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【インタビュー】スーパーフォーミュラにADVANレーシングタイヤを供給する横浜ゴム 開発担当エンジニアに聞く
シーズン2年目。新スペックを投入
2017年5月26日 00:00
- 2017年4月22日~23日 開催
4月22日~23日に三重県鈴鹿市にある鈴鹿サーキットで開催された「2017 NGKスパークプラグ 鈴鹿2&4レース」において、スーパーフォーミュラの開幕戦が行なわれた(決勝レースに関しては別記事を参照)。そのスーパーフォーミュラに2016年からワンメイクでタイヤ供給を行なっているのが横浜ゴムだ。2017年で2年目となる今シーズンに向けて、横浜ゴムは新スペックのタイヤを供給するなど新しい取り組みも行なっている。
そうした横浜ゴムのモータースポーツ活動を担当しているのがヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナル。そのヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナルでスーパーフォーミュラを担当している開発本部 ジェネラルマネージャー 渡辺晋氏、同 第二開発部 髙口紀貴氏の2人に話を伺う機会を得たので、ここにお届けする。
構造を変更し、高荷重域でもスナップがでないようなタイヤ作りを目指した
――今シーズンに向けて新しいスペックのタイヤを導入されたとのことですが、その詳細を教えてほしい。
渡辺氏:2016年にタイヤ供給を始めた当初はとても心配していたけど、実際にレースをしてみると昨年導入したゴムでは逆に持ちすぎてしまうぐらいで、今は少し持たないくらいのゴムを検討すべきと考えている。
しかし、それは次の課題として、その前にまずやることがあるだろうという話しになり、2017年のスペックでは構造に手を入れることにした。というのも、構造に手を入れるには時間がかかるから。昨年の開幕までに取りこぼした部分を今回の構造変更に入れている。
昨年のタイヤを導入した後各チームのエンジニアと話しをして、こうしたらもっとよくなるのではないかというご要望をいただいた。例えば、フロントのリニアリティ。具体的には、ステアリングを切り増したときの反応が落ちてしまうことがあり、そこをもうちょっと上げてほしいと。
リアに関しては、スナップが起きるという点を改善してほしいという要望があった。具体的に言えば、高速コーナーで踏ん張っている時にドライバーが反応できる前にいきなり抜けて、スピンにつながってしまう。そうした課題を解決するために構造をチューニングした。
――金型は変えているのか? また、その構造というのは柔らかくなる方向にしたのか、硬くなる方向にしたのか?
渡辺氏:リアは金型も変えている。外形は変わっていないが、幅が10mmほど広くなっている。フロントの耐久性がまずは厳しくて、昨年はフロントだけ見直していたのだが、リアは時間的余裕がなくて対応できていなかったので、2017年はそこに対応した。金型の形状的な耐久性を上げたので、構造の振り幅が広くなった。
今回の構造は、柔らかいとも硬いとも一概には言えない。一般的に柔らかいタイヤというのは低荷重型になるが、この構造は荷重を加えていった時に、ある部分ではバネが低く最終的に最大荷重域ではバネが高くなる。路面に対してしなやかにたわんでいって、その後奥まで行ったときは踏ん張るみたいなイメージ。
――ウェットタイヤに関してはどのような変更を加えたのか?
渡辺氏:結果的にはドライタイヤと同じ方向性になっている。フロントはアンダーステアを抑えるのと、リアのトラクションを増やす方向に変えている。通常の場合、ウェットタイヤは構造を変更してもあまりタイムは変わらないのだが、今回は構造を変えただけで2秒近く速くなっている。
――昨年1年間やってみて、これは予想どおりだったことと、逆に想定外だったのは何か?
渡辺氏:初めの頃心配していたのは、構造が壊れるのを心配していた。しかし、他のフォーミュラ、例えばF3などの経験を応用して作ってやってみたら、結果的にテストも含めてタイヤは壊れなかった。そうした耐久性に心配がなかったため、2017年のスペックのタイヤでは新しい構造にチャレンジすることが可能になった。
想定外だったのは、ソフト目のタイヤを作ってみたけど、実際には思ったほど速くはならなかったこと。実際、第4戦のツインリンクもてぎでソフトコンパウンドのタイヤを投入したが、我々の狙いは2秒速くなるタイヤを狙ったのだがそこまではいかなかった。これまで、F3などではそういうゴムの振り方をすると、速いけど早くタレるタイヤができあがっていた。しかし、投入したソフトタイヤでは0.8秒ぐらいは速くなったのだが、レース中のタレは少なく、終わってみるとさほど摩耗していなかった。
――それはもっと速いけど早くタレるタイヤを作りたいと思っていると言うことか?
渡辺氏:タイヤとしての優劣は別にして、このレースではそういう要望があり、要望に沿ったタイヤを作るのがエンジニアの仕事と考えている。
――2017年もソフトタイヤの投入はあるのか?
渡辺氏:やるかどうかに関しては主催者、チームなどの話し合いで決まるので、弊社からはお答えできないが。やるやらないに関わらず開発だけは進めておきたい。こういう技術は引き出しをいくつもっているかで決まってくると思うので。
仮にやるとなったらゴムを変えてみることになると思う。もしツインリンクもてぎ戦をターゲットにするのであれば、それに間に合わせるようなタイミングでテストをするには、計画されているメーカーテストが2回しかない。その2回の中で、新しいゴムで走ってもらってテストをすることになる。
――明日から始まるレースではタイヤ交換の戦略が鍵になりそうだ(このインタビューは決勝前日の4月22日に行なわれている)。どのような戦略になると考えているか?
渡辺氏:おそらく4本変える人はほとんどいないのではないか(結果的には別記事で紹介しているとおり、上位では塚越広大選手のみが4本交換)。2本か、1本かというのがセオリーになると思う。1本だけ変えるとなるとアウトラップには影響がでると思うので、1番影響がでないようにするのではないだろうか。
髙口氏:テストでも右のフロントを練習しているチーム、右のリアを練習しているチームがあった。
渡辺氏:タイヤメーカーとしてはフロントを交換してほしいというのが正直なところ。タイヤも小さく、壊れるとしたらフロントの右になるので、フロントの右を換えてほしい。
――2016年は関口選手など、ヨコハマタイヤ育ちのドライバーが速かったように見えたがそれは影響しているのか?
髙口氏:ドライバー単位のデータを我々は見ていないので、データ解析の観点からはそこはなんとも言えない。チームとは直接やりとりしておらず。フィードバックはメーカー経由でもらっている。初年度に関してはとにかく高い耐久性を実現することに注力し、2017年のスペックでは先ほど渡辺が説明したように、フロントはリニアリティの向上、リアの安定性向上に注力して作っている。
――2017年のタイヤのチームやドライバーの反応はどうか?
渡辺氏:テストではいい感触だった。2017年のスペックのタイヤは2016年11月に鈴鹿サーキットで行なわれたテストで配布して、その時に昨年スペックと比較してもらって、荷重がかかったときには多くのチームに扱いやすくなっていると評価をいただいた。
逆にタイヤが浮く、つまり荷重がかからないときには、2016年のタイヤよりもグリップが薄くなるというコメントもいただいている。アンダーステア系のセッティングをされているチームはアンダーが出やすくなり、セッティングが詰められなくなってしまったというチームもある。去年と今年で速いチームの顔ぶれが変わっているが、そのあたりが影響している可能性があると考えている。
髙口氏:目指しているのは、使う人間が、その限界をうまく引き出せる、そういう使いやすいタイヤを目指している。エンジンでいうドライバビリティを改善するようなイメージの改良を行なったと考えていただければ分かりやすいと思う。
――スーパーフォーミュラの今後のタイヤ開発の方向性は?
渡辺氏:目指すべきはタイムアップしてタレるタイヤ。スタンダード1仕様で、レースをしながらタイヤを交換しないといけないタイヤ。今回得られた持続性に優れるタイヤの技術はほかのレースに応用する。さらに上を目指すときのために取っておきたい(笑)。
日本最高峰の戦いが繰り広げられるスーパーフォーミュラの次戦となる第2戦は、5月27日~28日に岡山国際サーキットで開催される。