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【IFA2016レポート】ダイムラーAG会長 ディーター・ツェッチェ氏基調講演
自動車を“移動宅配ボックス”にする「Smart Ready to Drop」の実証実験を開始
2016年9月3日 11:19
- 2016年9月2日~7日 開催
ドイツ・ベルリンにあるベルリンメッセで9月2日~7日、世界最大の家電展示会となるIFA(イファ)が開催されている。元々は白物家電の展示会として始まったIFAだが、近年はデジタル関連の展示が多く、半ばIT関連の展示会となりつつあり、年末商戦に向けた新製品を発表する場として利用しているデジタル機器メーカーも多く、世界中から多くの参加者を集めるグローバルな展示会となっている。
そのIFAの基調講演に登壇したのは、地元ドイツを代表する自動車メーカーの1つであるダイムラーAG 会長 兼 メルセデス・ベンツ自動車部門代表のディーター・ツェッチェ氏。自動車メーカーのトップとしては初めてIFAの基調講演に登壇したツェッチェ氏は、メルセデス・ベンツがドイツの配送業者DHLと協力して行なう「自動車を宅配ボックスにする」取り組みや、IVIのIT業務システムへの対応などについて説明した。
2017年にメルセデス・ベンツのIVIが「Microsoft Exchange」などの業務ITシステムに対応
4つあるIFAの基調講演のうち、2つめとなる初日の9月2日午後の基調講演は、昨年まではIntelやMicrosoftといったIT企業が務めていた枠で、今年はそこに自動車メーカーとして初めてメルセデス・ベンツが登場することになった。言うまでもなく、ADAS、自動運転、そしてIVIといったここ数年で自動車に搭載されたテクノロジーの多くは、ITに基づいており、今や自動車はITの主要なアプリケーションの1つになりつつある。
そのメルセデス・ベンツを代表して基調講演に登壇したのは、ダイムラーAG 会長 兼 メルセデス・ベンツ自動車部門代表のディーター・ツェッチェ氏。これまでにもツェッチェ氏はこうしたグローバル規模のIT関連展示会で基調講演に登場しており、例えば2012年のInternational CES(別記事)や、2015年のInternational CES(別記事)でも基調講演に登壇して自動車の未来について語るなど、ITにも積極的に取り組む自動車メーカーの経営者というイメージを持たれている。
ツェッチェ氏は「乗員が乗車している時間を自由に使えるようになる、長い時間がかかる取り組みはまだ始まったばかりだ。自動車は今後“Quality Time Machine”になる」と述べ、Quality Time(有効に使える時間という意味)と、Time Machine(ドラえもんなどに登場するあのタイムマシーン)をかけた“乗員が時間を有効に使える自動車”というタイトルで、車内での時間をより有効に使えるようにするさまざまな自動車向けの技術というテーマについて説明を始めた。ツェッチェ氏は、そうした乗員が時間を有効に使える自動車を実現するには3つの役割が必要になるとした。1つは「ワーク」(つまりは仕事)、2つめが「フィットネス」、3つめが「パーソナルアシスタンス」だとして、それぞれについて解説した。
1つめのワークという点では、渋滞でのドライブが終わったあとのスマートフォンというイラストを見せ、自動車から降りると、スマートフォンにメールなどの未読が多数つくと語り、「これまでは一部のユーザーがDIYでPCを座席にくくりつけて仕事をしたりしていたが、これはスマートではないし警察もいい顔をしないだろう。我々は、来年に『インカーオフィス(In Car Office)』を導入する。それではMicrosoftのExchangeをサポートする」と述べ、2017年に発売する自動車(どのモデルかは言及がなかった)に、企業での業務メールシステムで事実上の標準となっているMicrosoftのExchangeのクライアント機能を、車内にあるセンターコンソールのIVIシステムなどに搭載すると表明した。これにより、自動車に乗っているときでもビジネスで利用している電子メールや住所録、スケジューラーなどにアクセスできるようになる。
ツェッチェ氏は「今後、機能を追加できるようにする予定で、中国でも展開する予定。また、車内でも電話会議ができるようにSkypeなどにも対応したい」と述べ、IT企業が展開する業務用ITシステムのクライアント機能を自動車にも積極的に搭載していくと説明した。また、今後各地域で異なるニーズに対応できるようにするため、世界各国に研究開発センターを設置していくとした。
秋からDHLと協力して、自動車を“動く宅配ボックス”にする「Smart Ready to Drop」の実証実験を開始
2つめのフィットネスというテーマでツェッチェ氏は、シートについての改良を説明した。途中でメルセデス・ベンツがドイツで参戦しているツーリングカーレース「DTM」のチーム関係者を壇上に呼び、レーシングカーであってもドライバーに過度の負荷をかけるシートはよくないといった説明が行なわれた。その上で、今後メルセデス・ベンツが提供を予定しているシートの計画として「Motion Seating」について説明され、シートに各種センサーを搭載し、それを利用して自動車が人間に心地いいようにシートの形を変えたりするといった未来図が紹介された。
3つめのパーソナルアシスタンスという観点では、メルセデス・ベンツがサービスとして提供しているコンシェルジェサービス「Mercedes Me」を紹介。スマホなどを利用して自分の自動車の状態をチェックしたり、販売店に連絡するといった機能が紹介された。
また、それをさらに進めたサービスとして、自動車同士が駐車場の空きスペースをシェアする「コミュニティベースドパーキング」、自動車が宅配ボックスになる「Smart Ready to Drop」、同社が社内ベンチャーとして研究しているスマホアプリの「pacTris(パクトリス)」などを紹介した。
ツェッチェ氏は「目的地に着いても駐車場があるとは限らず、結局数十分かけて空きスペースを探しまわらないといけないということもよくある。そこで、将来的にはメルセデスのクルマ同士が通信して、駐車場の空きスペースの場所をシェアする」と述べ、クルマ同士が協力して空きスペースの情報を効率よく伝えることで、空きスペースを見つける時間を短縮する取り組みを今後行なっていくとした。
また、Smart Ready to Dropは、ユーザーが使っていないクルマ(同社のスマート)をいわば宅配ボックスのように使う取り組みだ。ユーザーが自宅や駐車場の近くにいなくても、配送業者が位置情報などを頼りにクルマを特定し、安全に車両のロックを解除してトランクなどに配送品を届ける仕組み。現在、ドイツで宅配事業を行なっているDHLとの協力で研究をしており、今年の秋にダイムラーグループの本社があるシュッツガルトにおいて実証実験(ベータテスト)をスタートするという。
最後に紹介されたpacTrisは、自動車のトランクにどうやればより効率よく荷物を詰めるかをシミュレーションするスマートフォンアプリ。これを利用してそのとおりに積むことで、より多くの荷物を載せることが可能になるという。このアプリは9月1日から公開されたとのことで、最後のpacTrisのチームが壇上に呼ばれて紹介された。
最後にツェッチェ氏は「誰もが自動車のデジタル化を主張している。しかし、それはA地点からB地点へいくようなモノではなく、トータルのソリューションとして提供されなければならない。今後ユーザーは自動車のなかでより時間を有効に使えるようになるだろう。すでに今日からもそうだし、明日はさらによくなるだろう」と述べ、今後も自動車のデジタル化をさまざまな形で実現していくことで、自動車ユーザーの生活がより豊かになると強調して講演を終えた。