ニュース

MathWorks、MATLABのバージョンアップでADAS&自動運転の統合開発環境を提供開始

新バージョン「R2017a」で「Automated Driving System Toolbox」を追加

2017年3月10日 発表

 MathWorksが提供している技術計算言語の「MATLAB(マトラボ)」、およびシミュレーションツールの「Simulink(シミュリンク)」は、自動車開発時の各種シミュレーションツールとして自動車メーカーに活用されているが、その最新版となる「MATLAB R2017a」が3月に日本でも正式発表された。

 このMATLAB R2017aでは、拡張機能として「Automated Driving System Toolbox」が追加提供されており、MATLAB、およびSimulinkと組み合わせることで、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転のシステム開発をより容易にする。

 MathWorksによれば、Automated Driving System Toolboxは画像処理、センサーフュージョンなどを処理するソフトウェア開発を容易にし、自動車メーカーが自社でツールなどを開発するのにかかる時間を大幅に短縮する効果を持ち、ADAS&自動運転に対応するソフトウェア開発のコストを削減可能であるという。

国内自動車メーカーでも採用されているMATLABがバージョンアップ

 MATLABとSimulinkは、世界中の自動車メーカーで自動車開発に利用されているソフトウェア。元々は計算のための技術言語としてスタートしたMATLABだが、さまざまな演算をより効率よくできる言語やソフトウェアツールとして活用されており、自動車の分野ではとくにメーカー各社が現在力を入れて開発しているADASや自動運転向けに、車両に実装される各種センサーから入力されるデータの処理を、MATLABを利用することで効率よく処理できる。また、各種アルゴリズム(ソフトウェア上の手法のこと)開発にもMATLABが使われることが多い。

 これに対してSimulinkでは、CFD(数値流体力学)などの手法を利用するCGモデル作成や、CGモデルを数値で動かすシミュレーションなどに一般的に利用されている。

 MathWorksの日本法人であるMathWorks Japanによれば、日本の自動車メーカーでの採用例も多く、同社が2015年10月に公開したニュースリリースのなかで、トヨタ自動車とデンソーがそれまで量産開発に適用してきたMATLABのバージョンを「R2010b」から「R2015a」に移行すると発表しているなど、日本国内でも広く採用されている。

 そんなMATLABの最新版となる「R2017a」がMathWorksからリリースされた。MathWorksでは1年に2回大規模なアップデートをリリースしており、その年の最初の大規模アップデートが最後にアルファベットの“a”が付くバージョン、2つめがアルファベットの“b”が付くバージョンとなる。従って、今回リリースされたR2017aは2017年最初のアップデートという扱いになる。

ADAS&自動運転の開発を助けるAutomated Driving System Toolboxが追加

 今回リリースされたR2017aの目玉となるのが、新たにオプションモジュールとして提供されるAutomated Driving System Toolboxだ。MathWorks Japan 自動車産業マーケティングの秋葉博幸氏によれば、Automated Driving System Toolboxは、MATLABとSimulinkのあいだを埋め、自動車メーカーがADAS技術や自動運転車の開発で抱えている課題を解消するべく投入されたのだという。

Automated Driving System ToolboxがカバーするのはMATLABとSimulinkの間にある、ADASや自動運転で必要になる画像認識などのソフトウェア部分

 具体的には次の5つの課題を解決していくという。

(1)ソフトウェアアルゴリズム検証環境の提供
(2)画像認識時に利用するラベリング作業の半自動化
(3)画像処理ソフトウェアの検証機能
(4)テストケースの作成支援
(5)実車を利用したテスト結果の可視化、検証

 自動運転車ではコンピュータ画像認識の技術を利用して物体や人間などを認識。その情報を基にAIなどがステアリングやアクセル&ブレーキを操作する。このとき自動車メーカーにとって重要になるのは、迅速で高品質なコンピュータ画像認識のソフトウェアを設計すること。そのために現在自動車メーカーでは、そういったソフトウェアの開発に大量のリソース(人的リソースや演算リソース)をつぎ込んでおり、このリソースをいかに省力化していくかが課題になっている。

画像認識のソフトウェアを設計するソフトウェアアルゴリズムなどを提供

 R2017aで提供されるAutomated Driving System Toolboxは、そうした各種機能を自動車メーカーに対して提供することになる。例えば、Automated Driving System Toolboxを従来から提供されている「Computer Vision System Toolbox」と組み合わせて利用すると、あらかじめライブラリとして提供されている自己検出アルゴリズム、車両検出アルゴリズムなどを流用して、いち早くそうしたソフトウェアを構築することが可能になる。

Ground Truth Labelerの機能

 また、「Ground Truth Labeler」という機能を利用して、画像認識時のラベル作成(画像にある物体が、人間なのか、車両なのか、白線なのかといったことを分類すること)の半自動化が可能になる。

画像処理における機能検証
テストケースの作成支援
実車テスト結果の可視化

 このほかにも、作成した機能やソフトウェアを検証するテストシナリオの作成、作成したソフトウェアを実車に乗せて検証し、得られたデータをMATLABを利用して検証するという使い方も可能になる。

課題となっている“画像認識ができるエンジニア”を育てる助けにも

Automated Driving System Toolboxの導入メリット

 MathWorks Japanの秋葉氏によれば、自動車メーカーがAutomated Driving System Toolboxを導入するメリットについて「自動車メーカーのなかには自社で開発ツールを作って画像認識やセンサーフュージョンなどを開発しているところもある。それには膨大なコストと時間がかかっているが、Automated Driving System Toolboxだけである程度のところまでやりこむことができる」と説明する。

 現在、ADASや自動運転を開発する現場では、コンピュータ画像認識が分かるエンジニアの奪い合いが起きている現状があり、「そうした自動車メーカーにとっては、これからコンピュータ画像認識に取り組むエンジニアを育てる手段としても活用できる」(秋葉氏)という点も見逃せないところだろう。

 なお、Automated Driving System Toolboxの1ユーザーライセンスは42万5000円(税別)だが、利用にはMATLAB(1ユーザーライセンス:税別29万5000円)、Image Processing Toolbox(同:税別14万5000円)、Computer Vision System Toolbox(同:税別18万5000円)が別途必要になる。