エンジン開発秘話の続編も開催されたFN第5戦鈴鹿
新設Qスタンドからのパノラマ写真も掲載


 鈴鹿サーキットで開催されたフォーミュラ・ニッポン(FN)第5戦では、さまざまなサポートイベントが用意されていた。鈴鹿では初となる「フォーミュラ・ニッポン新エンジン開発者によるトークライブ」など、各種イベントを紹介していこう。

グランドスタンド正面に設置された大型ビジョンに映し出されたフォーミュラ・ニッポン新エンジン開発者によるトークライブトヨタ自動車モータースポーツ部主査 永井洋治氏本田技術研究所MSブロック主任研究員 坂井典次氏

 フォーミュラ・ニッポンのエンジンを供給するトヨタ、ホンダの開発責任者によるトークショーは、第3戦のもてぎで「モータースポーツワークショップ・フォーミュラ・ニッポン新型エンジンを語る」と題して初開催された。開発秘話やオーバーテイクシステムの解説は、コレクションホールの会場が満席になるほどで、関係者が予想していた以上に大好評。第4戦富士ではイベント広場のステージでファンを前に開催。今回の鈴鹿では普段サーキットのレース解説が行われている放送室から、サーキット全体で聞くことができる形式で開催された。ピットウォークと同時進行で開催されたので、ピットロードやグランドスタンドにいた観客は、新設された大型ビジョンでも楽しむことができた。

 今回のトークショーも、前回、前々回と同様にトヨタ自動車モータースポーツ部主査の永井洋治氏と、本田技術研究所MSブロック主任研究員の坂井典次氏が参加して行われた。

 今シーズンからフォーミュラ・ニッポンのエンジンは3000ccから3400ccに排気量が上がり、エンジンパワーは600馬力を超えている。さらにオーバーテイクシステムという、一時的にエンジン回転数を1万300rpmから1万700rpmに上げるシステムを導入するなど、従来とは一線を画するエンジンとなっている。

 このエンジンを開発するため、2006年の鈴鹿で1回目の話し合いが行われた。この段階で、オーバーテイクシステムを搭載すること、排気量を3400ccにすること、排気量アップはボアを従来どおりでストロークを長くして行うことなどエンジンの骨格は決まった。年が明けた2007年から設計を開始し、2年でレースデビューとなった。

 新エンジンでは排気量アップ、パワーアップ、オーバーテイクシステム搭載、4レース(決勝だけで250×4=1000km)連続使用などの条件をクリアする必要があった。これらの目標に対しホンダの坂井氏は「走行距離は3000kmをクリアすることを目標に立てた。3400ccにするためにストロークを増やしながら、オーバーテイクシステムのために回転数も今までより400rpm上げなければいけない。さらに400rpmの中でパワーが落ちないように高回転側のパワーも出さないといけない。加えて重量も軽くするということで、4重苦と対決するような形で設計が始まりました」と当時を振り返った。

 トヨタの永井氏は「チャレンジはエンジニアの楽しみ。エンジン開発は止まることはない。今回もバージョンアップをした。常にチャレンジで、ホンダさんに絶対負けたくない」とライバル心を見せた。これに対し坂井氏も「戦う相手がいるから頑張れる。技術的にもチャレンジ、トヨタさんにもチャレンジ、昨日の予選ではホンダエンジン搭載車でトップ3が取れたので、エンジニアとしてはしてやったり、満足している」と熱い気持ちを語った。

 オーバーテイクシステムによって、エンジンに何か対策する必要はあったのかという司会者の質問に対し、坂井氏は「ベンチで耐久テスト、サーキットでも実車テストを行った。さらに1周すべて1万700rpmで何ラップか走ってもらい“念のための保証”もしている」と信頼性確保に対する開発段階の様子を語ってくれた。

 最後に、鈴鹿でのオーバーテイクシステムの効果的な使用ポイントについて永井氏は「個人的な意見としては130Rで見てみたい。130Rはほとんどのドライバーがリミッターに当たるので、リミッターを解除すれば車速が15km/h上がる。が、これは相当な勇気がいるしデンジャラス。なのでファンとしては見てみたいが、現実的にはストレートエンドからS字でしょう」。坂井は「確かに130Rが面白いが、現実的にはあそこは速度をコントロールしなければいけないところ。1コーナー、2コーナーからS字に入る前がリミッターに当たるギアレシオがあるので使える。ほかに面白いのはヘアピンの進入、スプーン入り口も使い場所でしょうか」と語った。

 今回は放送を通してのトークライブで、より多くの方に聞いてもらえるメリットがあった。半面、ファンからの質問ができなかったり、時間的にも十数分と制約があったりするなどした。もてぎでは予定の1時間を超え、プレゼンテーションソフトを使用した濃い内容のトークだったので、それと比べると少々物足りない感じもした。今後はエンジン開発者だけでなく、各チームのエンジニアによるトークライブとか、いろいろな試みを期待したい。

  トークライブの後に行われた決勝レースでは、実際にS字の入り口では多くのマシンがリミッターに当たりエンジン音が変わることが確認できた。エンジン側から見れば、ストレートエンド、S字がオーバーテイクシステムを効率よく使えるポイントなのだろう。

 前回の鈴鹿は豪雨の中の決勝レースで、ほとんどのドライバーがオーバーテイクシステムを使用できなかった。ドライコンディションとなった今回の決勝では、5回すべて使い切るドライバーもいるなど、オーバーテイクシステムの活用が浸透したようだ。使用個所はスプーンの立ち上がりで押して、130Rを抜け、最大のパッシングポイントであるシケインまでが一番多かった。オーバーテイクシステムは、外からは分からない「ここで抜きたい」「抜かれたくない」というドライバーの心理を垣間見ることができるシステムで、これからもレース観戦を楽しませてくれるだろう。

 今回のフォーミュラ・ニッポンでも恒例のピットウォークが土曜(予選日)、日曜(決勝日)と開催された。多くのファンが参加し、特に日曜のピットウォークは人気チームの前にサインや写真を求めるファンで長蛇の列ができていた。ドライバーも笑顔でサインや撮影に応じていた。猛暑の中、大粒の汗を流しながら対応していた小暮選手が印象的だった。

土曜日のピットウォークでファンのサインに応じる伊沢選手(左)、石浦選手(中)、塚越選手(右)
日曜日のピットウォークでサインする大嶋選手(左)、デュバル選手(中)、小暮選手(右)。小暮選手は汗だくで対応していた
人気チームのピット前には多くのファンが集まっていた

 グランドスタンド裏のGPスクエアに設置されたステージでは、ドライバートークショーやレースクィーンフォトセッションなどが開催された。開催時刻が近付くと多くのファンが集まり、シャッター音が響いていた。GPスクエア周辺には多くの飲食店もオープンしている。地元三重県を意識したメニューも多いので、遠方から来たファンには楽しみの一つだろう。

スタンド裏、GPスクエアのイベントステージにも多くのファンが集まっていた。写真はレースクィーンフォトセッション松阪牛丼(980円)。温泉卵付きでなかなか豪華。ほかにも伊勢エビバーガー、松阪牛バーガー、伊勢茶塩焼きそばなど、地元色のメニューが多数あり

 土曜日の予選後にはキッズウォークも開催された。これもフォーミュラ・ニッポンではおなじみのイベントだ。中学生以下の子供がいれば、家族無料で参加できるので人気となっている。

土曜の夕方に行われたキッズウォーク。中学生以下の子供がいれば家族無料で参加できる子供達と写真に収まる伊沢選手(左)、塚越選手(右)
若干20歳の国本選手。6年前にはキッズウォークに参加できた年齢フォーミュラ・ニッポンと同時開催されているFCJのマシンのコクピットをのぞき込むお嬢さん。マシンを間近で見られるイベントだ並べられたFCJのマシン。間近で見たり、写真を撮ったりできる

 フォーミュラ・ニッポンのレース終了後の表彰式はコースに入って見ることができる。報道陣の撮影エリアがピットウォールで、そのすぐ後ろから多くのファンが表彰式の様子を見守っている。距離も近く、選手の喜びの表情もハッキリ見られるし、撮影も容易な距離だ。

フォーミュラ・ニッポンの表彰式はコースへ入って見ることができる決勝終了後、表彰台に並ぶ3選手。コースから見れば選手の表情もハッキリ見える

 今回のフォーミュラ・ニッポンでは、シケインのところに新設されたQスタンドへの入場が可能となった。鈴鹿サーキットで最も高い位置からレース観戦できる注目のスタンドだ。今回はQスタンドからの景色をパノラマ撮影したので、その景色を見ていただきたい。Qスタンドは3つのブロックに分かれている。最終コーナー側に近いブロックのコースに向かって左端の最上段、真ん中のブロックの中央付近の最上段、130R側に近いブロックの右端の最上段で撮影を行った。

Qスタンド左端最上段からの景色。スターティンググリッド、2コーナー、逆バンク進入、デグナー1つ目、130Rとレースを堪能できるシートだ
Qスタンド中央最上段からの景色。2コーナーからS字へのストレートまで見られる。デグナー、130Rはかなり見やすい感じだ
Qスタンド右端最上段からの景色。1コーナーの出口から2コーナーが見える。鈴鹿最大のパッシングポイント、シケイン進入が目の前となる。
シケインの正面には文字情報が表示されるボードが設置された。順位が確認できるとレース観戦は楽しくなる

 筆者は1989年のF1日本GPで、アイルトン・セナ、アラン・プロストのシケインでの接触を目の前のシケインスタンドで観戦した。新しいスタンドでは130Rの立ち上がりからシケインまで、コースを見下ろすように至近距離で見ることができる。あのときにこのスタンドがあったら、その迫力はさらに増しただろう。筆者は鈴鹿の一番の観戦ポイントはB2スタンドの中2階A~Cブロックだと思っていたが、最大のパッシングポイントであるシケインが目の前で、さらに東コース全域が見渡せるQスタンドもB2スタンドと並ぶ観戦ポイントと言えるだろう。

 今回は西コース、スプーンカーブへも足を伸ばしてみた。その様子も紹介しておこう。ヘアピン、スプーンは斜面の造成は進んでいるが、スタンド自体の工事はまだ始まっていない。工事の準備ともいえる工事用の糸が張られていたので、近いうちに工事が始まりそうな感じだ。スプーンカーブはグランドスタンドからは20分以上かかるが、今年のF1ではスプーンゲートという新しい入場門も用意される。スプーン進入からバックストレートまでの区間は、排気音がよく聞こえるためアクセルワークの差が分かりやすいポイント。スプーン1つ目と2つ目の間のアクセルワークや、コーナー立ち上がりのアクセルオンのタイミングなどマシンやドライバーの差が聞き取れる。東コースからは遠いが一度は行ってみたい観戦ポイントだ。

スプーンカーブ入り口、Lスタンド付近。造成は進んでいるが、スタンドの工事はこれから
スプーン1つ目と2つ目の中間、Mスタンド付近。各ドライバーのアクセルワークを聞くには最高のポイントだ

 今回Qスタンドがオープンとなったが、東コースではまだEスタンドが立ち入り禁止となっている。だが、トンネル出口付近で通路の規制が始まるなど、工事に進展が見られた。7月23日~26日にかけて開催される8時間耐久レースには間に合わないかもしれないが、8月後半のSUPER GTではEスタンドでの観戦が可能になるかもしれない。

スプーンの各所には工事用の糸が張られていたダンロップコーナーのEスタンドは現在立ち入り禁止だが、ここへきて工事が進んでいる様子がうかがえる

 

(奥川浩彦)
2009年 7月 15日