トピック

「愛車」写真を100倍ステキに仕上げよう! 誇らしい愛車写真に仕上げるための撮影と画像処理のコツ

本稿ではクルマの撮影の仕方とともに画像処理のコツについて紹介する

 自動車、バイク、自転車、船など、自分が所有する乗り物をカッコよく写真に撮りたいと思う人は多いだろう。乗り物系は特に愛着が湧くようで「愛車」「愛船」といった言葉もあるほどだ。なかでも特に自動車はユーザーも多く、ネットを検索するとたくさんの「愛車」写真がヒットする。それらの写真の内容はというと、自宅前やガレージで撮られたものをはじめ、街中で撮られたもの、湾岸エリアで撮られたもの、さらにはロケーションを求めて山や海を背景に撮られたものなど、さまざまだ。そのような写真を見ていると改めて「自分も愛車をカッコよく撮ってみたい」という衝動が沸き起こる。

 極上の愛車写真を求めて撮影をプロカメラマンに依頼するケースもあるが、自分の気がすむまで撮ってみれば、それだけ自動車と写真に対して愛着も増すに違いない。そして、愛車を写真に撮るのなら、「よりカッコよく」「よりきれい」に撮りたいもの。撮影時の機材やセッティングを工夫することで写真のレベルはアップするが、難しいのが自動車のディテールの表現やボディやウィンドウへの映り込み、さらには不要なものが画面に入ってしまうことなどの処理だ。

 撮影時に回避することが難しいそのような点は、RAW現像やレタッチで対処できる。レタッチというのは写真の修整のことだが、RAW現像というのは簡単に言えば「高画質での写真編集」とでもいえばいいだろうか。デジタルカメラや一部のスマホでは「RAW」という特殊なファイル形式で画像を記録できる。特殊なファイルなのでそのままでは写真として見ることができず、専用ソフトによる処理が必要となる。それがRAW現像という作業だ。

 JPEGを画像調整すると多少なりとも画質の低下が生じるが、RAW現像では高画質のまま画像調整できるのが大きなメリット。画質を優先するならJPEGよりもRAWのほうがよりきれい仕上げることができるのだ。ちなみに、自動車写真ではRAW現像やレタッチは特別なものではなく、当たり前に行なわれているようだ。なぜなら、先ほど述べたように撮影だけでパーフェクトな写真を仕上げることが難しいから。

 では、Car Watchに掲載されるようなカッコよくきれいな自動車写真はどのように撮られ、どのように仕上げられているのだろうか。その裏側を垣間見てみたい……。そこで、Car Watchでの撮影や執筆で活躍する安田剛氏に協力をいただき、実際の撮影やRAW現像を再現してもらった。クオリティの高い愛車写真にするためのヒントが満載。ぜひ参考にしてほしい。

撮影編

 ここでは、Car Watchにレビュー記事を掲載するというつもりで安田カメラマンに写真を撮ってもらった。自動車単体だけではなく、背景を生かした写真やタイヤまわり、インパネなど、こだわりの撮影法を見ていく。

 ちなみに、どんなジャンルでもそうなのだが、被写体特有の撮り方というのがある。「かっこよく写す」「きれいに見せる」「ディテールをしっかり再現する」「印象を強くする」など、言葉にすれば一般的な被写体を撮るときと注意点は同じだが、自動車という被写体に対する撮影法や撮影技術があるのだ。そんな点にも注目してもらいたい。

 さて、7月某日、集合したのは「アネスト岩田ターンパイク箱根」。自動車写真や自動車ムービー撮影のメッカだそうだ。午前中から撮影を始め、青空の下でまるでカタログ写真のような1枚も撮ることができた。午後には雲が沸いて見通しがわるくなったので撮影を終えたが、自動車写真の撮影は天候にも左右されるので、時間的に十分な余裕を持って望みたいところ。

 なお、今回の撮影では安田カメラマンのほかに、撮影助手がいたり、プロならではの機材を使っていたりする。撮影条件としてはやや敷居が高いが、自動車仲間を募って互いの愛車写真の撮影を手伝ったり、カメラに詳しい友人がいればドライブがてらに誘ってアドバイスもらったりと撮影自体を楽しんでほしい。

富士山バックの定番7:3カット

 天候も味方をしてくれた今回のメインカット。雲をかぶった富士山をバックに、晴天の青空の下、車体のプラズマイエロー・パールが映える1枚。少し斜めから撮るのを自動車業界では「7:3(しちさん)」というのだそうだ。ただ斜めといっても条件があり「4つのタイヤがすべて見える角度が大事」なのだとか。なぜなら「その角度がもっとも自動車がカッコよく見えるから」と安田カメラマン。なるほど。写真では右の後輪が影になっているがタイヤのシルエットが出ているのが分かるだろう。また、ローアングルから撮ることで写真としての安定感も増す。

小学生時代に「オリンパスペンEE-3」を手にしたことから写真好きに。クルマはもちろん鉄道、飛行機といった乗り物系のほか、プライベートでは風景や動物といったネイチャー系の撮影も。デジタル化は2001年発売の「キヤノンEOS-1D」から。写真は望遠レンズを使い地面すれすれのローアングルから狙う安田カメラマン。氏によると望遠レンズを使うのは「自動車の形が歪まず車体の形が自然に見える」ため。またローアングルから撮ると車体の下に向こうが見えて「安定感だけでなく遠近感も強調されて写真が生き生きとしてくる」という
日差しの強い時間帯での撮影だったためボディに明るさのムラが生じやすかった。初めはレフ板だけを使い車体の後部を照らしたが、右のフロント部分の暗さが気になりフラッシュを直当てした
フラッシュなしで撮った写真(上)とフラッシュありで撮った写真(下)。比べて見るとなるほど、フラッシュを使った左の写真の方が、フロント右側が明るく照らされ車体が引き立って見える

逆光でもきれいな写真にする

 こちらは、どうしても逆光の条件で撮らざるを得ない場合を想定しての写真。影になるフロント部分の表情を出すためにヘッドライトを点灯しているのもポイント。太陽の位置がカメラの前方に来る逆光の場合は、どうしてもレフ板やフラッシュなど、陰になる部分を明るくするための「補助光」が必要だ。ただ、薄曇りなど日差しが弱ければ陰も暗くなりすぎないので補助光が不要になることも多い。これは撮影の後、RAW現像に加えHDR処理も行ないさらに陰影などを調整している。

レフ板の位置をアシスタントに指示する安田カメラマン。2人で撮影することも多く阿吽の呼吸もピッタリ。2人の距離がこんなに離れているのに安田カメラマンの指示を的確に受け取っていた
逆光の条件で撮影する安田カメラマン。レフ板だけでは自動車の後部しか明るくできないので、ワイヤレスでコントロールできるフラッシュも使っている。アシスタントが多ければ複数のレフ板を使うこともあるそうだ。望遠レンズでの撮影なので、やはり自動車から離れて撮影する

タイヤまわりを品よく仕上げる

 自動車好きがボディの次に気になるであろうタイヤとホイールまわり。撮影前に、ホイールのセンターオーナメントが正立するよう10cm刻みで自動車を前後させて調整していた。そして安田カメラマンがレンズを向けたのが、日向ではなく日陰になっている方のタイヤとホイール。というのは、「太陽の光が直接当たるとコントラストが強くなりすぎて質感が分かりにくいから」というのがその理由。そこで敢えて太陽の陰になるように自動車を配置して強い光を避けている。

 ただ、そのままでは逆にコントラストが低くなりすぎるので、光を感じさせるためにレフ板で光を当ててタイヤまわりを明るくしている。さらに、車体の下からもフラッシュの光を当ててタイヤパターンがわかるようにする。こうすることで品の良い写真に仕上げることができる。

RAW現像で調整する前のタイヤまわりの写真。RAW現像で調整することを前提に、タイヤの質感やディテールが分かるように敢えて明るめに撮っている。いわゆる「適正露出」で撮ってしまうとタイヤが黒くなりすぎて質感を再現できないことがあるからだ
ホイールやタイヤを磨く安田カメラマン。またこのときエアコンが止まっていることも確認していた。エアコンが動いていると地面が水滴で濡れてしまい、見栄えがわるくなってしまうことがあるからだとか。できるだけ良い写真にするために「撮影前にやれることはやっておく」という。手間を惜しまないことがきれいな写真に結びつく。見習いたい
タイヤまわりの撮影風景。写真に写ってはいないが、向かって右側からレフ板で補助光を当てている。この補助光によってホイールに輝きが出て、タイヤ側面も暗くなりすぎずにすんでいる。さらに車体の下にワイヤレスのフラッシュを配置し、タイヤが路面に接する部分も照らしている
参考までに順光で撮ったタイヤまわりの写真がこちら。明暗差が強くリアルでワイルドに感じられる。タイヤまわりが陰になる状態で撮った写真とこのように順光で撮った写真を見比べると、同じタイヤまわりでも雰囲気が随分と異なっている。皆さんはどちらが好みだろうか

見応えのあるインパネ写真

 インパネまわりの写真。一見すると宇宙船のコクピットを連想させるような見応えのある写真だ。太陽光が直接差し込むと、暗すぎる部分が生じて細部が分かりにくくなるので、わざわざ日陰に移動して撮影をした。見た目が美しくなるように左右のシート前部の位置を揃え、ハンドルも真っ直ぐにしている。

インパネの撮影は後部のハッチバックドアを開けて行なった。すみずみまでシャープに写るようにレンズの「絞り」を絞っている。また、車内は暗いためシャッタースピードも遅くなって手ぶれが心配されるが、最近のカメラの優秀な手ぶれ補正機能のおかげでピタッと止まって写すことができる。もし手ぶれが心配なら、同じ写真を何枚か撮っておくと安心だろう
インパネの映り込みを防ぎ、入る光を均一化するためにフロントガラスの上に透過型のレフ板(ディフューザー)を配置した。このような工夫によって雰囲気のあるインパネ写真になる

表示がきらめくメーターまわり

 メーターまわりの写真。LEDの表示がより輝くように、標準的な露出よりも暗くなるように設定して撮影した。またRAW現像ではコントラストが強くなるように調整している。コントラストを強めると明暗差が強調され、写真の印象はより力強く、また華やかになる。

メーターまわりの撮影では、映り込みを防ぐため、前方や左右にレフ板(ディフューザー)を配置して撮影した。日中なのでこのようなセッティングをしているが、夜の街明かりの少ない場所でなら、このようなレフ板がなくてもきれいに撮ることができるだろう

ラグジュアリー感が漂うシフトレバー

 ラグジュアリー感が漂うシックに仕上げられたシフトレバーまわりの写真。黒いものを黒く写すことでそのような雰囲気を出すことができる。このような黒い被写体が画面を占めるシーンでは、カメラはもっと明るく写そうとするので、わざと暗く写るようにカメラを設定する。なお、黒い部分ではゴミやホコリが目立つので、ブラシやダスターなどでできるだけ払っておきたい

シフトまわりを撮影する安田カメラマン。姿勢が窮屈そうだが、シートを支えにできるので、むしろ手ぶれ防止になるようだ。映り込みを避けるために、やはりあちこちにレフ板(ディフューザー)を配置している。直接外光が入り込むとマットな印象の写真になりにくいので、かなり気を使って撮影をしていた

自動車をアクセントにした「ゆるCar写真」

 自動車を主張しない自動車写真というのもおもしろい。自動車を風景写真のアクセントにするというものだ。鉄道写真では似た表現に「ゆる鉄写真」というジャンルがあるが、それに倣えば「ゆるCar写真」とでもいうべきか。のんびりと長く見ていられるのがこのようなゆるCar写真のいいところ。ただ、風景を広く写し込むために、いらないものが写ってしまうのがネック。この写真にも白線やら車止めやらが写っていた。そういったものを消すことで、落ち着きのある「ゆるCar写真」ができあがる。

「ゆるCar写真」の撮影風景。広く風景を写したいのでレンズは広角から標準あたりが使いやすい。なお、この写真に写っているように、白線や車止めがあって、そのままでは「うるさい」写真になってしまう。不要なものは消して落ち着きのある写真にしよう

RAW現像編

 ここからはRAW現像について見ていく。先述したようにRAWは、RAW現像によって高画質のまま明るさや色などを調整することができる。RAWを調整するにはRAW現像ソフトが必要になるが、ここではプロカメラマンからアマチュアカメラマンまで広く使われているAdobe Photoshop Lightroom︎ Classic(以下Lightroom)を使う。Lightroomは明るさや色の調整だけでなく、質感調整や不要物の除去なども行なえる多機能なソフトだ。

 撮ったままできれいに見える写真もLightroomでひと手間を加えることで、より魅力的な写真に仕上げることができる。また、屋外で撮ることの多い自動車写真では、レフ板などを使っても光と影を完全にコントロールするのは難しいが、Lightroomによって理想的な光と影を手にすることができる。さらに、ボディやガラスへの映り込みを消したり、画面に入り込んでしまった不要物を消したりすることも可能だ。そんな「Lightroomマジック」の一端を安田カメラマンに見せてもらった。以下「撮影編」で取り上げた中から何枚かの写真をピックアップし、RAW現像の様子を紹介する。

 なお、以下の作例だが「Car Watchに掲載する写真の場合、Web媒体ということもあり、彩度やコントラストをかなり強めに仕上げています。自分の愛車写真をRAW現像する際は、少し抑えた方が自然に見えると思います」と安田カメラマンからアドバイスをいただいた。好みの仕上がりがあると思うので、RAW現像をする際は落とし所を見つけてほしい。

撮影した写真の調整を行なう安田カメラマン。デジタルカメラに切り替えたのは20年ほど前。ほぼ同時期からRAW現像やレタッチも行っているという。きれいな写真を撮るために撮影時にできることはするという安田カメラマンだが、RAWで撮るのはそれでも条件が整わない場合があるためだ。またRAWで撮ることで、仕上げのバリエーションを広げられるというメリットもある

富士山バックの定番7:3カット

Before
After

 上のBefore写真とAfter写真を見比べれば、多くの人がAfter写真の方がきれいで美しいと思うに違いない。After写真を見なければBefore写真も十分にきれいなのだが、After写真を見てしまうと、その印象が目に焼き付いて離れない。Lightroomを使えば、ほんのひと手間をかけるだけで、記憶に鮮やかに残る写真に仕上げることができる。

 この作例で行なったのは、写真をビビッドなカラーにすること、明るさを調整して見やすくすること、金属の質感の強調と背景をクリアにすること、そしてボディのきれいでない映り込みを修正し、なおかつ地面の不要物を消すことだ。

ビビッドなカラーにする

Before
After

 色鮮やかなビビッドカラーの写真にしてみよう。色が鮮やかになると印象も強くなる。大きく影響を与えるのは「プロファイル」と「彩度」の調整だ。カメラ本体には写真の雰囲気を決める「標準」「風景」「人物」「モノクロ」などのモードがあるが、Lightroomでも同様の指定が可能だ。その上で、もう少し色を濃くするために「彩度」も上げる。

「基本補正」パネルにある「プロファイル」を変更する。もともとは「カメラ標準」というオーソドックスな発色の指定だったが、これを「カメラ風景」とする。こうすることで青空や緑が濃くなり、また全体的なコントラストも強まってクッキリ感が増す。併せて「彩度」を「+10」としてほんの少しだけ色の濃さを補った

明るさを調整する

Before
After

 明るさの調整については安田カメラマンは細かく行なっている。このあたりはさすがプロのこだわりというところか。安田カメラマンのイメージとしては「白黒をはっきりさせてコントラストを強めつつ、暗く見にくい部分のディテールを出す」というもの。調整前より調整後の方が全体的にハッキリとした印象になっているだけでなく、背景の緑やタイヤなどが明るくなっていることがわかる。

コントラストの調整は「コントラスト」という項目で調整できるが、安田カメラマンは、明るさの階調ごとに調整できる「白レベル」や「黒レベル」、「ハイライト」「シャドウ」という複数の項目を操って調整している

車体の質感強調と背景のクリア感の調整

Before
After
Before
After

 違いが少し分かりにくいかもしれないが、青空や遠景の富士山がよりクッキリと見えるような処理を行なった。また、同時にボディの金属感やガラスの質感などを調整することで、自動車の重量感や存在感を示す。

ボディの質感を強調したのは「明瞭度」という項目。プラスに調整することで質感や輪郭が強まってより存在感や重量感が増す。遠景は「かすみの除去」をプラスに調整してクリア感を出している

ボディへの映り込みと白線を消す

Before
After
Before
After

 ボディやガラスに何かが映り込んでいると、ボディの美しさが損なわれてしまう。気になる映り込みを消すことでボディの美しさが引き立ち、写真としての完成度も高まる。このような処理もLightroomを使えば簡単だ。同じ機能を使って地面の白線も消している。

映り込み部分を拡大表示する。映り込みを消すには「スポット修正」ツールを使う。「スポット修正」ツールを選び、「修復」モードにする。ここでは「サイズ」を「25」、「ぼかし」を「20」、「不透明度」を「100」とした
「スポット修正」ツールで映り込み部分をドラッグする。ドラッグした範囲が大きすぎたり小さすぎたりした場合は「del」キーを押して操作を取り消し、やり直そう
修正範囲と参照範囲を示す枠線が表示される。これは、参照範囲の画像を修正範囲にコピー&ペーストすることを示しているが、「修復」というモードを選んでいるために、画像を馴染ませながらコピー&ペーストが行なわれる。参照範囲は自動的に表示されるが、その位置が適切でないので移動する
参照範囲をボディの側面に移動すると、映り込み部分もかなり自然になる。きれいに仕上がらない場合は「del」キーを押して操作をいったん取り消し、「サイズ」や「ぼかし」の値を変更して操作をやり直そう。このようにして地面の白線も消すことができる。最後に「完了」ボタンを押して作業を終える

タイヤまわりを品よく仕上げる

Before
After

 日陰になるようにして撮ったタイヤまわりの写真だが、RAW現像前は上左の写真のようにかなり明るく写している。というのも先にも述べたように、最初から適正露出で撮ってしまうとタイヤが黒くなりすぎてタイヤのロゴや溝などのディテールを再現しにくいからだ。RAW現像を前提とすると、このような撮影方法も選択肢となる。「デジタルカメラを使い始めて20年以上、RAW現像も同じくらいやってきました」という安田カメラマンならではの撮影・現像スタイルだ。

落ち着いて見られる明るさにする

Before
After

 タイヤのディテールがきちんと残るように、加えて写真全体も見やすい明るさに調整する。Before/After写真を見比べて、これほど調整できることに驚きを覚える人もいるのではないだろうか。このような調整ができるのは、調整できる幅が広いLightroomを使ったRAW現像ならではといえるだろう。

写真の露出用語として「1段分」明るくするとか暗くする、ということがある。作例では「露光量」や「ハイライト」「シャドウ」などを使って1段分ほど暗くした上で、さらに右上の明るすぎる地面を暗くしたり、タイヤのディテールが見えるように暗い部分の明るさに調整したりしている

色彩を強めてメタリック感を出す

Before
After

 日陰で撮っているということもあってか、ボディカラーの発色がいまひとつと感じた安田カメラマン。色のノリがよくなるように彩度を上げる処理を行なった。また、ホイールやボディのメタリック感も強めて写真を引き締めた。

色のノリを良くするのは「彩度」や「自然な彩度」。どちらもプラス側に調整してボディカラーの「プラズマイエロー・パール」の鮮やかさを引き出した。また、「明瞭度」と「かすみの除去」もプラス側に調整し、メタリック感を演出している

見応えのあるインパネ写真

Before
After

 このような角度から撮ったインパネ写真は見応えがある。撮影編でも触れているように、レフ板(ディフューザー)を使って直射光を遮っているため、マットな質感も十分に再現されている。これに対して安田カメラマンがRAW現像で手を加えたのは、ホワイトバランスと明るさの調整、そして角度調整だ。そのプロセスを見ていこう。

・水平・垂直になるように角度を調整する

Before
After

 写真を見ると少し左に傾いている。ハッチバックからカメラを手持ちで撮影しているので無理もない。写す被写体の中に水平や垂直の線があれば、それをガイドにカメラの角度を修正できるが、ほぼ曲線で占められたインパネではそれも難しい。そんな難しい角度修正もLightroomの強力な機能を使えばワンクリックで修正可能だ。

「変形」パネルの「水平」ボタンを押す。それだけで角度修正やそれに伴う遠近歪みの修正も行なってくれる。安田カメラマンも「実に頼もしい機能です」

・ホワイトバランスを調整してウォーム調にする

Before
After

 安田カメラマンはカメラのホワイトバランスを「太陽光」で撮るのが基本だそうだ。取材など、限られた時間の中で撮ることが多いため、カメラの設定を変える時間も惜しいという。そこでホワイトバランスはRAW現像で調整している。

 これもその「太陽光」で撮られているが、日陰で撮っているため青みが強い。青みが強い写真は、冷ややかに見えて見る人に緊張感をもたらしやすい。穏やかな気分で見てもらえるよう、ホワイトバランスを赤みを帯びたウォーム調に調整した。

写真の全体的な色合いのことを「ホワイトバランス」という。ホワイトバランスの調整はLightroomでは「色温度」と「色かぶり補正」で行なう。ウォーム調にするため「色温度」の値を当初の「5700」から「7200」にし、「色かぶり補正」を「+17」から「+23」とした

・明るさ調整でインパネに視線を集める

Before
After

 最後に明るさを調整しよう。上のBefore写真とAfter写真をよく見比べてほしい。After写真の方がインパネに視線が引き寄せられないだろうか。実は、人が写真や絵画を見るときなどは明るい部分に視線が向きやすいと言われている。Before写真でも、インパネよりサンバイザーや天井が明るいため、そこに視線が向きやすい。その明るさを抑えれば、写真の中心であるインパネに視線が向くようになる。

明るさ関連の項目が多く調整されているが、ポイントはサンバイザーや天井の明るさを抑えること。その鍵となる項目が「ハイライト」だ。これを「−68」と大幅に引き下げることで該当部分の明るさを上手に抑えこんでいる

RAW現像で大きく変わる写真の印象

 ここまでRAW現像のプロセスを見てきたように、RAW現像を行なうと写真の印象を大きく変えることができるし、映り込みや不要物などを消して写真のクオリティを上げることも可能だ。はじめは多少の知識やコツが必要にはなるが、慣れれば数分程度の操作で写真を仕上げることができる。実際に安田カメラマンがRAW現像にかけた時間もわずかだった。そんな使いやすさもLightroomの魅力だ。

 ここからはそのほかの写真について、Before、Afterを見ながら、安田カメラマンがどのようなRAW現像を行なったのか、そのポイントを見ていく。

逆光でもきれいな写真にする

Before
Lightroomによる中間仕上げ
After(PhotoshopでHDR処理)

 逆光のシーンでは明るい部分が明るくなりすぎたり、暗い部分が暗くなりすぎたりする。撮影時に明るさを変えて何枚か撮影する「段階露出」を行なっておき、RAW現像で明るさを調整しやすい写真を選ぶといいだろう。作例では、Lightroomで明るさなどを調整したのち、Adobe︎ Photoshopでより印象的な写真になるようHDRという処理を施している。


調整内容
[Lightroom]
・明るさの調整
露光量:+0.25/コントラスト:+5/ハイライト:ー77/シャドウ+25/白レベル:+18
・彩度の調整
自然な彩度:+14
・質感や空気感の調整
明瞭度:+14/かすみの除去:+5

[Photoshop]
・HDR処理
HDRトーンを使用
・電線を消す
修復ブラシツール、パッチツールなどを使用


表示がきらめくメーターまわり

Before
After

 このような暗い被写体を撮ろうとすると、カメラはもっと明るく写そうとする。するときらめく表示が目立たない平凡な写真になってしまう。撮影では暗めに撮るのがポイントだ。RAW現像ではさらに暗さを強調しつつも、表示の明るさも強調してコントラストを印象づけている。


調整内容
・明るさの調整
コントラスト:+15/ハイライト:-14/シャドウ:+10/白レベル:+31/黒レベル:-48など
・質感の調整
明瞭度:+17


ラグジュアリー感が漂うシフトレバー

Before
After

 このシフトレバーもメーターまわりの写真のように、少し暗めに撮ると雰囲気が出やすい。RAW現像でもさらに暗くなるように調整しているが、暗くしすぎると平板な感じになるので、もともとあったグラデーションを残すようにすると立体感が損なわれない。なお、黒い被写体はゴミやホコリが目立つので、RAW現像時に消している。


調整内容
・色の調整
色温度:7500
・明るさの調整
露光量:-0.20/ハイライト:-16/シャドウ:+9/黒レベル:-29
・質感の調整
明瞭度:+17
・ゴミやホコリの消去
スポット修正ツールを使用


自動車をアクセントにした「ゆるCar写真」

Before
After

 こちらはうるさく目に付く白線と車止めをすべて消去し、スッキリと仕上げた写真。できれば不要物が映り込まないように撮れればよいが、撮影場所によっては条件が整わないケースも多い。しかしLightroomがあれば不要物の消去も簡単だ。安田カメラマンによると、白線と車止めを消すのにかかった時間は10分ほど。ほかに鮮やかな風景写真に仕上げるために、明るさや色、クッキリ感の調整なども行なっている。


調整内容
・明るさの調整
コントラスト:+12/ハイライト:+67/シャドウ:+16/白レベル:+15/黒レベル:-22
・色の調整
自然な彩度:+10
・質感や空気感の調整
明瞭度:+18/かすみの除去:+10
・白線と車止めの消去
スポット修正ツールを使用


魅せる愛車写真に仕上げよう

 写真というのは撮った時とそれを見る時とで印象が変わることがある。よくあるのが、「もっと力強い印象だったのに」とか「もっと色鮮やかだったはずなのに」といったこと。撮影時のイメージが美化されて強く記憶に残るためだ。カメラはその場の景色をそれなりに忠実に記録しているはずなので、撮影者の思い込みとも言える。それは撮影者だけでなく写真を見る人にとっても同じで、美化された景色を基準に写真を見るため、撮ったままの写真に対してはあっさりとした印象を持つことが多い。「魅せる」写真にするためにはRAW現像は欠かせないと言ってもいいだろう。

 そんなとき頼りになるのがLightroomだ。撮影に手間をかけたり遠出して撮ったりした愛車写真なら、なおさら魅力的な写真に仕上げたい。魅力的な写真に仕上がったのならSNSに投稿して多くの人に見てもらおう。スマホの待ち受け画面にすれば常に愛車を感じていられる。傑作ができたら愛車写真コンテストに応募するのもいい。ステキな写真は多くの人を幸せにしてくれる。そんな愛車写真ライフを豊かにしてくれるLightroomで、RAW現像を始めてみてはいかがだろうか。

撮影協力:株式会社SUBARU、箱根ターンパイク株式会社