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【SUPER GTインタビュー】横浜ゴム、モータースポーツ60周年、創業100周年となる2017年の意気込み
GT500はチャンピオンを、GT300は連覇&ワン・ツー・スリーを狙う
2017年5月19日 12:10
SUPER GTは、現在世界中で行なわれているトップカテゴリーの4輪レースのなかで、複数のタイヤメーカーがタイヤを供給し、コンペティション形式で争うシリーズ戦。その中で、近年GT500クラスでの戦力向上が著しく、さらにGT300クラスで最大勢力を誇るのが横浜ゴムだ。正確には、競技用タイヤ開発・供給するために設立された「ヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナル株式会社」からの供給となるのだが、2017年7月1日以降は横浜ゴム モータースポーツ推進室となるので、本記事では製品供給は横浜ゴムと表記していく。
2017年シーズン、GT500クラスではレクサス、日産に加え、新たにホンダも加わった。2016年に4年ぶりにチャンピオンを奪還したGT300クラスは、今や横浜ゴム採用チームが22台と最大勢力となっている。2017年の開幕戦も勝利しているだけに、GT300クラスの連覇はもちろん、GT500クラスでの躍進にも期待がかかる。
5月3日、第2戦富士スピードウェイの予選後、ヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナル 第一開発部 部長 藤代秀一氏に、昨年の振り返りおよび今後の展望について伺った。
SUPER GT 2017年シリーズ ヨコハマタイヤ装着車
GT500クラス
16号車「MOTUL MUGEN NSX-GT」(武藤英紀/中嶋大祐)
19号車「WedsSport ADVAN LC500」(関口雄飛/国本雄資)
24号車「フォーラムエンジニアリングADVAN GT-R」(佐々木大樹/ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ)
GT300クラス
2号車「シンティアム・アップル・ロータス」(高橋一穂/加藤寛規)
3号車「B-MAX NDDP GT-R」(星野一樹/高星明誠)
4号車「グッドスマイル 初音ミク AMG」(谷口信輝/片岡龍也)
5号車「マッハ車検 MC86 GTNET」(坂口夏月/藤波清斗)
7号車「Studie BMW M6」(ヨルグ・ミューラー/荒聖治)
9号車「GULF NAC PORSCHE 911」(ジョノ・レスター/峰尾恭輔)
18号車「UPGARAGE BANDOH 86」(中山友貴/川端伸太朗)
22号車「アールキューズ SLS AMG GT3」(和田久/城内政樹)
25号車「VivaC 86 MC」(松井孝允/山下健太)
26号車「TAISAN SARD R8 FUKUSHIMA」(山田真之亮/ジェイク・パーソンズ)
30号車「TOYOTA PRIUS apr GT」(永井宏明/佐々木孝太)
33号車「D'station Porsche」(藤井誠暢/スヴェン・ミューラー)
35号車「ARTO 86 MC 101」(ナタウッド・ジャルーンスルカワッタナ/ナタポン・ホートンカム)
48号車「植毛 GT-R」(高森博士/田中勝輝)
50号車「Ferrari 488 GT3」(都筑晶裕/新田守男)
52号車「埼玉トヨペットGreenBraveマークX MC」(平沼貴之/番場琢)
60号車「SYNTIUM LMcorsa RC F GT3」(飯田章/吉本大樹)
87号車「ショップチャンネル ランボルギーニ GT3」(細川慎弥/佐藤公哉)
88号車「マネパ ランボルギーニ GT3」(織戸学/平峰一貴)
111号車「エヴァRT初号機 Rn-s AMG GT」(石川京侍/山下亮生)
117号車「EIcars BENTLEY GT3」(井出有治/阪口良平)
360号車「RUNUP GT-R」(柴田優作/田中篤)
ミッドシップのNSXへの合わせ込みは「まだ足りない」
――GT500クラスでは3勝を挙げ、GT300クラスではチャンピオンタイヤとなるなど目覚ましい活躍となった2016年シーズンを振り返っていかがでしたか?
藤代氏:2014年車(のレギュレーション)になって以降、大きなファクトリーチーム、ワークスチームと手を組むほかのタイヤメーカーとは、開発スタートの段階で走る時間の差が大きくついてしまって、どうしても開発の遅れは否めないところがあり、2014年車の初年度は非常につらいシーズンでした。しかし、2年目にようやく1勝でき、2016年は年間3勝と、結果につなげることができました。
ただ、3勝はしたけれども、レース内容には満足できていません。決して我々が他社に対して圧倒的に有利ということはなくて、課題はまだいっぱいある。少なくとも結果が出たことはよかったと思っていますが、そのあたりの課題には今も継続して対応中です。
――2016年はタイヤ無交換作戦をとったこともありました。
藤代氏:そういう作戦をとらざるをえなかった、というのが納得できていないところでもあります。本来ならタイヤ交換をきちんとして、速いラップでつないで勝つというのがあるべき姿。そういう意味では、2016年第7戦のタイがベストなレースになってほしかったんです。結果として1位になったものの、途中タイヤトラブルが発生しましたし、素直には喜べません。ただし、我々が目指すのはああいうレースの仕方ではありますね。
――2017年シーズンの開幕戦。第1戦岡山を終えて、今シーズンの状況はいかがですか。
藤代氏:レクサスさんとブリヂストンさんのパッケージがすごく速い。我々も2017年車の開発当初、レクサスやGT-Rの開発車でテストさせてもらったりもしたんですけど、フィーリングもタイムもよかった。我々が課題として抱えていた部分がレクサス、GT-Rともにクルマの方で解消されていたんですね。
これはいいね、という感じでシーズンオフにテストしたんですけど、タイヤメーカーそれぞれで特性が違って、クルマ(開発)の方向性がどうしてもタイヤに合わせたものになる。そのために最初に感じたほどのメリットはないんですけれども、2014年車になったときの他社との差を考えれば、今年はまだ頑張れば追いついていける、という認識です。
――2017年は、GT500クラスでホンダ車、16号車MOTUL MUGEN NSX-GTへの供給を開始されました。横浜ゴムにとって初めてのNSX-GTへの供給ですが、どのような手応えですか?
藤代氏:これまで当社がレクサスさんと日産さんのFR車で開発してきていたところに、ミッドシップのNSXということで、すぐにアジャストするのは正直難しい。今はミッドシップ用にほかとは違うタイヤを使っているんですけど、前後のバランスがFR車とは違い、まだ全然合わせ込みが足りないなと。
シーズンオフのセパンテストには16号車も来てくれたんですけど、タイミング的にいろいろなテストを反映させて次々と進めていくには時間が足りなかったかなと思います。岡山はある程度走ってはいますが、すごく寒い時期だったりもして、レースを見越したテストという部分では足りていないと思いますね。でもどんどんよくなっていますので、そんなに悲観はしていません。
25%のダウンフォース減は「去年と変わらない」
――2017年シーズン、タイヤ開発において新たに変更した部分はありますか?
藤代氏:いくつかのブレイクスルーはありました。2014年車になる前から、我々は常に同じ課題を抱えていたんですね。それをよくするにはこうすべき、というのを目指して1つずつステップアップしてきました。決してポンと飛び跳ねるようなものではなくて、本当に地道に1歩ずつ来ているという感じです。
GT500については、昨年は3勝しましたが、勝ったサーキット、いまいちだったサーキット、シーズン明けの岡山が終わって富士の予選を走った、というところで、成績表をざっと見ていただくと、横浜ゴムってここが苦手なんじゃない?というのが見えてくると思うんです。その苦手としているサーキットにおいて技術的な課題がいくつかあって、そこを1歩でも、半歩でも先に進めるよう開発しています。
GT300も、年々競争のレベルが高くなってきています。ダンロップさんと当社がメインでやっていた時代と比べて、ブリヂストンさんの勢力がどんどん増していて、そのなかで戦うのが非常に厳しいですね。GT500はある意味フリーなのに対して、GT300ではタイヤを作る際の制約がいろいろあるんです。台数も多いので、それをやっちゃうと本数作れないよ、というのが結構ある。なので、そこには手を出さない、みたいなことをしているんですね。
でも、特に今年は、GT500で開発した技術をより積極的にGT300にも活用するようにしています。GT300のタイヤは全面的に変わってきていますが、それでも本当にギリギリの、かなり厳しい戦いです。GT500用はもちろん、GT300用も横浜ゴムのいろんな部署と共同で開発しているんですけども、その協力があってなんとかこなせています。本当に我々だけではできません。
――GT500クラスはレギュレーション変更によりダウンフォースが25%減少することになりましたが、対策は?
藤代氏:そうは言っても25%は減らないよね、っていう話もしながら、でも25%減る前提で最初タイヤを準備していたんです。で、走らせてみるとですね、あれ?去年とそんなに変わらないじゃない?と(笑)。25%減るのに比べたら全然去年寄りだね、と。とは言え、トータルとしてダウンフォースは落ちているので、タイヤには去年までとは違った厳しい部分も出てくるのですが、今までの開発とほぼ変わらない内容、方針で進められていて、我々としてはやりやすい状況ではあります。
――今シーズンはどのような戦略で開発を進めているのでしょうか。また、目標は?
藤代氏:これから夏場にかけて、当社が得意としているサーキットがどんどん出てきますので、そこは確実に獲っていきます。とは言っても、他社さんもどんどん開発が進んでいますし、今回(第2戦)の予選ではミシュランさんがポンと来ていますから、誰も待っててくれない(笑)。ただ、結果を残さなければならないので、いけるところはきちんと押さえたいと思っています。
GT500は昨シーズン4位でしたので、今季の目標はシーズン4位以上ですよね。最終戦までシリーズチャンピオンの資格をもって臨みたいですし、最終的にチャンピオンを獲りたいなと。
GT300は、昨年チャンピオンに返り咲くことができましたが、本当は当社が勝ち続けていかなければいけないクラスだと思っていますので、きちんと他社さんに勝てるタイヤを開発・供給して、シリーズチャンピオン、できればワン・ツー・スリーを押さえたいですね。
――先ほど第2戦の予選が終わりました。
藤代氏:NSXに関して言うと、開発途上ということもあって1発のパフォーマンスをポンと出すレベルには達していません。24号車のフォーラムエンジニアリングADVAN GT-Rについては、使ったタイヤに対してコンディションが寒かったですね。それと、クルマのセットアップとのマッチングがいまいちでした。
レクサスについては基本的には問題ないんですけども、先ほどお話した苦手部分を解消しきれていないところが他社との差になっていますね。そこは一刻も早く直したいんですが、少しずつしか改善できないのがもどかしいところです。
ただ、今シーズンの後半に、もしかしたら大きな変更を施したタイヤを投入する可能性はあります。これにより、今はまだ解消できていない不具合がかなり改善されるのではと思っています。レース本番に用意するにはまだ体制が整っていませんが。
横浜ゴム全社を挙げた協力体制で、去年以上の成績へ
――2016年からスーパーフォーミュラにタイヤ供給を始めました。それによってSUPER GTにも何か影響はあるのでしょうか。
藤代氏:スーパーフォーミュラには非常に高レベルの、品質の高いタイヤを供給しています。品質のばらつきをなくし、ユニフォーミティ(真円度)を高い次元で維持しなければならない。GTよりも最高速度が高いスーパーフォーミュラはそういった部分が敏感に感じられるクルマだからです。
そういうタイヤ作りの部分で、横浜ゴムの生産技術において我々のベースラインのレベル向上に大きく寄与しています。縦横方向のユニフォーミティの精度が高まり、接地が安定する、それが安心にもつながるのでドライバーも攻めていける。より速く走れるタイヤを生産できるようになってきています。
――今後のレースで注目してほしいところなどありましたら。
藤代氏:第7戦のタイですね。去年はポールトゥウィンでしたが、途中タイヤトラブルがあったので、今年は何もなしに普通にポールトゥウィンを狙っていきたい。GT500もGT300も、昨年と同じダブルポールトゥウィン、今年もそこにいきたいなと。
――6月30日付けで、現在のヨコハマ・モータースポーツ・インターナショナルから、横浜ゴム本体に新設されるモータースポーツ推進室に変わるとのことですが、レースに関わる体制も変わるのでしょうか。
藤代氏:正直あまり大きくは変わらないと思います。仕事のやりやすさも変わらないのではないかと。今も、横浜ゴムの研究、材料開発、試験、生産など、いろいろな部門と協力して仕事ができています。なおかつ、各部署の偉い人たちがみんなぼくら世代、いわゆるクルマ好きな世代で、協力を惜しまない人たちばかり。それが去年の結果につながっていると思うんですね。僕らだけじゃ本当に何もできない。
そういう横浜ゴムのいろんなセクションには、レースに対して僕ら以上に取り組んでくれている人もいますし、そういう協力のもと非常に強力な体制をとれているのが我々の強みだと思います。それを継続していければ、自ずと去年以上の成績になるでしょう。
――横浜ゴムは2017年がモータースポーツを始めて60周年、創業100周年となる記念の年になります。何か思うところはありますか。
藤代氏:めっちゃ区切りがいいというか、結果出さなきゃいけないよね、というのはありますね(笑)。全日本カート選手権もずっと他社が強いですけど、100周年だし勝たなきゃいけない、(チャンピオンを)獲らないといけないよね、という雰囲気もあります。
あと、ドイツで行なわれるニュルブルクリンク24時間耐久レースも優勝しなきゃいけないよねと。今年、我々はベントレーのワークスに供給しているんですが、ニュルの耐久シリーズの第1戦は2位、2戦は4位でしたので、24時間も狙っていけるよね、と話しています。
いずれにしてもコンペティションのカテゴリーは優勝しなきゃ、というのはありますね。横浜ゴムが歴史のある会社として認識してもらう意味でも、勝って結果を示すのが僕らの仕事だと思っています。