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arm、クルマの電動化・知能化について日産フェローの久村春芳氏が講演した「arm Tech Symposia 2017」

インテリジェント・モビリティへの取り組みを紹介

2017年12月8日 開催

日産自動車株式会社 フェローの久村春芳氏

 arm(アーム)は12月8日、armの年次テクノロジー・カンファレンス「arm Tech Symposia 2017」を東京カンファレンスセンター・品川で開催。同カンファレンスのゲストスピーカーとして、日産自動車 フェローの久村春芳氏が登壇。クルマの電動化と知能化について日産の取り組みを紹介した。

 同イベントで行なわれた基調講演では、arm Ltd. VP Strategy Noel Hurley氏、arm Ltd. VP Operations, Tools&Services Hobson Bullman氏、arm Ltd. VP of Sales&Marketing Michael Horne氏が登壇。今後1兆個のコネクテッドデバイスをIoTネットワークで接続するというビジョンに対して、それを実現する上で必要となる新しいセキュリティアーキテクチャ「PSA(Platform Security Architecture)」、最新の統合型ディスプレイ・ソリューションやAI/機械学習への取り組み、IoTゲートウェイの管理機能を提供する「Mbed Edge」などについて解説した。

日産自動車株式会社 フェローの久村春芳氏が登壇した講演

 日産自動車 フェローの久村春芳氏が登壇した講演では、自動車が抱えるエネルギー、地球温暖化、交通渋滞、交通事故という4つの問題に対して「ゼロ・エミッション」「ゼロ・フェイタリティ」を目標に掲げて、エネルギーと地球温暖化に対してはクルマの電動化、交通渋滞と交通事故に対してはクルマの知能化で対処していくという同社の方針が示された。

所得と移動の関係を示したグラフ。新興国の発展により移動が増える
エネルギー、地球温暖化、交通渋滞、交通事故という4つの問題に対して「ゼロ・エミッション」「ゼロ・フェイタリティ」を目標に掲げた。エネルギーと地球温暖化に対してはクルマの電動化、交通渋滞と交通事故に対してはクルマの知能化に取り組むことを示した
クルマの電動化と知能化を示すコンセプトカー「PIVO2」などを紹介
ソーラー発電にかかるコストが低下してきていることを示すグラフ
ソーラーや風力発電の普及により2040年に向けて低コストで電気エネルギーが手に入ることを予測したグラフ

 車両の電動化に関しては、同社が販売しているEV(電気自動車)「リーフ」の進化について紹介。久村氏は「新型リーフはJC08モードで400km走り、冬場にエアコンをつけても普通に走れば300km走ります」と話すとともに、栃木や厚木の往復など自身の使用パターンを話してほとんどのシーンで実用域に入っていることを強調した。

新型リーフ

 また、新型リーフのスペックとなる最高出力110kW、最大トルク320Nmについては、従来モデルとほとんど同じモーターを使いながら、出力で3割、トルクで2割、そして加速は2割上がっていることを紹介。その背景としてリーフのモーターコントローラーに「ARM Cortex-R4 160MHz」の採用やインバーターの改良があったことを説明した。

 モーターコントローラーの速度を2倍にすることで、より高速で細かい制御ができるようになったといい、「トルクもパワーも増やすことができ、今のパフォーマンスを出すことができた」(久村氏)と、今のパフォーマンスを実現させたことを紹介。

 インバーターの冷却については、従来モデルでは冷却系統とパワーモジュールの間にグリスを噛まして冷やしていたものを、新型モデルでは冷却系統とパワーモジュールを一体化させダイレクトにクーリングしていることを説明。クルマ全体としては、従来型よりエネルギー効率が15%ほど向上していることを紹介。

新型リーフの改良への取り組みを示したスライド

 クルマの知能化については、「プロパイロット パーキング」の機能を説明するとともに、完全自動運転に向けたロードマップを示して、2016年に高速道路上の単一車線における自動運転、2018年には高速道路上の複数レーンに対応する自動運転を導入。2020年には一般道における自動運転、さらに2022年にはドライバーを必要としない完全自動運転をローンチするとのスライドを示した。

プロパイロットパーキングを説明するスライド
自動車事故の原因の93%はドライバーのミスによるものという
完全自動運転に向けたロードマップ
プロパイロットは単眼カメラの採用などコストパフォーマンスが高いことを強調した

 ロードマップの実現に関して、久村氏は「半分はできているので問題ないですが、後半部分はクルマ会社だけではできなく、IT、インダストリーを含めて、いろんな人とコラボしなければならないし、もしかするとインフラに対しても協調をお願いすることになっていくと思います」との考えを述べた。

 また、自動運転のテクノロジーとしては、センシング、認識、決定、アクションというプロセスのなかで、認識が一番難しいという。

センシング、認識、決定、アクションという自動運転におけるプロセス

 ステージで一般公道での自動運転車のテスト映像を流した久村氏は「後ろにはコンピューターを山ほど積んでいて“おいおい”という状態(笑)。できるかできないかと言えば、テストはできています。ただし、チャレンジはいっぱいあって、ヨーロッパだと路上駐車しているクルマがあって、停車しているのか駐車しているのかを認識できるのか、渋谷のスクランブル交差点に入っていけるのかとか、香港の煩雑な街で認識できるのか、まだまだ問題があります」との印象を述べた。

さまざまな環境で周囲を認識できるのかが一番難しいという

 加えて「単に認識だけできればいいのかというと、人間はすごく予測をしています。この人はこっちに歩いてくるよねとか、目の前にクルマがあるけど見えないところに人がいるのは知っているよねとか、ここにレーンがあったはずだとか、短期的、中期的、長期的な記憶と予測ができる」と話した。

完全自動運転の実現には周囲を認識する機能のほか、周囲の人やクルマの動きを予測する機能も必要だという

 完全自動運転の実現に向けて、久村氏は「センサー、認知、予測制御技術みたいなものを含めてやっていかなければならないので、簡単ではないのが現状。そうは言っても“イッツ・ア・ドリブン”でやるしかないと思っているので、当然やっていきます。皆さんのご協力も頂きたい」との意気込みを語って、講演を締めくくった。