ニュース

アンシス、「ANSYS 2019 R1」説明会。MATLABやSimulinkからのインポート機能など改良で一気通貫のMBDを強化

2019年2月1日 開催

アンシス・ジャパン株式会社 カントリーマネージャー 大谷修造氏

 米国のソフトウェアメーカー ANSYSの日本法人であるアンシス・ジャパンは2月1日、都内の同社日本オフィスで記者説明会を開催し、主力製品である「ANSYS」の最新版となる「ANSYS 2019 R1」に関する説明を行なった。

 ANSYSは数値解析を中心としたCAE(Computer Aided Engineering、コンピュータを利用した製品の設計・開発などのこと)ソフトウェアで、日本の自動車メーカーでも構造、熱、電磁波などの複雑なCAEの演算などに活用されている。

 同社は近年、そういったANSYSの得意分野だけでなく、すでに日本の自動車メーカーでも導入が進んでいるMBD(Model Based Development、コンピュータ上のモデルを利用した製品開発のこと)の上流から下流まで一貫したソフトウェアの提供を実現すべく、新しいソフトウェアコンポーネントをリリースしている。今回発表したANSYS 2019 R1にはそうした新機能が搭載されている。

パイクスピーク向けのEVレーシングカー開発にも利用されているANSYS

 アンシス・ジャパン カントリーマネージャー 大谷修造氏は、独フォルクスワーゲン グループが行なっている、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(米国のロッキー山脈にあるパイクスピークを上るタイムで競うモータースポーツイベント)へのEV(電気自動車)での挑戦に使われた車両「フォルクスワーゲン I.D. R Pikes Peak」の設計にANSYSが利用されたと説明するビデオを紹介。ANSYSが一般向けの車両だけでなく、フォルクスワーゲン I.D. R Pikes Peakのようなレーシングカーで、かつEVの設計にも利用されていることを説明した。

フォルクスワーゲンのパイクスピークへの挑戦

 大谷氏は「業界では自動運転、5G、IoTなどのメガトレンドが発生している。その中でANSYSはお客さまのチャレンジを助けるようなソリューションを提供していきたい」と述べ、パーベイシブシミュレーション、買収戦略、戦略的パートナーシップ、OEM供給といったキーワードを挙げて、より使いやすいシミュレーションソフトウェアを顧客に提供するためにさまざまな手を打っていくと説明した。

アンシス・ジャパン株式会社 アプリケーションエンジニアリングマネージャー中嶋進氏

 引き続き、アンシス・ジャパン アプリケーションエンジニアリングマネージャー 中嶋進氏が、ANSYSの中心ソフトウェアである汎用熱流体解析ソフトウェア「Fluent」について説明した。

 中嶋氏は「Fluentの2019 R1ではユーザビリティを大きく改善した。ユーザーインターフェースを改善し、例えば環境変数の中で言語を切り替えることができるようになった」と述べ、言語を日本語に変更できるようになったり、ユーザーインターフェースのテーマが選べるようになったり、演算に利用するデータがドラッグ&ドロップでインポートできたりするようになるなど、利便性が向上していると説明した。また、その他にもシミュレーションの新しい機能として、パラレルHex-Poly ボリュームメッシング、誘導加熱、浸食、遮断効果、乱流モデル、壁面応力のエクスポートといった機能が追加されていると中嶋氏は説明した。

中嶋氏のスライド
アンシス・ジャパン株式会社 アプリケーションエンジニアリングマネージャー 一宅透氏

 アンシス・ジャパン アプリケーションエンジニアリングマネージャー 一宅透氏は構造解析製品である「Structure」について説明した。一宅氏によれば接触解析の効率化、破壊解析などで改良が行なわれているとのこと。また、Virtual MotionからOEM供給された機構解析モジュールを「ANSYS Motion」として提供していくことなどが説明された。

一宅氏のスライド
アンシス・ジャパン株式会社 シニアアプリケーションエンジニア 古賀誉大氏

 アンシス・ジャパン シニアアプリケーションエンジニア 古賀誉大氏は、電気設計時に利用するシミュレーションツール「Electromagnetics」に関する説明を行なった。古賀氏によれば、EMI Scanner、エレクトロマイグレーション解析、および騒音-振動-ハーシュネス機能などが追加されたとのことだ。

古賀氏のスライド

MATLABやSimulinkからのインポート機能を改善するなど最新機能を追加

アンシス・ジャパン株式会社 シニアアカウントマネージャー石井通義氏

 アンシス・ジャパン シニアアカウントマネージャー 石井通義氏は、ANSYSのソフトウェア開発ツールとなる「SCADE」に関するアップデートを説明した。

 石井氏によれば、SCADEはANSYSの中でもISO26262 ASIL-C/Dの機能安全の認証取得が取得可能なソフトウェアを開発するツールとして利用されている。特にレベル3以上の自動運転を実現するにはISO26262 ASIL-C/Dの認証を取得した機能安全を実現する必要があり、ソフトウェア開発は複雑に、かつ高度になり、作成したソフトウェアの検証などに膨大な時間を必要とする。そこで、SCADEを利用すると、ISO26262 ASIL-C/Dの認証を取得可能なソフトウェアを効率よく再生することができると石井氏は説明した。

 そのSCADEの新機能としていくつか紹介されたが、最近はクルマでも増えているマルチコアCPUに向けた最適化ツール、システム設計モデルからMBDにソフトウェア要素をエクスポートして、MBD上でソフトウェアコードを実際に動作させて検証することができるツールの追加、さらには、前バージョンで追加されたMATLABやSimulinkからのエクスポート機能が改善され、より広範囲にエクスポートができるようになったことで、Simulinkに変えてSCADEを利用することで、MBDの上流から下流までANSYSで一気通貫に開発できるようになった。他にも、クルマのソフトウェア開発の現場で利用されているdSPACEの「MicroAutoBox」をサポートするなど、自動車向けのソフトウェア開発に役立つ機能が多数追加されている。

石井氏のスライド
アンシス・ジャパン株式会社 エレクトロニクス・システムソリューション部長 中本英治氏

 アンシス・ジャパン エレクトロニクス・システムソリューション部長 中本英治氏はMBDを実現するシステム開発ソリューションの「Twin Builder」に関して説明を行なった。

 中本氏は「Twin BuilderはIoTの実際の環境に入れて検証やシミュレーションを行なったり、MBDの中でANSYSのシミュレーション技術を応用して物理現象をシミュレーション上に構築できる。ANSYSの他のソフトウェアと組み合わせて利用すると、開発の工程を短くすることができる」と述べ、Twin Builderを同じような種類のソフトウェア(筆者注:例えばMathWorkのSimulinkなど)に変えてANSYSと組み合わせて利用することで、開発にかかる期間を短縮できると述べた。

 中本氏によれば、Twin Builderにはランタイム生成フロー、縮退モデル、VHDL-AMSモデル、モデリカ、半導体のデバイスモデル、ユーザビリティの改善などの新機能が追加されており、使い勝手が改善されているとのことだった。

中本氏のスライド