スバル、運転支援システム「新型EyeSight」試乗会リポート
25km/hから自動で緊急停止。自動停止映像も掲載

ダミーを使ったプリクラッシュブレーキのデモ

2010年4月22日開催



 スバル(富士重工業)は4月22日、運転支援システム「新型EyeSight(アイサイト)」を発表し、報道陣向けに特設会場での試乗会を開催した。Car Watchでも試乗してきたので、その模様をお伝えする。新型EyeSightの技術解説詳細については関連記事を参照いただきたい。

さらに運転支援能力が向上した新型EyeSight
 新型EyeSightは、ステレオカメラから得られた画像情報から、車両や歩行者、障害物などとそれまでの距離を認識し、それらの情報を元に、クルーズコントロールや車線逸脱警報、プリクラッシュブレーキなどを行うもの。スバルでは1999年よりステレオカメラを使った運転支援システムを実用化しており、新型EyeSightもその延長上の第5世代目となる。

車内のルーフに取り付けられたステレオカメラが、障害物や車線を認識、そこまでの距離や相対速度を判断する
カメラの認識している映像。近くの物は赤く、遠い物は青い四角で囲っているパイロンのそばに立っていたらパイロンとひとかたまりで認識された

 今回の新型EyeSightでは、プリクラッシュブレーキ、プリクラッシュブレーキアシスト、全車速追従機能付クルーズコントロールに新機能の追加や改良が行われた。

 従来のプリクラッシュブレーキでは、たとえ低速であっても衝突の回避は行わず、被害の軽減のみにとどめていた。これは自動運転と過信されることを避けるためであったが、新型では相対速度がおよそ30km/h以下であれば、衝突の回避を可能とした。これは全車速で行われるもので、乗用車では世界初の採用だと言う。ただし、路面状況や天候などによっては、30km/h以下でも回避しきれない場合もある。

 プリクラッシュブレーキアシストでは、システムが前方の危険を認識している状況でドライバーが急ブレーキを踏むと、自動的にブレーキアシスト機能を働かせる。

 クルーズコントロールは、従来から全車速に対応していたが、自動ブレーキの最大減速度を1.6倍に高めた。これにより、先行車が強めに減速した場合でも追従が可能としている。また、これまで完全停止後は数秒後にブレーキが解除されていたが、停止状態を維持できるようになっている。

 このほか、前方に障害物を認識している状態で、ブレーキとアクセルの踏み間違えによる事故を防ぐAT誤発進抑制制御や、先行車発進の通知、車線逸脱時やふらつき時、車間距離が近すぎる時に警報する機能も備える。

 試乗は東京 お台場にある特設会場で行われた。新型EyeSightを搭載したレガシィが多数用意され、バルーンでできたダミーの車両を障害物に見立てたプリクラッシュブレーキの体験や、先行車両に追従する全車速追従機能付クルーズコントロールの体験、前方にダミーの壁を用意してのAT誤発進抑制制御の体験をすることができた。

プリクラッシュブレーキを体験
 まずはプリクラッシュブレーキを体験。記者らが運転席に座り、25km/h程度まで加速。そのまま前方にあるバルーンでできたダミーレガシィに向かって突っ込んでいくというもの。もちろんブレーキペダルは完全停止するまで踏まない。

 クルマがダミーに接近、体感的にはハッとする程度の距離で警告音が“ピピピピ”と鳴り、そのまま無視すると軽めの制動を開始。しかしその時点ではまだ追突しそうな勢いを維持している。それでもブレーキを踏まないでいると、もうダメかというタイミングで強めの制動が発生し、一気に停止する。完全停止するのはダミーから40~50cmのところだろうか。運転席から見ると、接触したかと思うほどの距離だ。そのままさらにブレーキを踏まないでいると、2秒ほどでブレーキがリリースされ、そのままだとクリープで前に進み始めてしまう。

 この様子は外から見ていても、クルマが前傾姿勢になっているのが分かるほどで、通常の走行では使用しないレベルの強いブレーキが掛かっている。開発陣によれば、これは意図的なものとのこと。プリクラッシュブレーキが自動運転の代用になるものとはしないために、あくまで緊急的な運転補助として、ぎりぎりまで作動せず、最後に急ブレーキをかけるという仕様にしているのだ。

プリクラッシュブレーキ動作映像。障害物の直前で自動停止する

車内から撮影。自動停止時の、雨水の量の多さに注目してほしい。高い減速度で制動が行われていることが分かる

ドライバーはブレーキを踏まず、自動で緊急停止することを体験する障害物となるのはバルーンでできたレガシィ写真はすでに急制動が始まっている。車が前傾姿勢になり、ボンネットやルーフ上の雨水が前に移動しているのがその証拠
停止直前から完全停止まで。ボンネットから流れ落ちる多くの雨水がブレーキの強さを物語る

 ちなみに距離で言うと障害物から20m手前で警告を発し、13m手前で初期制動、7m手前で急制動を発生するとのこと。時間にするとそれぞれ1秒間隔くらいになると言う。

 ただしこのシステムが完全ということはなく、当日はあいにくの雨模様だったのだが、フロントガラスに付いた雨粒がカメラの視界を遮ってシステムの認識が遅れたためか、減速するものの追突するシーンもあった。それでも何もしないで自動に緊急停止する様は、一度体感すれば、その有効性を十分実感できる内容であった。

クルーズコントロールを体験
 クルーズコントロールの体験は、スタッフが運転するエクシーガの後ろをついて行く形で行われる。クルーズコントロールの設定速度は40km/h。実際には狭いコースなので40km/hも出すことはなく、エクシーガが加速すればそれに併せて加速し、減速すればこちらも減速する。そして最後は完全停止。従来も完全停止は可能であったが、停止後数秒でブレーキがリリースされるため、停車中はドライバーがブレーキペダルを踏み込んでいる必要があった。しかし新型EyeSightでは先行車にあわせて完全停止した後も、ドライバーがブレーキをかけることなく停止状態を維持している。ちなみに2分以上停車状態が続くと電動パーキングブレーキへと制御をバトンタッチし、クルーズコントロールはOFFになると言う。

 停車状態から先行車が発進した際は、アクセルペダルを踏むか、クルーズコントロールのスイッチを操作しないと発進はしない。これは安全のための配慮だろう。また、ドライバーがブレーキペダルを踏むと、クルーズコントロールはOFFになる。テストコースは奥でUターンするコースであったが、Uターンのような急カーブでは、先行車がカメラの画角から外れるため追従できなくなる。

 復路ではある程度の速度まで加速した上で、先行車が強めの減速で停車する。従来は最大減速度が0.25Gだったのに対し、新型では0.4Gまで発生するため、強めのブレーキであってもきちんと追従して停止した。

 驚くべきはそのフィーリングで、従来は制動力の変化の仕方が、どこか機械的で、ぎこちなさを覚えたのだが、新型ではまるで熟練ドライバーが運転しているように緩やかに制動力を立ち上げ、最後は少しずつ制動力を弱め、スムーズに停車する。これは、追従時の加減速でも言えることだ。先代のEyeSightを搭載するレガシィに乗るスタッフにも運転してもらったのだが、そのスムーズさには感激していて「下手な人間の操作よりスムーズ」だと述べていた。

 このスムーズな制御が可能になったのは、制動力(油圧)を発生させるシステムの変更によるものが大きいとのこと。従来はマスターバックに専用の仕掛けがあったのに対し、今回はVDCで使用しているポンプを使って油圧を制御しているとのこと。これによりスムーズさとともに、コストの低減も可能にしたとのことだ。

スタッフの運転する先行車(エクシーガ)にクルーズコントロールで追従するエクシーガが減速すると、レガシィも自動で減速エクシーガの強めのブレーキにもスムーズに追従する
クルーズコントロールの作動状態はメーターに表示されるクルーズコントロールの操作はステアリング右側のスイッチで行うブレーキの制御はVDC用のポンプを利用して行っている

AT誤発進抑制制御を体験
 最後にAT誤発進抑制制御。クルマを輪留めに当てて、前向きに停車した状態。たとえばコンビニの駐車場に前から止めたような状況を想定したものだろう。クルマの前にはレガシィを描いたダミーの壁が用意される。

 この状態でシフトをDレンジに入れ、アクセルペダルを踏み込んでみると、“ピピピピピ”とエラー音が鳴り、アクセルにあわせて前には進もうとするものの、パワーが押さえられているようで、奥までアクセルペダルを踏み込んでも、輪留めを乗り越えることはない。ただしまったく前に進まないわけではなく、パワーを抑えながらも前進はする設計となっている。これは、たとえば踏み切りの中に閉じ込められた場合などを想定しているためとのことだ。

AT誤発進抑制制御作動時。フロントドアの部分からアクセル操作が見える。アクセルを踏み込んでも、車の動きは抑制されている

AT誤発進抑制制御のデモは輪留めに前向き駐車した新型EyeSight搭載車の前にダミーをセットした状況で行われたドアの部分がくり抜かれ、ドライバーがアクセルを大きく踏み込んでいるのが分かる。それでも輪留めを越えるほどの出力は出ないよう抑制されている前方が障害物がある状態で前進しようとするとエラー音とともに抑制中のマークがメーターに表示される

 ほかの試乗と比べると派手さはないが、ブレーキとアクセルを踏み間違えたという事故は少なくない。そういう意味では、既存のシステムを使ってこうした制御が可能なのであれば、それは十分魅力的なものと言うことができるだろう。

 この新型EyeSight、およそ10万円程度で装着が可能になるとのこと。先代のものは20万円程度であったから、大きな進歩だ。バンパーとレインフォースを交換するような事故であればそれだけで10万円は超えるだろう。と思えば、このEyeSight、決して高い買い物ではないだろう。

(鈴木賢二)
2010年 4月 23日