ニュース
アンシス、「ドライバーを楽しませるメーター開発」も紹介した自動車業界向けセミナー開催
「ラピッドプロトタイピング」は開発時間短縮に加え、自動運転車向けのHMIにも活用可能
2016年10月6日 08:50
- 2016年9月28日 開催
アンシス・ジャパンは9月28日、自動車のシステム開発に携わる人に向けた自動車業界向けセミナー「システム開発の信頼性と安全性の問題を解決するために」を東京都内で開催した。
自動車開発の現状としては、運転支援システムの高度化や環境規制の強化、さらに安全性や快適性などの要望などいくつもの課題が次々に登場している。そうした要件を満たすためクルマに実装されるECU(エレクトロニックコントロールユニット)の数は数百という単位になっており、それに関わるシステム群もどんどん巨大化。ソフトウェアに書かれるコード行数は数千万から1億行とも言われ、一部のクルマはそのシステムの大きさから「翼のない航空機」と例えられるほどになっているという。
今後もさらに高度な運転支援システムが登場することが予想されており、これまで以上にシステム開発の難易度と仕事量が増大すると想定される。そのために現場で求められているのが開発のスピードアップだが、それを実現する一端となるのが、今回紹介するグラフィックメーターのデモ機だ。
これは半導体商社の豊通エレクトロニクス、ハードウェア会社のアイテック阪急阪神、エンジニアリングシミュレーションソフトウェア企業のアンシスの3社が共同開発したもので、特徴は「モデルベース開発」というものを使用しているところ。
このモデルベースとは、製品化に向けて要件を書き連ねた仕様書では分かりにくい細部のイメージなどをカバーするため、仕様書を絵として表示させるもの。今回のメーターでいうと、例えば「スピードメーターの刻みは20とする」「最大表示は240とする」「シフトのセレクトレバー情報を表示する」などの要件を、完成形の全体イメージとして表示する自動モデリングツールが用意された。これは「アイテージ」というIT系企業が作ったもので、「HMI自動生成ツール」と呼ばれていた。
このツールを使って構成したモデルを実際に作りたい絵として見るには、アンシスの「スケード」という組み込みソフト開発環境ツールを使う。この初期段階はハードウェアとの接合面があるのでハードウェアに強い技術者が必要だが、スケードを利用するとその作業は従来と比べて大幅にスピードアップできるという。
ちなみにどれくらいの差があるかというと、従来の作り方では仕様書をプログラマーが読んでコードを打ち、それを検証、修正して実際に動かすまでにふた月ぐらい掛かることもあったが、今回の開発環境では仕様書からモデルベースを作り、それを検証、実装するまで1日~2日もあれば可能で、1回できあがってしまえば、次からは10分ほどの作業時間で済むこともあるという。
これは「ラピッドプロトタイピング」(高速な試作)と表現されるもので、とくにメーターパネルは開発段階で「ここの配置をもっと見やすくしよう」とか「この要素を追加しよう」などの変更が出やすい部分なので、打ち合わせで出たアイデアをすぐ目で確認でき、その場で合意が取れるラピッドプロトタイピングの導入は非常にメリットが大きい。
例えばメーターに使う色も、PCで見たときとクルマで使うディスプレイでは発色や見え方に差があることもあり、メーターが動作したときのイメージも予想と違うこともある。そこでそれを確認するため、今回の開発環境ではアイテック阪急阪神のEUCテスト装置「CAN TOOL2」を使って別のディスプレイで実際にメーターを動作させ、最終成果物がどうなるのか実機で確認できるところまで開発環境を整備している。
とはいえ、こうした技術は開発現場では重宝されるだろうが、完成した製品を購入するだけのユーザーの立場ではあまり関係ないことに感じるかもしれない。たしかにこのツールを開発期間の短縮だけに使っていればそうなるが、今回のグラフィックメーター開発では、開発期間を短縮したことで生まれた時間をメーター自体の作り込みにまわしているのが特徴だった。
また、セミナーでは今回のメーター作りのコンセプトが「クルマに愛着を持ってもらうための『なにか』をメーター機能に持たせること」であることも紹介された。このことついて、開発の中心的な存在である豊通エレクトロニクスの楠木氏は、ひと昔前のカーカスタムで楽しまれていた追加メーターの増設を例として挙げ、「こうしたらもっとかっこよくなる」とか「これがいい」といった感覚を純正メーターにも取り入れることが必要ではないかという考えを示した。
それともう1つ、今後は自動運転の実行状態で乗員を安心させるためのHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)が必要になってくると言われているだけに、今までの常識に囚われずに「メーターの次に来る環境」を作る新しいアイデアを出すことも必須項目と言える時代になってきていると解説された。
ちなみに豊通エレクトロニクスは自動車業界向けの半導体商社(来年からは取り扱い範囲を拡大)なので、ユーザーが買いたくなるような魅力あるクルマを生み出すための開発環境を作ることも業務の一環。そんな立場から見て「おそらく、今までのメーターのようにメーターの技術者がデザインしているだけでは、新しい世代のユーザーに響くものが生まれにくいのでは」というのが楠木氏の意見。そして「メーターを作るとき、これまでのようにメーカーに意識が向いたもの作りではなく、ユーザーに受けることを重視したい」とのことだった。
そこで一例として見せてもらえたのが、下の写真にもあるちょっと風変わりなメーター画面。これはクルマのエンジニアが考えたものではなく、ゲーム業界のエンジニアが手がけたものだ。そう聞くとなるほどと感じるデザインで、これまでのメーターとはまるで違うテイストで視覚的に楽しい。日本にはこういったゲームやイラストの大きな業界があるので、そこにいる人と力を合わせることもクルマに新しい魅力を持たせるためには必要ではないかと考えているという。そういった人が出したアイデアも、今回のツールを使うことで形にすることが容易なのだ。
最先端のクルマは便利になっているが、一方で機械的な要素が強く、道具的に感じられる面も見受けられる。今回紹介したスケードを中心とした開発環境で作られるグラフィックメーターに関しては、例として紹介された“ゲーム画面風デザイン”のように「人のアイデア」が目に見える形になるものだけに、運転支援などと同じ最先端技術でありながら、ユーザーレベルでも親しみやすく、今後に期待が持てる技術という印象だった。ここから作り出されるメーターが製品として世に出ることを大いに期待したい。