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高橋学のキヤノン「EOS 5D Mark IV」でモータースポーツを撮ってみた

オリジナルJPEG画像を掲載

 2016年秋に登場したキヤノンのフルサイズセンサー搭載機「EOS 5D Mark IV」をサーキットで使いモータースポーツ撮影の実力を探ってみました。

 初代EOS 5Dはフルサイズならではの高画質が持ち味でしたが、一方で連続撮影速度は3コマ/秒と抑えられモータースポーツ等の撮影には少々不向きなイメージがありました。しかしながら2012年に登場した「EOS 5D Mark III」では連続撮影速度が6コマ/秒と高速化、またCFメモリーカードに加えSDメモリーカード(SD/SDHC/SDXC)も利用できるダブルスロットを装備するなど大きくスペックアップを果たしプロのモータースポーツの現場でも見かけるようになりました。

 そして今回テストするEOS 5D Mark IVはさらに高速化した7コマ/秒の連続撮影能力、同社のフラグシップモデル「EOS-1DX Mark II」と同等のAFシステム、EOS-1DX Mark IIをはるかに超える約3040万画素のセンサーを備えるなど大きな進化を果たし登場しました。そんな5Dシリーズの末裔Mark IVを今シーズンのモータースポーツの開幕から早速現場に持ち込んでみたという訳です。

 冒頭からこう言ってしまうのもナンですが率直に言って撮る前から、まあ問題ないだろうとは思っていました。かつて、前モデルとなるEOS 5D Mark III(現時点でも現行製品)をモータースポーツの現場に持ち込んだとき、当時筆者が使っていた「EOS-1D Mark IV」との連続撮影速度やバッファー容量の違いだけを意識して撮影するだけで、操作フィーリングこそ大きく違うものの、その仕上がりには大きな問題を感じなかったように記憶しているからです。

 そんな訳で最初から心配せずに臨んだ今回のテストは少々重箱の隅をつつきながらの撮影になってしまった感もありますが、いつもの現場に持ち込んだいつもの個人的な感想として導入を検討されている方の参考に少しでもなれば幸いです。

EOS 5D Mark IV + EF16-35mm F2.8L III USM
今回主に使用したEF500mm F4L IS II USMの重量は3190g。巨大ですが実際に手にしてみると意外なほど軽く感じます

7コマ/秒に高速化された連続撮影能力と進化したAF

 モータースポーツ撮影に臨む人にとって最も気になるのはやはりココではないでしょうか?その答えは……ズバリ問題ありません。EOS-1DX Mark IIと同じセンサーを使用したというAFはAIサーボAFにおいてもしかりと被写体を追従してくれますし、残念ながら今回は夜間のレースはなかったものの少なくともツインリンクもてぎのトンネル程度の低照度下においてはなんら問題を感じませんでした。より高画素化が進み今まで以上に高い精度が要求されるであろうEOS 5D Mark IVのAFは高速で向かってくるマシンをしっかり捉えます。一方で逃げていく被写体に関してはまだ不安定さも感じたのが正直な所です。この辺はEOS-1DX Mark IIでも同じような傾向がみられる部分でEOS 5D Mark IV特有の弱点とは思いませんがもう少し進化を望みたいところではあります。

 そんなAF性能を持つEOS 5D Mark IVですがもちろん14コマ/秒の速度を誇る同社のフラグシップEOS-1D X Mark IIとは同じではありません。その違いは以下のEOS 5D Mark IVによる連続写真でご確認ください。

EF500mm F4L IS II USM 1/640sec f6.3 AIサーボAF:Case4(岡山国際サーキット SUPER GT公式テスト)

 岡山国際サーキットのリボルバーコーナーを駆け下りるSUPER GT GT500マシン「KEHIN NSX GT」です。1コマ目は小さすぎて、3コマ目は大きすぎ。つまりGT500クラスの車速だとコーナーによっては連続撮影をしても2コマ目のみセレクトすることとなります。ベストな瞬間を切り取ることこそ写真の基本だと思いますが、14コマ/秒のカメラでこれらのコマの間にもう1枚ずつ撮れれば後続車などがいた場合、現実問題としてその重なり具合などを考慮したセレクトの余地ができたりします。そういう極めて消極的な、でも現実的には違いもあります。言い換えればその程度しか差はありません。シーンによっては7コマ/秒が生きることも多々ありますしEOS 5D Mark IVはモータースポーツにおいても必要十分な連続撮影速度を得たと言ってもよいと思います。そもそもGT500より速いマシンなどそう多くありませんし。

【EOS 5D Mark IV オリジナル画像(カメラ生成)】EF500mm F4L IS II USM 1/200sec f14 AIサーボAF:Case1(鈴鹿サーキット ファン感謝デー)
EOS 5D Mark IVのAFは低輝度下でも不安のないハイレベルなものです【EOS 5D Mark IV オリジナル画像(DPP4.5により生成)】EF500mm F4L IS II USM 1/320sec f10 ISO 500 AIサーボAF:Case1(ツインリンクもてぎ スーパー耐久シリーズ)
ちなみに、上の写真を純正ソフトDigital Photo Professional(DPP)4.5で+2補正してみました。大きな破綻も見られず優秀だと思います

気になるオーバー3000万画素の実力

 5060万画素という超高画素モデル「EOS 5Ds」/「EOS 5Ds R」の存在ゆえか大きな話題にはならないもののEOS 5D Mark IVの6720ピクセル×4480ピクセルというサイズはかなり巨大です。RAWデータなら1枚で30MBを超え画像解像度を350dpiに維持してもなおA3サイズをカバーするその画像の品質はどんなものか、確かめてみました。

 輝度差の大きい被写体、高感度撮影時のノイズ、いずれも筆者の目には高画質をウリとして生まれた5Dシリーズの末裔として期待を裏切らない素晴らしいものだと感じます。ただし画質については個々の要求度の違いが大きいと思われますので、カメラで生成されたJPEG画像をそのまま掲載しました。輝度差の大きい被写体や高感度で撮影したもありますのでファイルサイズは大きいのですが是非ご自身の目で採点してみてほしいと思います。

 贅沢を言うならば明るすぎる日中に絞り込まずにスローシャッターが使えるよう低感度側の拡大も望みたいところです。ちなみに低感度側は製品出荷時の設定がISO100となっていて手動で設定を変えなければL(ISO50相当)が使えませんので晴天時でもスローシャッターが必要なモータースポーツ撮影には注意が必要です。

【EOS 5D Mark IV オリジナル画像(カメラ生成)】EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM 焦点距離170mm 1/160sec f6.3 ISO 6400(富士スピードウェイ SUPER GT公式テスト)
【EOS 5D Mark IV オリジナル画像(カメラ生成)】ISO 4000
【EOS 5D Mark IV オリジナル画像(カメラ生成)】ISO 4000
【EOS 5D Mark IV オリジナル画像(カメラ生成)】ISO 250
【EOS 5D Mark IV オリジナル画像(カメラ生成)】ISO 800 EF16-35mm F2.8L III USM 2sec F8 長時間露光のノイズ低減:しない 高感度撮影時のノイズ低減:標準
【EOS 5D Mark IV オリジナル画像(カメラ生成)】ISO 32000 EF16-35mm F2.8L III USM 1/20sec F8 長時間露光のノイズ低減:しない 高感度撮影時のノイズ低減:標準
ISO 800 2sec F8(100%切り出し)
ISO 2500 0.6sec F8(100%切り出し)
ISO 10000 1/6 sec F8(100%切り出し)
ISO 20000 1/13 sec F8(100%切り出し)
ISO 32000 1/20 sec F8(100%切り出し)
ISO感度の範囲は出荷時100-32000に設定されていますが、手動でL(50相当)-H2(ISO 102400相当)まで設定変更できます
撮影結果が暗いときやコントラストが低いときに明るさ・コントラストを自動的に補正する「オートライティングオプティマイザ」は出荷時には「する(標準)」となっていますが、かなり明るめに補正がかかる傾向があるので明確な撮影意図があるときには「しない」に変更することをお勧めします。
写真左はオートライティングオプティマイザを「しない」、写真右がオートライティングオプティマイザを「する」。※比較画像は同一画像をDPP4.5で設定を変えて生成しました
「オートライティングオプティマイザ」「しない」
「オートライティングオプティマイザ」「する(標準)」
「オートライティングオプティマイザ」「する(標準)」+ DPPにてハイライトを抑え背景のスタンドをはっきりさせた
EOS 5D Mark IVからカメラ内レンズ光学補正に歪曲収差が加わりました。筆者はDPPでこの補正をかけることが多いのですが、形の補正ゆえ微妙に画角が変化してしまう可能性があるので注意が必要です。※比較画像は同一画像をDPP4.5で設定を変えを生成しました。写真右が補正を加えたものですが補正後はリアバンパー、レースクイーンの左肩がわずかに切れてしまっています

再びAFの話

 動く被写体や暗い場所での能力が向上したというEOS 5D Mark IVのAF性能は素晴らしく精度面でも約3040万画素機の高い要求を満たしてくれることは前述のとおりですが今度は使い勝手の話を少々。まずは精度や低照度下で能力が上がったという測距点ですがフルサイズ機はおしなべて配置される範囲はまだまだ狭いようですしEOS 5D Mark IVも例外ではありません。現場ではもう少し外側にあれば、と思うシーンは多々ありました。上下方向に拡大されたというそのエリアの進化は歓迎すべきものですがその範囲は今のところEOS 5D Mark IIIユーザーが悔しがる程ではないと思います。

EOS 5D Mark IV のAFセンサー配置はEOS 5D Mark IIIより天地方向に拡大されています
EOS 1DX MarkII のAFセンサー配置はEOS 5D Mark IVと同じ
EOS 5D Mark III のAFセンサー配置(画像は全てDPP4.5のスクリーンショット)

 動くものを主要な被写体としている筆者がいつも悩むのがAFのカスタム設定。キヤノンのほかの機種同様EOS 5D Mark IVもCase1からCase6までさまざまなパラメータが用意されていていろいろと試してみるのですが筆者の環境下ではどれも劇的に変化する印象がないのです。

 まわりの同業者の方々にも相談してみるとCase4(被写体が急加速/急減速するときのモード)、Case6(被写体の速度変化と上下左右の動きが大きいときのモード)、そしてCase1(汎用性の高い基本的な設定)あたりの声がありましたがモードを変えると全然撮れなくなってしまう、って程の差はみなさん感じていないように思えました(まあ、企業秘密なのかもしれませんが)。

 ちなみにこれらのモードにはサッカーやフィギュアスケート、新体操などのアイコンが配されているのですが、それらのスポーツと較べれば自動車の動きはその方向やスピード変化においてはあまり複雑ではないのだろうと思います。この辺はアイコンに描かれた競技をいつか撮影して試してみたいと思います。ちなみに筆者はCase1を中心に使っています。

モータースポーツ撮影では使用頻度の高いAIサーボAFの特性は細かく設定が可能ですが向かってくる被写体、追いかける被写体、いづれもこれがベスト!と自信を持って言えるほどの決定打は見つかりませんでした
向かってくる被写体【EOS 5D Mark IV オリジナル画像(カメラ生成)】EF500mm F4L IS II USM 1/160sec f11 AIサーボAF:Case1(ツインリンクもてぎ スーパー耐久シリーズ)
追いかける被写体【EOS 5D Mark IV オリジナル画像(カメラ生成)】EF500mm F4L IS II USM 1/800sec f6.3 AIサーボAF:Case4(岡山国際サーキット SUPER GT公式テスト)

 また、今回のテストで意外なほど役立ったのがAFの自動選択:EOS iTR AFにおける顔優先モード。サーキットでの撮影ではクルマばかりではなく選手やレースクイーンなど人物撮影も多いので、コンパクトカメラやスマートフォンではすでに当たり前の顔認証AFを筆者も今回仕事に取り入れてみました。なかなか便利で仕事においても積極的に使う価値を見出せました。というかこの辺はむしろスマートフォンで写真を楽しんでいる人の方がはるかに進んでいて単に筆者が遅れていた部分なのでしょう。

測距エリア選択モード:自動選択。ミカ・ハッキネンと談笑するジャン・アレジ。アレジに合っていたピントが横を向いた途端奥の通訳の女性に移りました。その補足能力は良くも悪くも高くきめ細かいようです(DPP4.5のスクリーンショット)
ワンショットAF 顔+追尾優先AF。両手を掲げてハイアングルからのノーファインダー撮影でもしっかりピントが合いました(DPP4.5のスクリーンショット)

その他諸々

 その他諸々などというと余談のように感じるかもしれませんが、モータースポーツにおけるAF性能や画質に関しては冒頭で述べたとおりあまり大きな心配をしていなかった筆者が感じたこの諸々のことがが案外大切な部分だと思ったりもしています。

 まずはボディ。ほんのわずかな差でしかありませんが筆者が日常使っている1DX系ボディよりも少々グリップが太く感じます。個人的かつ些細な問題ではありますがスローシャッターを切るときなどの微妙なシャッターボタンの押しにくさはテスト終了まで慣れることはありませんでした。筆者の手が小さすぎると思うのですが、自分の手が小さいと思っている人はカメラ店やサービスセンター等でじっくり握り、シャッターを押してみることをおすすめします。テクノロジーがどんなに進化しても結局カメラは手で持って使う道具ですから。

 あと、フラグシップ機と比較するのはナンセンスだとは思いますがあえて触れれば、シャッターのタイムラグ、ファインダー像の消失時間ともにEOS-1DX MarkIIより長いようです。実はこの辺は慣れでカバーできる範疇であり、かつEOS-1DX Mark IIとは価格が違うといえばそれまでですが、EOS 5D Mark IVだってデジタル一眼レフカメラとしては決して安価な部類のものではないので一応お伝えしておきます。新しいミラー振動制御システムを採用したというシャッターフィーリングや音も独特なものでこちらもカメラ店やサービスセンターで思う存分手の感触や耳で味わってみるのもいいかと思います。

 余談ですが、近い将来デジタルカメラはミラーレス化がさらに進み、電子シャッターの採用によりシャッターやミラーの振動も音もファインダー像の消失も一気に解決してしまうかもしれません。それはインフラの開発や高い安全性を問われる自動車のEV化よりはるかに早いスピードで訪れてしまうような気もします。そんな時代に光学的に被写体を目で捉え機械的にシャッターを切る伝統的な一眼レフカメラは機能に加え肌触りや心に響く音を伴ない所有欲をくすぐるような存在であってほしいと思います。

1DX系ボディより微妙に太く感じるグリップ。実は終始気になっていた部分だったりします

 話を元に戻し今度はメリットです。まずは何より最後発のカメラでありながらキヤノンではすでに採用実績のあるCFastカードを採用せず、CFと世界中のどこにいても比較的入手しやすいSDメモリーカード(SD/SDHC/SDXC)のダブルスロットを採用したこと。さらにファイルサイズが大きいEOS 5Ds/5Ds Rも同様です。その理由は分かりませんが個人的には大歓迎です。

 数値性能は高性能化においてもちろん大切なことだとは思っていますが、やはりどこでも入手しやすく、共用はオススメはしないもののほかの多くのカメラとの互換性があるSDメモリーカードの採用はメリットが大きいと感じます。CF・SD両方のカードに対応したカードリーダーも豊富にありますし、PCによってはSDメモリーカードを直接利用できるスロットを備えたモデルも少なくありません。また、今回飛躍的にファイルサイズが大きくなったEOS 5D Mark IVですがバッファが一杯になって撮影に支障が出るような機会は1度もありませんでした。

 5Dシリーズ初のGPS内蔵は記録する道具として筆者は高い評価をします。いつ、どこで、は記録・情報伝達において非常に大切な要素です。モータースポーツにおいてもそれは同様で、特に海外のクロスカントリーラリー(ラリーレイド)等においてはそう感じます。またモータースポーツに限らず旅行のお供としても、子供の成長記録にも非常に有効だと思います。

CFと世界中のどこにいても比較的入手しやすいSDメモリーカード(SD/SDHC/SDXC)のダブルスロットを採用したメリットは個人的には大きいと思います

 以上、極めて個人的な印象を交えながら(いや、そんな話ばかり?)EOS 5D Mark IVについて記してきましたが、総評としてはモータースポーツの分野においても優秀なモデルだったと感じました。何よりも画質がいい。そしてAFも優秀。とにかくデジタル一眼レフカメラとしての基本性能が高い。また、今回のテストでは触れられなかった部分も多い膨大な機能の追加。それでいて前モデルより軽量化を果たし、背面の液晶のタッチパネル化でより直感的な操作も可能となりました。

 高次元で全てのバランスが取れている超優等生。そんなカメラがEOS 5D Mark IVでした。

【EOS 5D Mark IV オリジナル画像】
【EOS 5D Mark IV オリジナル画像】
【EOS 5D Mark IV オリジナル画像】