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三菱自動車、ゴーン氏が初議長としてアライアンス効果を説明した「第48回定時株主総会」
2017年度のアライアンスの相乗効果は250億円に達する見込み
2017年6月26日 23:44
- 2017年6月23日 開催
三菱自動車工業は6月23日、東京都港区高輪の品川プリンスホテル アネックスタワーで第48回定時株主総会を開催した。2016年12月の臨時株主総会で代表取締役会長に就任したカルロス・ゴーン氏が議長を務めた総会では、監査報告と3つの議案(剰余金の処分、定款の一部変更、取締役11名の選任)の決議が行なわれた。3つの決議案は賛成多数で可決されている。
さらに2016年度の事業報告と2017年度の事業方針、燃費不正行為に関する再発防止策、三菱自動車がルノー・日産アライアンスに加わったことによるアライアンスのシナジー効果について説明がなされた。質疑応答では、「『パジェロ』『ランサーエボリューション』の次期モデル」について語られたほか、CEOとして留任した益子修氏の責任を問う質問が株主から出された。
益子CEOより2016年度の報告
取締役社長CEO 益子修氏より2016年度の事業報告が行なわれた。最初に益子氏は「三菱自動車工業は2016年10月にルノー・日産アライアンスに参加し、新たな歴史に踏み出しました」と述べ、このアライアンスは激化する競争の中で新たな持続的成長の可能性を切り拓くための決断であると説明。
一方、このアライアンスの発端となった燃費不正問題に関して改めて謝罪を述べた。2016年12月の臨時株主総会で承認されたゴーン氏ほか新しい取締役のものとで、スピード感のある社内改革に取り組んでおり、業績のV字回復の手応えを感じているとのこと。この後、2016年の出来事をまとめた映像が上映された。その内容の抜粋は以下のとおり。
さらに益子氏より、以下の内容について報告が行なわれた。
1.新しい経営陣が進めている社内改革の内容
2.今後、守り続け強化していくこと
3.今後の目指すべきところ
4.株主価値の最大化について
1.新しい経営陣が進めている社内改革の内容
「新しい経営陣が進めている社内改革の内容」に関しては、燃費不正問題を受けてコンプライアンス体制を強化し、国土交通省に提出した31項目の再発防止策の実施を4月までに全て完了し、問題に関しては一応のケジメをつけたとの認識を示した。しかし、顧客からの信頼回復に関してはまだまだ先が長いとも語った。今後は再発防止のため、この31項目を継続的にフォローアップしつつ、問題を風化させないために開発拠点のある岡崎などに展示物を設置し、社員教育にも力を入れるという。
開発組織に関しても大幅に見直しが行なわれて再編成された。従来は開発本部長の上に開発統括部門長が設置されていたが、階層をフラット化させて副社長が本部長を指揮する構成となっている。また、新たにグローバルリスク・コントロール担当役員を任命。会社全体のリスクマネジメントを強化している。益子氏が陣頭に立ち、ガバナンス体制の強化も行なったという。
ゴーン氏のもとで業務改善を加速すべく業務管理の在り方も変革した。ゴーン氏は毎月の事業レビューミーティングで議長を務め、会社全体の業績を管理し、事業の質の向上に向けた改善対策を指示し、その成果をモニターしているとのこと。
研究開発に関しては、ルノー・日産アライアンスを活用しながら長期な視点で強化を図る。投資額は自動車業界で競争力を維持するために必要である、売上高比の約5%となる。また、社内の研究員の増員や外部のエンジニアリング会社も積極的に活用するという。これにより“商品の主導による販売台数と売上高の増加”を図る。
アライアンスの活用として、プラットフォームやエンジンなどの技術を「ツールボックス」と呼ばれるアライアンスの共有資産から採用することで競争力の高い製品を開発することができるという。特に自動運転技術や“人口知能とクルマの融合”、厳しくなる環境規制などへの対応は、三菱自動車単独では開発が困難であり、「ツールボックス」の活用が期待されるという。
2.今後、守り続け強化していくこと
「今後、守り続け強化していくこと」に関して、収益性改善の取り組みについて、2016年度に収益のV字回復に向けた環境作りを実現。この回復に社員1人ひとりが貢献することで、社員自らが自信を取り戻す事を期待しているという。そして、V字回復により社員のモチベーションの向上が実感できているとのこと。2017年度はさらに収益性改善の取り組みを加速させていく。
三菱自動車はルノー・日産アライアンスに加盟しつつも、その経営は独立性を保ったものにする。そのため、グローバル市場では独自のマーケティングを行なっていく。既にブランドとしては「丈夫で耐久性があり信頼性が高い」という評価を得ているが、ここからさらに「革新的で電動車両技術に特徴と強みのあるブランド」に進化させる必要があると語った。また、環境問題をとおして企業の社会的責任を果たしていくとのこと。高齢化社会に対応するために、安全装備を搭載した「ぶつからないクルマ作り」「事故のダメージを最小限に抑えるクルマ作り」が開発の柱の1つとなるという。
三菱自動車は、PHEV、SUV、ピックアップトラックが高く評価されている。実際に2016年度の販売実績の上位もSUVとピックアップトラックが占めた。また「アウトランダーPHEV」を2017年5月にウクライナの警察用車両として635台を納入。PHEV市場で日本と欧州で累計販売台数1位を獲得している。今後もアライアンスを活用し、PHEV開発には積極的に取り組んでいく。アライアンスの効果により、PHEVなどの強みがある分野への選択と集中が効率的に可能となっており、より得意分野への深掘りが可能となった。また、三菱自動車のPHEVの技術はルノーや日産にも活用されていくとのこと。
アセアン地域は、三菱自動車とアライアンスパートナーにとって大きな可能性を秘めている地域。アセアン地域の生産能力は日本国内に匹敵する規模となっており、タイの自動車輸出No.1は三菱自動車となった。また、フィリピンではミラージュの現地生産が開始され、インドネシアでも4月に年間生産台数16万台の新工場が竣工している。インドネシア工場ではアライアンスを活用した車種の第1号である新型MPVの生産が行なわれる。同車は日産自動車でも販売され、インドネシアから初の輸出も目指している。
3.今後の目指すべきところ
「今後の目指すべきところ」に関して、2019年度は、連結営業利益率を6%台への回復を目指している。しかし、この数値は過去の環境とは大きく異なるものになるという。営業利益率は2014年度に最高である6.2%に達したが、売上高の伸び悩みという問題を抱えていた。このため、持続的成長を続けるための確信は持てていなかったという。その現状を打破するため、研究開発費や設備投資を増やしていく。また、アライアンスのツールボックスを活用して魅力的な新商品を市場に投入することで、2019年度には25%増である125万台の販売台数達成を目標としている。さらに他の自動車メーカーへの供給も含めると150万台に達する計画を立てているという。2017年度に関しては100万台の回復を目指す。国内では13%増、アセアンでは24%、中国では25%増を目標としている。
日本市場に関しては、軽自動車の販売は2015年度レベルに戻りつつあり、さらに「エクリプス クロス」や「デリカD:5 特別仕様車」の投入で挽回を図るという。2017年度は将来の電動車両の時代に備え、三菱自動車の販売店の約200店舗を電動ドライブステーションとしてリニューアルする計画を着手する。2017年度は28店舗が電動ドライブステーション化する予定。
アセアンは「パジェロ スポーツ」や「トライトン」、秋に発売する「新型MVP」が販売増に貢献する見込み。アセアンは三菱自動車の成長の鍵を握る地域でもあり、ベトナムでも事業の拡大を目指す。アライアンスの活用により、米国や中国でも事業拡大のチャンスがある。中国では販売網の強化を図り、販売店を200店舗から300店舗へ増加させる。また、アウトランダーの中国生産により中国市場での立ち後れの挽回を図り、成長株の1つに育てたいと語った。
4.株主価値の最大化について
「株主価値の最大化について」に関して、2016年の燃費不正問題により低迷した株価は2017年5月には持ち直している。株価は経営の信頼の指標の1つであり「三菱自動車の経営信頼の回復を頂いたものと感謝したい」と述べた。
最後に益子氏の肩書きに関して言及した。三菱自動車は経営改革で「コミット&ターゲット」の考え方を導入するなど、企業文化の抜本的な改革に取り組んでいる。この中で年功序列を変え、業績に連動する報酬体系を採用した。古い社風を変え、新しい風を取り入れるために、益子氏は社長という肩書きを外し、グローバルに通用する「CEO」に統一するとのこと。ルノー・日産アライアンスで活動するうえでもCEOに統一するのが適当とのことで、「業務執行の最高責任者であるCEOとして意識を新たにし、アライアンスの一員として業績のV字回復に全力で取り組む所存です」と語った。
カルロス・ゴーン氏によるアライアンス効果の説明
次にカルロス・ゴーン氏によるアライアンスの説明が行なわれた。冒頭で「会長として三菱自動車の潜在力を発揮させる機会を与えられて光栄に思う」と述べ、益子氏と取締役が推進する持続可能な成長の支援を行なっているという。「三菱自動車の状況は1年前の株主総会と比べて格段に改善されている。燃費不正問題を発端とした軽自動車の販売停止により、2016年度の上期は著しく業績が不振になった。1年前は日産自動車による2370億円の出資の発表があったものの、まだ完了しておらず不確定要素が取り巻いていた。しかし、今の三菱自動車は1年前の三菱自動車ではない」と述べ、改革と活性化が迅速にスタートし同社を大きく変えたことをアピールした。
三菱自動車の強みは「4輪駆動とSUVの伝統をさらに発展させるべく取り組んでいる幹部と従業員」だという。例として「エクリプス クロス」は基幹商品となることを期待しているとのこと。商品開発に関しては「ワクワクする計画を進めている」と語った。益子氏をはじめとした改革に関しては、燃費不正問題で業績が悪化したものの2016年度の通期では経常黒字を達成しており、成果を出していると認識を示した。短期間で黒字化を達成できた理由として、アライアンスの一員となったことを挙げている。ゴーン氏はアライアンスに関して以下のように説明を行なった。
アライアンスの性質に関しては「アライアンスの相乗効果は各社が対等なパートナー関係を結ぶことで生み出されます。『敬意と尊重』こそがアライアンスの基本原則であり、各社のブランドと企業文化を尊重するものです。アライアンスの目的は各社が享受する相乗効果を最大化することであり、かつブランドの独自性を損なわないことです。三菱自動車は従来通り、自社の方針は自社で決めていきます。クルマに例えると、三菱自動車という名のクルマの運転席でハンドルを握っているのは、あくまで三菱自動車の経営陣です。一方、アライアンスは各社が単独ではなし得ないことを実現する、もしくは加速化する役割を担っています。アライアンスはより規模の大きな組織が有する技術、プラットフォーム、購買力、生産体制というツールを各社に提供し、各社はそのツールを活用して自社の業績向上のために使用するという仕組みです。アライアンスは決して三菱自動車を支配することはありません。各社が重複する不必要な重複作業や非効率性をなくすことが目的です。アライアンスは規模の経済により、原価の低減と投資の最適化をもたらします。三菱自動車はアライアンスが有するプラットフォームと革新的な車両技術を入手できます。また、ルノーや日産が有する成功事例のベンチマークを活用し、自社の業績向上に活かすことができます。一方が損をし、一方が得をするという考え方はいたしません」と述べた。
ゴーン氏は、アライアンスのメリットとして「工場の共用」「共同購買活動」「現地化の徹底」「プラットフォームの共通化」「技術の共有」「市場での存在感の確保」の6つの点が挙げられると述べた。
特に「共同購買活動」はアライアンスの最大効果となっており、タイでの車両輸送などはコスト削減に成功したとのこと。「現地化の徹底」は輸送費や関税の低減はもちろん、為替変動による業績への影響を軽減できるという。「プラットフォームの共通化」を利用することで、三菱自動車は今までラインアップになかった手頃な価格の小型車を投入できる可能性があるという。2020年までに70%の商品のプラットフォームが共用化されるとのこと。その結果、調達コストで30%、開発コストで40%の低減ができる見込みだ。
新技術の開発には莫大な費用が掛かるが、三菱自動車はアライアンス各社が開発している自動運転、コネクテッドカー、電動車両の技術を利用できる。逆にアライアンス各社は、三菱自動車が持つ、軽自動車やPHEV、手頃なピックアップトラックといった強みと専門性を利用できるとのこと。「市場での存在感の確保」として、カナダとオーストラリア、ニュージーランドで販売金融事業「ミツビシ・モーターズ・フィナンシャル・サービス」の開始が挙げられる。これは日産の販売金融会社が資金を提供したことによるとのこと。
アライアンスより得られる効果は、2017年度には全体収益約700億円の3分の1にあたる約250億円を想定している。なお、本アライアンスは世界最大の自動車グループに成長する見込みとなっている。
ゴーン氏は「世界最大になることは目標ではないが心強い限りだ。次の一手はアライアンスを活かし、各種の競争力向上を図ることだ」と語った。現在、アライアンスとして32チームの企業横断チームが発足し、アライアンスの発展のために活動しているとのこと。
三菱自動車の業績目標として、販売台数は11%増の1029万台、営業利益3.5%の700億円を見込んでいる。2019年度までの新たな中期経営計画の策定を進めており、秋頃の発表を予定しているとのこと。
質疑応答で「パジェロ」「ランサーエボリューション」について言及
質疑応答では、既にお伝えした通り、「パジェロ」「ランサーエボリューション」の次期モデルについて、同社取締役社長CEO 益子修氏が「いつか新しいパジェロやランサーエボリューションの開発に挑戦したい」との考えを示した。
益子氏は株主総会の質疑応答で予め寄せられた質問のうち、商品戦略についての回答の部分で「パジェロ」「ランサーエボリューション」に関して、「世界各国で厳しさが増す環境規制や燃費規制のため、販売可能なエリアが限られるようになってきた。選択と集中をすることが会社が生き残る道だ」と述べ、メインストリームはあくまで環境に配慮したクルマや自動運転に代表される安全に配慮したクルマとの方針を示した。
しかし、一転して「夢は捨てたくありません」としっかりとした口調で述べると、同社の業績がV字回復して会社に余力が出てきたならば「今と全く同じクルマではないかもしれないが、いつか新しい『パジェロ』や『ランサーエボリューション』の開発に挑戦したい」と、2車種の開発の可能性を株主総会という正式な場で提示した。
また、副社長執行役員(開発、品質担当) CPLOの山下光彦氏は、今までの三菱自動車の組織としての問題と反省として「成長の目標を見失っており、会社組織の中によりどころにする判断の基準が明確でなかった。個々の部署でバラバラに判断しており、計画的な行動も不足。それを討議するのも上手でなかった。そして計画の変更による下流工程の混乱やリソースの不足で現場が苦しんでいた」という点を挙げた。
その改善として、明確な目標の設定や成長ビジョンの共有化、社員への目標の浸透を図っているとし、新しい規範「MMC WAY」を設定したとのこと。これにより、中堅社員らからも「トップマジメントが増えてコミュニケーションが取りやすくなった。部門やグループの計画を段階的に分けて説明することで、会社がどの方向に向かっているのか分かりやすくなった。社内でモノが言いやすくなった」と実感したという声が上がっていると報告された。
他にも株主からは益子CEOの責任を問う声や、燃費不正問題などを招いた責任者を続投させる事への不安などが質問として出されたが、ゴーン氏は「三菱自動車の再生は三菱自動車の人々によってなされなければなりません。私は益子氏と一緒に仕事をしてきて、彼が信頼できる人物だと思っている」と回答。
また益子氏も「2016年度から、どうすることが最適かと考えてきた。結論として会社の存続を図り、燃費問題が風化しないように当事者として関わってきた責任を果たします」と続投に意欲を見せた。