特別企画

【特別企画】奥川浩彦のキヤノン「EOS 7D Mark II」でモータースポーツを撮ってみた

キヤノンが動きもの撮影ユーザーに贈る最新デジタル一眼レフカメラ

 キヤノンからデジタル一眼レフカメラ「EOS 7D Mark II」が発売された。連写性能は10コマ/秒、65点全点クロスAFセンサーを搭載するなど、モータースポーツの撮影に最適な仕様となっている。9月の発表時(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140916_667002.html)には11月上旬出荷とアナウンスされていたが、10月30日に前倒しして出荷が開始された。Car Watchでは10月に開催された世界耐久選手権(WEC)と世界ツーリングカー選手権(WTCC)にEOS 7D Mark IIを持ち込み、実際にサーキット撮影を行ってみた。

 なお、今回使用したEOS 7D Mark IIは正式発売前の試作機なので、性能、画質などは製品版と異なる可能性があることをご了承いただきたい。

EOS 7D Mark II

 元々モータースポーツをはじめとする動体撮影に適していた「EOS 7D」の後継機であるEOS 7D Mark IIが、5年の歳月を経てどのように進化したのかをサーキット撮影の視点で確認していきたい。撮影した画像はすでに世界耐久選手権、世界ツーリングカー選手権のフォトギャラリーに掲載されている。EOS 7Dで撮影した画像も混在していることに加え、レタッチしてフルHDサイズにリサイズされているが、Exifのデータを残してあるのでまずは参考にしていただきたい。

2014 FIA 世界耐久選手権 第5戦「富士6時間耐久レース」フォトギャラリー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/photogallery/20141015_671344.html
「2014 FIA 世界ツーリングカー選手権シリーズ JVCKENWOOD 日本ラウンド」フォトギャラリー
http://car.watch.impress.co.jp/docs/photogallery/20141029_673681.html

EOS 7D Mark IIとEOS 7Dの仕様を比較

 簡単にEOS 7D Mark IIとEOS 7Dのスペックを比較してみよう。動体撮影として気になるのはAF測拠点が19点(全点クロス)から65点(全点クロス)になったこと。連写速度も8コマ/秒から10コマ/秒となっている。レリーズタイムラグは0.059秒から0.055秒に短縮された。

 有効画素数は1800万画素から2020万画素とわずかに高画素化が図られている。拡張感度はISO 12800からISO 51200、測距輝度範囲の下限はEV -0.5からEV -3となり、暗所でのAF性能が向上している。

EOS 7D Mark IIEOS 7D
センサーサイズAPS-C(22.4×15.09mm)APS-C(22.3×14.9mm)
有効画素数2,020万画素1,800万画素
記録画素数(L)5,472x3,648ピクセル5,184×3,456ピクセル
連写速度10コマ/秒8コマ/秒
常用感度ISO100-16000ISO100-6400
拡張時最高感度ISO51200ISO12800
AF測距点65点(全点クロス)19点(全点クロス)
測距輝度範囲EV -3~18EV -0.5~18
映像エンジンDIGIC6×2DIGIC4×2
液晶モニター3型/約104万ドット3型/約92万ドット
記録メディアCF、SD/SDHC/SDXCCF
内蔵ストロボガイドナンバー11ガイドナンバー12
使用バッテリーLP-E6N(1865mAh)LP-E6(1800mAh)
撮影可能枚数(常温)670枚(ライブビュー250枚)800枚(ライブビュー220枚)
大きさ(W×H×D)148.6×112.4×78.2mm148.2×110.7×73.5mm
本体質量820g820g

外観

 まずは外観から見ていこう。正面を見るとEOS 7Dでは絞り込みボタンがレンズマウントの向かって右下だったが、EOS 7D Mark IIでは左下に変更されている。「EOS 5D Mark III」も同様に左下となっていたが、実際に使用してみると、左手で望遠レンズの先端を持った状態でも右手の小指で操作が可能だった。サーキットで金網のボケ具合を確認する際にはこの方が操作性がよい感じがする。

 上面を見て目が行くのは、ストロボのアクセサリーシュー前方にあるGPSアンテナ部の突起だ。正直に言ってダサイ。EOS 7Dと2台同時使用している際は機種判別の目印となる利点はあるが、もう一工夫がほしかった。左側のモードダイヤルの中心にはロック解除ボタンが設置された。表示パネルは記録カードがCFとSD系のダブルスロットになったことでレイアウト変更されているが、使用時に特に違和感はなかった。

正面。レンズマウントの左下にあるのが絞り込みボタン
上面を見るとGPSアンテナ部とモードダイヤルのロック解除ボタンが追加された

 背面はEOS 7Dから大幅に変更されている。こちらもEOS 5D Mark IIIに近いイメージで、液晶モニターの左側に拡大/縮小ボタン、レーティングボタンなどがレイアウトされている。液晶モニターの右上にあるマルチコントローラー部には測距エリア選択レバーが追加された。その下にはクイック設定ボタンも追加されている。

 液晶モニターは縦横比とサイズが変更されている。スペックもEOS 7Dの約92万ドットからEOS 7D Mark IIでは約104万ドットとなっている。メニューの項目もAF系は大幅に変更された。ボタン配置、操作系全般はEOS 5D Mark IIIと酷似しているので、EOS 5D Mark IIIと2台持ちで撮影する場合は統一した操作が可能となるが、一方でEOS 7Dと2台持ちする場合は撮影画像の拡大などで一瞬操作に迷うことがありそうだ。

EOS 7D Mark IIの背面
EOS 7Dの背面
メニューもAF系を中心に変更されている

 さらにEOS 7D Mark IIでは防塵防滴性能が向上している。メーカーによると防塵防滴性能はEOS-1D XとEOS 5D Mark IIIの中間くらいになったとのこと。内部構造を見ることはできないが、カードスロットカバーを開けると防塵防滴構造の一端が確認できる。EOS 7D Mark IIではダブルスロットとなったカードスロットをゴム素材がグルッと囲むように設置されているが、EOS 7Dではスポンジ素材が縦に設置されているだけで、外部からのホコリや水分などに対して無防備な印象だ。

 筆者は今年7月の鈴鹿8耐でスタートディレイの原因となった突然の豪雨に見舞われ、EOS 7Dのオートフォーカスと液晶表示が不能となるトラブルに遭遇した。天候の影響を受けやすい野鳥、電車、飛行機、モータースポーツなどアウトドアの撮影では防塵防滴性能の向上はありがたい。

防塵防滴個所
EOS 7D Mark IIではゴム素材(赤枠)がカードスロットを囲っている
EOS 7Dは手前にスポンジ素材(赤枠)があるだけ

ISO感度とノイズ

 一般的に高感度ノイズは、同じ画素数のデジカメであればフルサイズよりAPS-Cの撮像素子を搭載した方が不利となる。同じくAPS-Cの撮像素子を搭載するデジカメ同士であれば画素数の多い方が高感度ノイズは不利となる。その点ではEOS 7Dよりわずかながら画素数の増えたEOS 7D Mark IIは不利となるが、撮像素子や映像エンジンの技術的進歩によって高感度ノイズが低減される可能性はある。

 EOS 7D Mark IIでは「マルチショットノイズ低減機能」が搭載された。マルチショットノイズ低減機能は4枚連続で撮影された画像から、自動的に1枚の画像を合成してノイズ低減を行うものだ。動く被写体には使用できない機能だが、夜景などの撮影で三脚を使用する場合は強烈なノイズリダクションが期待できる。

 今回はEOS 7D Mark IIの通常撮影、EOS 7D Mark IIでマルチショットノイズ低減あり、EOS 7Dの通常撮影で高感度ノイズを確認してみた。EOS 7D Mark IIはISO400からISO51200まで、EOS 7DはISO400からISO12800まで撮影している。

 EOS 7D Mark IIの通常撮影では、ISO800からジワジワとノイズが見え始め、ISO1600までは筆者は許容範囲。ISO3200でグッとノイズが増え、それより上の感度ではノイズが増えて解像度が低下していく。EOS 7Dと比較すると、ISO800、ISO1600は重箱の隅をつつくような見方をすればEOS 7Dの方がノイズが多く見えるが大差はない。ISO3200からその差はハッキリと見え始め、EOS 7Dの最高感度であるISO12800のノイズはEOS 7D Mark IIのISO16000とISO25600の中間あたりといった印象だ。

 マルチショットノイズ低減機能を使うと低感度でもやや解像感が失われた絵になるが、ノイズリダクションの効果は絶大でISO1600あたりからノイズの差がハッキリとしてくる。ISO3200では歴然とした差となるが、ISO6400を超えるとマルチショットノイズ低減機能を使用した画像は解像感がグッと失われる印象だ。ノイズだけ見れば通常撮影のISO3200とマルチショットノイズ低減オンのISO12800が同程度なので2段分の差となるが、解像感が失われる点は考慮したほうがよさそうだ。

EOS 7D Mark II(高感度撮影時のノイズ低減OFF)

ISO400
ISO800
ISO1600
ISO3200
ISO6400
ISO12800
ISO16000
ISO25600
ISO51200

EOS 7D Mark II(マルチショットノイズ低減ON)

ISO400
ISO800
ISO1600
ISO3200
ISO6400
ISO12800
ISO16000
ISO25600
ISO51200

EOS 7D(高感度撮影時のノイズ低減OFF)

ISO400
ISO800
ISO1600
ISO3200
ISO6400
ISO12800

光の回折(小絞りボケ)

 次は光の回折、小絞りボケの確認だ。光の回折、小絞りボケとは画素ピッチが小さくなると、撮影時に絞り込むことで画像がボケる現象だ。物理的な現象なので高画素化が進んだ現在のデジカメでは避けることができない。同じ解像度(画素数)であれば撮像素子が小さいほど小絞りボケの影響は大きいので、フルサイズよりAPS-Cのほうが影響を受けやすい。

 EOS 7D Mark IIではF16からボケはじめ、F22、F32ではかなりボケてしまう。EOS 7D Mark IIはEOS 7Dより高解像度化されているが、実際に比較撮影してもほとんど差はなかった。サーキット撮影では絞り込みたいと思うことはないが、スローシャッターを切ると勝手に絞り込まれることは多い。気になる場合はNDフィルターなどを使用して絞りすぎないように注意したい。

F2.8
F4.0
F5.6
F8.0
F11
F16
F22
F32

歪曲収差補正

 撮影時のレンズ光学補正はEOS 7Dは周辺光量補正のみで、EOS 5D Mark IIIは周辺光量補正と色収差補正に対応していた。EOS 7D Mark IIでは周辺光量補正と色収差補正に加え、新たに歪曲収差補正が可能となった。レンズの補正データはあらかじめカメラ本体に30本分ほど登録されているが、未登録のレンズは「EOS Utility」を使って追加登録できる。

EF24-70mm f4L IS USMを歪曲収差補正なしで撮影
EF24-70mm f4L IS USMを歪曲収差補正ありで撮影

連写性能

 EOS 7D Mark IIの注目の機能が10コマ/秒の連写性能だ。EOS 7Dではバネで駆動していたミラーを、EOS 7D Mark IIではモーター駆動に変更し、さらにミラーが戻るときの速度を制御してミラーバウンドを抑える機構となっている。シャッターもボールベアリングを駆動部分に使って高速な動作を実現している。

 10コマ/秒で動作する条件は、シャッター速度1/1000秒以上、絞り開放、EOS iTR AF非使用、フリッカー低減非使用などとなっているが、確認のためシャッター速度を変化させながら連写枚数を確認してみた。撮影モードはマニュアル、絞りは開放。AFもマニュアルとし10数秒の連写を行い、そのなかからExif情報をみて10秒間で撮影できた枚数をカウントした。1枚くらいはバラ付きが出るのかと思われたが、シャッター速度1/1000秒から1/500秒まではピッタリ100枚で10コマ/秒となった。1/400秒から徐々に枚数が落ち始め、1/100秒で9コマ/秒、1/40秒で8コマ/秒と、低速シャッターでもそこそこの連写性能がキープされていた。

シャッター速度コマ/秒
1/100010.0
1/80010.0
1/64010.0
1/50010.0
1/4009.8
1/3209.7
1/2509.6
1/2009.5
1/1609.4
1/1259.3
1/1009.0
1/808.8
1/608.6
1/508.2
1/408.0
1/307.5

 実際にサーキット撮影で使用した印象は、予想どおりEOS 7Dの8コマ/秒よりはるかに高速だと感じた。被写体の見やすさはやや見辛くなった感じだ。マシンを連写しながら追う際に、マシンフロントのエンブレムやボディーに描かれた文字を認識しにくくなったのだが、これはEOS 40DからEOS 7Dに変更した際も感じたので、使っているうちに目が慣れるのかもしれない。

記録メディア

 EOS 7D Mark IIは高速連写が可能になった。EOS 7Dと同じように撮影をすれば記録枚数、記憶容量が増えることになる。今回の撮影は1066倍速 128GBのCFと600倍速 128GBのSDXCメモリーカードを用意して行っている。この2種類のメモリーカードに、手元にあった200倍速のCFと200倍速のSDHCメモリーカードを加え、各メディアの連続連写枚数と書き込み時間を確認してみた。用意したメディアは以下の4種類。

レキサー プロフェッショナル1066倍速 CF 128GB
レキサー プロフェッショナル600倍速 SDXC 128GB
レキサー プラチナII 200倍速CF 16GB
サンディスク ウルトラSDHC 30MB/s(=200倍速) 4GB

 撮影はカメラを三脚に固定し、マニュアルモード、マニュアル露出に設定。記録画質はRAW+JPEGラージファインとJPEGラージファインとした。連写が遅くなるところまで撮影して撮影枚数を記録し、そこからLEDが消灯するまでの時間を計測した。

RAW+JPEGラージファイン

記録メディア連写枚数書込時間(秒)
1066倍速CF205.5
600倍速SDXC1810
200倍速CF1850
200倍速SDHC1850

JPEGラージファイン

記録メディア連写枚数書込時間(秒)
1066倍速CF0.0
600倍速SDXC2508.5
200倍速CF6535
200倍速SDHC6534

 RAW+JPEGラージファインでは連写枚数の差はあまりなかったが、書き込み時間は10倍近い差となった。JPEGラージファインでは1066倍速CFは数分間の連写が可能で容量いっぱいまで連写を続けることができる。シャッターボタンから指を離すと同時に書き込みが終了した。600倍速SDXCでは連写が止まる枚数が200~300枚とバラ付きが生じた。複数回の平均として250枚としている。連写枚数はバラ付いたが、その後の書き込み時間はほぼ同一となった。JPEGラージファインだけの撮影でも200倍速では書き込みにかなり時間を要するので、連写を多用する人は高速なメディアを用意するとシャッターチャンスを逃すことがなさそうだ。

AFエリア

 EOS 7D Mark IIではAF測距点の数が大幅に増え、合わせてエリアも広がった。特に横方向は実用上ほぼ左右いっぱいまでAFポイントが設定できるほどに広がっている。これによりフレーミングの自由度は劇的に向上した。EOS 7DのAFポイントと重ね合わせると左右方向に2列、左右端の上下も2列拡大していることが分かる。贅沢を言えば、全体の上下にもう2列ほどAF測距点を配置してくれればほぼ全域でAFを使用した撮影が可能となる。

EOS 7D Mark IIのファインダー
EOS 7Dのファインダー
重ね合わせるとAFエリアが大幅に広がったことが分かる

 撮影時のAFポイントを重ねた画像を見ていただくと、EOS 7Dでは不可能なフレーミングが可能になったことが分かる。3枚のうち右側の画像はEOS 7Dで撮影したもの。手前のエスケープゾーンは不要なので、AF測距点がもっと下にもあれば背景のメインスタンドの屋根をさらに入れて撮ることができたはずだ。

EOS 7D Mark IIではこのようなフレーミングも可能になる
EOS 7Dではこれが限界。手前のエスケープゾーンは不要なので、AF測距点がもっと下にもあればメインスタンドの建物を入れることができた

EOS iTR AF

 EOS 7D Mark IIには「EOS iTR AF」が搭載された。EOS iTR AFは被写体の顔や色を認識し、測距点が追尾する機能だ。65点自動選択AF時やゾーンAF、ラージゾーンAF時に有効となる。

 筆者自身はサーキット撮影でこの機能を使うことはないと思っている。5年前にEOS 7Dを導入した初日にゾーンAFを試してみたがしっくり来ず、領域拡大(1点+上下左右)をずっと使用している。と言うのも、フォーカスを合わせたいターゲットはフレームの中の小さな1点なのでゾーンAFでは領域が広すぎるのだ。

 具体的には、F1などのフォーミュラカーではドライバーのヘルメット、SUPER GTやツーリングカーなど箱車ではフロントノーズにAFポイントを合わせて撮っている。箱車を横から流し撮りをする際はゾーンAFでも問題ないと思うが、AFポイントが連写中にパラパラ移動するとターゲットに集中できないので使用していない。

 10月に撮影したF1、WEC、WTCCの実際に撮った画像のAFポイントを見ていただきたい。これらの画像はフルHDサイズにレタッチしてF1、WEC、WTCCのフォトギャラリーに掲載されている。

AFのターゲットはヘルメット。可能であれば最もAF性能の高いセンターの測距点を使用する。上部の空間は最終的にトリミングすることを前提に撮影
ターゲットはヘルメット。撮りたいのはバトン選手の目なので、ノーズなどにピントが合うと困る。センターの測距点でフレーミングが難しいときはAFポイントを移動する
フロントノーズにAFポイントを合わせて撮影(WEC)
この画像だけはEOS 7D Mark IIで撮影。ターゲットはフロントノーズ(WTCC)
ターゲットはフロントノーズ(WTCC)

 サーキット撮影では使用しないがほかのジャンルでは有効な機能かもしれない。EOS 7D Mark IIの発表会でターゲットとされた撮影ジャンルを見ると、最も多いのは野鳥の34万人、2番目が鉄道で30万人、以下スポーツが24万人、飛行機が20万人、野生動物が9万人と続き、モータースポーツが一番少なく6万人となっていた。ということで、野鳥と鉄道でEOS iTR AFを試すことにした。

撮影人口が最も多いのは野鳥で約34万人
鉄道は約30万人
モータースポーツは約6万人

 筆者はデジカメのレビュー以外で野鳥や鉄道を撮ることはないので参考程度に見ていただきたい。野鳥の撮影はEOS 20Dのレビューで撮って以来、およそ10年ぶり。10年前と同じ諏訪湖に撮影に出向いたが、季節が違うせいか飛んでいる野鳥を撮ることはできなかった。湖面を移動する野鳥を、最初は自分でAFポイントを移動させながら撮影。AFポイントの移動は1~2秒の時間を要するのでシャッターチャンスを逃がす可能性が高い。

 65点自動選択AFにすればAFポイントが野鳥を追尾してくれる。背景が湖面でスッキリしていることもその要因だが、EOS 7D Marka IIのAFエリアの広さも手伝ってフレーミングの自由度は絶大となった。今回は撮影できなかったが、青空をバックに飛ぶ野鳥も快適に撮影できそうだ。飛行機の撮影でも条件がそろえば楽に撮れそうな気がした。

自分でAFポイントを選択して撮影。野鳥が向きを変えるとAFポイントを変更するには1~2秒を要する
65点自動選択AFにすればAFポイントが野鳥を追尾してくれる

 次は鉄道の撮影。鉄道の撮影では2/3ほどは追尾できたが、1/3は追尾できなかった。色を対象に追尾するので赤い車両には強いと予想したが、特にその傾向は見られなかった。撮影場所は2個所で、それぞれに追尾できた例とできなかった例を紹介する。掲載した画像は連写した最初の1枚から一定間隔で6枚を使用している。

追尾できた例。最後の画像を見ると窓の暗い部分をターゲット色として追尾したように見える
追尾できなかった例。1枚目、3枚目は追尾しているように見えるが、4枚目から追尾できなかった
撮影場所を変更し、追尾できた例。5枚目までは赤色をターゲットとして追尾しているように見えるが、最後の画像は微妙な印象
追尾できた例。何色をターゲットとして追尾したかは不明
追尾できた例。シルバーの部分をターゲットとして追尾したように見える
追尾できなかった例。1枚目、3枚目、4枚目と追尾できたが、5枚目、6枚目は追尾できなかった

 鉄道を撮る人がどの設定を多用するのか分からないが、これらの撮影で車両が顔を見せた前半の絵が不要であれば、最初から後半のフレーミングを意識して右側のゾーンAFを使用した方が失敗する確率は減るような気がした。

 今回撮影を行った2個所のうち、後半の撮影ポイントは筆者の自宅の近所という理由で数年前から時々撮影をしている。撮影中に通り掛かる人から「今日は特別な車両が走るんですか」と聞かれることが増えた。筆者は遭遇したことはないが、多くのカメラマンが撮影に来るらしい。もし特別な記念列車なら、確率2/3では怖くて使えないといのうが正直な印象だ。もっと田舎の風景であったり、線路しか背景に入らないような場合には、背景と車両を明確に識別できて高い確率で追尾できるのかもしれない。

オートフォーカスの性能(鉄道編)

 最初のAF性能のテストは名鉄だ。三脚を使用しAFポイントはセンターの1点。ピントのズレがハッキリするように絞りを開放に固定している。夏場は陽炎で遠方の被写体にフォーカスを合わせることが難しくなるが、今回は10月下旬の撮影なので車両がセンターのAFポイントと重なったところから連写を行った。車両によりピントの合いやすさに差があることを考慮して、同じ車両が写っている画像を選択した。

 Exifデータを確認するとEOS 7D Mark IIは10コマ/秒、EOS 7Dは8コマ/秒で連写が行われているので、撮影開始から3秒間、30コマと24コマを評価の対象とした。最終の画像を見るとほぼ同じ位置まで車両が移動しているので、撮影開始位置と終了位置はほぼ同じと考えられる。

 撮影した画像は筆者の主観でピントの合い具合を○=ピントが合っている、△=ややピントがズレているが許容範囲、×=ピンボケで評価し集計してみた。

EOS 7D Mark II
車両1=×△△○○○△△×××○△△×××○○△△△△△○△××○○
車両2=××○○○△△×△○○○○○○○○○×△△△△○○××○△△

車両1:○=9、△=12、×=9 → ○の確率30%、○+△の確率70%
車両2:○=15、△=9、×=6 → ○の確率50%、○+△の確率80%
合計:○=24、△=21、×=15 → ○の確率40%、○+△の確率75%

EOS 7D
車両1=△××△△○○△×××××○○△△△△○○△△○
車両2=×××××○○○○△○○○○○○○○○○○△×○

車両1:○=7、△=10、×=7 → ○の確率29%、○+△の確率71%
車両2:○=16、△=2、×=6 → ○の確率67%、○+△の確率75%
合計:○=23、△=12、×=13 → ○の確率48%、○+△の確率73%

 ○の確率はEOS 7Dの方が高くなったが、○+△の確率は大きな差はなかった。○の数もほぼ同じ、○+△の数は45と35で連写性能で上回るEOS 7D Mark IIの方が多かった。

EOS 7D Mark II 車両1

EOS 7D Mark II 車両2

EOS 7D 車両1

EOS 7D 車両2

オートフォーカスの性能(サーキット編)

 サーキットでの撮影は富士スピードウェイで開催されたWEC(世界耐久選手権)と鈴鹿サーキットで開催されたWTCC(世界ツーリングカー選手権)で行った。撮影ポイントは富士スピードウェイのコカ・コーラコーナーの進入付近と鈴鹿サーキットの130Rの進入だ。どちらも至近距離をマシンが高速で走り抜けるポイントでイメージとしては新幹線を線路内で撮影するような位置関係となる。

富士スピードウェイのコカ・コーラコーナー進入の撮影ポイント
鈴鹿サーキットの130R進入の撮影ポイント

 撮影方法はAFポイントはセンターの1点(+上下左右の領域拡大)。一脚を使用し絞り開放で近付いてくるマシンを追従しながら連写した。追従する撮影者(=筆者)の技量が結果に影響するので、撮影枚数を増やしバラ付きを平均化した。

 一定時間に通過するマシンを全て撮影しているが、サイド・バイ・サイドやテール・トゥ・ノーズで走行するマシンは1台しか撮影できないので実際に撮影できた台数には差異がある。

マシン同士の距離が近いと1台しか撮影できない

富士スピードウェイ

 富士スピードウェイのWECで上位陣のラップタイムは1分半ほど。撮影した画像からExif情報を見て約2ラップ分の3分間に撮影した画像を抽出した。マシン同士の間隔により連写できる枚数と撮影開始点に差が出るため、連写した中からEOS 7D Mark IIは連続する5枚(=0.5秒間)、EOS 7Dは連続する4枚(=0.5秒間)を選択した。

 選択方法は連写した画像のAFポイントがズレる前からさかのぼって5枚、4枚とした。実際に撮った画像を見た方が分かりやすい。マシンが遠方にいるところから連写をはじめ、最後に筆者がAFポイントを合わせられなくなりフレームアウトしていく。AFポイントがズレた画像は除外しAFポイントがズレる1枚前の画像から5枚、4枚を選択する方法だ。

マシンが遠方にいるところから連写を開始
AFポイントをターゲットに合わせ追従
追従できた画像の最後5枚 or 4枚を選択する
AFポイントがズレた画像は除外した

 最終的に選択された画像はEOS 7D Mark IIが25台=125枚、EOS 7Dが21台=84枚となった。○、△、×で評価した集計結果は以下のとおりとなった。

EOS 7D Mark II
○ 34枚、△ 57枚、× 34枚
○の率 27%、○+△の率 73%、×の率 27%

EOS 7D
○ 20枚、△ 32枚、× 32枚
○の率 24%、○+△の率 62%、×の率 38%

 サーキットで撮影した画像は枚数が多いので1部だけ掲載させていただく。この5枚の評価は×△△△○とした。

この5枚の評価は×△△△○とした

 今回はAF性能の差がつきやすいように絞り開放、シャッター速度1/1000秒以上で撮っているが、通常の撮影ではシャッター速度1/320秒で撮るポイントだ。シャッター速度1/320秒にすると絞りがF8となりフォーカスは安定する。シャッター速度1/320秒で撮った画像を見ると、AFが合う確率は数割向上しているように感じた。

シャッター速度1/320秒、絞りF8と撮った画像

鈴鹿サーキット

 続いて鈴鹿サーキットで行われたWTCC。実際に撮ったのは併催されたスーパー耐久のマシンだ。WTCCは各セッションが短い。決勝も11周で行われたのでオートフォーカスのテストをしている間にレースが終わってしまい、本来の記事で使用する画像が撮れない。

 比較するとWTCCのポールタイムが2分5秒台。スーパー耐久の決勝のファステストタイムが2分3秒台。スーパー耐久は異なるクラスが混走するので、2分から2分半くらいのラップタイムでマシンが走行することになる。なのでスーパー耐久のマシンは5分間に撮影した画像を抽出した。

 撮影方法は基本的に富士スピードウェイと同じだ。130Rは路面に目印となるラインがある。ラインと言っても実際は立体交差の橋の継ぎ目なのだが、多くのマシンが最初の継ぎ目付近まで直進し、継ぎ目の前後でステアリングを切り込む。この継ぎ目のところからさかのぼって5枚or4枚を選択した。

1つ目の継ぎ目付近まで直進し130Rへ切り込んでいく
マシンが遠方にいるところから連写を開始
AFポイントをターゲットに合わせ追従
継ぎ目の位置に近い画像からさかのぼって5枚or4枚を選択
継ぎ目を超えた画像は除外

 付け加えるとコーナー手前なので、ここは減速区間。カメラのAFは被写体のフォーカスを検出してから実際に撮影が行われる間の被写体の移動を予測してピントを合わせている。一定速の撮影より加減速がある場合はピントがズレやすい。次の2枚の画像はブレーキング前とブレーキング中の様子でノーズが沈み込んでいることが分かる。

ブレーキングによりノーズが沈み込んでいる

 最終的に選択された画像はEOS 7D Mark IIが33台=165枚、EOS 7Dが38台=152枚となった。○、△、×で評価した集計結果は以下のとおりとなった。

EOS 7D Mark II
○ 112枚、△ 38枚、× 15枚
○の率 68%、○+△の率 91%、×の率 9%

EOS 7D
○ 60枚、△ 63枚、× 29枚
○の率 40%、○+△の率 81%、×の率 19%

 こちらも撮影した画像が300枚を超えるので1部だけ元画像を掲載させていただく。この5枚の評価は×△×△○としている。

この5枚の評価は×△×△○

 サーキットでのオートフォーカスの評価はEOS 7D Mark IIが10%ほど合焦率が高くなった。富士スピードウェイの結果より鈴鹿サーキットの結果がよかったのは、撮影場所の差、マシン速度の差に加え、マシンの形状の差によるものと思っている。フロントノーズが低く尖っているマシンよりフロントが立っている方がフォーカスが合いやすい。そのあたりの影響があったと予想している。富士スピードウェイでの撮影と同様、少し絞り込めばどちらの機種も確率はさらに向上すると思われる。

 今回、鉄道の撮影ではほとんど差がなかったが、サーキットの撮影では差がついた。評価対象の撮影枚数を大幅に増やしたことで運、不運による誤差が軽減できた感じもするし、実際に使用した感触もサーキット撮影の結果の方が正しい印象だ。

 5年前にEOS 7Dのレビューを行った際はEOS 40Dと比較をした。そのときも鉄道の撮影では「サーキットほどはEOS 7Dと40Dの差はほとんど感じられなかった」と記している。鉄道の撮影経験が乏しいこともあるが、ほぼ一定速で近付く鉄道では差がつきにくいということかもしれない。

唯一の不満はバッテリーの消耗

 EOS 7D Mark IIを使用して不満を感じた点は1つ。バッテリーの消耗の早さだ。スペックでは使用バッテリーがLP-E6(1800mAh)からLP-E6N(1865mAh)に容量アップされ、撮影可能枚数(常温)がEOS 7Dの800枚(ライブビュー220枚)から670枚(ライブビュー250枚)となった。ライブビューは増えているが通常の撮影は16%ほど少なくなった。

 実使用でEOS 7Dのバッテリーが無くなるまで撮ったことはないが、経験値では1万枚くらいは撮影ができる。なので、サーキット撮影の際もホテルや自宅で充電し、セッションの途中にメディアセンターで充電することはなかった。2台体制ということもあるが、これまで5年間、1日の撮影でバッテリーが消耗することはなかった。

 今回、撮影初日のWECで夕方にはEOS 7D Mark IIのバッテリーは残り1を表示した。EOS 7Dのバッテリーとは互換性があるのでセッション中に2台のバッテリーを入れ替えて撮影を続けるという過去にない経験をした。イメージとしては従来の半分しかバッテリーがもたない感じだ。撮影途中で充電ができないことは珍しくない。と言うかそれが普通だ。枚数を撮る人は予備のバッテリーを用意した方が安心だと思われる。

 筆者は5年前にEOS 7Dを導入し、EOS 7Dの2台体制となるまで3年間はEOS 40Dと2台体制で撮影をしていた。最初は半々くらいのイメージで撮っていたが、徐々にEOS 7Dを使用する比率が高くなり、最後は9対1くらいまでEOS 7Dの使用比率が高くなった。最後はEOS 40Dはレンズを運ぶためのストラップと化した印象だ。

 それはAF性能だけでなく連写性能、AFポイントなど総合的な性能差によるもので、今回の2レースでも徐々に同じ傾向を感じた。実際にWECのフォトギャラリーに掲載した72枚の内57枚がEOS 7D Mark II。WTCCも63枚中45枚がEOS 7D Mark IIで撮影している。EOS 7Dの2号機が2年前、その後1号機がお亡くなりになり3号機は1年半前に導入した。そのEOS 7Dが近いうちにレンズを運ぶためのストラップになりそうなのが怖いとすら感じている。

EOS 7D Mark IIの作例

奥川浩彦

パソコン周辺機器メーカーのメルコ(現:バッファロー)で広報を経て2001年イーレッツの設立に参加しUSB扇風機などを発売。2006年、iPR(http://i-pr.jp/)を設立し広報業とライター業で独立。モータースポーツの撮影は1982年から。キヤノンモータースポーツ写真展3年連続入選。F1日本グランプリ(鈴鹿・富士)は1987年から皆勤賞。