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京都発のスポーツEV「トミーカイラZZ」の開発者に聞く

ソフトバンク「+Style」で販売するガッチャマンの実車「GALAX-ZZ」とは?

TVアニメ「GATCHAMAN CROWDS insight」に登場する爾乃美家累の愛車を実車化した「ガッチャマン クラウズ インサイト GALAX-ZZ 実車版」。ソフトバンクが運営する「+Style」で購入することができる。ボディサイズは3865mm×1735mm×1140mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2370mm。ボディは専用のバスタブ設計を施したシャシーにサブフレームをセット

 1997年に数量限定で発売した伝説的なスポーツカー「トミーカイラZZ」をスポーツEVとして復活させ、量産化を開始したGLM。2016年3月には、京都府舞鶴市の小阪金属工業とのアライアンスにより、トミーカイラZZの量産化をスタートさせたことは既報済みなので、ご存じの方もいるはずだ。

 また、昨年の2015年には人気アニメの「科学忍者隊ガッチャマン」を原作としたTVアニメ「GATCHAMAN CROWDS insight」の登場人物となる爾乃美家累の愛車「GALAX ZZ」の実車としてトミーカイラZZをベースにしたモデルが発表されるなど、高い注目度と厚い支持を受けている。

 GLMは、そもそも京都大学内の初のベンチャー企業として認定された法人で、2010年から事業活動を行なっている。EV(電気自動車)のプロジェクトとして研究がスタートしたのは2006年のことで、目的は、産官学の連携でEVを開発し生産することだった。

 今回、GAZAX ZZの実車モデルがソフトバンクが立ち上げた「+Sytle」のWebサイトにおける販売開始にあわせて、あらためて自動車メーカーとなったGLM 代表取締役社長 小間裕康氏、GLM 技術本部長の藤墳裕次氏、スポーツEVを取り扱うことになったソフトバンク サービスプラットフォーム戦略・開発本部 担当部長の近藤正充氏に話を聞く機会を得たので紹介したい。

バッテリーとモーターはリアミッドに配置され、リアタイヤを駆動させる。モーターの最高出力は305PS、最大トルクは415Nm。0-100km/hをわずか3.9秒で駆け抜ける
室内は2脚のバケットシートに最小限の装備とシンプル。ドライビングプレジャーに必要なもの以外は取り付けていない。エアコンやパワステもないというスパルタンな仕様
ベンチャー企業としての立ち上げからマネージメントまでGLMを引っ張ってきた小間裕康代表取締役社長

 まず、GLMの小間氏は、プロジェクトの立ち上げ当初を振り返り「もともと京都には自動車メーカーへ部品を供給しているサプライヤーが多く、その技術を集めると電気自動車ができあがると言われていました。京都大学で2006年に電気自動車の開発プロジェクトが立ち上がって産官学の連携で自動車の開発がスタートしました。京都大学内にはベンチャービジネスラボラトリーという施設があって、GLMが特殊法人になったときに京都大学で初のベンチャー企業として認定してもらい、大学内にオフィスを構えました。プロジェクトがスタートした切っ掛けは、多くのサプライヤーを抱えていた地域ということに加えて、家電メーカーが水平分業化によってベンチャー企業が商品を出す時代になっていました。同じことが自動車産業でも起こりえると思い、ベンチャー企業がパートナーシップをもってクルマ作りができるのではという思いでした」というように、家電メーカーの生産体制が変革したことに目をつけ、自動車産業にも水平分業化の波が来るということで立ち上がったようだ。

 ただ、プロジェクトが簡単に軌道に乗ったわけではない。当時のことをトミーカイラZZの開発を担当した藤墳氏は話した。

トミーカイラZZの開発を担当したGLMの藤墳裕次技術本部長

 藤墳氏は「今でも思い出したくないのですが、資金調達が非常に大変でした。社長を中心にして動いてもらったのですが、実績がないメーカーに投資するところもなく困難な時期がありました。また、部品を探すことも問題でした。作りたいクルマは決まっていたのですが、取引先が相手にしてくれないことも多く、とにかく色々な会社をまわりました。一品物のクルマならば調達先は見つかるかもしれませんが、我々は量産を目的としていたので、その面で部品調達のハードルは高かったです」と、資金面でも部品調達でも困難な時期があったというが、EVでスポーツカーを作るという信念とビジョンは常に持っていたという。

 藤墳氏は「トミーカイラZZは、純粋に運転が楽しいクルマを目指しました。なので、ドライバーの操作通りに動くダイレクト感を重視しています。ブレーキやアクセル、ステアリングはダイレクトで、電子デバイスや制御はいっさい入れていません。開発のときもCADやシミュレーションは使いましたが、あくまでも計算値ではなく走ってみてドライバーがどのように感じるかで調整しました」というように、トミーカイラZZの開発は数値ではなく、ドライバーのフィーリングやダイレクト感を重視して行なわれた。

 さらにトミーカイラZZの特徴について藤墳氏は「トミーカイラZZはスポーツカーなので、重量バランスを意識しています。軽量で低重心、前後の重量配分など市販のスーパースポーツもに負けない仕上がりになっています。重心位置やヒップポイントなどの数値を出すことも可能ですが、やはり乗ってみて感じてほしいのです。それとスポーツカーとして重要な動力性能ですが、モーターの出力を調整することなく出だしから100%のトルクを出しています。アクセルを踏む右足と駆動輪となるリアタイヤの一体感はかなり高いと思います」とのことで、トミーカイラZZは素性を限りなく磨き上げているようだ。

 こうしてスポーツEVとして復活したトミーカイラZZは、現在ソフトバンクが運営するWebサイト「+Style」において、TVアニメ「科学忍者隊ガッチャマン」を原作としたTVアニメ「GATCHAMAN CROWDS insight」に登場する爾乃美家累の愛車「GALAX ZZ」を実車化させた「ガッチャマン クラウズ インサイト GALAX-ZZ 実車版」として販売されている。価格は1200万円で、購入には予約金30万円が必要となる。

 +Styleは、ソフトバンクが新しい形のものづくりを支援するプラットフォームとして3月末よりスタートさせたWebサイト。今回、GALAX ZZは一般販売前の商品や数量限定品を販売する「ショッピング」の枠で取り扱われているが、+Styleでは企業が製品のアイデアなどを投稿して、興味を持ったユーザーから意見を募集することができる「プランニング」。「プランニング」でユーザーとともに練り上げた商品企画や試作中の製品などを、インターネット経由で多くのユーザーから事前に商品購入を募って商品化することができる「クラウドファンディング」といった機能も持つ。

 なぜ、スポーツEVをソフトバンクの販売サイトで取り扱うことになったのか、続いてソフトバンクの近藤氏に聞いた。

ソフトバンク株式会社でサービスプラットフォーム戦略・開発本部の担当部長を務める近藤正充氏

 近藤氏は「まずはGLMの戦略や活動に興味があり、以前から支援や協力ができないかと探っていました。プラットフォームや動力源を作り、エクステリアは多様性があるというトミーカイラZZの面白さに共感しています。また、近年のクルマは通信が入ってきていて成長するデバイスだと考えています。クルマがIoTになるのも時間の問題なので、会社の理解は早かったです」と、まずは会社の方向性や将来性に共感して、支援の意味も含めて販売することになったのだ。

 また、将来的なプランなどについて、近藤氏は「自動車産業は大きなメーカーが何年も掛けて開発や生産をするのではなく、もっとライトに作れるときが来るはずです。GLMが持っているパッケージに我々のアセット(資産)をどう活用できるかも検討しています。例えば、メールや課金サービスなどです。今後、クルマ側に必要になれば提供していきます」と、車両の販売だけでなく自動車の通信についても提供していく考えもあるようだ。

 国内初のスポーツEVを量産するメーカーとなったGLM。EVならではのトルクフルな感覚とハンドリングを最重視したセッティングは多くのユーザーの興味を集めていて、すでにかなりの注文が入り、生産も進んでいるそうだ。これまでの自動車メーカーの枠組みを超えたGLMの動向から今後も目が離せない。