「Embedded Technology 2009」リポート Android採用カーナビやカーナビ向けARMプロセッサーなどが展示 |
組み込み機器向けの技術などを展示する「Embedded Technology 2009」(ET2009)が、神奈川県横浜市のパシフィコ横浜において、11月18日~20日の3日間にわたり開催されている。
組み込み機器というと、医療向け機器、ATM、キャッシュレジスター、ネットワーク機器といった機器に組み込まれているものが代表的だが、自動車に搭載されるカーナビも、最近では汎用のハードウェアを利用して、そこに専用のソフトウェアを組み合わせて開発する方式が採用され、組み込み機器の1つである。ET2009の会場においても、自動車関連の展示がいくつかあったので、それらの展示内容をお伝えしていく。
■中国のソフトウェアベンダーが展示したAndroidベースの組み込みカーナビ
中国 南京のアーチャーマインドテクノロジーは、同社によれば“世界初”となるAndroid OSベースのカーナビゲーションシステムを展示した。といっても、実際にはAndroidベースのナビゲーションシステムという意味では、Androidを提供しているGoogle自身がカーナビソフトを公開しており、これをAndroidが動作しているスマートフォンにインストールすることで、カーナビとして利用することができる。
今回アーチャーマインドが公開したAndroidベースのカーナビシステムはそうしたスマートフォンベースやPND(Portable Navigation Device)のようなものではなく、最初から自動車に組み込んで利用することを前提にしたシステム。つまり、自動車のセンターコンソールに出荷時に組み込んで利用することを前提したものになる。そうしたカーナビのOSにAndroidを採用した製品として“世界初”ということなのだ。
説明員によれば、ARM9ベースのアプリケーションプロセッサーを採用し、GPS/3G/Wi-Fiなどの通信モジュール、さらにはオーディオ/ビデオを処理するプロセッサなどを搭載しており、その上でOSとしてAndroidを動作させている形になっているのだと言う。機能としてはGPSナビゲーション、音楽/ビデオ再生、Webブラウザー、IM(インスタントメッセージング)、携帯電話による通話、SMS(ショートメッセージサービス)などが用意されているという。
現時点では中国市場を前提に設計されており、2010年の2月に実際に中国の自動車メーカーのカーナビシステムに組み込まれて出荷されることになると言う。アーチャーマインドテクノロジーでは、Androidをベースにカーナビシステムとして最適化しており、ソフトウェアパッケージの形で自動車メーカーなどに提供される。
なお、すでに述べたように、このAndroidカーナビゲーションは中国市場での展開を前提としているため、日本語などの多言語のシステムは今の所用意されていないとのことだ。今回日本で展示したのは日本のナビゲーションメーカーなどで、今後中国市場に展開していきたいパートナーを探してということだった。
アーチャーマインドテクノロジーのAndroid採用カーナビシステム | 同社のAndroidカーナビの概要を説明するスライド | ナビゲーション画面 |
電話の画面 | SMSの画面 | 音楽の再生画面 |
Webニュースの閲覧画面 |
■NECエレクトロニクスはカーナビ向けARMプロセッサーなど展示
半導体メーカーのNECエレクトロニクスはARMベースのIVI(In-Vehicle Infotainment)向けアプリケーションプロセッサーの最新版を2製品を展示した。
EMMA Carシリーズと呼ばれる2つの製品がそれで、上位モデルの「EC-4260」と下位モデルの「EC-4250」が用意されている。日本のカーナビ市場ではSH系のプロセッサーが大勢を占めているが、今後はソフトウェアの互換性などを重視してARMやx86系のプロセッサーを採用する動きが特に海外では増えてきており、そのような状況に対応する製品がこの製品だと言う。
上位モデルのEC-4260は400MHzのARMプロセッサーを3コア搭載し、133MHzのOpenGL/VG対応のGPU(Graphics Processing Unit、3D/2Dを表示するLSI)も内蔵しているヘテロジニアスマルチコア(異種アーキテクチャーコアを統合したマルチコア)になっており、外部バスとしてPCI Expressに対応するなど、ハイエンドなカーナビ向けのスペックとなっている。
下位モデルのEC-4250は400MHzのARMプロセッサを2コア、2DとOpenVGに対応したGPUを搭載したやはりヘテロジニアスマルチコア構成になっている。こちらはEC-4260に比べるとアナログのインターフェースが省略されたり、ストレージのインターフェースの数が減らされたりとなっているが、ミドルレンジのIVIには十分なスペックとなっている。
このほかNECエレクトロニクスは、車載LANのデモを行った。車載LANを利用することで、これまでの車載デバイス間の通信に利用されてきたケーブルの多くを削減することが可能になり、結果的にエコにも貢献するとのアピールがされていた。
■ARMブースでは車載向けARMプロセッサーとQNXソリューションを展示
組み込み業界で大きなシェアを持つプロセッサーアーキテクチャーが、イギリスのARMによるものだ。ARM自身はプロセッサーの製造販売は行っておらず、半導体メーカーにIPと呼ばれる知的財産をライセンス供給することで、収益を上げる仕組みとなっている。このため、ARMのブースには、半導体メーカーのFreescale Semiconductorなど、ARMのパートナー各社が展示を行っていた。その中で自動車関連の展示を行っていたのが、Freescale SemiconductorとOSメーカーのQNXソフトウェアシステムズになる。
Freescale Semiconductorが展示したのは「i.MX51アプリケーション・プロセッサー」。i.MX51は800MHzのARM Cortex-A8コア(ARMアーキテクチャファミリーのコア、iPhone 3G Sなどにも採用されている)をベースに、OpenGL/VGのGPUなどを1チップにしたもので、WXGA(1280x768ドット)表示でデュアルディスプレイ表示ができるようになっていると言う。この製品は車載向けも意識しており、稼働保証温度が車載にも耐えうるように広く取られているのが特徴となっている。
QNXソフトウェアシステムズが展示したのは、同社がすでに車載向けとしても提供している「QNX CAR」の最新版だ。最新版ではAdobe Flashがサポートされ、Adobe Flashに対応したウィジット(小型のアプリケーション)を実行することができるようになっている。ARM向けとしては、前出のFreescaleのほか、Texas InstrumentsのARMプロセッサーにも対応していると言う。Googleの提供する地図や近所のガソリンスタンドの情報といったWebサービスにアクセスする様子などがデモされていた。
Freescale Semiconductorが展示したi.MX51アプリケーション・プロセッサー。強力なARMプロセッサーとOpenGL/GVのGPUを搭載しながら、車載利用可能な稼働保証温度を実現 | ||
QNXソフトウェアシステムズのAdobe Flashに対応したウィジットをカーナビ上で実行するデモ | QNXのデモでは、Googleが提供している地域情報のサービスをカーナビから利用する様子をデモ |
(笠原一輝)
2009年 11月 19日