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“失敗から学ぶクルマ屋のモノづくり”、トヨタ自動車の「なぜなにレクチャー 空力ボディ」 トヨタ博物館での開催を紹介
- 提供:
- トヨタ自動車株式会社
2025年9月24日 00:00
この夏、トヨタ博物館で開催された科学工作教室「科学のびっくり箱!なぜなにレクチャー」には、多くの家族連れが集まった。約30年続くこのプログラムは、クルマの進化と文化を伝えるトヨタ博物館が、子供たちにモノづくりの体験と科学の楽しさを学べる場を提供するもの。トヨタの現役技術者が講師を務める人気のイベントとなっている。
なかでも面白いのは、クルマの性能を左右する「空力」をテーマにした講座だ。子供たちは自作したクルマを風洞実験の装置にかけ、失敗と改良を繰り返しながらクルマと科学の世界を体験した。その様子を夏休みの開催回からお届けする。
トヨタ KIDs モノづくり教室
現役エンジニアが教える!クルマで学ぶ科学の楽しさ
トヨタ博物館は、世界のクルマの進化と文化や歴史を壮大なスケールで展示する博物館。クルマの歴史を一望できる「クルマ館」と、主にクルマ文化の資料が集められた「文化館」で構成されており、トヨタの名前は冠しているものの、クルマや関連資料は日米欧のさまざまなメーカーのものが展示されている。
「科学のびっくり箱! なぜなにレクチャー」は、トヨタ自動車の技術者を中心に構成される「トヨタ技術会」の有志が講師を務める出張イベントだ。全国の科学館や博物館と共催し、クルマづくりを題材に、運動変換や発電の仕組み、推進力の原理、プログラミングによる制御など科学が学べる講座を提供。年間30回程度開催され、1996年の活動開始以来、のべ3万6000人以上の子供が参加してきた。
今回の「空力ボディ~空気抵抗と形状の関係を学ぼう~」が開催されたのは、トヨタ博物館の文化館。午前と午後の2回実施され、小学4年生~6年生までの子供、あわせて約50人が参加した。
クルマ好きの親はもちろん、近年は保護者の間でSTEAM教育(※)や探究学習への関心が高まっており、「モノづくりの体験を子供にさせたい」という家庭が参加していた。この講座にも定員の約3倍の応募が寄せられたそうだ。
※STEAM教育……「科学(Science)」「技術(Technology)」「工学(Engineering)」「芸術(Art)」「数学(Mathematics)」の頭文字を組み合わせた言葉で、5分野を横断しながら実社会の課題発見・解決に結びつける新しい教育スタイル。
空気抵抗を減らせ! 風洞実験で挑む空力ボディの秘密
最初は、スライドで空気抵抗を学ぶところから始まった。空気の成分や重さに関する知識を学び、「クルマが大きくなると空気抵抗はどのように変化するだろう」と問いが投げかけられた。
頭の中だけで考えるのではなく、実際に確かめてみようということで本格的な風洞実験が行なわれた。ドライアイスの白い気流で空気の流れを可視化し、モノの形に沿って空気が流れることを観察する。ドライアイスの気流には子供たちの食いつきもよく、前のめりになって見つめていた。
さらに、今回は特別企画として会場には1947年製造の「トヨタ AC型乗用車」と、2010年製造の「レクサス LFA」が展示されており、子供たちは昔と今のクルマの形を直接見比べるという、贅沢な体験をした。
近年の車種は、ボディ下部での空気抵抗の発生を抑えるためフラットに加工されていると説明され、子供たちはしゃがんでのぞき込んでいた。本物を見ながら学べる醍醐味は、19世紀末のガソリン自動車誕生から現代までの車両展示数が豊富なトヨタ博物館ならではの貴重な体験だ。
ここからは、いよいよ子供たちが「空気抵抗の小さいクルマづくり」に挑戦する番だ。完成した車体は、風洞実験の装置で空気抵抗が数値化される。チャレンジは2回まで。1回目はヒントなしで、自分が考えた形のクルマを組み立て風洞実験で測定。その結果を踏まえて、プロの技術者からアドバイスを受け、2回目のクルマを制作する。どうすれば空気抵抗を減らすことができるか、クルマのデザイン、組み立ての工夫、仕上げの丁寧さが試される。
トヨタの現場で働くプロの技術者は、子供たち一人ひとりに「クルマの形はもっと斜めにするといいよ」とか、「テープを凸凹に貼ってしまうと空気抵抗が増えるよ」など丁寧なアドバイスを行なっていた。またクルマのデザインに迷っている子には「自分がいいと思うことをやってみよう」「思い切って描いてみて」と励ましの言葉も掛けた。そうしたやり取りを重ねるうち、子供たちも次第に夢中になり、多くの子が2回目でよい結果を出した。スクリーンには参加者全員の測定値が提示されており、更新されるたびに会場は盛り上がった。
失敗や試行錯誤こそ価値、モノづくりから得られる学び
全員の測定が終わると、プロの技術者が同じ材料を使って手掛けたクルマが披露された。上方向に加え、左右方向にも絞り込まれた流線形のボディによって空気の流れが上下左右にきれいに分散していることが説明されると、子供たちから「おおー!」という声が上がった。
自ら試行錯誤を重ねた後だけに、プロが作った出来栄えの凄さを実感。細部にまでこだわる技術者のモノづくりの姿勢を子供たちに印象づけた。
最後は、子供たちの中から測定値のトップ3が表彰された。講師を務めたトヨタ技術会の加藤謙二氏は、「今回、測定値があまりよくなかった子もいると思いますが、デザインや工作などすべてが得意でなくても、それぞれが得意なことで協力すればよりよいものができます。今日やったことを通して、みんなで協力しながら学校をもっと楽しくしたり、科学やモノづくりに興味を持つきっかけになればうれしいです」とメッセージを送り、イベントを締めくくった。
参加した子供たちに感想を聞くと、「アドバイスしてもらったとおり、車体をなめらかな流線型で作ってみるとよい結果が出ました。すごく楽しかったです!」「空気抵抗のことをたくさん知ることができてとても楽しかったです」と話してくれた。なかには「将来、クルマをデザインしたい」という本気の子もいて頼もしい。
一方で、理科やクルマにあまり興味を持っていない子もいたが、「やってみたら楽しかった」という前向きな話も聞けた。保護者からも「実験に興味を持ってほしくて参加した」「親子でクルマ好きで、子供が意外な形を作っていて感心した」などの感想が聞かれた。
「科学のびっくり箱! なぜなにレクチャー」を実施するトヨタ技術会の加藤謙二氏によると、このプログラムを開始した30年前は“科学離れ”が指摘された時代で、科学に興味を持てるような内容を意識して活動を始めたという。今回の空力ボディのプログラムは、普段意識しない空気を意識し、空気の流れを可視化するため、実験として面白く人気があるとのこと。
子供たちの学習体験としては、「答えを言わないこと」と「一度失敗すること」の2つに気を付けていると加藤氏は語った。「失敗を経験し、改善した二度目でぐんとレベルアップする体験をしてほしいです。1回失敗したからといって諦めることはないですし、何回もやってみることが成功の近道です」と加藤氏。子供たちに伝えたいモノづくりの姿勢を語ってくれた。
19世紀末から現代まで日米欧の代表的なクルマが約150台! 家族で楽しむ探究と発見のクルマ空間
トヨタ博物館は、2025年の夏休み、連日多くの家族連れでにぎわったそうだ。広大な敷地に広がる展示スペースは、親子三代が楽しめる空間となっており、それぞれの年代のクルマを前に「当時はこうだった」と会話も弾む。クルマの展示を通して、日本の経済成長や文化、歴史もたどることができ、1日たっぷり過ごせる場所だ。
クルマ館2階・3階にまたがる展示では、世界の自動車メーカーの歴史的名車から現代の自動車まで約150台を展示している。名車が並ぶ光景は圧巻だ。とりわけ黎明期のクルマやクラシックカーは美術品のような存在感を放ち、造形の美しさに思わず見とれてしまう。
この展示は、その多くが実際に走れるようメンテナンスされた「動態保存」されているのが特徴。イベントなどで走行披露もされている。
このほか、クルマ館2階には「クルマづくり日本史」という自動車産業史が解説された展示室もあり、トヨタはもちろん日本の自動車メーカー全体の歴史が豊富な解説や映像で学べる。また1階にはミュージアムレストラン「AVIEW(アビュー)」もあり、洋食を中心に提供。ごはんがクルマの形になった「トヨタ博物館プレミアムビーフカレー」が人気だ。
文化館は、2階の「企画展示室」と「クルマ文化資料室」、3階の「クルマの図書室」がメインの施設となる。定期的に展示内容が変わる「企画展示室」では、「乗ってみよう!ドキドキワクワク はたらくクルマ」と題して、救急車や消防車、ハイウェイ パトロール カーなどが展示されていた。実際に運転席に座ることもできる乗車体験も可能で、夏休み期間は大人気だったそうだ。
同じ2階にある「クルマ文化資料室」は、「移動は文化」をテーマに約4000点のクルマ文化資料が展示されており、このスペースも圧巻の光景が広がる。中央のガラスケースの中には、クルマが生まれた18世紀中ごろから現代までの歴史を1/43スケールの自動車模型で展示している。壁にはクルマが描かれた昔の出版物やポスター、年代ごとのクルマのカタログ、さらにはカーマスコットやカーバッジ、自動車玩具など、世界中から集められた貴重な資料の数々がずらりと並ぶ。
3階には、クルマに関係する書籍や雑誌、絵本などが揃う「クルマの図書室」があり、こちらもクルマ関連の資料探しに便利。歴史から洋書、車雑誌のバックナンバー、国内外の自動車メーカーのカタログ約3500冊など、ここでしか見られない資料の宝庫だ。「クルマの図書室」は無料で利用できる。
このようにトヨタ博物館はクルマ館・文化館と合わせて見応えたっぷりで、クルマ好きの大人や子供だけでなく、クルマに興味がなかったとしても知的好奇心が刺激される場所として楽しめる。また、クルマが我々の生活や文化、経済に与えた影響は計り知れず、子供たちがクルマを切り口に探究学習や自由研究に取り組むのも面白い。保護者として一度は子供を連れて行きたい場所であり、じっくり通ってみたいなら、1年間有効のトヨタ博物館メンバーズクラブ(トはくらぶ)会員を購入するものお勧めだ。
体験こそが記憶に残る、榊原館長が語る「原体験」の大切さ
トヨタ博物館 館長の榊原康裕氏は、「トヨタ博物館では今年度は次世代を担うみなさんに夢やあこがれ、希望を持っていただけるような原体験を提供することをスローガンに掲げています」と語る。この夏に企画展示室で行われたイベント「はたらくクルマ」の乗車体験も、そんな原体験を提供するための試みの一つだという。
「多くの子供たちは将来、クルマに限らず、何らかのモノづくりに携わってほしいと思っています。そのためには展示を見るだけではなく、何らかの体験をして、何かを感じないと原体験として残りづらいでしょう。クルマに実際に乗ったり、ワークショップで実験をしたりすることで記憶が積み重なり、将来、クルマ関係の仕事やモノづくりに興味を持ってほしいと願っています」と語った。
榊原氏は「自分にも今の仕事をするきっかけのようなものがありました」と振り返り、館内のクルマの図書室で、豊田市中央図書館と図書の共同展示を行っている「未来のクルマ屋へ -夢が動き出す本たち-」(9月30日まで)についても触れた。
このイベントではトヨタ自動車の従業員が選書した、自分がモノづくりに興味を持ったり、クルマが好きになったりしたきっかけの本が展示されている。図鑑や伝記はもちろん、絵本やマンガがきっかけになったというコメントも多く、「ぼろぼろになるまで読んだ図鑑」や「ストーリーに心が動いたマンガ」などの熱い推薦コメントが並んでいる。
榊原氏は、今の子供たちが置かれた状況に対して、「暗記教育ではなく、その子の尽きない興味を大切にし、探究や創造に深めてほしい。子供の興味を広げることで、そこからさらによいものが生まれるはずだと思っています」と語った。
トヨタ博物館では11月にもトヨタ技術会と連携をしながら、STEAM教育を後押しするモノづくり体験イベントを実施予定しているという。プログラミング授業を行なったあと走行体験を行なう「自動運転ミニカープログラミング講座」や、タイヤ交換、ミニカー作りなどのコンテンツを用意している。
トヨタ博物館は、世界の自動車の歴史や文化を包括的に伝える場として作られた場所であった。展示内容も大人がしっかり楽しめるクオリティで作り込まれているからこそ、親にとっても子にとっても満足度が高く、リピーターを生んでいるのだろう。資料室や図書室のクルマ愛にあふれる充実度合いは、子供たちがクルマやクルマ文化を探究する際の“研究の拠点”にもなってくれる。
複数階にわたる展示や資料室などこの規模のクルマ博物館はほかになく、電車で行きやすい場所でもある。子供たちの興味や可能性を広げる機会として訪れてみるのをお勧めしたい。
なお、トヨタの運営する歴史文化施設は全部で6館あり、愛知県内に4館、静岡県に2館ある。





































