NEXCO中日本、新東名高速のトイレ試験施設を公開 新東名LPの一環。誰もが使いやすいトイレを目指し、掛川PAで実証実験 |
NEXCO中日本(中日本高速道路)は5月15日、建設中の新東名高速道路に設けられている「掛川PA実験センター」と、そこで行われている実証実験の一部を報道陣向けに公開した。
第2東名とも呼ばれている新東名高速道路の全通予定は2020年度とまだ先だが、静岡県区間の工事は順調に進んでいる。2012年度には、東名高速と接続する御殿場JCT(ジャンクション)から浜名湖付近の引佐JCT間が開通する予定で、トンネルや橋梁、道路の一部はすでに完成しているところもある。
掛川PA実験センターは、将来的に掛川PA(パーキングエリア)となる敷地内に設けられた各種施設の実験センターで、“世界をリードする高速道路システム”を実現するための取り組みとして同社が行っている「新東名リーディングプロジェクト」(以下、新東名LP)の1つとして、PA内の照明設備や発電施設、電気自動車用の給電装置、そしてトイレ施設が設置されている。
新東名高速道路の静岡県部分。掛川PAは右側の地図の中央右寄りにある |
新東名LPでは、建設中の新東名高速道路を使って「安全・安心の実現」「環境への対応」「多様なライフスタイルの実現」「活力ある社会の実現」をテーマに各種の実験が行われており、今回公開された掛川PA実験センターの実証実験では、車いす利用者や視覚障害者らによる、トイレ施設の使いやすさなどの確認を行っている。
同社によると、トイレ施設は高速道路利用者向けの必須施設として重要視しており、これまでもPAやSA(サービスエリア)の既存施設を使ってモニター実験などは行っていたが、専用施設による実証実験は初の試みになると言う。既存施設では、通常営業している施設を利用するため、どうしても限られた時間やスペースの中での実験となる。掛川PA実験センターのような専用施設であれば、思いどおりの実験が行えるという訳だ。
掛川PA実験センター。左が高速道路からの流入路、右が流出路。トイレの実験施設は流出路側に設けられている | 掛川PA実験センターのトイレ施設。実験設備のため簡易な建物となっている | 車いす利用者や、視覚障害者による評価のためのタイムテーブル |
■さまざまな提案が盛り込まれたトイレ施設
掛川PA実験センターのトイレ施設では、入り口を入ってすぐの場所に情報コーナーを設置。これは東名 日本平PAに設けられているものと同様のもので、日本語のほか英語、中国語、韓国語(ハングル)表示に対応。タッチパネル式で渋滞情報や各種のお知らせにアクセスすることができる。おサイフケータイ対応携帯電話にも情報URLを送ることができ、キャリア各社のアイコンが画面下部に出た際に、対応携帯電話でタッチするとNEXCO中日本の「高速日和」などの情報サイトが表示される。
トイレ施設を入ってすぐのところに設置される情報コーナー。多くの人の目に触れる場所であるためだと言う | 表示装置下部には、おサイフケータイ対応のタッチエリアを設置。ここに対応携帯電話をタッチさせると、NEXCO中日本の情報サイトが表示される | |
道路情報は、日本語のほか英語、中国語、韓国語に対応 |
肝心のトイレだが、向かって右側に男性用トイレを、左側に女性用トイレを配置。中央には多目的トイレと、子供用トイレが配置されていた。トイレ表示のサインに関しても、誰もが一目で分かるようなものをという意図で記されており、青や赤のカラーリングのほか、大きなアイコンが配されているものになっている。
男性用トイレの工夫点は、トラックドライバーなど長距離ドライバーの要望から、洗面器に洗髪もできるような大型ものを設置。洋式トイレは、オストメイト(人工肛門保有者)対応となっているほか、着替えるための着替え台も用意されていた。
男性用トイレの入口にあるサイン。サインの理解のしやすさなどを、確認していく | 男性用トイレの配置図。実験施設のため、小便器を2つ、洋式便器を2つ配置 | すでに導入の始まっている休憩施設もあるが、これが新型の小便器。下部が狭くなっており、子供でもまたぎやすくなっている |
男性用の洋式便器。オストメイト対応となっており、着替え台も備える | ||
洗髪も可能な洗面器。トラックドライバーからの要望が高いと言う |
女性用トイレには、どのトイレが開いているのかが一目で分かる表示板を設置。トイレの1室1室にLED表示も設け、空き室が分かりやすいよう配慮されている。化粧などを行うパウダールームは、これまで洗面所近くに配置することが多かったとのことだが、ここでは「水回りの近くではないほうがよい」という利用者の要望に応えて、独立したパウダールームが設けられ、各種の評価を行っていく。
女性用トイレのサイン | 女性用トイレの案内。一目で使用中と分かるようになっている | 各個室にもLEDが備えられる。赤が使用中で、青が空き |
洋式便器。こちらもオストメイト対応。ベビーシートを装備するものもあった | ||
専用に設けられたパウダールーム。水回りとの分離を図っている | 洗面器。ガイドバーや洗面器の高さの使い勝手なども確認されていく |
子供用トイレ。子供用トイレは、1室に2つの便器を設置。低い高さのパーティションも設けられ、男の子と女の子(と保護者)の同時使用を想定している |
車いす利用者らに向けた多目的トイレは、トイレットペーパーや、洗浄スイッチなどを高さの異なる場所に複数配置。利用者個々に異なる障害への対応を考慮したものだと言う。
多目的トイレ。トイレットペーパーが高さや位置の異なる場所に複数設置されている | 緑のボタンが非常ボタン。洗浄ボタンも複数ある | |
低い位置に設置された非常ボタン | 便器の右側には折りたたみベッドを設置 |
■実証実験では、厳しい意見も
トイレの実証実験は、東洋大学ライフデザイン学部 人間環境デザイン学科の高橋儀平教授の指導・協力により行われた。高橋教授は、内閣府の障害者施策推進本部のメンバーでもあり、日本福祉のまちづくり学会の会長も務める。バリアフリー新法の策定にもかかわっており、NEXCO中日本とはこれまでも既存施設での実証実験を行ってきた。
被験者は、車いす利用者6名(男女各3名)、視覚障害者4名(男女各2名)で、トイレへのアクセスのしやすさや、その操作性などが確認されていく。高橋教授によると、専用施設での実証実験は初めてとのことで、他の利用客を気にすることなく実験を行うことができる。
多目的トイレで実証実験を行う被験者 | 東洋大学ライフデザイン学部 人間環境デザイン学科 高橋儀平教授 |
実際の車いす利用者からの感想も1名に限って聞くことができた。基本的には操作系などはよくできており、使いやすい施設とのことだが、便器の両側の空間に問題があると言う。車いす利用者には、右半身不随、左半身不随など個々に障害は異なり、介助者の立ち位置を考えると、便器の両脇に空間があるのが望ましいと言う。どうしてもトイレの便器は壁際に設置されることが多く、人によっては利用しづらくなっていると語る。
そのほか、この施設に限ったことではないが、多目的トイレが多くなったことで問題が起きていると言う。以前このようなトイレは数が少なく、車いす利用者が利用することが多かったが、現在は多目的トイレが増え一般への認知も進んだことで、子供を持つ親などさまざまな人が利用するようになっている。これにより、車いす利用者がトイレを利用することができなくなることが発生しており、トイレに間に合わないケースが増えていると言う。「本来すべてのトイレが多目的トイレ並みの設備を備え、その上で車いす利用者など自由に体を動かすのが困難な利用者に向けたトイレを設置してほしい」と、多目的トイレが広くて便利なトイレとして利用されている現状の改善を訴えた。
NEXCO中日本では、これらの実証実験から得られた成果を踏まえ、新東名高速のSA/PA施設の設計を行っていく。また、この掛川PA実験センターでは省エネルギーに向けた取り組みが行われており、それらの成果も施設設計に組み込まれていく。
(編集部:谷川 潔)
2010年 5月 17日