F1日本グランプリ直前企画 奥川浩彦の「F1流し撮り講座 2009」 第1回 流し撮り撮影に必要な機材など |
2009年のF1日本グランプリがいよいよ10月2日~4日に開催される。今年は3年ぶりにF1が鈴鹿サーキットに帰ってくる。昨年掲載した「F1流し撮り講座」(関連記事参照)が好評だったとのことで、今年は特に鈴鹿サーキットの撮影ポイントなども含め、詳しく解説していこう。今日から毎日、全4回でお届けする予定だ。
2008年F1日本グランプリ 優勝したフェルナンド・アロンソ |
第1回はサーキットでレースを撮影するためのカメラやレンズ、その他の機材について紹介したい。内容的には昨年の記事と重複する部分も多いが、昨年書ききれなかったところの補足もしていきたい。昨年同様、対象と想定しているのは、「デジタル一眼レフは持っているがレースの撮影はしたことがない」「せっかくF1を見に行くのでデジカメを買って写真を撮ってみたい」といった初心者と、レース撮影を始めたがもう少し上手くなりたいという方で、普段からサンニッパ(300mm/F2.8)、ヨンニッパ(400mm/F2.8)、ゴーヨン(500mm/F4)などの大口径望遠レンズを持ってサーキットに通われている方には、あまり参考にならないと思われる。
筆者の撮影機材。特別高価な機材は使用していない |
■デジタル一眼レフを用意しよう
レースを撮影するために、まず必要なのはデジタル一眼レフカメラだ。すでにデジタル一眼レフを使用している方は、それを使い倒していただければよい。筆者自身も2台のデジタル一眼レフを持ってサーキットに行くが、2004年に購入したEOS 20Dは今でも現役だ。これから購入する方は、どのメーカー、どの機種がよいか迷うだろう。現在発売されているものでレースの撮影ができない機種はないと思うが、機種により多少向き不向きはあるのでポイントだけ確認しよう。
デジタル一眼レフカメラのイメージセンサーはおおむね「CCD」と「CMOS」の2種類がある。これはどちらでもよい。画素数も現在売られている機種なら気にする必要はない。中古の800万画素のデジカメでも十分だろう。
ただし、イメージセンサーの大きさは、「フルサイズ」と呼ばれる大型のものより、小型の「APS-Cサイズ」のほうがよい。そのほうが望遠レンズを多用するレース写真には有利だ。APS-Cサイズだと、レンズの焦点距離が、レンズ本体に書いてある焦点距離の1.5~1.6倍相当になる。たとえば、焦点距離300mmのレンズなら450mmや480mm相当となって、遠くのものをよりアップで写せることになる。
連写性能(1秒間に何枚写せるか)は高いほうが気持ちよく撮れる。ファインダーの消失時間も短くなりレーシングマシンをファインダーに捉えやすくなる。現在筆者はEOS 20Dと40Dを使用しているが、秒5コマの20Dは秒6.5コマの40Dと比べ、もの凄く遅く感じることがある。速ければ速いほどよいが、少なくとも秒5コマ秒以上の機種を選択したい。
10月2日発売予定のEOS 7D。秒8コマの連写が可能などレース撮影には適したスペックを持つ |
AF(オートフォーカス)の速度や精度はカタログではなかなか分かりにくい。高性能であるほうがよいのだが、5年前のEOS 20Dでも、それなりに追従している。それなり、というのは満足はしていないという意味で、これは20Dでも40Dでも、そこそこピントを外している画像があり、どちらも残念ながら満足とは言えない。先日、発表されたEOS 7DはAFポイントが19点(20D、40Dは9点)で、より精度の高いフォーカスが期待される。発売日が10月2日と、F1開催日と同じなので初日のフリー走行に間に合うかどうか微妙だが、秒8コマの連写性能を含め、レース撮影には向いているカメラだと思われる。
ISO感度に関しては、一般的には高感度側が話題になるが、レース撮影、とくに流し撮りに使用する場合は高感度よりも低感度の設定が重要だ。一部のカメラではISO 200が最低感度となっているが、できればISO 100以下が設定できることが望ましい。これはスローシャッターを切りたいときなどに感度が低いほうが撮りやすくなるためだ。筆者のカメラの最低感度はISO 100なのだが、画質は向上しなくてよいので、ISO 50、ISO 25といった低感度の設定があればうれしいなと思っている。
20倍近いズームレンズを搭載した一眼レフっぽいコンパクトデジカメもあるが、デジタル一眼レフとはレスポンス(カメラの反応)に大きな差がある。特にAF速度やレリーズタイムラグ(シャッターを押してから実際に撮影されるまでの時間)は、圧倒的な違いがある。また、機種によってEVF(電子ファインダー)に時差があり、ファインダーに映っている像と、実際のマシンの位置に差が生じるものもある。撮影できないことはないが、一眼レフのほうがはるかに容易に撮影できる。中古でもよいからデジタル一眼レフを選択することをお勧めする。
■レース撮影には、やはり望遠レンズが必要
レースを撮るにはカメラ本体よりレンズのほうが重要だ。レンズ選びについて考えてみよう。初めてデジタル一眼レフを買うと、「18-50mm/F3.5-5.6」のような標準ズームレンズが付属してきただろう。あるいは「50-200mm/F3.5-5.6」のようなレンズも一緒に付属しているかもしれない。カメラ本体だけ買って、「18-200mm/F3.5-5.6」のようなズームレンズを別途購入した方もいるかもしれない。
ほとんどのデジタル一眼レフは、レンズが交換できる。レンズの仕様は「焦点距離」(○○mmという数字)と「明るさ」(F○○という数字、F値と言う)でほぼ決まる。また、焦点距離を変えられる「ズームレンズ」と、焦点距離が固定の「単焦点レンズ」がある。
レンズの焦点距離は、数字が大きい(長い)ほど、望遠となり遠くのものを大きく写せる。また、明るさの数字は小さいほど、暗い所でも明るく写せる。レース撮影には、長くて明るいレンズがよいということになるが、プロやハイアマチュアが使う400mm/F2.8とか500mm/F4のようなレンズは高価な上に大きくて重い。
筆者は特別高価なレンズは持っていない。銀塩カメラのMF(マニュアルフォーカス)時代はサンニッパ(300mm/F2.8)のレンズを使用していたが、現在レース撮影に使用している望遠レンズは300mm/F4と200mm/F2.8だ。それ以外では焦点距離を1.4倍にする「コンバーター」、100mm/F2、それと17-85mm/F4-5.6の標準ズームだ。
なぜサンニッパじゃなくサンヨン(300mm/F4)かというと、MFの時代は自分の目でフォーカスをあわせていたので、より明るいレンズが必要だったが、AF全盛時代になり肉眼よりデジカメのほうが優れているから、というのもあるが、最大の理由は資金で、財布が許せばサンニッパを欲しいと思っている。サンニッパならもっとフォーカス性能の上がるという期待もある。半面、重くて大きいという懸念もある。
一般的に、レース写真でよく使うレンズは200~300mmくらいだろう。もっと長いレンズが欲しいシーンもあるが、全部を600mmで撮るということもないだろう。APS-Cサイズのイメージセンサーなら200~300mmのレンズを300mm~480mm相当として使える。焦点距離を1.4倍にする「コンバーター」を300mmのレンズに付ければ、キヤノンユーザーなら672mm相当になる。今回のF1日本グランプリの舞台である鈴鹿サーキットは、昨年の富士スピードウェイより撮影可能な場所からコースまでが近いので、200~300mmの焦点距離のレンズでもそこそこ満足できる撮影が行えるだろう。
ズームレンズか単焦点レンズかは意見の分かれるところで、筆者は単焦点派だが、ズームはフレーミングの自由度が高く、レンズを交換する手間を減らせるというメリットがある。筆者は今年からプロの方々に混じってレース撮影をしているが、多くの方が2台のカメラに望遠単焦点レンズ(サンニッパとかゴーヨン)と70-200mm/F2.8あたりのズームレンズを付けて撮っている。レース中に機材を持って移動するという条件もあるので、このあたりが最も効率がよいのだろう。
最近はカメラ本体に手ブレ補正機能を内蔵しているメーカーもあるが、筆者の様にキヤノンユーザーの場合、手ブレ補正を搭載しているレンズ(メーカーによってISとかVRとか呼び名が異なる)とそうでないレンズが選択できる。筆者は動く被写体を撮るレース写真には、手ブレ補正はそれほど重要だと思っていない。あって困るものではないが、レンズの価格差もあるので、ほかの撮影との兼ね合いで判断すればよいだろう。
ちなみに筆者はサンヨンを2本持っている。最初に手ブレ補正なしを買って、その後手ブレ補正付(EF300mm F4L IS USM)を購入した。実際にサーキットではあまり使うことがなく、手ブレ補正をOFFしてることが多い。最近は少しでも軽いレンズのほうがよいと思い、手ブレ補正なしのサンヨンの出番が多くなっている。
ではレース撮影にお勧めのレンズはズバリ70-200mmだ。予算にゆとりがあればF2.8、そうでなければF4。手ブレ補正は好みで選択。万能ではないが無駄になることはないし、運動会とかほかのシーンでも汎用性が高い。すでに200mmクラスのズームを持っているなら、まずそのレンズで撮ってみればよいだろう。その上でもっと大きく写すことが可能なレンズ(焦点距離のより長いレンズ)が欲しいと思ったら300mm F4(もちろんF2.8ならなおよい)あたりを買い足せばよいだろう。
実は筆者はそれほど長い望遠を使っていない。特に、今年から短いレンズで撮る機会が増えている。理由はWeb媒体であるCar Watchで使用する最大サイズがフォトギャラリーの1920×1280(または1080)ピクセルだからだ。EOS 40Dの最大解像度は3888×2592ピクセルなので、左右でみても約半分の解像度だ。記事中で使用する画像にいたっては800×600程度なので、豆粒程度に写っていても使えないことはない。スタート直後などはオーバーテイクの画像が撮れる可能性が高いので、短めのレンズで広い範囲が写せる様に準備している。
鈴鹿で行われたフォーミュラ・ニッポンで撮った画像から、トリミング前の画像と実際にフォトギャラリーに掲載した画像を比べてみよう。鈴鹿の2コーナーイン側の観客席エリアで撮った画像で100mmのレンズを使っており、40Dなので160mm相当ということになる。以降の掲載写真はすべて観客席エリアから撮影した写真で、特に断りのない場合、実焦点距離を記載する。なお、撮影機材はすべてEOS 20D/40Dのため、35mmフィルム換算だと1.6倍になる。
トリミング前、リサイズのみ。100mmでも十分撮影は可能だ | トリミングしてフォトギャラリーに掲載した画像。リサイズ前は3000×2000ピクセルくらい(クリックすると1920×1080ピクセルの画像が開きます) |
次はほぼ同じ場所で200mmで撮っている。それほどトリミングはしていないが、ここでは200mmで十分足りている。短いレンズを使うと、レンズが小さく軽いので取り回しが楽になるメリットがある。実際に連続して走ってくるマシンを流し撮りする場合、2台の距離が近いとどちらか1台しか撮れない。その点、軽いレンズなら次々と撮れるので、わずかの差だがよりシャッターチャンスを増やすことができる。フレーミングにもゆとりができるので、多少マシンがファインダー内でずれていても、無理に修正せずにそのまま振り抜くことができる。
トリミング前、リサイズのみ。200mmならこれくらいになる | ほんの少しトリミングしてフォトギャラリーに掲載した画像。高価な超望遠でなくても撮れるシーンはある(クリックすると1920×1080ピクセルの画像が開きます) |
次はスプーンの進入を100mmのレンズで撮った画像だ。短めのレンズでも場所によってはそこそこ撮れるものだ。大きな紙に印刷しなければならない場合は画面いっぱいに撮ったほうがよいが、モニターで鑑賞、あるいは友達にメールで送るなら、多少レンズの焦点距離が短くてもトリミングを前提に撮るのも一つの考え方だろう。
スプーンの進入、ブレーキングポイント。100mmだとこれくらい | トリミングしてフォトギャラリーに掲載した画像(クリックすると1920×1080ピクセルの画像が開きます) |
焦点距離の長い望遠レンズにはメリットは多いが、無理に購入しなくとも撮れるシーンは沢山ある。自分の経験から強いて言えば、望遠(焦点距離)を求めて長く、暗いズームレンズを購入すると、最終的に使わなくなる可能性が高い。
■ほかに便利な機材は
カメラやレンズ以外にあると便利なのは脚立だ。絶対ではないが、脚立があれば撮影場所の選択肢が広がる。2段でも3段でもよい。価格も1000円台のもので十分なので、できれば用意したい。ただし、他人の迷惑にならないように、持ち運びには注意が必要だ。F1の場合、金、土、日と徐々に観客は増えていく。決勝の行われる日曜には、観客も増えるので脚立はあまりお薦めできない。脚立以外では折りたたみ式の踏み台もある。高さはそれほど稼げないが、コンパクトなので一つの選択肢にはなるだろう。
脚立の使用風景。ヘアピンとスプーン入り口。まわりの人の迷惑にならないところで使おう |
一脚もあると便利だ。三脚はほかの撮影者の迷惑になるし、実際にサーキットで使ってる人は少ない。一脚の目的は手ブレ防止もあるが、重いカメラとレンズを支えて体力を温存できるメリットもある。筆者は300mmのレンズを使用するときだけ一脚を使用している。200mm以下のレンズは手持ちで撮影している。左右に走る抜けるマシンを流し撮りするときは300mmでも手持ち、マシンを正面から撮るときは一脚を使用、そんな感じだ。プロの方々は一脚をレンズの三脚座に直接付けて撮っている人が多いが、筆者はこれが苦手で自由雲台を使用している。一脚が支えの棒にはなるが、レンズを振るときはある程度自由に動くようにしている。
作風によっては、NDフィルターがあると表現の幅が広がる。NDフィルターは、レンズに入る光の量を減らして、シャッター速度を遅くすることができるフィルターだ。天気がよい日にシャッター速度1/15秒といったスローシャッターを切ろうとすると絞り込んでも露出オーバーになることがある。また、NDフィルターには絞りすぎによる回折現象を避ける効果もある。
撮影機材に関しては以上だが、FMラジオもサーキットに持っていくと重宝する。現地で放送される実況放送を聞けば、レースも楽しめるし、レースの流れも分かるので撮影にも役に立つ。天候によってはレインカバーなども持っていくと安心だ。
雨が降ったときはレインカバーがあると安心。スポーツランドSUGOにて |
■金網対策を考える
観客席(観戦エリア)から撮る場合、サーキットの撮影ポイント探しで重要なのは金網対策だ。マシンは上手く撮れていても、その前に金網が格子状に写っているとガッカリだ。「金網をどう避けるか」、一般観客席から撮る場合どうしても避けて通れない問題だ。対策の方法として脚立やNDフィルターの使用、レンズ選択もその一つなのでここでふれておこう。
特に工夫せずに金網越しに撮ると、金網の編み目がぼけて写ってしまう | 脚立に乗って、金網を避けて撮るとこうなる(クリックすると1920×1080ピクセルの画像が開きます) |
筆者は初めてサーキットで撮影をしたとき、基本的にカメラの知識が不足していた。ファインダーでは見えなかった金網が、何故か写真には写り込んでいるのだ。“絞り”という概念がなかったのだが、初めて買ったカメラで撮ったので、今思えば無理もない気がする。
一眼レフカメラはファインダーを覗いたときは絞り開放の状態だが、シャッターを切ると絞り込まれて撮影が行われる仕組みだ。そのことを知らず、見たままに写ると思うと落とし穴にはまってしまう。特にシャッター速度を遅くしたときは、グッと絞り込まれるので注意が必要だ。金網越しの撮影では、絞り込みボタン(このボタンのない機種もある)で金網の写りこみを事前に確認するようにしたい。
金網対策は大きく分けて2つ、金網のないところで撮るか、金網をボカして撮るか、この2つだ。1つ目の金網のないところ撮るには、歩き回って探すのが一番だが、望遠レンズを持った人が集まっている場所は一つの目安となる。脚立は先ほども便利な道具と書いたが、金網対策の強力な武器となる。脚立は金網対策以外に、人垣対策としても使える。人気の撮影ポイントに行くと、撮る隙間がないほどカメラマンが集まっていることがある。その後ろに三脚を置いて一段登るだけで頭の上から撮影することができる。身長が2m以下の方には有効だろう。
2つ目は金網をボカして撮る方法だ。まず基本的な知識として、焦点距離が長いほどボケる。絞りは開放に近いほどボケる。明るい(F値が小さい)レンズほどボケる。ようするに大口径の望遠レンズを絞り開放で撮ればボケるのである。サーキットでは使用している機材で撮れる場所に差が出るのだ。300mmのレンズでは絵にならない場所でも600mmなら絵になることもあるし、ズームの望遠端がF5.6のレンズでは金網が写ってしまうが、F2.8の単焦点レンズならボカして撮れたりする。
今あるレンズで金網をボカして撮る方法を考えてみよう。1つ目は金網に近付くことだ。被写体であるマシンは数十m離れているはずだ。レンズ(フード)が金網に触れるほど近付けば、ボケて写らなくなることがある。2つ目は絞りを開放に近付け、できるだけ速いシャッター速度で撮影すればボケてくれる。但し、流し撮りをする場合はシャッター速度を遅くしたいので、撮影意図を反映できないことになる。これに関係するのはISO感度で、ISO感度を低くすれば絞りが開くのでボケやすい。カメラ選びでISO 100以下が設定できるほうが望ましいと書いたのは、スローシャッターに加え、金網対策もその理由だ。
目の前の金網は近付いてボカす。少し先にある2つ目の金網は安いレンズではボカせないから隙間を狙って撮る | そうするとこんな感じの写真を撮ることができる(クリックすると1920×1080ピクセルの画像が開きます) |
NDフィルターは金網をボカす小道具としても有効だ。ND8のフィルターなら絞りを3段分開くことができる。あるいはシャッター速度を3段遅くすることができる。1/1000秒では動きのない写真になるが、1/125秒なら流し撮りが可能となる。フィルター径ごとに用意する必要があるが、これはというレンズ用に持っているとシャッターチャンスが増えるはずだ。
とはいえ、二重の金網などはいかんともしがたい。目の前の金網はボカすことができても、数m先にある金網を安いレンズでボカすことは難しい。実際、サーキットに行くと巨大なレンズを持った人だけが撮影している場所もある。まずは今ある道具で工夫して、それ以上を望むなら巨大で高級なレンズを用意するしかないだろう。
次回は流し撮りなど、サーキットでのレース撮影のノウハウを詳しく紹介したい。
(奥川浩彦、著者撮影:奥川彰吾)
2009年 9月 24日