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ディープラーニングやAIの活用方法が示された「NVIDIA Deep Learning Institute 2017」レポート

ビル・ダリー上席副社長と文部科学省による講演を報告

2017年1月17日 開催

 半導体メーカーのNVIDIAは、1月17日にベルサール高田馬場(東京都新宿区)において「Deep Learning Institute 2017」を開催した。本イベントは、AIの構築に不可欠とされるディープラーニングを、同社のGPUを利用して活用する方法などが説明されるイベントとなり、各種の講演、ハンズオンなどが行なわれた。

 本記事はそうした講演の中から、基調講演として行なわれたNVIDIA 主席研究員 兼 リサーチ担当上席副社長 ビル・ダリー氏と、文部科学省 研究振興局 情報担当専門官 栗原潔氏による政府の人工知能研究の取組と産業界への期待」の2つを取り上げていきたい。

GPUでディープラーニングの学習を行なうようになって科学も進化

NVIDIA 主席研究員 兼 リサーチ担当上席副社長 ビル・ダリー氏

 NVIDIA 主席研究員 兼 リサーチ担当上席副社長 ビル・ダリー氏は、2009年にNVIDIAに入社するまではシリコンバレー(米国のIT産業が盛んな地域、サンフランシスコ~サンノゼ間のいわゆるベイアエリアと呼ばれる地域が相当する)のコンピュータ科学の名門校であるスタンフォード大学でコンピュータサイエンス部長を務めてきた、コンピュータサイエンス界のトップレベルの研究者の1人だ。NVIDIAの躍進の基礎となったGPUコンピューティングまわりの研究を含め、同社の研究開発をリードして現在のNVIDIA躍進の礎を作ってきた1人と言ってよい。

 ダリー氏は「2000年代前半のスタンフォードでのストリームプロセッサの研究が2006年のCUDAにつながり、さらに2012年にそれをベースにしたOak Ridgeの世界最速のコンピュータ、そして2013年のGPUを利用したディープラーニングが始まるなどの進化を続けてきた。GPUが新しい科学研究を可能にしているとも言えるし、その逆に科学研究がそうしたGPUを進化させている」と述べ、NVIDIAがGPUコンピューティングと呼ばれるGPUを利用した汎用コンピューティングの世界を広げてきて、それが現在のGPUを利用したディープラーニング研究につながっていると説明した。

GPUコンピューティングとディープラーニングの歴史

 その上で、2016年11月に発表したTesla K20Xが1万8688台搭載されたスーパーコンピュータのTITAN、そしてNVIDIAとIBMが協力して導入を計画しているピーク時の100~300PFLOPSという桁違いの演算性能を実現する新しいスーパーコンピュータのSummit & Siera、Tesla P100を8台搭載したDGX-1を124台搭載しているDGX SATURNVなどのソリューションを紹介し、エクサスケールと呼ばれる1E(エクサ)FLOPSを超えるスーパーコンピューティングを実現することがNVIDIAの今後の目標だと説明した。

エクサスケールの前に今年導入されるSummit & Siera

 その上で、NVIDIAの現在のディープラーニングの取り組みについて触れ、「現在、AIの世界は大きな変革期を迎えている。GPUでディープラーニングの演算を行なうようになったからだ。また、今後AIはスーパーヒューマンのようになって、より多くのタスクを行なうことができるだろう」と述べ、NVIDIAのGPUを利用してディープラーニングを行なうことの影響などについて説明した。

 例えば、Googleの例で言えばAndroidアプリ、Gmail、イメージ認識、自然言語認識……など数え切れないアプリケーションでAIが使われているようになっている現状を説明し、ディープラーニングの用途が非常に幅広くなっていると説明した。ダリー氏はさらにディープラーニングが科学を進化させている側面もあると述べ、例えばディープラーニング/マシーンラーニングを流体力学に応用することで、これまでの流体力学では見えてこなかったより現実に即したシミュレーションなどが可能になるとした。

ディープラーニングはあらゆるところで使われるようになっている
ダリー氏講演のスライド

XAVIERではSoC1つだけで20 TOPS DLという性能を実現

 さらにダリー氏は、同社が2016年の4月に発表した新しいGPUアーキテクチャのPascalアーキテクチャの5つの特徴(半精度のサポート、16nm FinFET、広帯域メモリのHBM2、新しいインターコネクトのNVLink、cuDNNのサポートなど)が、ディープラーニングの学習時の性能を4年で65倍引き上げたことを紹介した。

Pascalの特徴と性能

 ダリー氏は2016年4月に同社が発表したTesla P100、そして10月にPCI Expressベースのカードとして発表されたTesla P4、Tesla P40などの製品を紹介し、中でもTesla P100を8つ搭載したDGX-1を紹介し、DGX-1が1つで170TFLOPSという桁外れの性能を発揮し、ディープラーニングの学習にかかる時間を短縮できるとアピールした。

DGX-1

 さらに2017年のCESでも話題になったIoTや自動運転車のAI化について触れ、すでにリリースしているJetson TX1という開発ボードベースだと、現在は10Wの消費電力で1TFLOPSの演算性能を実現できるが、同社が現在計画している次世代のSoCとなるXAVIER(エグゼビア)では、SoC 1つで20 TOPS DLという性能を実現できると紹介した。

 また、自動車向けのソリューションとしてDRIVE PX 2の開発ボード、さらにはSDKとなるDriveworksなどを自動車メーカー向けに提供していくことで、自動車メーカーがより容易に自動運転車の開発に取り組めるとした。また、その後CES 2017で実際の実車を公開した同社の自動運転車「BB8」のビデオなどを公開した。

NVIDIAのDRIVE PX2
次世代知能科学研究センターの初代センター長 國吉康夫教授

 その後は、東京大学に10月1日に設立された「次世代知能科学研究センター」の初代センター長 國吉康夫教授が壇上に呼ばれ、東京大学のAI開発への取り組みなどが説明された。この中で國吉教授は、日本語と英語の間にイメージを挟むことで精度を上げる研究、AIを利用したジャーナリストロボットの開発、さらにはAIを利用した赤ん坊ロボットの開発などといった研究成果の一部を公開し、それらの研究にGPUが役立っていると説明した。

 また、ダリー氏に戻ると、プロセッサ内部のアーキテクチャとよりよいリソースの利用方法など、ダリー氏の研究分野に関しての説明を行なった。

ダリー氏講演のスライド
國吉教授講演のスライド
ダリー氏講演のスライド

AIに関する国家予算を増やすことでAI研究を加速していくと文部科学省

文部科学省 研究振興局 情報担当専門官 栗原潔氏

 文部科学省 研究振興局 情報担当専門官 栗原潔氏は「政府の人工知能研究の取組と産業界への期待」というタイトルで、日本政府がAIやそれに関わる学会、産業界の研究振興をどのように行なっていくのかの戦略について説明した。

 栗原氏は「政府としては、研究を通じて我が国の競争力を上げることができる取り組みを行なっていきたいと考えている。その中にはAIも含まれており、それらがどのような現状にあり、政府の予算案にどのように反映されているか、そして政府として学生様や産業界の皆様にどのようなことを期待しているのかの3つについて話していきたい」と述べ、政府のAI振興政策について説明した。

 まず現状に関しては、政府の予算規模や現在の日本のICT研究などが置かれている現状を具体的な数値を出して説明していった。「1990年代では論文の数などでもTOP6に入っていたが、ここ数年で見ると20位近くまで下落してきている。実際、ここ数年の国家予算で見ると、他の科学技術は増えているが、ICTだけは減ってしまっている」と述べ、IT系の研究予算などが国として減らされてきていた現状などについて説明した。

1990年代の前半には日本も多くの論文があったが
近年では論文の数も減っている

 また、「国としては毎年高齢者が増加することで社会保障費が年々5000億円ずつ増えていっている。これは東大が年間で800億円という予算なので、東大が12個毎年増えていってるようなペースで増えているようなものだ」と述べ、国としてもおいそれと予算を増やすのは難しいという現状があると説明した。さらに栗原氏によれば、日本は欧米などに比べてドクターの称号を持つ研究者が少なく、しかもそのドクターの多くが医者であるという状況になっており、危機的状況だと説明した。

国家予算の科学技術関連に占めるICTの額は最近減っていた

 そうした厳しい状況を打開するため、現在日本政府では安倍総理の指示により「人工知能技術戦略会議」を創設し、そこが政府の司令塔になって人工知能への研究や取り組みなどを促していく戦略を行なっているという。そこには産学の関係者などが参加してさまざまな議論を行ない、AIに関する研究、開発への取り組みを行なっていくと栗原氏は説明した。そうした戦略会議を頂点として、関係省庁となる文部科学省、経済産業省、総務省が省庁横断でAIの普及に取り組んでいると栗原氏は説明した。

「人工知能技術戦略会議」を創設

 そしてその予算措置として、平成29年度(2017年度)では総務省が24.1億円、経産省が45億円と、平成28年度(2016年度)の2次補正予算として195億円などの予算案が間もなく国会に提出されて議論されるという。そして栗原氏の文部科学省では平成28年度(2016年度)に54.5億円が計上され、平成29年度(2017年度)では95億円と増額が予定されている。栗原氏によれば「プロジェクト予算が2年目で増えるのは霞ヶ関の常識ではありえない」そうだが、それだけ国としてもAIに大きな期待をしているとのことだった。このほかにも、平成28年度(2016年度)の第2次補正予算では182億円の予算措置がとられていると栗原氏は説明した。そうした予算措置により、理化学研究所での基礎研究、さらにはそれを利用した応用研究などを進めていくとのこと。

平成29年度(2017年度)はAIに関する予算措置もさらに増やされる予定

 最後に栗原氏は「1980年代に行なわれていた第5世代コンピュータの研究の反省として、世界の研究との途絶という点があった。現在の日本のAIの研究は3割が外国籍の研究者で、あえてオールジャパンとは言わずにトップレベルの研究者を集めて研究していきたい。特に基礎理論や基礎研究を重視して日本発の成果を出してきたい」と、世界の研究とも交流しながら世界トップレベルの研究に育てていきたいという意気込みを説明した。

投資効果の見込み

 なお、栗原氏によれば現状のまま研究に投資をしないと、実質GDP成長率などへのインパクトはほとんどないが、そうしたてこ入れを行なっていくことで、倍の実質GDP成長率を実現できるという試算などを紹介し、少子高齢化になってもきちんと日本の産業が成り立っていく未来が実現できると説明した。そのためにも「学生の方や企業の方にはぜひこうした研究にも積極的に参加してほしい」と述べ、詰めかけた来場者へそうした日本のAI研究への参加を呼びかけた。

栗原氏のスライド