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キヤノン「EOS-1DX Mark II」でモータースポーツを撮ってみた
オリジナルJPEG画像やRAWデータも掲載
2016年9月28日 19:52
2016年の春、キヤノンのフラグシップデジタル一眼レフカメラ「EOS-1DX Mark II」が登場したので、サーキットやラリーなどモータースポーツの現場で使ってみました。
といっても、このいわゆるEOS1D系と呼ばれるキヤノンの歴代モデルは昔からサーキットでの撮影の定番モデルで、コースサイドやメディアセンター(プレスルーム)でこの最新カメラを見かけるのも特別珍しい光景ではありません。ゆえに今回は実績十分なモデルの使用レポートですが、改めてその実力を探ってみたいと思います。
ちなみに、現時点では「Mark II」とつかない「EOS-1DX」も併売という形をとっていますので念のため記しておきます。
※掲載写真にその旨を記してあるものに関しては、カメラで生成されたオリジナルJPEG画像も見られますのでぜひご自身の目で、ご自身の基準で判断していただければと思います(すべてピクチャースタイルはスタンダード)。
前置きはさておき、今回使用するカメラ、EOS-1DX Mark IIの仕様をおさらいすると、従来モデルとなるEOS-1DXの1790万画素より200万画素ほど記録画素数が増え、最大で約2020万画素(5472×3648ピクセル)となり、RAWは3段階、JPEGは4段階の記録画素数が選べます。と、何故いきなり画素数から話を始めるかと言うと、筆者にとってここが最も関心がある部分だからです。
キヤノンのデジタル一眼レフカメラのラインアップは一部のエントリー機を除き、センサー面積が半分以下のAPS-Cのモデルですらその大半が2000万画素を超えるモデルとなっています。EOS-1DXの1790万画素というのは、このメーカーで最大のセンサーを持ちながら最小の記録画素数でした。そして“この最小の記録画素数こそが高感度撮影時の品質の高さにつながっているのでは?”と考えていた筆者にとって、画素数アップのもたらす影響が最も気になるところであったのです。
いざサーキットへ
という訳で、夏の鈴鹿8耐のナイトシーン。なお、今回の使用レンズは「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」と「EF200-400mm F4 IS II USM エクステンダー1.4x」という価格帯の違う望遠ズーム2本を中心に使用してみました。
ISO32000で後続車のライトを浴びている白いつなぎの階調の粘り具合、ノイズ処理の自然さも素晴らしく、ピントを合わせている右腕の黄色い部分周辺を見る限り、暗所でのAF性能も良好です。
今度は日中の写真2枚です。AF、画質ともに満足のいくもので、懸念した高画素化による画質の低下は見られず、むしろ高画素かつ高品質に進化。写真を撮る道具として確実に進化しているようです。
ただし、気になった部分も少々。俯瞰気味に撮った赤白のマシンは-1/3、背中側から撮ったカットは-2/3と、“若干抑え気味の露出を与えようとした割には少々明るめだなぁ”と感じていたので、調べてみると出荷時に設定されているオートライティングオプティマイザが「標準」となっていたことが影響しているようです。機能は暗部のつぶれ防止や明部の飛び防止の補正ではなく、画像全体を整えているようで、ヒストグラムのカーブを見る限りその両端の補正にとどまらず、カーブ全体がなだらかになっています。
参考までに、同時記録していたRAWデータで、オートライティングオプティマイザをOFFにしたものもオリジナル画像として掲載しておきますので比較してみてください。
リアタイヤまわりの暗部など特定の部分にとどまらず、全体的な雰囲気が大きく変わるのが分かります。わざわざマイナス補正したのにそれをまた補正されちゃった感じ……。すべての写真がそうなっているわけでもないのでちょっとコントロールしにくいですね。好みの領域かもしれませんが出荷時設定がそうなっているので、購入する方はちょっと頭の片隅に入れておいた方がいいかもしれません。
徐々に改善されていくフォーカスポイント
フルサイズデジタル一眼レフカメラの数少ないウィークポイントが、この中央に集中しているフォーカスポイントです。機構的なハードルが高そうな部分ですが、高速で移動する被写体を扱う写真を撮る上でフルサイズ機の高品質な画質と引き換えとはいえ、歯がゆく思っている部分です。フォーカスポイントの左右幅は1DXと同等ですが天地方向は広くなっています。ただし、天地方向はかつてモータースポーツで多く使われていたAPS-HサイズのEOS-1D Mark IVよりまだ若干狭いようです。
上の写真は光っているヘッドライトでピントを合わせていますが、やはりもう少し下をカットし、上側のコースを取り入れたいところです
GPS内蔵
EOS-1DX Mark IIにはGPSが内蔵されるようになりました。これは筆者のまわりにはその必要性を説く人がまったくいない装備なのですが、筆者自身は重宝しています。
筆者の場合、海外で行なわれるクロスカントリーラリー(ラリーレイド)の撮影もあるので、知らない土地の山奥やジャングルでの撮影時には、ほぼそこがどこだか分からなくなります。
もちろんそのデータがどこで撮影されたものかは作品のよしあしには直接関係ありませんが、写真が「記録」の道具でもある以上、デジタル撮影において日付や撮影時刻とともに撮影場所の情報が加わることは、記録として有益なことは言うまでもありません。
クロスカントリーラリーの撮影などは、かなり特殊な部類だと思いますが、モータースポーツ以外の、例えば鉄道写真であれ旅行であれ、結構便利だと思います。なお、スマートフォンさえあれば世界中かなりの地域で場所は特定できますが、1枚1枚の写真のExifに記録されることに大きな意味があると思います。だらしない筆者は、昔フィルムで撮った写真の正確な撮影地や日付がほとんど分からなくなっているのでこの機能は本当にありがたいものです。
参考までに、カメラに付属するソフト「Map Utility」で表示される地図をごらん下さい。
デジタルカメラの大敵、雨や埃対策
現在、プロの世界ではスタジオでの撮影でも多く利用されているEOSですが、かつての中判、大判カメラと違い本来は機動力こそが持ち味で、外で使うことも想定された35mm一眼レフカメラをルーツに持ちます。野外で使う以上、多少の雨や埃などが故障原因になるようでは困るのですが、最近のデジタル一眼レフカメラはその辺が非常に弱い印象を持っています。そういう意味で、このEOS1D系はその手の外的要因での故障の経験を筆者は1度もしていません。運不運ももちろんありますが、実はここが多くのカメラマンに支持される理由の1つかもしれません。
総評
ズバリ、キヤノンのフラグシップに相応しい画質と能力を備えたカメラだと思います。その画質は高感度時にさらに際立ち、暗所での撮影には非常に力強く手持ち撮影の領域を拡大してくれるでしょう。また、元々高いレベルにあったEOS-1DXを想像以上に細部まで煮詰めた感もあります。
ピクチャースタイルのシャープネスの項目では、専用ソフト「Digital Photo Professional」同様の「強さ」「細かさ」「しきい値」が設定できるのは、JPEG完結で撮影する方などにはかなり大きな進化をした部分だと思います。また、同様にレンズ光学補正の簡潔化など、言い出せばきりがないほど細部にわたって進化しています。それは、今回のテーマ「モータースポーツの撮影」には直結しないものもありますが、歓迎すべきことです。
記録メディアに「CFast」を採用したことについては、将来の伸びしろとして歓迎するものの、現時点ではバックアップ時のわずかな時間短縮以外に大きなメリットを感じていないのが正直なところ。
というのも、筆者はあまり連写を多用せず、連写をしてもせいぜい2~3枚の連続撮影にとどまるので、1日のカット数がそれほど多くないのです。また、動画を撮らないので転送時間がそもそもそれほど長くないのです。それゆえ、カードリーダーを万が一忘れてしまった場合の入手のしにくさ、CFカードと共用のカードリーダーがこの原稿執筆時点ではないので、2個持ち歩かなければならないわずらわしさの方が勝ってしまいます(カメラとPCを直結すれば済むことではありますが……)。
あとは欠点といえば……。握りやすいとはいえ、やっぱり重いことですかね。
と、まあ少々思うところもあるとはいえ、満足度は高いカメラだと感じます。最後に、画質評価用にオリジナルJPEG画像とRAW画像を掲載しておきますのでご自身の環境で確かめていただけると幸いです。
2輪レースを撮影する
上の写真、このくらい距離にゆとりがあると開放5.6でもボケが生きてきます
上の写真2枚、立ち位置に制限があっても別の表現ができるズームレンズはやはり便利です。また、レンズ交換が簡単にできない場所やしないほうがいい環境においても大変有効です。