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【鈴鹿8耐】大波乱のレースを制したのは「YAMAHA FACTORY RACING TEAM」

日本のトップライダーが“世界組”と互角に渡り合う

2015年7月26日開催

見事優勝を飾ったYAMAHA FACTORY

 7月26日、鈴鹿サーキットで「2015 FIM世界耐久選手権シリーズ第2戦“コカ・コーラ ゼロ”鈴鹿8時間耐久ロードレース 第38回大会」(鈴鹿8耐)の決勝レースが行われた。元MotoGPチャンピオンのケーシー・ストーナー選手とともに3連覇を狙うMuSASHi RT HARC-PRO.(以下、MuSASHi)、全体予選で一番時計を記録した渡辺一樹選手所属のTeamGREEN、そしてなんといっても前日のトップ10トライアルで2分6秒フラットの驚異的な速さを見せつけたYAMAHA FACTORY RACING TEAM(以下、YAHAMA FACTORY)などトップチームをはじめ、全70台が灼熱の舞台で文字通り熱い戦いを繰り広げた。

 ここでは、その決勝レースの模様をダイジェストで振り返りたい。

一時台風の接近が心配されたものの、決勝レースは晴れ、気温は35度を超えた
YAMAHA FACTORY RACING TEAM
TeamGREEN
YOSHIMURA SUZUKI Shell ADVANCE
Team KAGAYAMA
“スターティングフラッグマン”を務めたキアヌ・リーブス氏

レーススタート~2時間

 ルマン式のスタート方法を採用する鈴鹿8耐。グランドスタンド側で待機する70人の第1ライダーらがキアヌ・リーブス氏の合図で向かい側のマシンに駆け寄り、エンジンをかけてスタートする。ここでいきなりアクシデントに見舞われたのが、なんとポールポジションYAMAHA FACTORYの中須賀克行選手。エンジンをかけるのにわずか数秒ではあるが手間取り、眼前を他のマシンが次々に通り過ぎる。やっとスタートできた時は、すでに十数台に抜かれた後だった。

スタートを待つ第1ライダーら
レーススタート
エンジンスタートに手間取るYAMAHA FACTORYの中須賀選手
やっとスタートした時は、十数台に抜かれた後だった
鈴鹿8時間耐久レース決勝、スタートして1コーナーに向かう70台

 最初の1コーナーで、ホールショットを決めたのは、5番グリッドのTeam KAGAYAMA 清成龍一選手。すぐに3番グリッドからスタートしたMuSASHiの高橋巧選手が抜き返すものの、YOSHIMURA SUZUKI Shell ADVANCE(以下、YOSHIMURA)のアレックス・ロウズ選手も先頭争いに加わり、激しいつばぜり合いを繰り広げる

激しい争いを繰り広げる先頭集団

 中須賀選手はオープニングラップで20番手あたりまで落ち込むが、他のチームが2分9~10秒台のペースで周回を始めた中、1人だけ2分8秒台という異常なペースで追い上げ、5ラップ目には5位に復帰。さらにじりじりとポジションを上げ、各チーム最初のピットストップ・ライダー交代を迎える頃には3位にランクアップしていた。

一時は大幅に順位を落としていたYAMAHA FACTORYだったが、あっという間に先頭集団に追いつく
TeamGREENとTeam KAGAYAMAも追いすがる
トップを走るYOSHIMURA
2番手にMuSASHi
先頭集団に追いついた後は様子見するかのように抑えて走っているように見えたYAMAHA FACTORY
F.C.C. TSR Hondaも好順位につける

 24ラップ目でYOSHIMURAとMuSASHiはそろってライダー交代&給油のためピットイン。ところが、YAMAHA FACTORYは脇目もふらず周回し続け、結局ピットインしたのは28ラップ目。第2ライダーのブラッドリー・スミス選手に交代した。YAMAHA FACTORYは他車より抜群に速いだけでなく、燃費性能が高いことも証明した形になり、観客席からは感嘆の声が漏れた。

ストーナー選手のクラッシュによりセーフティーカーが投入

 MuSASHiの第2ライダーは注目のケーシー・ストーナー選手で、交代のタイミングでYOSHIMURAをかわしトップに躍り出る。安定したライディングで周回を重ねているように見えたが、32ラップ目に突然のアクシデントが起こった。ヘアピン手前の110Rでほとんど減速することなくコースサイドの芝生に突っ込み激しく転倒、体が大きく宙を舞う。観客席からは大きな悲鳴が上がった。

 マシンはヘアピンコーナーの真ん中まで飛ばされ、セーフティーカーが入ることに。その後の情報では、ストーナー選手いわく「アクセルが戻らなかった」とのことで、マシントラブルがあったことをにおわせたが、やはりレースへの復帰はかなわず、3連覇を目指していたMuSASHiはここで2015年の鈴鹿8耐を終えることになった。

ついに先頭に立ったYAMAHA FACTORY

 セーフティーカーが入った後、レースは再スタート。F.C.C. TSR Honda(以下、F.C.C.)のジョジュ・フック選手が先頭、それにYAMAHA FACTORYのスミス選手が続く。しかし、フック選手がシケインで犯したミスを見逃さず、41ラップ目、YAMAHA FACTORYがついに先頭に立つ。

レース開始2時間~6時間

 その後上位の入れ替わりがあり、2時間経過時点で1位F.C.C.、2位YOSHIMURA、3位YAMAHA FACTORY。各チーム2回目のピットインを迎え、F.C.C.は現役Moto2ライダーのドミニク・エガーター選手に、YOSHIMURAは再び第1ライダーのロウズ選手にバトンタッチする。スミス選手は中須賀選手の時と同様にロングランを続け、2時間20分を経過したあたりで今大会トップタイムを記録したポル・エスパルガロ選手に交代した。

ピットインするライダー

 ピット作業を終え、YAMAHA FACTORYがトップをキープしたままコースイン。タイヤ交換直後だったため、すでにウォームアップが済んでいたYOSHIMURAに一時トップを譲るものの、タイヤが温まったところでエスパルガロ選手がすかさず抜き返す。他のトップチームが2分10~11秒前後で周回を重ねる中、エスパルガロ選手は2分9秒台というハイペースを安定して維持し続け2位を引き離していく。

酷暑の中、レースはまだまだ続く

 と思いきや、路面温度が高いせいか転倒が相次ぎ、3時間40分ほど経過したところでYOSHIMURAの津田選手までもがシケインで転倒。津田選手はなんとかレースに復帰したが、これらの転倒によりレース開始からおよそ4~5時間で5回ものセーフティーカー導入が実施される。そのたびに隊列が整えられ、思ったように1位と2位の差が広がらない状況が続いた。

相次ぐ転倒、クラッシュで、たびたびセーフティーカーが投入された

 レーススタートから4時間40分、この間に中須賀選手、スミス選手と交代してきたトップを走るYAMAHA FACTORYが、オフィシャルの判定によりエスパルガロ選手の走行時にセーフティーカーを追い抜いたと見なされ、30秒間のピットストップペナルティを課される。この時走っていたスミス選手はすぐさまピットインし、ペナルティをこなしたが、この影響でF.C.C.のエガーター選手に一時的にトップの座を明け渡すことになった。

 スミス選手はエガーター選手とのMotoGP/Moto2バトルの末、再び首位に立つも、ライダー交代のための通常のピットストップもあり、6時間が経過した時点で152ラップをこなすF.C.C.が順位表上はトップ、ピットイン回数の多いYAMAHA FACTORYが同ラップの31秒差で2位、3位に的確な戦略で上位を虎視眈々と狙うTeam KAGAYAMAが続いた。

激しく争うF.C.C.とYAMAHA FACTORY
エヴァマシン、EVA RT TEST TYPE-01 TRICK STARチームは転倒が多かったが、粘りの走りを見せた

6時間~フィニッシュ

 6時間を過ぎ、F.C.C.が5回目のピットストップ。これでまたYAMAHA FACTORYがトップを奪い返し、改めて引き離しにかかる。F.C.C.とTeam KAGAYAMAが2分11~12秒台で走る中、YAMAHA FACTORYのタイムは相変わらず2分9秒台、時には2分8秒台を記録することもあるという異次元のペース。

トップをひた走るYAMAHA FACTORY
エスパルガロ選手の走り
必死に追いすがるF.C.C.

 残り1時間22分、2位のF.C.C.に1分以上の差をつけていたYAMAHA FACTORYが7回目のピットイン。エスパルガロ選手から中須賀選手にバトンタッチしている間に順位が入れ替わったが、戻ってから2周目であっさりF.C.C.をパスしてトップを取り戻した。

全車ライトオンのサインが表示

 残り48分、ライトオンのサインが表示され、各車ヘッドライトで路面を照らしながらの走行となる。2分9~10秒台で周回する中須賀選手は、2番手のF.C.C.に対して1分38秒差。残り24分で最後のバトンをスミス選手に託した。

 しかしその直後、ヘアピン手前で激しい転倒があり、6回目のセーフティーカー投入。レース終了10分前に再開されると、暗闇で混雑するトラフィックの中、2位とのギャップを考えれば無理する必要は全くないにも関わらず、スミス選手はアグレッシブに攻めまくる。結局2位に1分17秒411の差をつけ、YAMAHA FACTORYがファクトリーチームとしては1996年以来19年ぶりの鈴鹿8耐優勝の栄冠を手に入れた。上位6チームは以下の通り。

決勝レース:上位6位の結果

1:YAMAHA FACTORY RACING TEAM
2:F.C.C. TSR Honda
3:Team KAGAYAMA
4:SUZUKI ENDURANCE RACING TEAM
5:YOSHIMURA SUZUKI Shell ADVANCE
6:GMT94 YAMAHA

表彰式

上位3チームの記者会見のコメント

YAMAHA FACTORY RACING TEAM
表彰台で喜びを爆発させるYAMAHA FACTORYのライダーたち

中須賀克行選手
・「スタート、自分の周回数次第で流れが決まる感じだったので緊張していた。過去にファーストライダーを務めた時に、コケてレースを終わらせてしまったことがあったので、非常に緊張していたけど、自分がしっかりやれば(エスパルガロ選手とスミス選手の)2人が頑張ってくれると思ってたので、19年ぶりに勝てて本当にうれしく思う」

ポル・エスパルガロ選手
・「すごくうれしい。涙が止まらない。自分がペナルティを犯したことでギャップが開いてしまって、チームのみんなには謝りたい。その後は取り戻そうと200%の力を出して頑張った。今回初めて8対に参戦したが、すばらしい家族ができたと思っている。初めての鈴鹿で優勝できて、チームのみんなと祝うことができるのは光栄なこと。スミスとは、普段MotoGPの時はあまり会話はしないけれど、この週末はチームメイトとして仲よくできて本当に幸せ。新しい大きな友人が2人できたのは8耐のおかげ」

ブラッドリー・スミス選手
・「(疲れた表情で)ふー。火曜日の夜にヤマハの皆さんとの大きな集まりがあって、この3人でステージに立って、社長らがいる前で“今回の8耐は絶対に優勝する”と約束をした。プレッシャーがあったなかでも、テストは非常によく、ヤマハが設立60周年ということで、優勝できて本当にうれしい。新しいバイク(YZF-R1)のポテンシャルがあることも証明できたと思う」

F.C.C. TSR Honda
惜しくも2位となったF.C.C.

ジョシュ・フック選手
・「最高の気分。フィジカルもメンタルも厳しいレースだが、みなさんのおかげでここまで来ることができた。チームスタッフが20時間寝ずに優勝に向けて頑張っていたし、サポートしてくれた全てのスタッフに感謝したい。すばらしいチームメイト2人と一緒に走れて、この結果を出すことができたのは本当に最高」

ドミニク・エガーター選手
・「昨年Team KAGAYAMAから参戦して、再びポディウムに戻ってこられて本当にうれしい。2週間前からテストのために日本に来て、チームやチームメイトとも慣れて、鈴鹿にも慣れているので、気持ちよく走れた。ブリヂストンやホンダをはじめ、大勢の方のサポートのおかげ。来年もまたここに戻ってきたい。これから小さいMoto2バイクに戻って米インディアナポリスのレースに参戦するので、1週間しっかり休んで頑張りたい」

Team KAGAYAMA
3年連続表彰台獲得のTeam KAGAYAMA。戦略のうまさが光った

加賀山就臣選手
・「自分のチームは、多くのスポンサーのおかげでレースができている状態。ここに来られたのもみなさんのおかげで、感謝の気持ちしかない。レースでは、ヤマハさんとホンダさんの壁は高かった。(清成龍一選手と芳賀紀行選手の2人には)勝てるバイクを用意するから助けて、とオファーしたにも関わらず、勝てるバイクを用意できなかったので、それが申し訳ない。でも最低限の結果は出せたので、そこはよかったと思う。3年連続で表彰台に立てたのも2人のおかげ。プライベーターだが、戦略、システム的にはファクトリーには負けていない。(6回の)セーフティーカーで戦略がけっこう変わったが、そこで燃費などのいろんな計算をして6回ピットも実現できたし、レース中にすぐに対応してくれたスタッフには本当に感謝している」

表彰台後には鈴鹿8耐恒例の花火が打ち上げられた

(日沼諭史/Photo:Burner Images)