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ARM、自律自動走行車両の実現に向けた機能安全プロセッサ「Cortex-R52」発表会

デンソーもCortex-R52の発表をサポート

2016年9月21日 開催

 英ARMの日本法人であるアーム(以下両社合わせてARM)は9月21日、神奈川県横浜市で記者会見を開催し、機能安全向けのプロセッサ・IPデザインとなる「Cortex-R52」を発表した。

 今年7月にソフトバンクが買収して話題を呼んだARMは、スマートフォン市場を席巻したARMの命令セットを、自動運転、自律運転を実現した自動車を製造するために必要な機能安全プロセッサを自動車の市場にも提供しようとしており、すでに「Cortex-R5」プロセッサを半導体メーカーなどに提供している。Cortex-R52はその後継、上位モデルとなる製品で、新しく「ARMv8-R」をサポートし、ハイパーバイザー型仮想化モデルに対応することで、1つのマイコンで複数のRTOS(リアルタイムOS)を安全に動作させることができるといった特徴を備えている。

機能安全を実現するアプリケーション向けの製品となるCortex-R52

アーム株式会社 応用技術部 シニアマネージャー 中島理志氏

 ARMは半導体メーカーが自社のSoC(System On a Chip、1チップでコンピュータを構成することが可能な半導体)を製造するときに、組み込むCPUやGPUのIPデザイン(半導体の設計図のようなもの)を提供することをビジネスとしている企業だ。7月に日本のソフトバンクが子会社化することを発表し、先日買収プロセスを完了。現在はソフトバンク傘下の企業となっている。

 今回の記者会見では、冒頭でアーム 応用技術部 シニアマネージャーの中島理志氏による新製品の説明が行なわれ、後半はイギリス・ケンブリッジのARM本社と電話会議形式で質疑応答をするスタイルで実施された。

 中島氏は「今回発表するCortex-R52は、ARMのなかでももっとも安全性に特化したCPU。車載、産業機器、医療分野などを想定している。今は安全性が求められるアプリケーションが増加している。複雑で高い安全性が求められるハードウェア、さらにはソフトウェア統合の簡素化などをもって参入を目指す」と述べ、Cortex-R52で、いわゆる機能安全と呼ばれる確実に動作し、安全性を担保する必要がある分野にARMが本格的に進出していくと述べた。

今回のARMの発表
機能安全が求められている

 現代の組み込みシステムは、SoCとソフトウェアの組み合わせで構成されているが、複雑さが増していると中島氏は指摘する。今後システムで自動化を行なったときに、安全性が伴っていないと危険になる。そこで、そうしたシステムで複雑な電子機器と安全性をどう両立させるのかが重要だと説明。安全性を実現するために「IEC61608」、さらに車載なら「ISO26262」などの認証規格が存在し、それらに見合うようシステムを設計することが求められているとした。

「知覚」「認識」「決定」「作動」という自動化システムの4つのブロックと、それに対応するARMのプロセッサ・IPデザイン

 中島氏は「自動化されたシステムは4つのブロックに分割できる。知覚、認識、決定、作動の4つだ。このうち、知覚に関しては『Cortex-M』が、認識に関しては『Cortex-A』とGPUの『Mali』が最適だ。Cortex-Rシリーズは、決定と作動に関して最適な製品となる」と述べ、Cortex-Rシリーズに関しては、自動運転で言えばAIが判断する部分と実際に自動運転を行なう部分などに最適だと説明した。なお、Cortex-MシリーズはARMがIoT向けに提供している低消費電力のプロセッサデザインで、Cortex-Aシリーズはスマートフォン向けのSoCなどにも使われているハイパフォーマンスのプロセッサデザイン。Maliはスマートフォン向けに提供されているGPUデザインとなる。

「ARMv8-R」に対応することで、ハイパーバイザーモードを追加して複数のRTOSを安全に動作させる

Cortex-R52はARMv8-Rを採用した最初の製品

 中島氏によれば、新たに発表されたCortex-R52はすでに同社が顧客に提供している機能安全向けのプロセッサデザインのCortex-R5の上位製品となる。Cortex-R5との最大の違いは「ARMv8-R」と呼ばれるリアルタイムOS向けの新しい命令セットに対応していることだ。ARMv8-Rは従来のCortex-Rシリーズに採用されていたARMv7-Rの拡張版という扱いになるが、新たにハイパーバイザー型の仮想化関連の拡張が行なわれているのが大きな特徴となる。なお、同じv8の名前を持つ「ARMv8-A」が64bitに拡張されているのに対して、ARMv8-Rは32bitにとどまっている。

 中島氏は「Cortex-R52では従来の製品でサポートされていた特権モード、非特権モードの下に、ハイパーバイザーモードを追加している。これによりハイパーバイザーの上で複数のRTOSを異なるメモリ空間で走らせることが可能になっている。現在のクルマはマイコンの増加が問題になっているが、こうした機能を利用することで、自動車メーカーは安全性を確保しながら1つのマイコンに統合することができる」と述べ、仮想化機能を利用することで、機能安全を確保しながら利用する半導体の数を減らすことが可能になると説明した。

ハイパーバイザーモードを利用すると、複数のRTOSを異なるメモリ空間で走らせることができる

 また、性能面では「AutoMark」「DMIPS」「CoreMark」といった業界で一般的に使われているベンチマークで、従来製品(Cortex-A5)と比べて最大35%の性能向上を実現しているほか、OSのコンテクストスイッチ(プロセスの切り替え)は14倍高速に、さらに割り込みの性能も倍になっていると中島氏は説明した。中島氏が示したブロック図によれば、Cortex-R52は、シングルコアから最大4コアまでのスケーラブルな設計になっており、「ロックステップ」と呼ばれる複数のCPUコアに同じ動作を同時に行なわせることで、1つのコアに問題が起きたときでもほかのコアに切り換え、稼働保証を実現する設計にもできるということだ。

Cortex-R52の性能
Cortex-R52のブロック図

 ソフトウェアのサポートに関して中島氏は「ARMは仕様を公開して、オープンにエコシステムを構築していく。半導体メーカーだけでなく、コンパイラツール、OSベンダ、ソフトウェアベンダにも仕様書を公開していく。それよりいち早くエコシステムを構築し、顧客がいち早く市場に製品を投入できるようにしていく」と述べ、顧客となる半導体メーカーだけでなく、ソフトウェアを作るソフトウェアメーカーなどにも仕様をいち早く公開して、ソフトウェアのエコシステムを確立していくと説明した。

 ARMによれば、Cortex-R52は同社の顧客となる半導体メーカーにライセンスされ、半導体メーカーなどのSoCなどに採用されて市場に投入される予定だという。現時点では具体的なライセンス先などは明らかにされていないが、同社の発表によればデンソーがCortex-R52の発表をサポートしていると表明されており、発表を伝えるニュースリリースでは「デンソーは、機能安全アプリケーションに必須の組み込みリアルタイム制御機能を提供する新しいCortex-R52プロセッサを歓迎します。これを搭載した新しい機器が市場に登場するのを楽しみにしています」(デンソー 電子基盤先行開発室 担当次長 杉本英樹氏)というコメントも登場している。

中島氏のプレゼンテーションのスライド