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アンシス、CAEシミュレーションツール「ANSYS」の最新バージョン「ANSYS 2020 R1」提供開始

自動運転車の開発をより効率よく行なえる「VRXPERIENCE」など機能強化

2020年2月5日 開催

アンシス・ジャパン株式会社 カントリーマネージャー 大谷修造氏

 アンシス・ジャパンは2月5日、都内で記者会見を開催し、同社の親会社となるANSYSが米国で1月28日(現地時間)に発表した同社のCAEシミュレーションツールの最新バージョンとなる「ANSYS 2020 R1」の提供を開始したことを明らかにした。

 ANSYSは物理演算などを含むCAE(Computer Aided Engineering、コンピューターを利用した設計、製造支援のこと)ソフトウェアとして知られており、自動車業界向けとしてはシミュレーションツールとして利用されることが多く、ANSYSを利用するとライトが放つ光がレンズの中でどのように反射するか、あるいは自動運転で活用するカメラがどのようなデータを得ていて死角はないのかなど、すべてコンピューター上でシミュレーションすることが可能になっている。

 今回リリースされたANSYS 2020 R1では、そうしたシミュレーションに利用するデータを統合的に管理する「Minerva」、自動運転車の開発をより効率よく行なうことができる「VRXPERIENCE」、照明シミュレーションが行なえる「SPEOS」などの機能が強化された。

 ANSYSによれば、VRXPERIENCEとSPEOSはマツダで開発に採用されており、マツダ 統合制御システム開発本部 副本部長 吉岡透氏より「システムの安全性を高め、製品化までの時間を短縮しつつ、物理的なプロトタイプの開発と試験フェーズにかかる時間を大幅に減らすことが可能になります」とのコメントが寄せられている。

欧州ではBMWやフォルクスワーゲン、日本ではスバルやマツダが採用しているANSYS

 ANSYSは、CAEシミュレーションツールの草分けとして知られており、近年では競合他社の製品を買収することにより、機能を拡充させていることが特徴となっている。アンシス・ジャパン カントリーマネージャーの大谷修造氏は、「ANSYSは積極的にポートフォリオ(製品ラインアップ)の拡充を行なっており、2019年は5社を買収している。また、SAP、Microsoftといった外部のパートナーとの戦略的なパートナーシップを拡充している。今後もそうしたツールを拡充していくことで、お客さまの抱えていらっしゃる課題を解決していきたい」と述べ、今後も買収や戦略的なパートナーシップなどにより製品の拡充を目指していくとした。

 その上で「欧州においてはBMWと自動運転のツールチェーンの共同開発を発表しており、フォルクスワーゲンとはEVレーシングカーの共同開発を行ない、パイクスピークやニュルブルクリンクなどでレコードを記録するなどの実績を出している。日本においてもそうした動きをフォローしており、スバルさまにはPHEV(プラグインハイブリッド)の開発に弊社のSCADEを利用していただいており、マツダさまにはライティングの開発に『SPEOS』の利用をいただいている」と述べ、自動車メーカーでも採用が拡大しているとアピールした。

 なお、1月28日にANSYS本社より出されたリリースにはマツダ 統合制御システム開発本部 副本部長 吉岡透氏のコメントが寄せられており、このリリースで吉岡氏は「当社は、ADASシステムやスマートヘッドランプの搭載など、よりスマートなテクノロジーを積極的に採用しています。しかし、高い品質要件やスケジュール設定された目標を達成するには多種多様な問題に取り組む必要があります。光学機能に対する物理場ベースの設計と試験を行なうため、当社ではANSYS SPEOSとVRXPERIENCEを幅広く活用しています。早期のデジタル設計反復およびシステム最適化を行なって、複雑なマトリクスLEDライトを使用したアダプティブドライビングビームからAV-ADAS技術で利用するカメラシステムまでの製品を開発しています。結果として、こうしたシステムの安全性を高め、製品化までの時間を短縮しつつ、物理的なプロトタイプの開発と試験フェーズにかかる時間を大幅に減らすことが可能になります」(ANSYS社のプレスリリースより転記)と述べている。

各ツールが機能強化されたANSYS 2020 R1、自動運転車開発向けのツールも用意

 ANSYSは複数の製品から構成されており、ユーザー企業は目的に応じてそのうちのいくつかを選択して利用することが可能になっている。今回もそれら複数の製品がアップデートされており、以下その概要を紹介したい。

Minerva
アンシス・ジャパン株式会社 プロフェッショナルサービスマネージャ 熊井悟氏

 アンシス・ジャパン プロフェッショナルサービスマネージャ 熊井悟氏によれば、Minervaは他社のツールを含めて統合的にデータを管理していくデータ管理ツール。ANSYSだけでなく、例えばCATIAのようなツールからもデータを抽出してそれらのデータを利用して、シミュレーションにデータを流し込んでいくことができる。

Minervaを説明するスライド
SPEOS
アンシス・ジャパン株式会社 テクニカルサポートマネージャー 武田伸一郎氏

 アンシス・ジャパン テクニカルサポートマネージャー 武田伸一郎氏によれば、SPEOSはカメラシミュレーション用の最先端モデルが用意されており、新しくマテリアル&テクスチャ機能などが利用可能になっているという。また、レンズの自由曲面を考慮した光学サーフェスの自動作成などができるようになっており、自動車のヘッドライトのレンズ屈折などを考慮した光の流れなどをシミュレーションできる。

 また、SPEOS Lens Systemという機能では新しいモデルが利用できるようになり、シミュレーションにかかる時間が短縮される。SPEOS Live Previewという機能では、自動車に装着したカメラからどのように見えるかをシミュレーションすることができる。

SPEOSのスライド
VRXPERIENCE

 アンシス・ジャパンの武田氏によれば、自動運転向けのシミュレーターソフトウェアであるVRXPERIENCEではミリ波レーダーのセンサーをモデルとしてサポートし、遠方界の高周波や材質の特性などをデータとして持っており、センサーフュージョンのシステムをシミュレーションで走らせることが可能になる。また、複数のシナリオをバッチ実行することが可能で、より効率よく自動運転のシミュレーションを行なうことができる。

VRXPERIENCE
VRXPERIENCE SOUND

 アンシス・ジャパンの武田氏によると、VRXPERIENCE SOUNDはEV(電気自動車)が増えていることで注目を集めている低速時の警告音についてのテストツール。CANバスからデータを受け取りつつ、音を調整してスピーカーから出すことで聞こえ方などを確認できる。武田氏によれば、そうした警告音がブランドイメージに影響することもあり、多くの自動車メーカーでこの警告音について注意が払われるようになっているという。

VRXPERIENCE SOUNDのスライド
SCADE/medini analyze

 アンシス・ジャパンの武田氏によれば、SCADEは自動運転組み込み制御ソフトウェアの開発ツール。SCADE Visionと呼ばれるAIにより物体検知の安全性を検証する機能などが搭載されている。medini analyzeはSOTIF(意図した機能の安全性、ISO21448として策定中)などに対応するための機能拡張が追加されており、サイバーセキュリティ(ISO21434)の脅威分析などの機能が追加されている。

SCADE/medini analyzeのスライド
Electronics Suite
アンシス・ジャパン株式会社 テクニカルマネージャ 川田三世氏

 アンシス・ジャパン テクニカルマネージャ 川田三世氏によれば、Electronics Suiteは電子基板の設計を行なう際に必要なEMI(電波障害)のシミュレーションや、5Gなどの通信アンテナ設計を行なう際に必要になる電波シミュレーションなどに関する機能を用意。5Gのミリ波の設計で必要になるアレイアンテナ解析用のモジュールなどが追加されている。

Electronics Suiteのスライド
構造関連製品(Mechanical、Explict Dynamics、Motion Dynamicsなど)
アンシス・ジャパン株式会社 アプリケーションエンジニアリングマネージャー 一宅透氏

 アンシス・ジャパン アプリケーションエンジニアリングマネージャー 一宅透氏は、Mechanical、Explict Dynamicsなどの構造関連製品について説明した。2020 R1ではExplict DynamicsのGUIが強化されたほか、GRANTA Designの買収で得た素材データベースの製品をGRANTAとして提供開始すると説明した。

構造関連製品のスライド
流体関連製品(Fluentなど)
アンシス・ジャパン株式会社 アプリケーションエンジニアリングマネージャー 中嶋進氏

 アンシス・ジャパン アプリケーションエンジニアリングマネージャー 中嶋進氏は、FluentなどANSYSの中核製品のアップデートに関して説明。中嶋氏によれば2020 R1では使い勝手の改善が図られているほか、メッシュ生成方法がより高度になり、CADデータに穴などがあっても高品質なメッシュを作成することが容易になっているという。また、並列処理を行なうことが可能になり、約10倍の高速化などが実現されている。

流体関連製品のスライド