルを踏めることが大切だという。

 この背景にあるのが、強いクルマを作ろうという思想だろう。一般に量産車からレース車を作っていく場合、軽量化は大きなポイントとなる。ところが、辰己総監督は重量よりも、いかに安定して走ることができるのか、いかに思い切り走れるのかを重視しているように見える。これらはスバル&STIの10年を超えるニュルブルクリンクチャレンジに裏打ちされたもので、完全な勝利を目指す上で大事なポイントとなる。

新たなECUで手に入れた「統合制御」という強力な武器

SUBARU WRX STIの改良点について説明してくれた沢田監督

 2019年仕様のSUBARU WRX STIで大きく変わったのは、実は見えない部分。それが「統合制御」という強力な武器だ。ニュルブルクリンクチャレンジで監督を務める沢田監督は、「(ECUに関して)今までは10年以上同じものを使い続けてきた。今回は、ECU(エンジンコントロールユニット)に加え、シフトパドルをコントロールするトランスミッションのコンピュータ、センターデフをコントロールするDCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)ユニットを1つにした」という。

 ECUはアクセルやブレーキなどの操作、車速などの各種センサーからの情報をもとに燃料噴射量などを決定し、エンジンのコントロールを行なっていくユニットだが、このECUを高性能なものにすることで、シフト制御、DCCD制御をECUの中で統合制御している。

 従来はそれぞれのユニット間をCAN(コントロールエリアネットワーク)で通信していたが、このCANは汎用性は高いものの、通信速度がそれほど速くなく(最高1Mbps)、ある程度余裕を見た通信設計にしなければならない。

 それを、ECUの中ですべて解決する統合制御を行なうことで通信を超高速化。レーシングスピードで走るクルマにおいて、大きなメリットが出ていると沢田監督は言う。

マシン解説をしていたときは優しい表情だった沢田監督も、予選が始まると一転して厳しい表情に。スタッフにテキパキと決断を伝える

 まずは、各部がスムーズに動くこと。機械的には同じ機構なのだが、シフトアップ、シフトダウン時の変速ショックが格段に低くなったという。SUBARU WRX STIの場合、一般的なレーシングマシンと同様にギヤの同期機構を持たない(シンクロメッシュを持たない)ドッグクラッチを採用している。このほうが、機構が簡便で部品点数も少なく効率もよいためだ。ただ、このドッグクラッチは変速時にギヤの回転を合わせる必要があり、本来はドライバーがアクセル操作などでギヤの隙間を作るようなコントロールをしなければならない。例えば、アクセルを踏んで加速中に一瞬アクセルを抜き、ギヤの遊びを作って変速するなどだ(逆に、減速時は瞬間的なブリッピングが必要になり、こちらのほうが難しい)。

 もちろん現代のレーシングマシンであれば、シフト操作とそうしたアクセル操作をコンピュータによって連動しており、2018年までのSUBARU WRX STIでもパドルシフトユニットを持つトランスミッションとECUを協調して、変速していた。ただ、このユニット間の通信がCANだったため、余裕をもった動き=つまり鈍い動きとなっており、統合制御とすることで一連の変速操作を高速化、それがスムーズな動きにつながっている。

 さらに、高速に制御できるようになったことで、きめ細かい燃料噴射を実現。従来は安全のために燃料を吹きっぱなしだった場面でも、燃料を吹いたりカットしたりできるようになり、省燃費にもつながっているという。当然、シフトショックも機械的に減っており、耐久性も向上。加えてドライバーも安心してシフトチェンジできるため疲労を軽減でき、よいことづくめになっているとのことだ。なお、ECU自身の演算速度も8倍から10倍になっているとし、外見は似ているがまったく別物のクルマになっている。

ニュル24時間ではさまざまなペースのクルマが走っている上に、フラットなサーキットとは異なるコーナーがたくさんある。そのためシフト回数は多く、スムーズに走ることは難しい

サメ肌だけではなかった、空力的な進化

サメ肌塗装などで空力的に進化したSUBARU WRX STI。クルマの光の反射もフラットなものとなり、どことなく凄みが増した

 2019年仕様のSUBARU WRX STIでは、ボディ表面を荒らしたサメ肌塗装が行なわれており、そのマットな外観と相まって大きな話題となっていた。辰己総監督によると、このサメ肌塗装は2種類施されており、リアウィングステーやフロントフェンダールーバーなど、とくに強く空気が流れるところは粗めのサメ肌塗装になっているとのこと。このように2種類のサメ肌を使い分けることで、効率的な空力を実現しており、実際にCd値も下がっているという。

 沢田監督によると、空力的な工夫は見た目で分かるサメ肌だけではないという。2019年仕様のSUBARU WRX STIでは、空気がよく抜けるようにさまざまなところの形状を変更。「ダウンフォースに影響がないところを探して、いろいろなところから抜けるようにしています」とのことだった。

 このエアが抜けることとも関係するのだが、暑さ対策でラジエータを大容量のものにして新設。ラジエータを大容量にするのは、重心から遠い場所の部品が大きく重くなるためあまり望ましくないのだが、暑さ対策を重視したとのことだ。ただ、少しでも不利な部分を減らすため、ラジエータの搭載位置を下へ移動。重心を少しでも下げるとともに、ラジエータから抜ける空気に配慮してラジエータをふさぐ面積を増加。ラジエータをふさぐ面積を増やすことで、空力的に良好な結果を得ていると沢田監督は言う。

 小さなことから大きなことまで、昨年のクルマをベースにしながら細かい改良を積み重ねて作り上げたのが2019年仕様のSUBARU WRX STIだ。

予選終了後、スバルのピットを激励に訪れたTOYOTA GAZOO Racingのチーム代表兼ドライバーのモリゾウ選手(右)。トヨタ自動車 代表取締役社長にして日本自動車工業会 会長の豊田章男氏でもある
決勝の応援に訪れた株式会社SUBARU 取締役専務執行役員 CTO 大拔哲雄氏(写真右)、同 執行役員 第一技術本部 副本部長 藤貫哲郎氏(写真中)。スバルの取り組みについて聞いた

予選53位からスタート。クラスを超えた走りで圧巻のSP3Tクラス2連覇、総合結果は暫定18位

予選を見守る山内選手(左)と井口選手(右)

 決勝日前日となる6月21日に行なわれた予選で、88号車 SUBARU WRX STIは9分01秒872の最速ラップを記録。SP3Tクラストップで総合では158台中53位。辰己総監督によると9分切りを目指したものの、実質的なアタックラップが1ラップしかなく、158台も参加している予選のため「なかなか難しかったね」とのこと。クラストップという結果には満足しており、クルマの安定感にも手応えを得ているようだった。

 改めて書くと、ニュル24時間で使われるコース全長は約25km。本格的なサーキット(鈴鹿サーキット 4輪コースで5.807km、富士スピードウェイ 4.563km)の約5倍の長さがあり、さらにコース幅は狭いところが多い。そのため、タイヤのおいしいところを使えるチャンスは1ラップのみで、その際にほかのクルマにラインをじゃまされると、なかなかベストのタイムが記録できない。速いクルマからとんでもなく遅いクルマまで参戦しているのがニュル24時間なので、全員がクリアラップを取りづらいなかでの予選となっており、その中での9分01秒872という記録だった。

決勝レースのグリッドに着く88号車 SUBARU WRX STI
ドライバー4人で記念写真
最終チェックを行なう88号車 SUBARU WRX STI
決勝前の打ち合わせを行なう辰己総監督と沢井監督
スタート直前のドライバー4人。とにかく明るいスバルチーム

 決勝は6月22日15時30分にスタート。予選には158台が参加したが、スタートしたのは152台。この150台以上という参加台数のため、スタートは3グループに分けられ、3分ごとにローリングスタートを切る。このスタートグループ分けで88号車 SUBARU WRX STIの属するSP3Tクラスは最後の第3グループとなり、トップから6分遅れのスタートとなった。

 88号車 SUBARU WRX STIのスタートドライバーは井口選手で、予選順位53位ながらニュル24時間独特のスタート制度の関係で、第3グループトップの100位くらいからスタート。いきなり50位もポジションが下がってしまう状況からの追い上げとなった。

 しかしながら、1時間経過時には順位を84位にまで上げ、以降急速に順位を押し上げていく。2019年のニュル24時間は各所でクラッシュが発生するなど荒れたレースとなっていたが、88号車 SUBARU WRX STIはそれらのクラッシュに巻き込まれることなく順調に周回を重ねていった。

15時30分に第1グループがスタート。ニュル24時間独特のルールにより、6分後に第3グループがスタートを切った。88号車 SUBARU WRX STIは100位前後からのスタートとなった
順調に周回を重ねていく88号車 SUBARU WRX STI
ニュルブルクリンクの森の中を駆け抜けていく
クラッシュ多発のニュル24時間だったが、無事に回避
だんだん日が沈んでいく

 88号車 SUBARU WRX STIのレース運びを見ていると、本当に強いレースをしており、ヴァン・ダム、シュリック、山内、井口の各選手は夕刻も、夜も朝もプッシュし続ける。クルマのトラブルもまったくないようで、4人のドライバーに応えるように走り続けていた。

 15時間経過後、つまり朝の6時には順位が28位まで上昇。上位クラスの各車がトラブルやクラッシュで消えていく中、速さと強さを見せながら予選以上の順位に押し上げてきた。この時間帯からは、速さも大切だがとくに大切となるのが強さ。12時間を超えてなおレーシングスピードで走り続けるドライバーとマシンの能力が必要だ。

夕日が沈んでいくニュルブルクリンク
怪しく光るピットウォールにあるスバルのコマンドポスト。沢井監督の仕事場
深夜のピット作業。フロントグリルも夜仕様になっており、ライトが増設されて六連星が光っている。ウィンドウ上部のLEDにより、33位ということが分かる
闇の中を走る88号車 SUBARU WRX STI
深夜の戦況を見守るSTI 平岡社長
次のピットに備えて打ち合わせを行なうメカニック。ちなみにメカニックは交代制で勤務
夜明け。夜明けの時間帯にピットに入ってくる88号車 SUBARU WRX STI
夜明けの時間帯のピットアウト。「声援は力だ」応援フラッグが見守る

 16時間経過時はピットインの関係で順位を31位に下げたものの、そこからはサバイバル戦に突入。18時間経過時29位、20時間経過時28位、22時間経過時26位とじわじわと順位を上げ、最後の1時間で24位から19位にジャンプアップした。これは当然ながら、ほかのクルマが生き残れなかった、もしくはペースを落とさざるを得なかったのに対し、88号車 SUBARU WRX STIはまったくペースを落とすことなく走り切ったため。とくに最終盤においてもアクセルを緩めることなく走り続けていたことが、2連覇となるクラス優勝、そしてゴール時点で総合暫定19位の獲得につながった(※記事掲載時点でレース結果は暫定。7月6日に更新された暫定結果で、総合2位のチームが失格となり、スバル&STIの総合順位は暫定19位から暫定18位に繰り上がった)。

ドライバーはヴァン・ダム選手からシュリック選手へ。総合順位を29位に押し上げてきた
戦況を見守る辰己総監督。順調な展開だが、厳しい表情が続く
間もなく24時間、このころ順位をぐいぐい押し上げピット内がざわつく
24時間レースのゴール直前。スタッフにも笑顔が見えた
戦況を説明する辰己総監督。表情も若干緩む
ピット内は笑顔に包まれる
24時間を走り切ってゴール。SP3Tクラス2連覇。88号車 SUBARU WRX STIの総ラップ数は145周に達した

 88号車 SUBARU WRX STIの総ラップ数は145周、最速ラップは84周目の9分03秒998。ニュル24時間のコースは25.378kmなので、3679.81kmの峠道を平均時速152.928km/hで駆け抜けた。青森駅から熊本の阿蘇山までの距離が1800km弱なので、青森~熊本間を24時間で往復した計算になる。しかもノントラブルで。

 スバルはモータースポーツに参加する理由として、「わたしたちが極限のレースに挑み続けているのは、量産車ベースで技術を磨き、進化を続け、結果に残すことでスバルを選んだ皆様に、その価値と選択が正しかったと証明するため。走りを極めれば安全になるこのフィロソフィーがスバルの『安心と愉しさ』の源です」というステートメントを発しているが、2019年のニュルブルクリンク24時間レースにおける戦いは、速く、強く、そしてノントラブルで走り切っており、それを象徴するものだった。

ニュルブルクリンク24時間耐久レース SUBARU/STI MOTORSPORT

https://www.subaru-msm.com/2019/nbr/

喜びがあふれ出るスバルスタッフ
戦いを見守った応援フラッグにキス
勝利の自撮り。いちばーん

調和と統合と成長と。ニュルブルクリンク24時間レースへのチャレンジ

ニュルブルクリンク24時間レースを終えた辰己総監督。グー!!
88号車 SUBARU WRX STIの順位推移。SP3Tクラストップは1度も譲らず、ゴール時点での総合順位を19位まで押し上げた

 レース後、辰己総監督に今回の強い勝ち方の勝因を聞くと、「それは、これまでの失敗じゃないですかね」と過去の蓄積があってのものとした上で、「すべてをうまく調和する。調和なんですね。調和できないとすべてがうまくいかなくなる。みんな違う方向を見ていいものを作ってもいいものにならない。だから最終的には目標を決めて、そこにみんなが力を結集するとすごい力になる」と語り、ドライバー、ディーラーメカニックをはじめとしたスタッフ、改良したSUBARU WRX STIとすべてのものが同じ方向を見て戦ってきたからだという。

 とくにSUBARU WRX STIについては、新たに採り入れた「統合制御」が大きな力になったといい、統合と調和が大切な要素となっていた。

 そして、レース後特別に開催されたクラス優勝2連覇パーティで、ニュルブルクリンク24時間レースに初めて参加したディーラーメカニックが口々に語っていたのが、「成長」というキーワード。約1か月の濃密な時間を同じ目標を持つ仲間と過ごし、最後の24時間はミスの許されない作業を行なう必要がある。しかも、どんなに努力しても相手が上回っていたら勝てないのがレースの世界だ。その非情なレースの世界で、みんなと一緒に同じ方向を向いて努力し、しかも完全な形で結果を得ることができた。この強烈な体験と成長を全国のディーラーへ持ち帰ることで、スバルの「安心と愉しさ」が実感を持って多くの人に伝わっていく。スバルとSTIは、それを伝え続けるため、ニュルブルクリンク24時間レースへチャレンジし続けていく。

【スバル&STIチームの順位について】記事掲載時点でレース結果は暫定。7月6日に更新された暫定結果で、総合2位のチームが失格となり、スバル&STIの総合順位は、ゴール時点の暫定19位から暫定18位に繰り上がった