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NEXCO西日本、“宝塚渋滞”解消に向け建設の進む新名神高速 高槻JCT~神戸JCT間を公開

2016年度開通予定。新工法を採用する「バタフライウェブ箱桁橋」の内部も公開

2014年11月13日開催

「バタフライウェブ箱桁橋」の内部

 NEXCO西日本(西日本高速道路)は11月13日、2016年度開通に向けて建設工事を進めている新名神高速道路の高槻JCT(ジャンクション)~神戸JCT間の建設現場見学会を実施した。

 新名神は、西日本地域の経済活動を大きく占める兵庫県、大阪府、京都府などを通過し、中国地方と東海地方を結ぶ名神高速道路と併走しながら相互補完する新しい自動車道路。「大都市間のネットワーク強化」「地震・大雨といった災害発生時の備え」「名神高速道路の老朽化に対する対応」という3点を大きな目的とした計画であり、NEXCO西日本ではこの新名神建設事業を「高速道路事業の集大成」と位置づけて取り組んでいる。

 また、新名神の西側に位置する高槻JCT~神戸JCT間は中国自動車道、山陽自動車道と神戸JCTで接続。西側を走る中国道とのネットワークを形成し、7月20日に全線開通した舞鶴若狭自動車道との相乗効果で渋滞発生個所として知られている中国道 宝塚付近~吹田JCT間の交通円滑化を実現することも期待されている。

 新名神 高槻JCT~神戸JCT間の報道向け見学会はこれで5回目。今回はNEXCO西日本 大阪西事務所の担当区域にある工事現場から3個所が見学場所となった。記者は2013年5月の見学会でも取材を行っており、見学場所となった3個所のうち、2個所は前回も足を運んだエリア。1年半における工事の進捗状況を確認した。

下音羽川橋

 前回は「下音羽地区」という見学エリアの名称だったが、以前の橋脚を立てているような状況から、すでに上り線については橋の連結が完了し、下り線も12月末には連結を予定。眼下に流れる一級河川の下音羽川から下音羽川橋という名称が与えられている。

 この下音羽川橋で採用されているのは、波型鋼板ウェブ箱桁橋という工法。コンクリート製の上下の床版などを波型に形成して強度を高めた鋼板で繋いでボックスを構成しており、四方にコンクリートを使う一般的な箱桁と比べて重量を約3割軽量化できるのが特徴。鋼板の上下でコンクリートと接続する部分は雨水などの影響で錆びやすいので、アルミニウムとマグネシウムの合金を吹き付け加工して防蝕性を高めている。

神戸JCT側の竜王山(正面)に建設するトンネルから高槻JCT方面に接続する下音羽川橋。周囲の山に生える木々は紅葉でところどころ色づき始めており、完成後は紅葉ドライブも楽しめそうな雰囲気を感じさせた
作業状況について解説する現場担当者。完成時には片側2車線での開通を予定しているが、将来的に需要に合わせて片側3車線に拡張することも計画に織り込んでおり、道路の拡幅部分を斜めに支える支柱を受け止める下側はあらかじめ強度を高めて対応可能な設計を施しているとのこと
10月に連結を完了した上り車線側の橋。白いコンクリート床版の間にある紺色の部分が波型鋼板。重量が約3割削減され、橋を支える橋脚の数を減らし、コストを抑えることにもつながる
12月中の連結を予定している下り車線側の橋。手前側の土工部に設置された橋台の上に床版が渡されれば連結となる
下音羽川橋より高槻JCT方面側に位置する安威川橋の工事現場では、以前は存在しなかった橋脚が姿を見せ始めていた
一部の橋脚はすでに完成し、上に床版を受け止める支承を構築する段階に入っていた

芥川橋・神峰山トンネル

 続いては、8月に下り側が新名神の大阪府域にあるトンネルで初めて貫通を迎えた神峰山トンネルと、この神峰山トンネルから府道 枚方亀岡線の上を通過して神戸JCT側に伸びていく芥川橋の工事区間。とくに芥川橋は初めて建設中の橋の上部に上り、箱桁の内部も見学できた。神峰山トンネルの貫通式はCar Watchでも記事として紹介している。

「神峰山トンネル(下り)」貫通。2016年度の開通を目指す新名神高速で大阪府域初のトンネル貫通式
http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20140820_662861.html

 先に行われた神峰山トンネルの見学では、このトンネルのアウトラインや工事で難易度が高かった部分などについて担当者が解説。トンネルを掘る位置が高いことから地表部分まであまり距離がなく、また、山頂付近にある寺社に対して影響しないよう細心の注意を払ったという。さらに高槻JCT側から途中まではもろい地層だったことでトンネルが崩れないように気を遣ったのに対し、神戸JCT側に近づくと非常に強固な地層に切り替わり、ダイナマイトを使って掘削したことなどが紹介された。

 現在はトンネル掘削後に土が落ちないよう固める土留め用のコンクリートの上に、道路用のトンネルとしての本番といえる覆工コンクリートを設置するため、トンネルの形状に合わせて鉄筋を組み上げた状態。ここに移動式セントルを使ってコンクリートを打設する作業がこれからスタートする予定となっている。

8月に開通した神峰山トンネル(下り)。入り口の上に設置されているのは、山の神に工事の安全などを祈願して奉った「化粧木(けしょうぎ)」
神峰山トンネル(下り)の長さは291m。トンネルの入り口脇に設置された仮設の標識は経年劣化で風化が始まっている
トンネルの入り口付近で出番を待つ移動式セントル
トンネル内部では覆工コンクリートの打設に向けた準備作業が行われていた
2014年度内の貫通に向けて作業が続く神峰山トンネル(上り)。見学時には運送会社のトラックがトンネル入り口の前で停車し、工事用の資材と思われる荷物を運び込んでいた
上り側のトンネルは下り側より6m短い285m

 神峰山トンネルから工事現場内を移動して、引き続き芥川橋の架設現場を見学。延長161mの上り線の橋は2013年12月に連結済みとなっており、見学は2015年5月の連結を目標に工事が進められている延長348mの下り線の橋で行われた。

芥川橋の下り側は2015年5月の連結に向けて工事が続けられている
箱桁内部で現場担当者から説明を受けているシーン

 工事用の仮設エレベーターで地上30mほどの位置にある橋の上床版に上がり、この場で工事概要や進捗状況などが説明された。コンクリート箱桁橋である芥川橋では、上床版と下床版を接続してボックスを構成するコンクリートウェブに、蝶型形状のプレキャスト薄型パネルを用いる新工法「バタフライウェブ箱桁」を採用している。

 工場で事前に製作されるこのバタフライウェブは、コンクリートを打設するときに上下から引っ張られた状態のPC鋼材を斜めに配置。コンクリートの乾燥後に張力をなくすとPC鋼材が反作用で圧縮力を発生させ、パネルの強度を高めることができる。また、コンクリート自体も鋼繊維を混入させた高強度繊維補強コンクリートが使用されており、これによって通常のコンクリートウェブと比較して主桁の重量を約10%軽量化できる。軽量・高強度な工法を採用することで橋脚の数が減らせるほか、1回の作業で延伸できるブロック長も2倍近くまで伸ばせるので施工性が高められるという。

 解説を受けたあと、階段を使って箱桁内部を見学。柱頭部から下床版に続くワイヤーでの補強やブロックの接続施工の状態、バタフライウェブを直接触って鋼繊維で補強されているコンクリートの手触りなどが確認できた。

上床版に設置された「移動作業車」。クレーンやジャッキ、ワーゲンレールなどをセットにしたもので、地表から吊り上げた上下の床版やバタフライウェブなどを移動させて張り出し施工を実施する
神戸JCT方面の原萩谷トンネル側に向かう先端部分。上床版はこれから設置される段階のようだ。
箱桁内部に階段で下りる途中で見えた上床版の側面
箱桁内部のようす。柱頭部や接続部分から斜めにワイヤーが伸び、下床版を吊り上げるように補強。ワイヤーを通すホールは予備も用意され、万が一の交換時に従来のワイヤーを張ったまま新しいワイヤーを架設できるようになっている
菱形の窓が開いたような特徴的なバタフライウェブのルックスは、実際にはレクサス車のスピンドルグリルのような形状のパネルを並べているためできている。バタフライウェブは薄くても十分以上の強度があることも特徴だと現場担当者は胸を張る

高槻第一JCT

 最後の見学場所は名神高速道路と交差する高槻JCT。前回の取材時は名神高速側の高槻第二JCTだったが、今回は新名神側の高槻第一JCTを見学した。高槻第二JCTの現場では周囲の山を削って土砂を運び出していたが、採石場の跡地に計画されている高槻第一JCTでは逆に盛土を実施。新名神で最大の盛土量を予定している宝塚SA(サービスエリア)の約400万m3に続く約340万m3の土砂が盛土される予定で、9月までに約90万3が運び込まれているという。

 運搬には普通の公道は走れない大きさである36tダンプトラックが7台利用されており、今後はさらに施工速度を向上させるため、40tダンプトラックの投入も予定されている。ここで使われる土砂は、基本的に高槻第二JCTなどの新名神建設で運び出す土砂でまかなわれる。

元は採石場だった一帯を利用する高槻第一JCTでは、地面を最大60mかさ上げする盛土の工事が続く。盛土の総量は約340万m3
高槻第一JCTは名神高速より神戸JCT側にレイアウトされている
巨大な36tダンプトラックが、ときには工区内ですれ違うほどの頻度で土砂を運搬。現状では切り出される土砂が運び出せる量を上まわっているため、工事をスピードアップさせるため40tダンプトラックの投入も予定している

 今回の見学会で印象的だったのは、2種類の橋で出てきた「軽量化」という言葉。支柱の本数が減り、工事の迅速化でコスト削減できるのが大きな目的だと説明された。高速道路における渋滞は約70%が速度低下を誘発するサグ部(凹部)で発生すると言われており、新しく建設される道路では、なるべく直進的に、平坦になるよう計画されるようになってきた。しかし、平地の少ない日本では必然的にトンネル、橋梁区間が増えることになり、建設コストの高騰に繋がる。この問題に対処するために現場で行われている取り組みの一端を体感できた。

(編集部:佐久間 秀)