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米ジョンソンコントロールズの自動車部門が独立した新生「アディエント」記者説明会

自動運転が普及した時代の「未来のシート像」や取り組みなどを解説

2016年11月17日 開催

アディエント合同会社 執行責任者 社長 Adient GK 兼 副社長アジアOEMカスタマー 内田博之氏

 アディエントは11月1日(米国時間:10月31日)、米ジョンソンコントロールズインターナショナルから分社化を完了し、ニューヨーク証券取引所に普通株式を上場したと発表。この分社化に伴い、日本においても「ジョンソンコントロールズオートモーティブジャパン合同会社」から「アディエント合同会社」に社名変更を行なった。

 これを受け、11月17日に神奈川県 横浜みなとみらいにあるアディエントの日本法人本社で、アディエント 執行責任者 社長 Adient GK 兼 副社長アジアOEMカスタマーの内田博之氏が日本での分社化された事業内容の紹介などを行なう記者説明会が開催された。

 アディエントは、自動車用のシートとシート部品における世界最大のグローバルサプライヤー。優れた品質、革命的な技術、グローバルクラスのパフォーマンスを誇り、自動車の差別化において多くの大手自動車メーカーの業務をサポート。世界33カ国にある230カ所以上の拠点で製造、および組み立てを行なって、世界中のクルマの3台に1台の割合で自動車シートを供給している。

 また、世界の自動車部品サプライヤーのトップ10グローバルOEMの1社として、2015年度には年間2500万セット以上のシートシステムを供給。早い時期から中国市場にも進出し、32都市で60カ所の製造工場を運営、17の合弁事業を展開している。中国でのシェアは44%におよび、自動車シート市場のシェアリーダーとなっている。

 世界の主要自動車メーカーの業務を自動車シートの面からサポートし、グローバルで自動車ブランド向けに部品を提供。商品、および部品の供給を最小限の在庫で複合的効率を高めた物流が行なえるよう、25年以上のJIT生産(Just-in-Time manufacturing)とJIS物流(Just-In-Sequence derivery)の実績を誇り、顧客となる自動車メーカーの工場に隣接した120のJIS工場を保有している。

 さらに、シートを総合的に組み立てる高い技術を保有し、メタル&メカニズム(骨格、ジョイント、リフターなど)、フォーム(クッション部)、ファブリック(表皮)、トリム(縫製、カッティング)のそれぞれを、顧客の求めているニーズに応えたリニアな対応や調合が可能である強みを持っている。

 シート事業に関しては、1985年に「Hoover Universal」を買収したことからスタート。ジョンソンコントロールズ自体は130年余りの歴史を持つアメリカの会社で、投資家から高い評価を得ている企業。2011年には高性能シートで名高いブランド「RECARO」を手がけるシートメーカー「Keiper」を買収し、RECARO事業としてブランドを生かしつつ、デザイン力、エルゴノミクス(人間工学)、高い品質、クラフトマンシップ、軽量化技術など、純正装着部品としてだけでなく、アフターマーケットにも事業を行なっている。

 内田氏は「自動車に乗っているとき、一番自分が触っているところはシートなんですね。ステアリングは触らなくていいときもありますが、シートに座らず車内にいるというのは非常に難しいことなんですよね。よく言われる、自動運転になったときにはステアリングは要らなくなる。電気自動車になったらエンジンは要らなくなるし、マフラーも要らなくなる。でも、絶対にシートだけはいるんですよね。立ちっぱなしで自動運転の車両に乗ることはまず考えられませんから、シートが大切だというのがお分かりになるかと思います」。

「とくに、自動運転になったときにはシートがみなさんの身体をお守りすることになるのではないかと考えられます、要は安全ですね。そういうところに我々は注力して先行開発を行なっています。次の世界のためにどんなシートを作らなければいけないのかということを、常にドイツとアメリカで考えています。残念ながら、日本ではその開発の準備ができていません。私が日本法人の社長になってから申し上げているのは、日本発ということを考えるということ。日本のなかではこんなことが考えられて、こんなことが可能かもしれない。あるいは、こういうマーケットに入っていけるかもしれないということを考えてくれと。日本発というのを考えて、アイデアをどんどん世界に出してほしいと言っています」と語った。

自動運転になると、車内のシートは対面座席になるのではないかという想定。背もたれが前方(車内中央側)に出てきたり、座面を折りたたんでスペースを有効利用して荷物を載せられるようになるといったアイデアは、統計に沿って考えられるという。車内に2人以上で乗る確立は非常に少なく、20%ぐらいなのだそうで、多くのドライバーは自分と助手席だけを使用、もしくは自分と荷物を助手席に置くぐらいの使い方がほとんど。後部座席は使われていない現状を考えて、座面を跳ね上げてスペースを有効利用するというアイデアを生み出しているという

 また、自動車シートの技術革新として、

1:シーティング・デモンストレーターSD15
シミュレーションされた車両環境において、1列目と2列目のシートにフォーカスしたSD15のコンセプトは、都市部のモビリティ、快適さ、自動運転のグローバルな業界のトレンドを示す

2:シナジー・シート・ロフト
まったく新しいロフトシートは、積載スペースが増えることで快適性、安全性、効率性が向上する

3:CAMISMA技術
最先端の多原材料システムがCAMISMA軽量プロジェクトで、シートの重量を40%削減

4:特注ハイブリッド・チューブ
アディエントの研究プロジェクトは、軽量構造に関して2種類のアプローチを兼用し、重量を10~20%削減することを目標に、特注チューブを設計

5:スピードファクトリー
スポーツブランドのアディダスグループやそのほかのパートナー各社と、布地の製造方法を再定義

6:FreshPer4mance
自動車のシート生地をクリーンに保つことはもちろん、生地が汚れないように保護する革新的、高効果的、かつワン・ストップ・ソリューションを導入

などの研究開発を続けているという。

 ほかにも内田氏は、未来の自動車用シートとして、自動運転になった場合に最終的には安全をどうやって考えるかという方向性や、衝突時にはぶつかる前に予測して一番安全な方向にシートを向けるといった研究、眠気や緊張の兆候に対して「独立して反応する」ため、シートセンサーとアクチュエーター間でのインテリジェントな相互対話により、乗員に快適さと安心を与えるような研究開発に力と能力をかけていると説明した。

シート位置を左右でオフセットすることで、3人の乗員が会話を楽しめるという提案
シート背面を薄くしても乗り心地がよく、ホールドもきちんとしてくれるシートのデザイン。シートをスライドさせて足下空間を広く使えるようにしたり、自動運転時には前席を前にスライドして後席でくつろぐといった提案。荷物を効率よく積載できるスペースも確保できる
背もたれだけを車両内側に向けるよう配置することで、2人で乗った場合には対面するような形で、自動運転中にはミーティングや会話が楽しめるという工夫