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トヨタ産業技術記念館、現役エンジニアが教える子ども向け「自動運転プログラム」教室 速さと曲がりやすさでタイムを削れ!

科学のびっくり箱!なぜなにレクチャー

トヨタの現役エンジニア講師も見守る中、自分でプログラムしたクルマで、いざコースへ

 クルマの研究開発や設計、製造の現場で働くトヨタ自動車の社員たちが、休日に子どもたちの「先生」になる。それが、トヨタで30年以上続いてきた子ども向け講座「科学のびっくり箱!なぜなにレクチャー」だ。これまでに3万6000人以上が参加する人気ぶりで、現役エンジニアたちが自ら開発した教材で、モノづくりのプロから直接学べるのが魅力だ。

 今回紹介するのは、未来のクルマに欠かせない「自動運転」をテーマにした講座。小学生が自分でプログラムの数値を変え、速さと曲がりやすさのバランスを探りながら、S字コースのタイムを削っていく。会場となったトヨタ産業技術記念館に集まった子どもたちが試行錯誤する様子と、館内の展示が伝えるトヨタのモノづくりの原点をあわせてお伝えする。

トヨタ社員が先生に! プロお手製の自動運転カーで学べる科学講座

「科学のびっくり箱!なぜなにレクチャー」は、子どもたちの科学技術への興味と夢を育むことをめざして、トヨタの有志社員が取り組んでいる科学工作教室だ。「燃料電池自動車」や「手作りハイブリッドカー」などクルマづくりを題材に科学を学べるプログラムが全10種類そろっており、モノづくりの試行錯誤を通して子どもたちの探究心や創造性を育んでいる。講師を務めるのは、技術者を中心に構成される「トヨタ技術会」のメンバーだ。年に30回ほど全国のさまざまな場所で開催されており、今回はトヨタ産業技術記念館で行われた「自動運転プログラミングカー」の講座に足を運んだ。

「自動運転プログラミングカー」の講座が行われたトヨタ産業技術記念館(愛知県名古屋市)

 この講座の対象は、小学4~6年生。小型の自動運転カーのプログラムを自分で書き換えて、壁に囲まれたS字コースを目標タイム以内で走り切るのが課題だ。使うクルマは、講師陣が部品の調達から組み立てまでを手掛けたプロお手製のもの。車体正面の超音波センサーが壁までの距離を測り、ぶつからない方向を選んで進むよう設計されている。子どもたちは自動運転の基本的な仕組みに触れながら、プログラムを変えればクルマを思い通りに動かせることを知り、結果を見て改良をくり返しながら目標に近づいていくという、試行錯誤の過程を学ぶ。

プロお手製の自動運転カー。車体パーツは講師陣がCADで設計し、3Dプリンタで製作した
段ボールとジョイントマットで作られたS字コース。こちらも講師陣の手作りだ

止まっては首を振る自動運転カー、その仕組みを知ってタイムアタックへ

 講座は、コンピュータの話から始まった。講師が「自動車1台に使われているコンピュータの数は何個くらいでしょう? 1個、10個くらい、30個くらい、100個くらい、どれだと思う?」と聞くと、ほとんどの子が「100個くらい」を選んだ。講師が示した答えは「30個くらい」。予想より少ない数に、子どもたちは意外な様子だ。

講座の始まりはコンピュータやプログラミングを知るところから

 自動運転の説明になると、まずは自動運転カーを動かすデモから始まった。講師がスイッチを入れると、クルマは少し進んでは止まり、首を振るように車体を左右に動かして、また進み出す。この動きを支えているのが、前方の超音波センサーだ。センサーは1個だけなので、止まるたびに車体を振って前・右・左の距離を測り、ぶつからない方向を選んで進むようプログラムされている。ただ、その走りはかなりゆっくり。見ている子どもたちからは、「もっと速く走らせたい」という気持ちが伝わってくる。

自動運転カーのデモ走行を見て、動きを確認

 仕組みが分かったら、いよいよプログラミングに挑戦だ。といっても、一からプログラムを書くわけではない。左右を確認するときに車体を振る時間を決める「左右回転時間(turn_time)」と、前進するときの「走る速さ(go_speed)」、この2つの数値を変更するだけだ。走行結果を見てはプログラムを直し、また走らせる。このくり返しで、目標タイムの2分以内、チャレンジ目標の1分30秒以内をめざす。子どもたちのタイムアタックが始まった。

小型コンピュータの「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」を使用したPCでプログラミング
自分で数値を書き換えたプログラムをケーブルでクルマに転送したら、いよいよ試走だ

速くしたいのに曲がれない! 記録とプロのアドバイスでタイムを削る

 多くの子がまず手を付けたのは、速さだ。速くゴールしたいなら、速さを最大にすればいい。初期値40から最大の100まで一気に数値を上げる姿が見られた。ところが、速くすると車体はコーナーで曲がりきれずに壁にぶつかってしまう。「今度はもう少しスピードを落としてみよう」。講師のアドバイスを受けてスピードを落としつつ、左右回転時間も調整し始めるが、これが子どもたちを悩ませた。

 左右回転時間は、車体を振る時間であると同時に、クルマの向きを変える角度を決める数値でもある。大きくするとコーナーは曲がりやすいが、直線でも大きく向きを変えるため横の壁にぶつかりやすい。逆に小さくすると直線は安定するが、コーナーで曲がり切れない。S字コースには直線とコーナーの両方があり、どちらかに合わせると、もう一方で失敗する。子どもたちは、壁にぶつかる、直線で蛇行するといった目の前の結果から、どうすれば速く走らせられるか、改善点を探っていくが、多くの子から「速さと曲がりやすさのバランスが難しい」という声が聞かれた。

速さと曲がりやすさの調整が難しい
講師のアドバイスを受けて、自分で考えて改善を重ねる

 そんな子どもたちの試行錯誤の中で、この講座が大切にしていることのひとつが、記録を取ることだ。一人ひとりに記録用紙が配られ、講師たちは試した数値やタイム、走行中のクルマの様子まで書き残すよう子どもたちに促す。「仕事でもこうして結果を記録することが大切なんだよ」。講師のそんな声を受けて、子どもたちは自分の記録を見返しながら改善を重ねていった。一見、地味な作業だが、実際にクルマづくりのプロから言われると、その言葉には重みがある。

走らせる度に、自分が試した数値を記録用紙に書き残していく
保護者も楽しそうに見守る

 しばらくすると、タイムをクリアしてよろこぶ姿があちこち見られるようになった。講師陣は「やったね!」と称え、目標タイムを切れない子には、「左右のモーターに差があるのでは?」と車体のクセまで確かめてアドバイスをしていた。クルマのプロならではの視点だ。チャレンジ目標の「1分30秒」を切った子には、「TOYOTA」のロゴステッカーが手渡された。

1分30秒を切った子には、「TOYOTA」のロゴステッカーが手渡された

 その後も面白いことが起きた。講師の「クルマを置く位置を変えるだけでも、タイムが10秒ほど変わることがあるよ」というアドバイスをきっかけに、スタート位置を工夫する子が現われた。ほかにも、車体のメッシュカバーを「もう、いらないんじゃない?」と外し、軽量化で速さを狙う子もいた。子どもたちがプログラム以外にも速くできる工夫を見つけ、自然に興味が「クルマづくり」へ移っていったのが印象的だ。

 最後には、講師陣が作った改造車が披露された。超音波センサーを3個に増やしたものや、カメラを載せたものなど、プロの走りに子どもたちから歓声があがった。講師は、「正解は一つではなく、色々な方法を使って目的を達成できることを知ってほしい」と子どもたちにメッセージを送った。子どもたちに感想を聞くと「コーナーですぐ壁にぶつかってしまうところが難しかった」「上手く回りきれた時やタイムを更新した時は達成感があった」と楽しそうに語ってくれた。

講師陣の力作、超音波センサーを3個に増やした改造車

速さがゴールではない、あえて失敗させる課題に込めた狙い

 講師を務めたトヨタ自動車 クルマ開発センター ボデー開発部 主任の深津裕二氏に、講座の狙いや内容について話を聞いた。

トヨタ自動車株式会社 クルマ開発センター ボデー開発部 主任の深津裕二氏

 深津氏によると、この講座にはあえて失敗する場面が組み込まれているという。「スピードは、簡単に考えると大きくすれば速くなるので、最大値の100に一気にする子が多い。これはどの子もつまずくポイントで狙い通りですが、本当に学んでほしいのは、速さという見た目の結果ではなく、試行錯誤の中で自分が考えた通りに変化したか、ということなんです」と語る。

 そのために、この講座では記録と観察を大事にしている。「自分がやったことに対してどういう結果が出て、それを自分でどう変えていったのか、その一連の流れを繰り返すことで、どんどんより良いものに仕上げていける。その過程を楽しんでほしいです」と深津氏は語る。

講座の本当の狙いは「速さ」ではなく「記録と観察」。自分の狙い通りに動いたかどうかが大切だという

 こうした試行錯誤のプロセスは、深津氏が普段取り組んでいるクルマづくりにも重なる。深津氏が所属する部署は、クルマのボデーや骨格、構造の開発を担っており、そこでの業務はいくつもの段階ごとに目標を立て、それを達成しなければ次に進めない。狙いどおりでなければ原因を考え、もう一度やり直す。そうした作業をくり返しながら、市販車を仕上げていくというのだ。

 だからこそ深津氏は、子どもたちにも「何度も失敗しながら観察を続けて、より良いものにしていく。そんな気持ちを持ち続けてほしい」と話す。講座で使った自動運転カーは、持ち帰ることができるのも、講座の中で終わらず家に帰っても続けてほしい。そんな講師陣の願いが込められている。

「科学のびっくり箱!なぜなにレクチャー」の講師陣。シャシー制御や車両製造技術、ボデー設計、センサー開発など、トヨタのさまざまな分野で働くメンバーが集まった

本物が動く! トヨタのモノづくりの原点をたどり、親子で1日楽しく学べる記念館

「自動運転プログラミングカー」の会場となったトヨタ産業技術記念館は、トヨタグループ発祥の地に残る旧豊田紡織本社工場の建物を、産業遺産として保存・活用している。同館のミッションは、トヨタグループの創始者である豊田佐吉氏の「研究と創造の精神」と、モノづくりの大切さを伝えること。かつての工場を生かした広大な館内とダイナミックな展示が魅力で、親子でトヨタのモノづくりの奥深さを感じられる空間だ。この地に行く機会があれば、ぜひ立ち寄ってもらいたい。

 館内の見どころは、トヨタのルーツである織機をはじめ、その技術と歴史を伝える「繊維機械館」と、そこから発展を遂げた「自動車館」の大きく2つだ。展示にもこだわりがあり、本物の機械を動かす動態展示や実演を通して、モノづくりや技術進化を体感できるようデザインされている。

記念館のシンボル「環状織機」。豊田佐吉氏が1906年に発明した織機で、1日数回の実働展示が行なわれている

 繊維機械館では、佐吉氏が23歳で発明した木製の人力織機から、57歳で完成させた「無停止杼換式豊田自動織機(G型)」まで、織機の進化をたどることができる。人が手足で動かしていた織機は、止まらずに布を織り続け、糸が切れれば自動で止まる機械へ進化するまでに34年かかった。その年月を知ると、発明家としての努力と、研究にかけた情熱が伝わってくる。

豊田佐吉氏が発明した「豊田式木製人力織機」
近代化産業遺産に認定されている「無停止杼換式豊田自動織機(G型)」の第1号機
現在は空気で横糸を通す「エアジェット織機」に進化している

 自動車館では、佐吉の長男・豊田喜一郎氏が自動車づくりに挑んだ時代から、現代のクルマの開発や生産技術までを紹介している。織機をつくっていた会社が、なぜ自動車づくりに乗り出したのか。その背景も、イラストを使った展示で分かりやすく紹介。ほぼゼロから始まったクルマづくりが、試行錯誤を重ねて純国産技術による初代クラウンの誕生へとつながり、その後も時代のニーズや社会課題にどう挑んできたのか。その歩みを年代順にたどれるのが特徴だ。これを見ると、今では当たり前に走っているクルマも、数えきれないほどの失敗と改良の積み重ねの上に成り立っていることがよく分かる。

自動車事業創業期のクルマづくりを展示
エピソードの森。喜一郎氏の語った言葉が抽出されている
純国産技術で開発された初代「トヨペット クラウン」(1955年)
年代順にクルマの進化をたどることができる
燃料電池車「MIRAI(ミライ)」のカットモデル

 生産技術のエリアでは、実際の工場で使われてきた大型機械が展示されている。ボタン一つで動かせるものもあり、エンジンとシャシーを組み付ける装置が大きな音を立てて動き出すと、その迫力に思わず見入ってしまう。

エンジンとシャシーの自動組付装置
ロボットがボディを溶接するフレキシブル・ボデーライン
M型エンジンクランクシャフトを加工する「レブロンド社製PBA型クランクシャフトピン旋盤」

また、館内では、切削・鍛造・鋳造といった金属加工の実演も行なわれている。この日は創業期のエンジン部品であるシリンダーブロックのミニチュアを作る鋳造の実演が見られた。喜一郎氏らは創業期、このシリンダーブロックの鋳造に苦しみ、試作に成功するまでに500〜600個を無駄にしたという。ここでも、トヨタのモノづくりの原点をたどることができる。

約800℃で溶かしたアルミを砂型に流し込む鋳造の実演が行なわれた

 子ども連れなら外せないのが、体験型学習スペース「テクノランド」だ。動力を伝えたり変換したりする仕組みの基本であるギアやカム、リンクなどを、自分の手で動かしながら観察して学べる。空気抵抗を風で体感したり、ウォータージェット織機の仕組みを体験できるコーナーもあり、人気の施設だ。

体験型学習スペース「テクノランド」

 さらに、1日かけて回るなら、食事やおみやげ選びも楽しみの1つだ。館内にはカフェと本格的なレストランがあり、記念館の特製カレーや名古屋名物も味わえる。ミュージアムショップには、ここでしか買えないオリジナルグッズが並び、インバウンドの旅行客でもにぎわっていた。

ミュージアムカフェの「記念館プライムカツカレー」ドリンクセット 1400円
ミュージアムショップで一番人気は「スパナスプーン・フォーク」
ミュージアムショップ前には、「MORIZO」アクリルスタンドのカプセルトイも。オートサロン2026で連日完売した人気アイテムが復活。ただし、数量限定

失敗を次の一歩に、副館長に聞く「子どもたちにモノづくりを伝える理由」

 トヨタ産業技術記念館では、このような展示や科学教室などの教育活動を通して、何をめざしているのか。副館長の牧野功氏に話を聞いた。

トヨタ産業技術記念館 副館長 牧野功氏

 同館が教育活動に力を入れる背景には、かつての危機感がある。牧野氏によると、バブル期には、モノづくりや技術系の仕事から多くの人が関心を失っていった時期があった。そこで、若い世代がまださまざまなことに興味を持っているうちに、モノづくりの楽しさや達成感を体感してもらおうと活動を続けているという。

 開館当初から大切にしているのは、実物の機械を動かして見せる実演展示だ。「実際に機械が動いたり、ものを作ったりするときには、音や振動、匂いが発生します。そうしたものを含めてモノづくりを感じていただける場所にしたい」と牧野氏は語る。また子ども向け講座についても、今回は「科学のびっくり箱!なぜなにレクチャー」を紹介したが、同館では毎週末モノづくりに関連する多彩なワークショップを開催している。牧野氏は「いずれも、少し難しいことに挑戦してやり遂げる達成感を大切にしている」と話しており、保護者からのアンケート評価も高く好評だ。

 一方で、トヨタグループの歴史は失敗の連続だと話す牧野氏。「子どもたちの中には失敗してはいけないと思い込んでいる子も多いですが、何事もうまくいくとは限らない。うまくいかなかった時に簡単に諦めてしまうと、何も完成しませんが、そこでちょっと工夫をして乗り越えていく。そんな姿勢を感じ取ってほしいですね」と語った。

発売当初のG1型トラックで相次いだ故障に、喜一郎氏らが現場で対応する様子を表したレリーフ。800を超える改良を重ねて品質を安定させた経験は、今日まで続く「お客様第一」の原点となった

 ワークショップの子どもたちも、まさにその過程の中にいた。うまくいかなければ結果を記録し、原因を考えて、また走らせる。それは、トヨタが重ねてきたモノづくりの姿勢そのものだ。ただ、牧野氏は、それはトヨタだけの特別な力ではなく、「人間が元々持っている能力」だという。「それをちょっと引き上げるために取り組みを続けることが、我々の使命だと考えています」と語った。

 なぜなにレクチャーや記念館のワークショップは、トヨタのモノづくりに対する考え方に親子で一緒に触れられる貴重な機会だ。週末に親子で足を運び、館内の本物の機械とあわせて体感してみてはいかがだろうか。

Photo:阪口貴紀