ニュース

「CEATEC JAPAN 2017」で「日本ディープラーニング協会」設立発表会開催

国際的な産業競争力強化が急務。2020年までに3万人のエンジニアを育成

2017年10月4日 開催

日本ディープラーニング協会発表会に参加したメンバー。後列中央が理事長の東京大学大学院工学系研究科 特任准教授 松尾豊氏

 千葉県の幕張メッセで10月3日~6日に開催されている「CEATEC JAPAN 2017」の「日本ディープラーニング協会設立発表シンポジウム」にて「日本ディープラーニング協会設立発表会」が開催され、「日本ディープラーニング協会」(Japan Deep Learning Association)の設立が発表された。このシンポジウムは、一般入場も可能なCEATEC JAPAN 2017のカンファレンスの1つとして開催され、パネルディスカッションも行なわれた。

 ディープラーニングは深層学習とも呼ばれ、多層のニューラルネットワークを使って情報伝達処理を増やすことで精度を上げていく機械学習手法の1つ。学習結果を人工知能に用いることで、さまざまな応用利用が考えられている。コンピューターの計算能力向上により推論処理の精度が高まり、社会に影響を与えると考えられていて注目が集まっている。自動車の自動運転への活用はその一例。会場となった国際会議場内の国際会議室はほぼ満席となっていて、その注目の高さがうかがえた。

 協会は、ディープラーニングを事業の核とする企業や研究者が中心となって設立され、理事長には東京大学大学院工学系研究科 特任准教授 松尾豊氏が就任。以下の理事就任が発表された。

エヌビディア エンタープライズ事業部長 井﨑武士氏
PKSHA Technology 代表取締役/ファウンダー 上野山勝也氏
ABEJA 代表取締役 CEO 岡田陽介氏
早稲田大学基幹理工学部表現工学科 教授 尾形哲也氏
IGPI ビジネスアナリティクス&インテリジェンス 代表取締役 CEO 川上登福氏
ブレインパッド 代表取締役会長 草野隆史氏
クロスコンパス 代表取締役社長 佐藤聡氏
FiNC 取締役 CTO 南野充則氏

 また、正会員にはABEJA、ブレインパッド、FiNC、GRID、IGPI ビジネスアナリティクス&インテリジェンス、エヌビディア、PKSHA Technology、STANDARD、UEI、クロスコンパス、zero to oneの各社が、賛助会員には9月末時点でトヨタ自動車が参加していて、これら会員は現在も募集を募っている。ほかに、以下の有識者が会員として名前を連ねている。

東京女子大学 情報処理センター博士 浅川伸一氏
東京大学 教養教育高度化機構 江間有沙氏
東北大学大学院情報科学研究科 教授 岡谷貴之氏
早稲田大学 基幹理工学部表現工学科 尾形哲也氏
情報医療 最高責任者/東京大学大学院 工学系研究科 招聘講師 巣籠悠輔氏
東京大学大学院 情報理工学系研究科 特任准教授 中嶋浩平氏
東京大学大学院 工学系研究科 特任准教授 松尾豊氏

協会会員の一覧
世耕弘成 経済産業大臣からの祝辞を読む、経済産業省 商務情報政策局 前田泰宏 大臣官房審議官

 冒頭、世耕弘成 経済産業大臣から祝辞の披露があり、経済産業省 商務情報政策局 前田泰宏 大臣官房審議官が祝辞を代読。「3月にドイツ、ハノーバーで開かれたCeBIT 2017で日本がパートナーカントリーとして出席しました。ドイツが中心となって進める『インダストリー4.0』の流れに日本がどのように対応していくのか議論した結果、私たちは『ソサエティ5.0』のエンジンとしての『コネクテッド・インダストリーズ』というコンセプトを作りました。産業競争力の強化にどう対応していくかがソサエティ5.0を動かす仕組みであると考えています」。

「特にIT人材の育成はコネクテッド・インダストリーズの実現に不可欠です。第4次産業革命時代における、ネットとリアルの双方に卓越した、いわゆるIoT人材が特に重要だと考えています。コネクテッド・インダストリーズは、5つの重点分野を考えています。そのなかのデータサイエンス、ITとロボティックスの融合、AIの人材ニーズは無限にあります。これについて官と民で協力して、具体的に対応していこうと考えています」。

「例えば、産業界からニーズをいただきながら、ものづくりに卓越した人材にAIなど高度IT技術を学んでもらい、即戦力の人材を集中的に育成をしていく。新たなスキルを備えた人材の育成に向けて、新たな開発手法や新技術に対応するIT人材の能力やスキルを明確にする必要があり、IPAにおいてITスキル標準の改訂を進めています。経済産業省においてもコネクテッド・インダストリーズを支える人材を育成するために、IT、データの分野を中心にした教育訓練講座を経済産業大臣として認定する制度、通称『スキル講座』を創設したところです。厚生労働省とも連携をして、優れた人材を育成していきたいと思っています」。

「さらに、即戦力となる人材育成観点からは、自動車産業機械の技術者の方がAIの中核的技術、ディープラーニングを学ぶことが重要だと考えています。本日発足する日本ディープラーニング協会が取り組もうとするAI人材育成は、我が国の産業競争力向上に直結し、強力な基盤を作るものであると考えます。日本ディープラーニング協会は2020年までに、ディープラーニング技術者を3万人育成すると聞いています。国際的に通用するプログラムとするために、国際的な団体やディープラーニング教育を担う大学との連携も広げるなど、AI人材の裾野を広げる活動となることを期待しています。産業界からも積極的な協力をお願いしたいと思います。コネクテッド・インダストリーズ実現に皆様の協力は不可欠です。政府としても『人づくり革命』を打ち出していますが、産・官・学の連携を加速をして、人材基盤整備をともに進めていきたいと思います」とのメッセージが読み上げられた。

松尾理事長がディープラーニングについて解説

 続けて、松尾理事長が日本ディープラーニング協会設立の背景となる、ディープラーニングについて概略を解説。

理事長に就任する東京大学大学院工学系研究科 特任准教授 松尾豊氏

「ディープラーニングの技術を習得した人材をいかに早く作っていくかが、国際的な産業競争力向上には欠かせない。現在、第3次のAIブームになっている。単なるブームに終わらせないためにも、人工知能は何でもできるワケではなく、可能なことをよく把握する必要がある」。

「ディープラーニングは、ほかの技術にはあまり起こらない破壊的な変化が急激に起こっている革命の最中。これで何ができるかというと、眼を持ったことにより識別が可能になっている。これまで識別の精度は悪かったが、ディープラーニングによりエラー識別率が2015年には人間を超えるということが起こってしまった。この例の事実だけでも、今後産業や社会に変化が起こると考えている」。

「さらに深層強化学習を組み合わせることで、ロボットや機械が上手に動くようになることが起こりつつある。これらを一言で言えば『眼の誕生』で、機械の世界でも生物と同じようにカンブリア爆発に似た、爆発的に発達する領域が広がると考える。この領域を日本が取れるかどうかが、今後の日本経済を考える上でとても重要。世界のIT分野の中で日本は負け続け活用できていない。AI分野でも遅れをとってしまっているが、ディープラーニングは物づくりと組み合わせた時に、潜在的な可能性があると考える。日本にとても有利な分野であり、新たな競争力になる」。

「これまで、ラインを作り眼のない機械が自動的に動いていたが、農業や食品加工、建設、医療、介護などの現場では、自然物を扱ったり現場が異なるため対応できなかった。これらが、眼を持った機械により自動化される可能性がある。技術のイノベーションは、現在ディープラーニングにある。ITとAI、ディープラーニングはあいまいになりがちだが、分けて考える必要がある。ユーザーとなる企業の知識を上げていくことが必須。なんでも人工知能と言わずに、よい技術を見る眼を持って欲しい」などと現在の状況と日本ディープラーニング協会設立の必要性を説明した。

ディープラーニングで具体的にできること。現在革命が起きている
2015年に画像認識でのエラー率が人間が行なった際の5%をAIが超えてしまった
ロボットに画像認識による深層強化学習を組み合わせるとさらに効果的。実社会への応用が始まっている
眼を持つことで、様々な分野での爆発的な普及が見込まれる
世界企業の時価総額ランキングではITが独占しているが、日本企業は上位にない。ディープラーニングと物づくりが挽回できるチャンス
なんでも人工知能と言わずに、よい技術を見る眼を持つ必要がある
日本ディープラーニング協会 運営事務局長 岡田隆太郎氏

 さらに、日本ディープラーニング協会 運営事務局長 岡田隆太郎氏が、協会の概要とプランを発表。ディープラーニングに関する知識を有し、事業活用する人材のジェネラリスト向けの「G検定」と、実際にディープラーニングを実装するエンジニアのための資格「E資格」の2つの試験やトレーニングを行なうことを具体的に発表した。

 G検定に関しては2017年度中の12月16日に初回試験があり、11月17日から申し込みを受け付ける。受験資格は特になく、自宅でオンライン試験を受験する形式。E資格は2018年からで4月頃を予定。こちらの受験には日本ディープラーニング協会認定プログラムをオンラインで受講し修了している必要がある。試験は当面、東京と大阪の2会場にて行なう。

日本ディープラーニング協会の活動内容
日本ディープラーニング協会の組織体制
学習する体系の詳細。ジェネラリスト向けとエンジニア向けの2種
ジェネラリスト向け「G検定」の詳細
エンジニア向け「E資格」の詳細
各体系の2020年までの目標人数。エンジニアを3万人育成
発表会の後半、「日本におけるディープラーニングの産業活用動向と課題」と題したパネルディスカッションが行なわれた
モデレータの株式会社IGPI ビジネスアナリティクス&インテリジェンス 代表取締役CEO 川上登福氏

 後半には、「日本におけるディープラーニングの産業活用動向と課題」と題して、モデレータにIGPI ビジネスアナリティクス&インテリジェンス 代表取締役CEO 川上登福氏が、パネリストとしてエヌビディア エンタープライズ事業部長 井崎武士氏、ブレインパッド 代表取締役会長 草野隆史氏、クロスコンパス 代表取締役社長 佐藤聡氏の3人が加わりパネルディスカッションが行なわれた。登壇者全員が日本ディープラーニング協会の理事を務める。

 エヌビディア(NVIDIA)は、GPUメーカー。ディープラーニングでは、コンピュータで使われるCPU以外にGPUをアクセラレータとして利用する。学習や推論に計算がよくマッチし、そのデファクトスタンダードとなっている。そのハードウェアのメーカー。ブレインパッドは、主にビッグデータ分析を行なっているビジネスにデータをどう使うかという部分を担っている。クロスコンパスは、いわゆるAIベンチャー。ディープラーニングを活用し産業界で応用したり、AIのプラットフォームを作り、簡単に活用できる仕組みを提供する。

 パネルディスカッションでは、クロスコンパスの人間の眼で確認するよりも確実かつ正確なAIを使った外観検査の紹介や、ブレインパッドの製造業の生産ラインでの不良品を検出させたり、河川の護岸劣化状況を精度よく確認する事例などの具体例が紹介された。

 また、主に海外と比べて日本でのディープラーニングへの取り組みのマインドの違いについて取り上げられ、特に日本の大企業では取り組みが進んでいない現状が上げられた。

エヌビディア合同会社 エンタープライズ事業部長 井崎武士氏

 エヌビディアの井崎氏は「日本では事例数もまだ少なく、主にベンチャー企業が多い。分野では自動車の自動運転、自動運転を農業への応用、インフラ点検、ファイナンス、外観検査、機械制御の効率アップへの応用がある。法整備も海外の方がスムーズに進む傾向。スピード感を含め、日本はまだまだ遅れていると感じる」と感想を述べた。

株式会社ブレインパッド 代表取締役会長 草野隆史氏

 ブレインパッドの草野氏は、日本の大企業に対して「情報システム部とビジネスの現場が遠く、ITとビジネス両方を理解している人材が少ない。外注に依存している体質がある。リスクをとってITとして投資をしていく姿勢が必要なのではないか」と発言。

株式会社クロスコンパス 代表取締役社長 佐藤聡氏

 また、クロスコンパスの佐藤氏は、「ディープラーニングの処理前から処理後の知財の扱いで、長期間紛糾することが多い。その間に新しい物ができてしまうケースもある。日本の企業では、結果に理由を求めすぎる傾向にある。どうしてそうなったのか理由が分からないと使えないとなると、できることは限られてしまう」と、日本企業のディープラーニング活用時の問題点を指摘していた。

 質疑応答でも、AIとディープラーニング分野では、すでに中国がもっとも先進国で、アメリカより進んでいる部分もあるという見解も聞こえていた。日本は出遅れている。日本の企業は、ITだけでなくAI、ディープラーニングで、物づくりと融合させて早急に世界レベルに到達する必要がある。大きく伸びる余地があるため、興味があるなら、ぜひ挑戦して欲しい分野だ。

日本ディープラーニング協会のロゴマーク