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独ダイムラー 会長 ディーター・ツェッチェ氏、マイクロソフト CEO サティア・ナデラ氏とMWC 19 Barcelona基調講演で共演

「コンピュータと自動車が1つになるなどSFの世界だけの話だったが、それが現実になりつつある」とツェッチェ氏

2019年2月25日(現地時間)開催

独ダイムラーAG 取締役会長 ディーター・ツェッチェ氏

 メルセデス・ベンツブランドを展開している独ダイムラーAGの会長で、5月に退任することが決定しているディーター・ツェッチェ氏は2月25日(現地時間)、スペイン・バルセロナで開催されている携帯電話事業者やサプライヤーなどに向けた展示会「MWC 19 Barcelona」の基調講演に登壇した。

 この中でツェッチェ氏は米国のIT企業マイクロソフト CEOのサティア・ナデラ氏とトークショーを行ない、自動車メーカーとIT、そして企業経営などについて語った。

自動車メーカーはソフトウェアメーカーへと姿を変えつつあるとツェッチェ氏

トークショーのような形で行なわれた両氏の基調講演

 まず、司会がツェッチェ氏にマイクロソフトのような企業はどのような企業に見えるかを問うと、「マイクロソフトのような会社とのパートナーシップなしには、これからの自動車事業は成り立たない。現代の自動車はネット接続が必須になっており、データをセキュアにやりとりする必要があり、そうしたノウハウはIT企業が持っている。例えば、デジタルへの取り組みではもちろんマイクロソフトより遅れていると思う。だが、われわれも会社の姿をソフトウェアの会社に変えつつある。今後は自動車を作るのにソフトウェアが必要になるため、組織のあり方やマインドセットを変えている。マイクロソフトのビジネスモデルは非常に印象深い。われわれも今は転換期にあるが、今後はどこかで競合するかもしれないし、そうではないかもしれない」とツェッチェ氏は述べ、自動車メーカーにとってはマイクロソフトのようなIT企業とのパートナーシップが重要だし、自動車メーカー自身もソフトウェアメーカーに姿を変えつつあると述べた。

 これを受けてナデラ氏は「マイクロソフトもかつては競合だった企業とパートナーとしてやったりしている。例えばドイツのSAPとはかつては競合していたが、今はパートナーとしてやっている。今後は自動車メーカーが自動車の管理のアプリケーションを、われわれのクラウドサービスであるAzure上で動作させるなどが考えられるだろう。自動車も今やコンピュータであり、ソフトウェアが運転の経験を積むようになっている。重要なことはどんな組織であっても、ソフトウェアを開発する能力をどのようにマスターしていくかだ。IT企業とそうではない会社の差はなくなりつつある。そうしたソフトウェアがすべての産業の一部になりつつある状況の中で、メルセデス・ベンツは100年続く会社で、人間の一生よりも長く続いている。それなのに継続的に変わっていく姿勢がすごい」と述べ、IT企業の側から見ても自動車メーカーの姿の変え方には驚いていると述べた。

 そうした自動車のIT化に関して、ツェッチェ氏は「われわれはこれまで固定機能を持つECUを搭載した自動車を提供してきた。しかし、これから提供するのはモバイルデバイスと同じようにコンピュータを搭載した自動車だ。そうした自動車を開発するにはソフトウェアのエンジニアが必要で、今われわれの会社には多数のソフトウェアエンジニアが来てくれている。そして、そのソフトウェアはオープンソースで作っている。競合もそのコードを使うかもしれないが、そのやり方が最も速いやり方だ。今までとは異なる考え方で取り組む必要があると考えている」と述べ、これからの自動車のソフトウェアの開発にはオープンソースという考え方が必須だという見解を明らかにした。

 それに対してナデラ氏は「今起きていることは、言ってみれば産業革命だ。テクノロジーが国や組織、人を変えていく。コンピュータがもっと普遍的にあまねくあるような存在になる」と述べ、自動車だけでなく、さまざまなデバイスにコンピュータの機能が入っていく時代がすぐに来ると説明した。

テクノロジーのシフトよりも難しいのはビジネスモデルのシフトだとマイクロソフト ナデラCEO

マイクロソフト CEO サティア・ナデラ氏

 次いで司会が、自動車も私有からMaaSによる共有の時代になり、パンを焼くトースターにもネット接続が入る時代に企業文化を変革していくにはどうしたらいいか? と質問すると、ナデラ氏は「現代では自動運転車、AI、クラウドなどの新しい機能がどんどん生まれてきている。そうした新しい機能は優れた文化を持つ企業から生まれてきている。マイクロソフトはどうかと問われれば、強みもあるが弱みもある。マイクロソフトの場合は創業者の影響が小さくなく、ビル・ゲイツの文化というものも残っている。もちろんそうした伝統も大事だが、それを生かしつつ、外部からの優れたインスピレーションを見つけて、新しいアイデアを取り込んでいく文化を創り出すことが大事」と述べた。

 ツェッチェ氏は「シリコンバレーと話していると『すごくイイネ』『頑張って』と言われることが多い。そうした時に私はいつも、いや一緒に頑張ろうと言っている。そうした異なる文化を1つにして、競合との競争に打ち勝ちたいのだ。大事なことはお客さまに買っていただけるクルマを作り出すことだ。2020年以降は完全にゲームチェンジになる可能性があるので、それに備えて開発プロセスを加速している」と、2020年以降に起こるであろう自動車産業の転換期に備え、自動運転やEV化などを推進していると述べた。

 続いて司会がナデラ氏に「2009年には、マイクロソフトはWindows 7とOfficeをDVDの形で販売していた。だが、今やOfficeはサブスクリプションモデルになっており、その移行は成功を収めている。それができたのはなぜか?」と質問。ナデラ氏は「テクノロジーの移行そのものは難しくない。本当に難しいのはビジネスモデルを変えていくことだ。どの会社にも成功体験がある。売り上げが多少下がってきても、続けることができてしまう。ましてやそれが高い利益を生んでいるとしたら、変わらないでいいと思ってしまうものだ。しかし、そうしている間にマーケット環境が大きく変わってしまうことがある。昔はOfficeはPCにだけ提供していたが、今はサブスクリプションモデルになり、スマートフォンなどのモバイルでも利用されている。そうした利益がもたらす『これでいいや』という考え方を捨て去ることが重要だ」と、成功体験を捨てて、ビジネスモデルを積極的に変えていくことが重要だと述べた。

 ツェッチェ氏は「同感だ。ビジネスモデルを変えるのは本当に大変なことだ。今後自動車の個人への販売数は減っていくかもしれないが、MaaSのような新しい市場が立ち上がってくるはずだ。ビジネスモデルを絶対視してそうした変革を恐れてはいけない、大事なことは前に進むことだ」と述べ、今後自動車メーカーが直面するであろう、自動車の私有からライドシェアやサブスクリプションなどの所有モデルへの変革を恐れてはならず、それに対応していかなければならいと述べた。

BMWとの提携を決めたのは、顧客の利益の最大化に最適と判断したから

マイクロソフトがMWC開幕前日に発表した「HoloLens 2」

 そうしたツェッチェ氏に対して、司会から先日発表されたダイムラーとBMWグループの提携についての質問が出ると「BMWとの提携では、リソースをシェアしてビジネスの効率を上げていくことが目的だ。その中でBMWがわれわれより成功してもいい。大事なことはカスタマーの利益であり、それにフォーカスしたのでこうした提携が実現した」と述べ、顧客のメリットを最大にすることを考えたからこそ、この提携が実現したと述べた。

 それを受けてナデラ氏も「今やデジタルの変革の形も変わってきている。必要ならコミュニティを信頼してオープンソースの手法を獲ればいい。われわれはLinuxコミュニティの寄稿者になっているし、GitHubにもコミュニティを持っている。Appleとの関係もそうだ。OfficeはMacに対して最初に提供しているぐらいだ。われわれは常に顧客が何を重要視しているかに注意を払っている」と述べ、ナデラ氏もツェッチェ氏と同様、顧客の利益を最大化することが重要で、他社との提携も、オープンソースへの参加もそれを基準に考えていると述べた。

 そして司会の「未来はどうなっていくのか」という質問に、ナデラ氏は「3つある。コンピューティングはもっと普遍的であまねくあるものになる。それを実現するのがクラウドとエッジだ。2つめはAIで、今後は言語、スピーチ、ビジョンのような新しい使い方がAIで提供される。そして3つめは、われわれが先日発表した『HoloLens 2』のようにユーザーに提供する、より自然なユーザー体験だ。これらがコンピューティングの体験を変えるだろう」と述べ、マイクロソフトがMWC開幕の前日に発表した「HoloLens 2」なども例に出しつつ、従来のようにスマホやPCだけがコンピュータというだけでなく、自動車やTVなど、何もかもがコンピュータになるような時代が来るとした。

 ツェッチェ氏は「ネットに常時接続されることが重要で、それにより自動車はよりインテリジェントになり、自動運転なども実現していく。すでに自動運転は技術としては現実になっており、非常に近い未来にシェアリングという形も普通になるだろうし、私有よりもシェアの方が当たり前になっていく。そして電動化も実現し、それらが相互に影響し合ってより便利になっていく。コンピュータと自動車が1つになるなどSFの世界だけの話だったが、それが現実になりつつある」と述べ、自動運転化、AI、カーシェアへの移行、そして電動化などが自動車産業にとっては重要になると指摘した。

 最後に「リーダーにとって重要なことは何か」と聞かれたツェッチェ氏は「多くの人がやっていることと同じことをやってはならない。スタッフを励まして、自信を持たせる必要がある。そしてもう1つ大事なことは、決断することだけでなく、それを完璧に実行することだ。私もクライスラーと別れる時は最も辛い時期だったが、よいスタッフに支えられて乗り切ることができた」と述べ、自身のダイムラーにおけるリーダーの期間で最も辛かった時期は、クライスラーとの合弁解消の時期だったと明らかにした。