スズキ「アルト ラパン」チーフエンジニアに聞く開発コンセプト
“乗っていて楽しい”ラパンらしさを残しつつ実用性を向上

アルト ラパン(X、エアブルーメタリック、ホワイト2トーンルーフ)



  四角くてお洒落な軽セダン「アルト ラパン」が11月26日にフルモデルチェンジされた。今回、新型ラパンの開発に携わった、スズキの第八カーラインチーフデザイナーの結城康和氏と、四輪電装設計部の植村宏氏から開発コンセプトなどをおうかがいした。

前モデルのデザインを踏襲しつつも、実用性を磨き上げた新型ラパン

(右から)スズキ株式会社第八カーラインチーフデザイナーの結城康和氏、四輪電装設計部の植村宏氏
  新型ラパンの開発の経緯について、結城氏は「初めてのフルモデルチェンジなので、前モデルの特徴を残すべきか、変えるべきかの議論から始まりました」とのこと。前モデルにそっくりなデザインから、ラパンとは似ても似つかないデザインまで、10種類以上のデザインモデルを作成し、何回も変更を加えたと言う。検討を重ねた結果、あえて前モデルに似せるデザインを採用することが決定したものの、前モデルは初代「MRワゴン」のプラットフォームをベースとしており、新型ラパンが採用している新型「ワゴンR」のプラットフォームとは2世代も違うことから、車体設計で相当な苦労があったと語った。

  特に苦労した点が、衝突安全基準が前モデルを開発した時期よりもさらに厳格化されたことにより、四角いスタイル、前モデルとほぼ同様のフロントガラスの傾斜角、フロントワイパー下部のカウルガーニッシュへの鉄板の採用、といったラパンらしい特徴の再現が難しくなってしまったとのこと。しかし結城氏によれば、「これらはラパンらしい点なので、どうしても残したかった。特にカウルガーニッシュは、樹脂製にしてしまうとガラスの縦横比が狂い、ラパンのかわいさが失われてしまう」と言うこだわりを持って設計と改良を行い続け、現在の形が実現できたと言う。

  前モデルにあえて似せるというコンセプトではあるものの、「ラパンは、デザイン車に見えて意外と実用的な点が支持されてきたので、ここを崩さないよう車の基礎部分を細かく設定して、しゃきっと走って快適な車に仕上げました」という開発コンセプトを持っていた。このため、ラパンの全高の低さと重量の軽さが素直に感じられるサスペンションのセッティングや、低回転からでも過給が始まり出足のよい感触を出したターボチャージャーのセッティング、前モデルよりもコシがあるようチューニングしたシートの採用、フロントガラスを約10cm前進させるなどの室内空間を拡大、ヒップポイントの調整、インパネのサイズ拡大とデザインの見直し、インテリアのカラーやデザインの向上、などの細かい改良を加え、実用性と質感を上げた。

  新型ラパンの特徴である、内外装に多数のラパンマークが隠されている点については、「ラパンのユーザーにはラパンに強く愛着を持っている人が多く、愛着を持ち続けてもらえる仕掛けとして考えたもの」で、「使っているうちにはっと今まで気が付かなかったラパンマークがあったことに気が付いて、愛着を持ち直してもらえるようわざと気が付きにくいよう細かく多数配置しました」とのこと。また、デザイン車は懲りすぎると鼻に付く印象を持たれてしまうという側面があるほか、キャラクターを前面に出したデザインを嫌う人もいることからも、気にならないように配置したともしている。

ラパンのリアビュー(X、エアブルーメタリック、ホワイト2トーンルーフ)ターボエンジンを搭載した「T」にディスチャージヘッドランプやオートライト、イルミネーションスピーカーなどを追加した「T Lパッケージ」(アロマティックアクアメタリック)カウルガーニッシュを設けて横長なフロントガラスの比率を保つことで、かわいらしい外観と、映画のスクリーンや絵を見ているように景色を楽しめる、というラパンらしさが残せたとのこと
インテリアカラーやデザインも、ブラックインテリアの場合ではただ黒いインテリアとするのではなく、シートの模様や背面との色の違いも細かく検討して調整したと言う室内空間を広く見せる工夫に、インパネの横幅の拡大がある。横幅を拡げるために、フロントドアの内張をインパネ部分のみくぼませて寸法をかせいだとのことリアコンビネーションに設けられたラパンマーク。ブレーキを踏んだときに浮かび上がる演出も、ふとした時にさりげなく気が付くようにとの考えから付けたれた

女性社員のワーキンググループのアイデアから、ラパン独特の装備が生まれる

  新型ラパンの開発にあたって、スズキ社内のデザイン部門以外の女性社員らによるワーキンググループが新たに編成され、主に初めて車を買う女性の目線から、見た目や使い勝手の検討も行ったと言う。また、ラパンのユーザーには初心者が多いとのことから、「“かわいいけれど乗ってみたら意外と運転がしやすいね”と、だんだん好きになってくれればいいと思います」と、女性目線で運転のしやすさや取り扱いのよさを検討し、改良を加えたことをアピールしていた。

  ラパンマークとあわせて新型ラパンの特徴であるマルチインフォメーションディスプレイのアニメ表示やフォトフレーム、ラパングッズの展開も、女性社員のワーキンググループからのアイデアがきっかけで採用されたと言う。マルチインフォメーションディスプレイは、元来メーターパネルの表示マークの意味や車の操作方法がよく分からないといった意見から、ガイド表示をさせる目的で設置を決定した。しかし、「ガイドだけでは堅いので、ラパンの楽しい部分を付加したいと思ってアニメを追加しました」とのこと。このほか、フォトフレームは「装備であるけど、機能的でなくて楽しいもの」として、ラパングッズは「ファッションとリンクして、車のある生活を楽しくするもの」として採用したとのことで、「洋服や家具を買うような感覚の延長線上にラパンがあるようにして、楽しめる車にしたい」といったコンセプトに基づいた採用であることを語った。

マルチインフォメーションディスプレイのアニメ表示。時刻や季節、記念日など19種類用意されている。当初は、元旦やこどもの日といった国民の祝日のほか、「8月27日は“男はつらいよの日”」のような記念日までもを毎日表示することも検討したが、365日分のデータを保存するメモリーを確保できなかったため断念したというフロントドアに設けられたフォトフレームは、開発時には必要性や安全性などの面から賛否が分かれたたとのこと。スズキのラパンのスペシャルWebサイトではフォトフレーム用の台紙を配信しており、プリントアウトして利用できる。また、結城氏によれば今後継続して毎月更新することも検討していると言うラパングッズのうちの携帯リモコンカバーとキーケース。インターネットの掲示板や、SNS(ソーシャルネットワークサービス)のコミュニティなどで、キーホルダーやアクセサリーといったグッズを自作し、公開して自慢している人も多い模様で、こういったのユーザーの楽しみ方が今回のラパングッズ開発のヒントにもなったと言う

女性でも男性でも楽しめる「バリアフリー」な新型ラパン

フロントグリルをヘッドランプを跨いだ一体型のデザインとしている点も、カスタマイズが行いやすい部品構成のひとつだという
  女性社員のワーキンググループが開発に加わり、女性向けをアピールしたラパンではあるものの、結城氏によれば「海外でMINIやフィアット500に乗っているおじさんが普通にいるように、おじさんがラパンに普通に乗っているのもいいのでは」と言う考え方に基づいて、男性が乗っても自然な、中性的なデザインを全体的に施すことを心がけたと言う。また、男性のラパンユーザーは、ホイールの塗装やステッカーの貼り付け、微量のローダウンといった、細かいカスタマイズを好む傾向があるとのことで、新型ラパンではカスタマイズも楽しんでもらえるようにと、カスタマイズが行いやすい部品構成を採用していると言う。

  結城氏は、これらの開発課程を説明した上で「女性の使いやすさを拡げたことで、元々車が持っている男性の使いやすさと合わせて、バリアフリーな車になっています」と、誰でも運転がしやすい車に仕上がっていることを強調。「今の時代は十分なパッケージングと機能があれば満足という意見が多く、そこにいいデザインをたくさん詰め込んで、満足感のある車にしました。“好きだからラパンに乗っているいる”という姿が自分からも端からも見えるように、楽しんで乗ったもらいたいです」とラパンの楽しみ方をユーザーにアピールした。

URL
スズキ株式会社
http://www.suzuki.co.jp/
製品情報
http://www.suzuki.co.jp/car/lapin/
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(編集部:大久保有規彦)
2008年12月15日