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ヤマハ、“150もの課題”を克服し、万全の体制で優勝を誓った鈴鹿8耐決起集会

事前テストではラップタイム、燃費、信頼性のすべてで開発目標を上回る

2016年7月26日 開催

鈴鹿8耐に挑むヤマハのチームメンバー

 ヤマハ発動機は7月26日、開幕を目前に控えた「2016 FIM世界耐久選手権シリーズ第3戦“コカ・コーラ ゼロ”鈴鹿8時間耐久ロードレース 第39回大会」(鈴鹿8耐)に参戦するライダーらを招いてのメディアカンファレンスを開催した。前年の優勝チームであるYAMAHA FACTORY RACING TEAMの中須賀選手をはじめ、2チーム6名のライダーが抱負を述べ、2連覇に向けて気持ちを新たにした。

 鈴鹿8耐は三重県の鈴鹿サーキットで7月28日に開幕(フリー走行)し、29日に公式予選、30日にトップ10トライアル(公式予選の結果で選出された上位10台だけが出場できる、1発アタック方式の最終予選)、31日に8時間の決勝レースが行なわれる。4日間通しの前売観戦券は大人5700円から。指定席券は一部が完売している。

2015年よりも、性能、燃費、信頼性を大きく向上

 2016年の鈴鹿8耐に、ヤマハは2チーム体制で挑む。YAMAHA FACTORY RACING TEAMは全日本ロードレース 選手権JSB1000で今季連勝を続ける中須賀克行選手、第9戦終了時点でMotoGPのポイントランキング6番手につけるポル・エスパルガロ選手、スーパーバイク世界選手権に参戦中のアレックス・ローズ選手の3人を擁する布陣だ。

YAMAHA FACTORY RACING TEAMのメンバー。左からポル・エスパルガロ選手、中須賀克行選手、アレックス・ローズ選手、吉川和多留監督

 もう1つのYART Yamaha Official EWC Teamは、世界耐久選手権でランキング2位(第2戦終了時点)のブロック・パークス選手、JSB1000でランキング4位(第5戦終了時点)の野佐根航汰選手、同15位の藤田拓哉選手の3名。いずれのチームも2016年型の最新「YZF-R1」をベースにした耐久仕様マシンで戦う。

YART Yamaha Official EWC Teamのメンバー。左から野佐根航汰選手、ブロック・パークス選手、藤田拓哉選手、マンディ・カインツ監督

 YAMAHA FACTORY RACING TEAMは、2015年の鈴鹿8耐でファクトリー体制としては19年ぶりに優勝を果たしたが、同社技術本部の辻幸一氏によると、レース後に挙げられた課題は150以上。そのうち半数程度がテクニカル面での問題だったとし、その改善とよい部分を伸ばすための作業に時間を費やしたと語った。

ヤマハ発動機株式会社 技術本部の河野俊哉氏。ファクトリー体制でのレース参戦は、ヤマハにおけるブランドイメージの高揚、技術の進化、レースの普及の3つを目的にしていると話す
ヤマハ発動機株式会社 技術本部の辻幸一氏。2015年は優勝したものの、150もの改善すべき点が見つかったという

 性能については、2015年の予選でエスパルガロ選手が記録した2分06秒フラットというラップタイムで証明できたものの、燃費については準備が不十分だったために不安を抱えながらの見切り発車であったこと、信頼性については新型車両ゆえに未知数な部分が多かったと打ち明けた。そのため、鈴鹿8耐に向けたマシン開発における重要なポイントは、性能、燃費、信頼性の3つすべてで、「安定したラップタイムをいかに8時間維持できるか」(辻氏)に焦点を当てた。

 具体的な改善内容としては、ライダーが運転しやすく、馬力もあるエンジンとし、トラクションコントロールを中心に電子制御の調整を行なったとのこと。また、「フリクションを低減することを念頭に置いたエンジン開発」(辻氏)によって燃費と性能の向上を図ったという。さらに、制御系においては緻密な燃料コントロールを行なうとともに、給油時にレギュレーションで定められた24Lちょうどを素早く、正確に入れられるようにする工夫も取り入れた。これらによって、燃費は昨年比で10%以上低減することに成功したという。

耐久レース仕様の2016年型YZF-R1

 最後の信頼性を高める取り組みとしては、鈴鹿8耐の決勝で走ることになるおよそ1600kmの連続走行を想定し、昨年から毎日のようにベンチ上でテスト走行を繰り返して不安を払拭したとしている。給油やタイヤ交換時のピットワークも短縮して他チームと遜色ないレベルに引き上げたとし、辻氏は「事前テストではラップタイム、燃費、信頼性のすべてにおいて開発目標を上回った」と胸を張った。

 事実、スプリントレース仕様ながらJSB1000の2015年最終戦鈴鹿サーキットで、中須賀選手は予選において2分5秒台前半を叩き出している。鈴鹿8耐で使うマシンは耐久レース仕様であることや、コンディションの差もあり、その結果が鈴鹿8耐でも通用するとは言い切れないが、2016年もヤマハチームが台風の目となることは間違いなさそうだ。

「タイムを狙わずにバランスを取って走って」

YAMAHA FACTORY RACING TEAMのメンバーによるトークセッションが行なわれた

 イベントでは、YAMAHA FACTORY RACING TEAMのライダー3人と監督によるトークセッションも行なわれた。それぞれのライダーのコメントは以下の通り。

中須賀克行選手

 2年目のマシンで熟成されていて、8耐に向けては死角なしという手応え。耐久レースではチームワーク、スタッフとの信頼関係が非常に重要になる。互いに信頼していないとミスにつながってしまうし、互いに認め合ってこそ8時間を走り通せる。今年は2連覇がかかっていてプレッシャーを感じているのは事実だが、チームスタッフ、ライダーも、そのプレッシャーに負けないで(メンタル面も含めて)どれだけ準備できるかがキーポイントになるのではないか。

ポル・エスパルガロ選手

 8耐後にMotoGPのパドックに行ったら、ヨーロッパ人のみんなが祝福してくれた。8耐はみんなが楽しみにしているレースでもあるし、自分のキャリアに大きな変化が訪れたと思う。多くのヨーロッパ人ライダーがいるが、自分にとって特別なカルロス・チェカが祝ってくれたのが感動的だった。

 日本にくる前はコンディション面が難しく、ライダーのレベルも高いから、8耐はとてもハードなレースになると思っていた。YZF-R1に乗ったことがなかったにもかかわらず、ラッキーなことに自分がMotoGPで乗っているYZR-M1にとてもよく似ているバイクだったからチームの力になれた。勝つのは簡単ではないけれど、(今年も)優勝で終わりたい。

(昨年の予選タイム2分6秒フラットの更新を狙っていくか、と聞かれ)中須賀サンが僕に勝つかもしれないよ(笑)。分からないけど、去年のようなタイムを出すのはかなり難しいだろう。中須賀さんやチームメイトがもっといいタイムを出せるかもしれないし、自分でタイムを更新しようと思ったら自分自身もっと進化していかなくちゃならない。けれど、最終的にはチームワーク。チームメイトのどちらかがポールポジションを取ってくれれば僕はうれしい。

アレックス・ローズ選手

(チームから誘いがあり)とてもうれしかった。昨年の初めてとなる鈴鹿8耐は(別のチームで)本当に楽しく走ることができた。乗り替えての今年は、優勝チームであるYAMAHA FACTORY RACING TEAMに加わることができてとてもエキサイティング。可能な限り昨年と同じようにベストを尽くしたい。

 昨年のレースでは、今回のチームメイトと戦う立場だったから困難も多かった。でも、レース自体のことや天候のことなど、いろいろ学ぶことができた。今年は準備もできているから、もっといい仕事ができると思う。

YAMAHA FACTORY RACING TEAM 吉川和多留監督

 8耐はいろんな要素がある。予選で何秒いく(全開で走る)、という(今のライダーたちの)話は、走らせる側としてはドキドキして聞いている。そこまでいかないで(速く走らせなくて)いいんで、安パイなところで(会場笑)。チームメイトが(トップタイムを出すだろう)という話もしていたが、本当に、本番はそういう風にして(そういう気持ちでいて)ほしいなと。自分もライダーだったので、(できるだけ速く走らせたいという)気持ちもよく分かるし、行ってほしい気持ちもあるが、走らせる側になると“みんなバランスをとってね”と言いたくなる。

ブロック・パークス選手「4回目の鈴鹿を走ることができてうれしい。若くて速い2人の日本人ライダーと一緒に走るのは初めて。3人で優勝を目指したい」
野佐根航汰選手「鈴鹿8耐は自分自身初めてのレースなので、日曜日の19時半にはみんなで笑顔で終わりたいと思う」
藤田拓哉選手「鈴鹿8耐の参戦は3度目になるが、すごく楽しみ。外国人のライダーと組むのも初めてなので、コミュニケーションもうまく撮りながら笑ってチェッカーを受けたい」
マンディ・カインツ監督「今回の8耐、ファクトリー体制で参戦できることに誇りに思っている。この3人の若いライダーでいい結果につなげることができると信じている」