オート上海2017

【オート上海2017】トヨタ、“中国製EV”を中国市場で発売すると示唆

「中国政府の新たな規制で販売方針や生産の転換点が訪れている」

2017年4月19日~28日(現地時間)開催

オート上海2017で行なわれた記者会見に登壇したトヨタ自動車の役員

「TNGA(Toyota New Global Architecture)」を中国でも展開するとオート上海2017の前夜祭で発表したトヨタ自動車。また、パワートレーンについてもこれまでのハイブリッドだけでなく、プラグインハイブリッドやピュアEVについて導入を予定しているという。

 この理由として挙げられるのは、中国政府が2017年から試行し、2018年には実施される「NEV(New Energy Vehicle:新エネ)」や、2020年に5L/100km(20km/L)を達成しなければならない「CAFE(Corporation Average Fuel Economy:企業平均燃費)」規制が複雑に絡み合っていることにある。

 本稿では、オート上海2017初日のプレスデーに実施されたメディア向けグループインタビューで、トヨタの関連役員から語られた中国市場の展望や予測などを記していく。

 まず、中国全体の車両販売台数は2016年に2800万台まで伸び、世界的に見ても圧倒的な販売数を誇っている。リーマンショックのあった2008年を除いて、2000年代に入ってから毎年10%を超える成長を続けてきた。だが、2010年代からは10%を下まわる成長が続き、2016年こそ補助金の影響もあって対前年比13.7%増となったが、鈍化してきたことは否めない。それでも2000年当時の年間200万台規模から14倍にも市場は膨らんでいる。

トヨタ自動車株式会社 中国事務所総代表 大西弘致氏

 現状の中国市場について、トヨタ自動車の専務執行役員で中国事務所総代表の大西弘致氏は「先日、1~3月期のGDPが発表されましたが、予想よりも上向いていて市場予想よりも改善していました。中国にいる日本人のあいだで聞いても、足もとの景気は上向きつつあるようだという判断です。今年に入って1.6リッター以下の車両に取り入れられていた減税幅が半分になり、小型車への影響はあります。ただ、小型のSUVは依然として堅調で、民族系ではふた桁の伸びを見せています。減税幅の縮小により影響を受けているところもありますが、SUVの伸びを含めて購買単価は上がっています。全体的に見れば中国市場は引き続き堅調と考えています。それでも、昨年までのようにふた桁成長を続けるとは思っていません。我々は販売活動の活性化やディーラーへの支援を行なっていきます。また、トヨタ以外のメーカーでは在庫が増えているので、乱売が懸念されるところです」と分析。

 常に成長を続けている中国の自動車市場だが、2017年は減税幅の縮小などもあり、成長率が鈍化すると予想される。しかし、GDPを見ても変わらず堅調な状態は続いていくとのことだ。

トヨタはオート上海2017の前夜祭で中国市場にTNGAを導入すると発表。ショーの会場ではセダンタイプの「丰巢 FUN」(上)、SUVタイプの「丰巢 WAY」(下)という2台のコンセプトカーをワールドプレミア

 政府の補助金の面でいうと、EVやPHVといった「新エネルギー車両」に多くの資金がさかれていて、ナンバー取得の規制がある上海や北京などでもこれらの新エネルギー車両は取得規制の対象になっていない。そのため、多くのメーカーがEVの市販化を実施している。トヨタは中国市場での市販化を行なっていないが、そう遠くない時期に導入することになるという。

「グループ内で言えば、ダイハツは2000年以前からEVの開発を積極的に行なってきていますし、トヨタでは2000年以降には小さいシティコミューターを作ってきました。これまではインフラや電池性能、コストが大きな課題でした。ですが、世界的な状況や各社、中国政府の動向、電子製品の成長などの目処もついてきたので、現実的な対応を急いでいるところです。昨年、豊田章男社長の直轄でEVのチームを起しました。これまでのハイブリッドなどの制御技術や電池の知見も持っています。そのため、他社に比べてEVが遅れているとも思っていません。中国政府からEVへの補助金が出ている残存期間内に出せればよいと思っています。加えて、中国でのEV販売は最有力ですが、グローバルにも展開していきます」。

 ハイブリッドやPHV、FCVについては積極的に展開してきたトヨタだったが、これまでEVについては市販化を行なってなかった。だが、中国政府の方針や国民の関心なども鑑みて、EVを導入するべきと判断しているようだ。

トヨタ自動車株式会社 専務執行役員 先進技術開発カンパニー President 伊勢清貴氏
トヨタ自動車(中国)投資有限会社 社長 小林一弘氏

 中国でのEVの市販化と生産についても語られ「EVの国産化については、すでに主要部品は政府の認可が必要となっています。バッテリーを生産する電池会社としても参入規制が設けられている状況です。今後は、EVに関わる部品が国産化されていないと国産のクルマとは認められなくなるはず。そのため、EVを中国国内で生産することは考えています」と、EVの生産については主要部品を含めて中国国内で生産されていなければ国産車と認められなくなると予想されるので、バッテリーの調達を含めて中国国内で実施することも想定しているようだ。

 また、中国政府が導入する自動車メーカーへのNEVとCAFEの規制については「非常に複雑で難しく、昔のアメリカのようになっています。CAFEの総量規制であればコントロールしやすいのですが、NEVのように販売比率も同時に達成しなければならないのです。NEVについては、販売を達成したメーカーはクレジットを稼ぐことができ、それを他社に販売することも可能です。CAFEの燃費規制をクリアするためにハイブリッド車の販売を伸ばす必要はありますが、販売台数が伸びればNEVの台数も売る必要が出てきます。色々な方法があり、試算やシミュレーションを常に行なっている状況です」と述べた。

すでに中国市場に導入されている「レビン ハイブリッド」(上)と「カムリ ハイブリッド」(下)。2020年の燃費規制を達成するにはハイブリッドカーの販売比率を高める必要があるという

 このようにNEV規制は、中国国内での総販売台数の中で一定の割合で新エネルギー車両を販売しなければペナルティとして課税される。ただ、燃費規制をクリアするためにはハイブリッカーも販売する必要があり、トヨタとしては販売比率の試算やシミュレーションを繰り返しながら、両方の規制が達成できるポイントを探っているという。まだ両規制ともに全貌が見えていないこともあり、試行錯誤しながら販売台数やハイブリッドとコンベンショナルなモデル、新エネルギー車両の販売比率を模索していくことになる。

 年間の販売台数が2800万台まで増え、今後も3500万台規模までは増えていくと予想される中国市場。そのなかに新しい環境対策の規制が加わることで、自動車メーカーは販売方針を再検討する時期が来ているようだ。

燃費規制の一方で、NEV規制では新エネルギー車両の販売台数についても目標値が設定される。まだ中国市場に導入されてはいないが、FCVの「ミライ」(左)やプラグインハイブリッドカー「プリウス PHV」(右)のようなモデルの発売が急務となっている。中国市場向けの「カローラ」や「レビン」のプラグインハイブリッドカーは2018年に販売開始される予定

真鍋裕行

1980年生まれ。大学在学中から自動車雑誌の編集に携わり、その後チューニングやカスタマイズ誌の編集者になる。2008年にフリーランスのライター・エディターとして独立。現在は、編集者時代に培ったアフターマーケットの情報から各国のモーターショーで得た最新事情まで、幅広くリポートしている。また、雑誌、Webサイトのプロデュースにも力を入れていて、誌面を通してクルマの「走る」「触れる」「イジる」楽しさをユーザーの側面から分かりやすく提供中。AJAJ・日本自動車ジャーナリスト協会会員。