【特別企画】奥川浩彦の「EOS 5D Mark III」でモータースポーツ撮影に挑む(後編)
セパンに実戦投入。マシンなどの元画像を掲載


EOS 5D Mark IIIで撮影(クリックすると5760×3840ピクセルの画像が開きます)

 キヤノンから3月にEOS 5D Mark IIIが発売された。前編では高感度ノイズなどの静的な評価と電車の撮影によるオートフォーカス性能を評価した。後編となる今回は、夜の空港での撮影や新幹線、上海の街の写真なども紹介し、メインテーマであるEOS 5D Mark IIIがモータースポーツで使えるかをマレーシア、セパン・インターナショナルサーキットで撮った写真を元に評価してみたい。

 なお、後編はほぼすべての写真でサムネイルをクリックすると、EOS 5D Mark IIIは5760×3840ピクセルの、EOS 7Dは5184×3456ピクセルの元データを見ることができる。JPEGとはいえ、5MB強のデータになり、モバイル環境などでは注意していただきたい。

まずは夜の航空機撮影に挑戦
 EOS 5D Mark IIIの貸出機が届いたのは出国2日前。その日の午後に電車を撮影、夕方から空港に向かい夜の航空機を撮影、その足で名古屋、栄のオアシス21でISO感度のチェックを行った。後編のスタートは玉砕となった夜の空港での撮影だ。

 EOS 5D Mark IIIは高感度ノイズが減った。測距輝度範囲もEV-0.5から-2となり夜間のAF性能も向上。乗り物好きの編集長としては、夜の航空機撮影に使えるかをチェックしてきてほしい、という訳で、筆者は初めて夜の中部国際空港で撮影をすることとなった。かなりの無茶ブリ、当然撮影のノウハウはない。

 最初は駐機している機体を撮影。これは特に問題はない。前編で紹介したオアシス21の撮影でISO6400までは問題なく使えそうだという感触は得たが、それは空港を後にしてからのことで、この段階ではISO感度をどこまで上げるべきかの判断が難しい状況だった。

駐機している機体の撮影は特に問題なし

 標準ズームをEF300mm F2.8L IS II USMに付け替え、一脚も取り付け、いよいよ離着陸する機体の撮影だ。夜の空港は思いっきり暗い。航空機を照らす照明もないので、航空機自身のライトがわずかに機体を照らす程度だ。取り敢えず標準で上げられるISO25600に設定したが高速シャッターを切ることはできない。

 着陸する機体は滑走路の3分の1くらいで減速し、滑走路の中間付近にあるデッキの前に来る頃には徐行状態になり滑走路を外れてしまう。離陸する機体も小型機は3分の1くらいで離陸し、デッキ近くではかなりの高度となってしまう。大型機が離陸するときが最大のシャッターチャンスになりそうだ。

 ほどなくデルタ航空のジャンボ機が動き出した。ワンチャンスなのでシャッター速度を1/125秒に設定。離陸するジャンボ機を流し撮りしようと思ったが、大きな機体は滑走距離も長く、デッキ正面でも前輪が浮く程度。よく見れば前輪は浮いているが中途半端。シャッター速度1/125秒も流し撮りとは言えない程度の絵となった。

着陸機はデッキ前までに滑走路を外れてしまう滑走路へ向かうジャンボ機デッキの前では少し前輪が浮く程度。シャッター速度1/125秒では迫力なし

 近くにEOS 7D+400mmF2.8の望遠レンズ、無線機を持ったお兄さんがいたので撮り方を聞くと自由度の高い手持ちでシャッター速度は1/50秒という。35mmフィルム換算で640mmを手持ちで1/50……とても聞いたその場で真似できるレベルではなかった。

 大きな機体が離陸するのは残り1機。少~しシャッター速度を落として撮ってみるが失敗。夜の空港の初撮影はあえなく玉砕に終わった。写真の出来は見るべきものはないが、夜間撮影の高感度ノイズなどはその画像から想像していただきたい。出国直前、チェックイン後に70-200mmのレンズで撮った写真も一応掲載しておこう。

ラスト1機。デルタ航空の機体が滑走路に向かうISO25600、シャッター速度1/160秒では撮影。結果としてISO感度を下げもう少しシャッター速度を落としてもよかったかも
ISO25600、シャッター速度1/80秒で撮影。右上が明るいのはデッキ近くの電柱の照明の影響おまけだが空港へ向かう途中の新舞子で夕暮れを撮影
出国前に70-200mmのレンズだけ持ってデッキから撮影もう少し長いレンズが欲しかった
滑走路に向かうA330シャッター速度1/100秒はまぁまぁだが、デッキ付近では浮き上がらなかった小型機ははるか手前で離陸してしまうので縦位置で撮影

 動きものの撮影は、新幹線と前編とは別の場所の名鉄も撮っている。どちらもレンズを振って普通に撮ったものだが、AF性能の感触は100%ではないがかなり期待できるレベルだと感じられた。

上下線が撮れる小さな陸橋から撮影。上り車両
下り車両引きつけると上部の障害物がフレームアウトできる
名鉄を別の場所で撮影

上海での風景撮影など

2日目の朝、対岸の外灘から上海ヒルズや東方明珠塔を撮影。ずっとこんな天気だった…ガッカリ

 前編で書いたとおり、今年は上海経由でマレーシアに向かった。行きは上海で1泊、何か綺麗な景色でも撮れればと期待したが天候には恵まれなかった。

 上海には夕方到着。2年前から上海で働いている知人にガイド役をお願いした。EF24-105mm F4L IS USM用のNDフィルターが欲しかったのでカメラ店ばかり入っているビルへ直行。秋葉原のラジオデパートのカメラ版といった感じのビルで、小さな店を数店覗いて77mm径のND4を購入した。どうでもいい話しだが、日本人はND4=エヌディーフォーと発音することが多いが、中国人はエヌディースー(ND4)、エヌディーバー(ND8)と数字のところは中国語で呼んでいた。

 天気はわるかったが上海環球金融中心(通称 上海ヒルズ)の標高472mの100階展望台へ向かう。覚悟はしていたが、もやのかかった夜景をガッカリしながら撮影した。翌日は午前中は1人で地下鉄で移動し外灘へ。外灘から見る上海ヒルズや東方明珠塔(テレビ塔)は上海の定番の景色だが天候は回復しそうにないので、空気の影響の少ない近景を撮影。午後は知人と合流し上海動物園で撮影を行った。大した絵は撮れなかったがEOS 5D Mark IIIの画質の参考にしていただきたい。夜のフライトでマレーシアに移動。いよいよSUPER GT第3戦だ。

上海環球金融中心(通称 上海ヒルズ)を下から撮影100階展望台から88階建て金茂大厦、東方明珠塔を撮るが天気の影響は避けられない
ペニンシュラの正面ペニンシュラ1階のPRADAヨーロッパではよく見かける光景
上海浦東発展銀行外灘から地下鉄の駅に戻る途中のアパート。洗濯物が中国っぽい?
上海動物園は動物の撮影がしやすい印象
筆者は初パンダ。屋内はかなり暗め屋外の撮影。パンダは別格なのか柵だけでなく高いガラスで囲われていた。ガラス越しの撮影となりコントラストが低い
動きが速くフレーミングの余裕なし。日の丸構図だがEOS 5D Mark IIIの画質の高さは感じられるずっとこの姿勢だったのでAFポイントを移動しフレーミングするゆとりあり

SUPER GT第3戦セパンで、いよいよ実戦投入
 マレーシアのセパン・インターナショナルサーキットはクアラルンプール国際空港のすぐ近くに位置する。泊まったホテルもすぐ近くで深夜2時にチェックイン、朝8時過ぎにはサーキットに到着した。筆者の場合、ほとんどのサーキットは単独取材。撮影も原稿も1人で担当している。

 SUPER GTの場合土曜日に練習走行と予選、日曜の朝にフリー走行があり午後決勝となる。決勝以外の走行はフォトギャラリー用の写真を撮影し、決勝はレースリポートで使用する写真を主に撮影、レース展開が落ち着いたときはフォトギャラリー用の写真も合間をみて撮るといったスケジュールだ。

 決勝の撮影はレース展開を把握したいので、スカパー!の放送を聞きながら撮っている。富士スピードウェイ、鈴鹿サーキット、ツインリンクもてぎは場内でFM放送が流されているが、他のサーキットは場内スピーカーとなり、レース中は聞き取れない。

 そこで考えたのが、自宅で録画しているスカパーの生放送の音声を、家のパソコンを経由してSkypeで手元にあるiPhoneで聞くという方法だ。通信状況はサーキットの立地や各コーナーでも違うので時々聞き取れないことはあるが、上位陣のピットインや○号車と△号車が□位争いといったある程度のレース展開は把握できる。パケット通信なので国内も海外もそれぞれの定額の範囲内だ。

 とは言え、ゴールの順位が最初から分かることはなく、後方から追い上げて表彰台に登るケースも多いので、例え13位14位争いであっても取り敢えず目の前を通過するマシンは次から次へと連写して証拠写真を残している。今回のセパンでは6号車 ENEOS SUSTINA SC430、911号車 エンドレス TAISAN 911は最後尾から上位に来る予感はあったが、66号車 triple a Vantage GT3は伏兵といった感じで、連写した中に写っていた写真をレースリポートで使用している。

 さて、EOS 5D Mark IIIのAF性能をサーキットでどう評価するか。AF性能の差が出る条件を考えてみよう。1つ目はマシンの速度は速いほうがAF性能の差が出やすい。2つ目はマシンとの距離が近いほどAF性能の差が出やすい。大きくはこの2つだ。

 2つ目のマシンとの距離は実際の撮影では重要なポイントとなる。数字にしてみると、時速180kmで走るマシンは秒速50m、0.1秒間に5m移動する。マシンが200m離れていれば0.1秒間に200mから195mまで近付く。距離が50mなら50mから45m、マシンが20mまで迫っていれば20mから15mまで近付くこととなる。移動距離は同じ5mだが、近ければ近いほど比率は2.5%、10%、25%と高くなり、フォーカスの送り量も増えるしAFスピードの速さも必要となる。

 ストレートエンドでの撮影はエスケープゾーンが広いのでマシンとの距離がある。例えば富士スピードウェイの1コーナー、コカ・コーラ、ダンロップなどは正面からの撮影では距離はかなりありAFの追従は厳しくない。それよりも報道エリアに限られるがコカ・コーラの進入のコースサイドの方がAF性能が要求される。鈴鹿サーキットならS字の進入、デグナー立ち上がりの立体交差下などはコースに近く至近距離をマシンが通過するのでAF性能が問われる撮影となる。

富士の1コーナー。正面からは距離があるコカ・コーラの進入をコースサイドから撮影
鈴鹿のS字進入デグナー立ち上がりを立体交差下で撮影

 セパンはメインストレート、バックストレートに加え、3コーナーから4コーナー、6コーナーから7コーナー、8コーナーから9コーナーとストレートが何本もあるコースレイアウトだ。

 どのストレートもストレートエンドのエスケープゾーンは広く被写体までは遠くなる。今回AF性能を評価するための撮影ポイントに選んだのは4コーナーの手前、バックストレートの中間付近だ。どちらもすぐ横をマシンが駆け抜けていくためAF性能が問われるポイントだ。

セパン・サーキットのコース図
4コーナー進入をコースサイドで撮影。マシンは数m横を通過する

 まず、4コーナーで普通に撮った写真を見ていただこう。近付いてくるマシンを3~4枚連写。どの写真もCar Watchで使用する1920×1080には充分な大きさで撮ることができる。この写真のシャッター速度は1/320秒。シャッター速度を速くするとタイヤやホイールの回転が止まって見える。遅くするとブレる率が高くなりボツ写真が増える。

通常は数枚を連写する
3枚中、真ん中の写真をレタッチしフォトギャラリーに掲載

 同じ場所でもタイヤが見えない撮影なら1/500秒に上げることもあるし、もっと引きつけて左側の金網など、背景を流したいときは1/100秒に下げることもある。AFモードはセンター1点を使用し上下左右の領域拡大で撮っている。GTカーの場合はフォーカスはマシンの顔、フロントグリルやエンブレム付近に合わせている。フォーミュラカーの場合はドライバーのヘルメットに合わせることが多い。

 引きつけた写真を見るとフレームのセンターがマシンフロントに来るため、マシン後部がフレームギリギリとなる。と、通常の撮影は概ねこんな感じで撮っている。ちなみにこの5枚の画像の内、フォトギャラリーで使用したのは1枚だけ。毎レース1000枚以上の写真はお蔵入りとなる。

引きつけるとこの様な画像となる

 ここでの撮影は土曜午前の最初の練習走行。天気は曇りで、晴天よりはピントが合う率は高くなる。最初にフォトギャラリー用の写真を普通に撮影し、その後EOS 5D Mark IIIの評価用の撮影を行った。前編の名鉄の撮影は人的要素を排除するためにフレーミングを無視して撮影したが、今回は普段通り一脚を取り付けマシンのフロントを筆者が追う形で撮っている。当然、筆者の腕によるバラ付きが結果に反映されている。

 EOS 7DはEF300mm F2.8L IS II USMのみを使用したが、EOS 5D Mark IIIはEF300mm F2.8L IS II USMと×1.4のエクステンダーを使用した。おそらく撮像素子がAPS-Cからフルサイズのデジタル一眼レフカメラに買い替えた場合は、エクステンダーを使用するのは主な選択肢だと思われる。この時点でEOS 5D Mark IIIは420mmF4のレンズとなりやや不利な条件となるが、現実的な選択としては仕方ないだろう。

 シャッター速度は1/1600秒、絞りは開放に固定、EOS 5D Mark IIIはF4、EOS 7DはF2.8となっている。ISO感度はEOS 5D Mark IIIはISO200、EOS 7DはF2.8はISO100としレンズの差を調整している。ピンボケが出やすい絞り開放にし、高速シャッターでブレを軽減する設定だ。当然ホイールが止まって見える写真となるが、評価用の写真で他に使用する予定がないので問題ないだろう。

 実際の撮影は少し遠い位置からフレームアウトするところまで多めに連写している。最終的にフレームアウトする前の画像(全体がフレームに収まっている画像)とその前2枚の計3枚の連写画像を8種類のマシンで比べることとした。

 たまたまEOS 5D Mark IIIもEOS 7Dも同じマシンが写っていたので12号車、18号車、0号車、2号車、4号車、11号車、27号車、88号車の8台とし、気持ち程度だがマシンによるピントの合いやすさの差を同じにしている。

 各画像を前編と同じようにピントが合っていれば○、やや甘い場合は△、ピンボケの場合は×とした。前編でも書いたが、かなり主観的で筆者自身がもう1度見直すと評価が異なる画像もあるくらいアバウトな評価だ。同じ画像でも人によってはピンボケと判断したり、OKと判断したり基準は違うと思われるので、自分で判断したい方は1枚1枚元画像をチェックしていただきたい。

EOS 5D Mark III+EF300mm F2.8L IS II USM+×1.4エクステンダー


EOS 7D+EF300mm F2.8L IS II USM


EOS 5D Mark III:△△△ △○○ ○○× △△× ×○× ○○× ○○× △○△
EOS 7D:○×○ △△△ △△△ ○○○ △○○ ○○○ ○○× ○○○

 前編の名鉄の評価は連写枚数の差があったので率なども計算したが、今回は枚数が3×8=24枚と同じなので○△×の数を比べてみたい。

機種×
EOS 5D Mark III1086
EOS 7D1572

 集計した数値を見るとEOS 7Dのほうがよいという結果となった。前回の電車の撮影ではEOS 5D Mark IIIのほうが優れていたので予想外の結果となった。理由はレンズの差だと思われる。EF300mm F2.8L IS II USMのみを使用したEOS 7Dに対し、EOS 5D Mark IIIはEF300mm F2.8L IS II USMに×1.4のエクステンダーを使用したことが影響したようだ。特に最も距離の近い3枚目の写真にEOS 5D Mark IIIはピンボケが多く、AFの追従速度が足りないという感じがした。

 筆者はプライベートで撮っていたころは、できるだけフレーム全体を使用して撮るためにエクステンダーを使用していたが、最近は1920×1080で使用できる画像を撮ればOKという意識と、EOS 7Dが高解像度なのでトリミングの余裕があるため、エクステンダーを使用することはなくなった。今回使用したエクステンダーは筆者所有の旧型だが、エクステンダーも新しく「EXTENDER EF1.4X III」が販売されているので、それを使用すると異なる結果になったかもしれない。

 少し撮影現場の様子をご紹介しよう。報道エリア内の移動方法はサーキットにより異なり、鈴鹿、もてぎ、SUGOはセッションの間にコース内をバスで移動する。富士、オートポリスはコースに沿って周回路が用意されていて、そこをワンボックスカーやバスで移動する。セッション中も循環バスの様に周回しているので、走ってきたらそれに乗って次の撮影ポイントに移動できる。循環する方向はマシンと同じ方向となっている。

レンタルした原付でコースサイドを移動しながら撮影

 セパンはメディア用に乗用車が用意されコース脇の周回路を移動するのだが、特に方向はなく逆走も可能だ。今回は諸事情があってメディア用の車両が少ないため、現地で原付をレンタルしてコース脇を移動した。5000円ほど掛かったが、好きなときに好きな場所に移動できるので極めて便利。国内のサーキットでもこの方式を採用して欲しいと思うほど快適だった。

 このセッションは4コーナーで撮影を終えた後に7コーナーへ移動した。撮影ポイントで意識していることは絵のバリエーションを増やすことだ。今回セパンのフォトギャラリーでは69枚の写真を掲載したが、1カ所でできるだけバリエーションを増やさないと絵に面白味がなくなってしまう。

 7コーナーではシャッター速度1/80秒でアップの流し撮り、1/15秒でスローシャッターの流し撮り、1/500秒で正面、4コーナーと同じ様に1/320で進入のアップ、最後に後ろからと5つのバリエーションを撮っている。


1/80秒で普通に流し撮り1/15秒のスローシャッターで流し撮り正面から1/500秒で撮影
7コーナーの進入もコースサイドで1/320秒で撮影最後に後ろ姿を撮影

 午後の予選Q1は4コーナーから馬の背を越えてくるところを1/500秒で写し止める絵と、続く高速S字に駆け下るマシンを1/125秒で流し撮りで2つのバリエーション。スーパーラップは1台しか走らない特性を活かし1コーナーのターンしたところを正面から1/800秒で撮影。すぐに設定を変更し1/40秒で3コーナーへ駆け下る後ろ姿を流し撮りした。ちなみに正面の撮影は撮影モードをマニュアル、後ろ姿の流し撮りはシャッター優先で設定しモードダイヤルの変更で短時間に設定を変えている。

4コーナーから登ってくるマシンを正面から撮影駆け下るマシンを流し撮り
1コーナーをターンしたところを正面から撮影3コーナーへ向かうところを流し撮り

 撮影ポイントによっては簡単にバリエーションが増えることもある。日曜朝のフリー走行は4コーナーのイン側から撮影開始。1/60秒の流し撮りだが、進入、クリップ、立ち上がりと背景、光線が変わるので連写で数種類の絵を撮ることができる。

同じ場所で連写してバリエーションを増やせることもある

 さて、2回目のAF性能の評価はバックストレートでの撮影だ。セパンは鈴鹿の東コース、西コースの様にコースを2つに分けて使用できるサーキットだ。鈴鹿のバックストレートにピットがあるようにセパンもバックストレートにピットがあり、ピットウォールから撮影ができる。

 14コーナーから立ち上がったマシンは徐々にピットウォール側に近付いてくる。長いストレートなのでマシンによってラインのバラ付きはあるが、おそらく最高速に近い速度ですぐ横を駆け抜けていく。それをピットウォールの最終コーナー側で撮ってみた。

 今回はエクステンダーなし。焦点距離の差はあるがEOS 5D Mark IIIもEOS 7DもEF300mm F2.8L IS II USMだけで撮影している。絞りは開放のF2.8、マニュアルモードでシャッター速度は1/4000秒に固定している。シャッター速度の数値を見ても、写真を見ても分かるが、思いっきり快晴、日差しが痛いほどの晴天となった。

快晴になると陽炎の影響が出る

 これくらい晴れると空気がゆらぎ、遠景は陽炎の影響で撮影が難しくなる。特に報道エリアは撮影位置が低いので陽炎の影響がでやすい。例えば富士SWのコカ・コーラは観客エリアの土手で撮っていた頃はそれほど影響がなかったが、コースと同じ高さから撮るとゆらゆらになってしまい、晴天になるとガッカリすることがある。

 2回目の評価方法は同じ区間を通過する間に撮れた写真で比較してみた。具体的にはバックストレートの路面に書かれたスターティンググリッドとフィニッシュラインと思われる線を利用した。2輪用と思われる千鳥のグリッドの5列目とフィニッシュラインの間を対象とし、その前後は対象外とすることで同じ区間を走行するマシンに対するAF性能を評価した。

 連写性能の差があるのでEOS 5D Mark IIIはこの区間を通過する間に4枚。EOS 7Dは5、6枚を撮影している。ピットウォールはコース路面より数十センチ高いので少し見下ろす位置となるため、路面を見るとピントの位置が分かりやすい。

EOS 5D Mark III


EOS 7D

 ここでもピントを主観的、超アバウトな判定で○△×で評価してみた。路面のピントが合っている位置を見るとマシンの顔にもピントが合っていそうな写真もあるが、見た感じでピシってしていない画像は△としている。曇り空だったらもう少し高いスコアになったと思われる。

EOS 5D Mark III:×○○○ ×△○○ ×△○△ △△△× △×○△
EOS 7D:×△△△△○ ×××○○× △○×○○ ××△○○× ○○○××△

 EOS 5D Mark IIIは○が7枚、△が8枚、×が5枚。EOS 7Dは○が11枚、△が7枚、×が11枚。評価方法は前編の電車と同じ様にいくつかの方法で行ってみたい。まずは○を1枚、△を0.5枚と換算し合焦率をすると

EOS 5D Mark III:7+4=11 11/20=55%
EOS 7D:11+3.5=14.5 14.5/29=50%

○△はすべてOKという基準なら

EOS 5D Mark III:7+8=15 15/20=75%
EOS 7D:11+7=18 18/29=62%

○△の合計枚数は

EOS 5D Mark III:7+8=15
EOS 7D:11+7=18

 あくまで計算ルールによって変化する数字だが、率ならEOS 5D Mark III、枚数ならEOS 7Dのほうが優れているという結果となった。

 さて、AF性能以外で感じたことも書いておこう。今回、APS-Cとフルサイズのカメラを混在で使用してみると、焦点距離の違う2台のカメラが混在するのは一長一短だと感じられた。

 現在、サーキットで使用しているレンズは300mmF2.8と70-200mmF4がメインで、時々17-85mmの標準ズームも使用している。ピットウォークでレースクイーンを撮るときは、昨年までは100mmF2の単焦点レンズがメインだったが、今年から85mmF1.8に切り替えている。

 普段はAPS-Cが2台なのでレンズの焦点距離はどちらのカメラを使用しても同じとなる。コースサイドでは300mmと70-200mmを使用するので35mmフィルム換算にすると112-320mm+480mmがAPS-C2台のカバーレンジだ。1台がフルサイズになると112-320mm+300mmと焦点距離が重複するか、70-200mm+480mmと大きな隙間ができてしまう。こまめに互いのカメラのレンズを交代させれば70-320mm+480mmとカバーレンジを拡大することもできるが実際のフィールドではレンズ交換は面倒臭い感じがする。逆に広角端が112mmから70mmになることで標準ズームを持たずに撮影に出られるという期待もある。

 前編の冒頭で書いたように、EOS 40Dの後継機としてもう1台EOS 7Dを買うか、いつ出るか分からないEOS 7Dの後継機を待つか、今回浮上したEOS 5D Mark IIIを買うか、3つの選択肢を考えている。今回EOS 5D Mark IIIを使用してみてカメラ本体のAF性能の高さは感じられたが、望遠レンズが主体となるレース写真ではAPS-Cのレンズの焦点距離が1.6倍になるメリットが大きいことを改めて感じたというのが正直な感想だ。

 EOS 7Dは8月に大幅なファームウェアのバージョンアップ(http://dc.watch.impress.co.jp/docs/news/20120628_543386.html)が予定されている。発売からまもなく3年。そろそろ後継機が登場するという期待もある。センサーサイズが違うのでEOS-1D X、EOS 5D Mark IIIと同じAFシステムが搭載されることはないだろうが、AF性能の向上など進化したEOS 7Dの後継機が出れば間違いなく購入するだろう。

 後継機に対して筆者の勝手な希望を言えば、AFのポイントをもう少し四隅まで広げてほしいと感じている。画面の隅に被写体を置いて撮影したいシーンは結構あるものだ。現状は菱形に配置されるのが当たり前になっているが、横長の長方形に配置してくれると撮りやすさが大幅に向上すると思われる。

 さて、最後にレースクイーンの写真をお見せしよう。日曜の午前中のセッションが終了し、原付でパドック付近まで戻ってきたらレースクイーン専門媒体がエヴァンゲリオンレーシングの2人を撮影していた。チームスタッフやエヴァンゲリオンレーシングを運営するラナエンタテインメントの社長さんがいたのでしばし立ち話。筆者が原付に乗っている写真はこのとき携帯で撮ってもらったものだ。

 コースサイドから戻ってきたのでストロボなどは持っていなかったが、EOS 5D Mark IIIとEF300mm F2.8L IS II USMの組合せで2人のレースクイーンを撮らせてもらった。綾波レイ役の水谷さんは自然光だけだが、アスカ役の千葉さんは撮影が終わったレースクイーン専門媒体の方が親切にレフ板をあててくれている。

 突然の展開、初めてフルサイズ+サンニッパでレースクイーンの撮影。結果は被写界深度が浅過ぎ、もう少し絞って撮ればよかったと反省した。

パドックへ戻る途中でレースクイーンを撮影。この2枚に関しては1920×2880ピクセルにリサイズしたものとなるこちらは土曜のピットウォークで撮影

 EOS 5D Mark IIIはAF性能だけでなく、高感度での低ノイズ、高解像度、小絞りボケ耐性など魅力的なカメラであることは間違いないだろう。完成度が高く普通に使う人には超お勧めと言えよう。しかし筆者のように偏った撮影をする場合は、連写性能、APS-Cの焦点距離1.6倍のメリットは捨てがたく、目の前にEOS 7Dが置かれれば、そちらを持ってサーキットに出掛けることになりそうだ。


【お詫びと訂正】記事初出時、レースクイーンの画像を元解像度で掲載しておりましたが、諸般の事情により1人の写真については、1920×2880ピクセルにリサイズしたものに変更しました

EOS 5D Mark IIIで撮影(クリックすると5760×3840ピクセルの画像が開きます)

(奥川浩彦)
2012年 7月 9日