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MathWorks、MATLABやSimulinkを利用した自動運転車の設計ソリューションなどを説明する「MathWorks Automotive Conference 2016」リポート

2016年6月28日 開催

 米国のMathWorksは、技術計算言語の「MATLAB」やシミュレーションツールの「Simulink」などで知られるソフトウェアメーカーだ。MATLABを利用すると、非常に複雑な科学演算(例えば行列演算など)をコンピュータを使って演算できるようになるため、様々な解析や設計などに活用されている。また、Simulinkはシミュレーションやモデルベースデザインのためのブロック線図を作成することが可能で、自動車の設計などでも多く活用されている。

 そのMathWorksの日本法人となるMathWorks Japanは、6月28日に自動車向けの技術カンファレンスとなる"MathWorks Automotive Conference 2016"を東京都内で開催し、自動車向けの同社のソリューションなどについて説明した。本記事では、MathWorks Automotive Conference 2016の注目のセッション、そしてMathWorks Japanによる記者向けのブリーフィングに関してお伝えしていきたい。

自動運転の実現にオープンソースソフトウェアを提供、それを利用した開発にMATLABを活用

実験中の様子
東京大学大学院情報処理工学系研究科 准教授 兼 名古屋大学未来社会創造機構 客員准教授 兼 株式会社ティアフォー 取締役 加藤真平氏

 東京大学大学院情報処理工学系研究科 准教授 兼 名古屋大学未来社会創造機構 客員准教授 兼 ティアフォー 取締役 加藤真平氏は「一般道自動運転用オープンソースソフトウェアの開発環境」というタイトルで基調講演を行なった。

 加藤氏は冒頭で同氏と同氏の研究室が行なっている、自動運転の実証実験に関して説明した。愛知県内で行なった実験では、アイサンテクノロジーと協力して2.5kmの区間を50-60km/hぐらいで実験を重ねてきたという。右左折があったり起伏があったりする道の中で、愛知県の大村知事に試乗体験をしてもらうなどの成果を上げたと説明した。加藤氏によれば、警察庁が「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン(案)」を出してくれたことで、全国的にこれに従ってやればよいという一定のガイドラインができたことで、より実験がやりやすくなったと説明した。

警察庁が公開した「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン(案)」

 その上で、現在の自動運転の開発状況などについて説明し、最終的にはいわゆるレベル4と呼ばれる完全な自動運転に向けた開発が行なわれているが、現在は自動車メーカーはまずはレベル2~3を目指して開発に取り組んでいると説明した。また、GoogleやAppleのようなITベンダも自動運転の開発に乗り出すなど、自動車業界だけでなくIT業界をも巻き込んだ動きであると説明した。そして、今後は自動運転車だけでなく、農業、観光、流通など様々な分野に応用ができると、大きな可能性をもっているとした。

 加藤氏は、名古屋大学、長崎大学、産総研による共同成果の一部として無償で提供されているオープンソースの自動運転ソフトウェア“Autoware”を紹介し、「オープンソースとして提供しておりそこそこの機能をすべて備える」(加藤氏)との自動運転ソフトウェアであるとした。

名古屋大学、長崎大学、産総研による共同成果の一部として無償で提供されているオープンソースの自動運転ソフトウェア”Autoware”

 そうしたソフトウェアを利用して自動運転を実現するには、高精度3D地図が必要だと述べ、愛知県のアイサンテクノロジーと共同で研究している高精度3D地図についての取り組みについても説明した。加藤氏によれば、自動運転では高精度の3D地図こそが肝であり、自動車に取り付けた3Dレーザースキャナにより得られるデータと、高精度3D地図のデータを重ね合わせて自社位置を推定していく。この時にNDTスキャンマッチングと呼ばれる手法で演算を行なうことで、計算量を減らしながら高精度3D地図とのマッチングが可能になると説明した。また、将来的には自動車が道を走る度にまだデータがないところのスキャンデータを保存していき、それが解析に回され、毎日、毎時間、毎秒の単位で地図を更新していくということも可能になるだろうとした。

NDTスキャンマッチングと呼ばれる計算方法で高精度3D地図とのマッチングを実現

 また、そうした認識はレーザーだけでなく、カメラとディープラーニングを利用することで、物体認識の精度や速度を上げていくことができると説明した。特に物体検出はパターン認識なのでGPUで処理するすることで、より高速に行なうことが可能になり、判断が従来は1秒かかっていたところが1/10の100msまで落としていくことができると説明した。実際に路上で行なった実験では、ライダーとカメラを融合して利用することで精度を上げていくことが可能だとした。例えば、信号機の色の認識では、色の認識が一番難しく、例えば逆光だと光が判別しにくいとかある。しかし、そのほかのセンサーと組み合わせて利用することで、信号機の位置をいち早く特定して、色の特定だけに集中するなどの工夫が行なえる。

ディープラーニングを利用した行動判断

 これらの自動運転のシステムに関しては加藤氏は、「自動運転システム内の機能ノードでどのようになっているのかを把握するのが大変。そこで、MATLABやSimulinkなどを使うことで、つながりをグラフ化でき、さらにスケジューリング化も容易になる」と述べ、MATLABやSimulinkを自動運転ソフトウェアと組み合わせて利用することで、より開発が容易になると述べた。

加藤氏のプレゼン資料

Simulinkを利用してリアルタイムにデモが可能なシステムを構築できる

車載メーターの開発は開発とデザインが同時進行で

 カルソニックカンセイ シニアエキスパートエンジニア 兼 埼玉大学大学院 理工学研究科 教授 新井正敏氏は"モデルベースによる車載メーターのGUI開発と技術者育成の取り組み"と題した講演を行なった。

カルソニックカンセイ株式会社 シニアエキスパートエンジニア 兼 埼玉大学大学院 理工学研究科 教授 新井正敏氏

 カルソニックカンセイは、SUPER GTでホシノレーシングの12号車 カルソニック IMPUL GT-Rのスポンサーを長年務めている企業としてもよく知られている大手自動車部品メーカー。電装部品、内装、コンプレッサー、ラジエター、空調機器、排気管など実に多彩な部品を自動車メーカーに対して部品を提供する、いわゆるティアワンの部品メーカーとなる。新井氏は、そのカルソニックカンセイで車載メーターの設計などを担当しているという。

 新井氏は現在の車載メーターのモデル開発が、形を決める前と形を決めた後の2段階に分かれていると説明し、それぞれの段階で効率のよい設計手法を用いる必要があるとした。そこで、MATLABとSimulinkを活用することで、設計モデルと3Dで表示される実際のモデルが連動させて動かすことができると説明した。そして実際にPC上でのデモを公開し、Simulinkを利用してちょっと設定を変えるだけで、PC上に表示されているメーターのモデルにすぐに変更を加えられる様子を公開した。

デモの様子。下のソフトウェアでパラメータを変えるとすぐにデモに反映される

 それにより、動作状態を実際に人間の眼で確認して動きを確認出来るほか、例えばそのモデルをネットワークを経由して遠隔地に送るだけで、遠隔地でも簡単に再生できることなどがメリットだとした。それにより、例えば、出先で自動車に車載してイメージを掴みたいときには、PCではなくタブレットに転送して車載してみるなども簡単にできるとした。また、人間の眼では簡単には発見できないようなプログラムのエラーを発見するために、作成したプログラムを再生し、それをカメラで撮影しその画像をコンピュータで解析しておかしなところがないかを発見するなどの手法も紹介された。

画像をカメラで撮影して差分をコンピュータで解析することで問題がないかを探していく

 また、今後の課題としては、今後はOpenGL ES 2.0以上などの、PCやゲーム機などの3Dゲームの描画に使われているAPIを利用しての描画が一般的になるのに備えて、それらで一般的な手法であるシェーダを使いこなせるエンジニアの育成が急務だと指摘した。

新井氏のプレゼン資料

Simulinkによるモデルベースのシミュレーション、MATLABを利用したデータ解析などの自動車向けソリューション

自動運転の開発に使われるMathWorksのソフトウェア

 MathWorks インダストリーマーケティング部 オートモーティブインダストリーマーケティングマネージャー 秋葉博幸氏は、MathWorksが取り組んでいる自動車関連ビジネスの取り組みについて説明した。現在MathWorksは3つの分野で、自動車向けビジネスの展開を図っているという。

 1つは同社がシミュレーションやモデルベースデザインのためのブロック線図を作成するツールとして提供しているSimulink。同社の主力製品であるMATLABやSimulinkは、自動車産業ではパワートレーンの開発や制御系の開発に使われている。秋葉氏によれば、これからはそれを自動運転の領域にまで広げていきたいのだという。

「自動運転を実現するとなると、各種のセンサー、例えばカメラやレーダーと自動車の制御系を統合して制御していかないといけない。実際にやろうとすると、サプライヤーが複数あったりして、複雑になりつつある。それらをSimulinkでシミュレーション上で統合して、検証することができる」(秋葉氏)と、自動運転という複雑なシステムを構築するのに、MATLAB(センサーからあがってくるデータを処理)とSimulink(制御系をコントロール)を利用することで、実際にモデルを動かしながら検証することができるとした。

 また、MathWorksでは、MATLABやSimulinkの追加ソフトとして、「Image Processing Toolbox」「Computer Vision System Toolbox」「Statistics & Machine Learning Toolbox」などを提供しており、それぞれイメージ処理、コンピュータビジョン、機械学習などの機能をMATLABとSimulinkのシステムに追加することができるという。

コンチネンタル社の事例。車両が走ったデータ(カメラの画像)の正常性をMATLABで処理する

 すでにいくつかの事例がでており、例えば、ティアワン部品メーカーのコンチネンタルの事例では、車両を実際に走らせてとった標識を認識するデータの正常性をチェックする仕組みを、MATLABで構築したのだという。また、北欧のトラックメーカー、スカニアの事例では、カメラとレーザーレーダーを組み合わせた緊急ブレーキのシステムを構築したとのことだが、そのデータ解析にもMATLABが使われているとのことだった。

Polyspaceでコードの正常性をチェックする

 2つめの分野となる自動車のセキュリティでは、"Polyspace"と呼ばれるツールが提供されている。簡単にいってしまえば、ソースコードを検証して、セキュリティの脆弱性などがないかどうかをチェックする。国際的なガイドラインであるCWE、CERT-C、ISO-17961などに準拠しており、コードの信頼性のチェックが可能だと言うことだった。

HMIの設計を実際のデザインを見ながら並列に開発していける

 3つの分野となるHMIの設計では、カルソニックカンセイの講演でも触れられたような、メーターやIVI(車載情報システム)などのユーザーインターフェイスの設計を、よりリッチに、しかしながら短い開発期間で実現することが求められつつある。「Simulinkを利用するとシミュレーションから実際のコードまでをすべて1つのツールで行なうことができる」(秋葉氏)とのとおりで、Simulinkとそのツールを利用することで部品メーカーが使っているQtやGL Studio、VAPS-TXなどのグラフィックツールと組み合わせて利用することで、実際にどう見えるのかなどを確認しながらHMIの開発ができるとした。

秋葉氏のプレゼン資料