SUPER GT第4戦セパン【プレビュー】
「マレーシア・セパンの歩き方」

2009年にセパンサーキットで開催されたSUPER GTのスタートシーン

2010年6月19日、20日開催



 マレーシアの首都クアラルンプール郊外に位置するセパンサーキットは、F1が開催されることでよく知られる。SUPER GT唯一の海外戦が行われるサーキットでもあり、いよいよ6月19日、20日には2010 AUTOBACS SUPER GT第4戦「SUPER GT INTERNATIONAL SERIES MALAYSIA」が開催される。

 Car Watchでもレースリポートを掲載する予定だが、その前にセパンサーキットの概要やサーキット周辺の観光地など、マレーシアの魅力や歩き方を紹介しよう。実際にレース観戦に行かれる方や、セパンサーキットに興味のある方は、ぜひ参考にしていただきたい。解説は長きにわたってセパンサーキットで取材活動を行っている、モータージャーナリストの諸星陽一氏だ。

 


 

クアラルンプールまで快適なフライトを実現してくれるマレーシア航空。機内食はローカル色を出しつつ、日本人の口にも合う味付けに仕上がっている

 海外でレースを観戦するとなると、なんだか大変そうな印象を受けるが、実はセパンサーキットは日本からのアクセスがすこぶるよいサーキットだ。

 まず日本からマレーシアへの移動だが、これはなんと言ってもマレーシア航空が便利。成田国際空港からは毎日10時30分発の直行便が就航し、さらに火曜日と土曜日は13時30分発の直行便、月曜日と木曜日には13時30分発のコタキナバル経由便を就航している。関西空港からは月曜日、木曜日、土曜日、日曜日に11時発の直行便、水曜日と金曜日の11時発でコタキナバル経由便が就航している。

 マレーシア航空はイギリスの国際調査機関であるスカイトラックスにより、2004~2007年、そして2009年のベスト・キャビン・スタッフ賞、2005~2009年には5年連続で5 Star Airline賞を受賞した優良なキャリア。お得なキャンペーン情報などはマレーシア航空の公式Webサイトをチェックしてほしい。

 さて、セパンサーキットのロケーションだが、成田空港の敷地内にサーキットがあるイメージ。こう書くと、なんだか飛行機を降りて入国手続きをしたら、そのまま歩いてサーキットまで行けそうな感じがするが、残念ながら近いと言っても歩いて行けるレベルではない。空港からサーキットまではタクシーで行くのが一般的で、料金はせいぜい20リンギット(約550円)程度。空港からタクシーに乗る場合は、カウンターで行き先を告げてクーポンを買うことが可能なので、不当な料金請求の心配はない。また、その領収書を持っていれば帰りもそのようなことはないはずだ。

クアラルンプール国際空港の案内看板には日本語の表示も多い。入国審査官や税関の人もフレンドリーで、あっけにとられてしまう道路は日本同様に左側通行で、一般的なクルマは右ハンドル。そのためレンタカーを借りても走りやすいが、クアラルンプール市内の朝晩の渋滞はかなりハード
古い日本車もたくさん走っているのがマレーシア。クアラルンプールなど大都市では見かけることも少なくなったが、少し遠出すると、マニア垂涎のヒストリックカーに出会うこともたびたびクアラルンプールとは泥の川の合流地点という意味。地名の由来となった川は独立広場の近くにある。かつて主要産業であった錫(スズ)の運搬拠点があった

 しかし近いからと言って、空港についてすぐサーキットに行くことはないだろう。まずはどこかのホテルに宿泊するのが一般的なスケジュールとなるはずだ。

 レース観戦で宿泊するのに便利なのが、空港の隣に位置する5つ星の「パンパシフィックホテルKLIA」だ。KLIAとはクアラルンプール インターナショナル エアポートの略。ホテル名に空港名が使われていることからも、そのアクセスが容易だということをご理解いただけるはず。KLIAからホテルまでは徒歩で約5分。空港のターンテーブルで荷物をカートに乗せ、そのままホテルに行くことが可能だが、荷物が重いから歩きたくないと言うのであれば、空港で待機している電動バギーがホテルの入り口まで荷物も人もまとめて運んでくれる。

 パンパシフィックKLIAは400以上の部屋を備える巨大ホテルだ。ホテル内にはローカル料理から世界各国の料理、日本料理とさまざまな料理を選べるレストランがある。また、コンビニエンスストアやビジネスセンター、プールなどの設備も充実しているので、安心して滞在できる。つい先日まではインターネットアクセスが可能な部屋が限られていたが、現在はすべての部屋からアクセスできる。もちろん接続料金は無料だ。サーキットの至近にこうした5つ星ホテルがあるのは、じつにうれしい限り。パンパシフィックKLIAの快適さは、7年連続「ベスト・エアポート・ホテル」受賞や「ワールド・リーディング・エアポート・ホテル」受賞など、数々の受賞歴が物語っている。

 空港付近に泊まってしまうと、「市内に遊びに行きづらいのではないか?」という心配をされる方もいるかもしれないが、これもそれほど問題ではない。KLIAから市内へは、エクスプレスレールがあり、最短28分でKLセントラル駅まで移動できる。このKLセントラル駅から在来線に乗れば、市内のさまざまな場所へ簡単に移動できる。エクスプレスレールの料金はKLセントラルまで片道で35リンギット(約950円)。もっともタクシーでも70リンギット程度で市内に行けるので、2名以上の利用であれば、タクシーのほうがリーズナブルになることも多い。ただし、時間帯によってはかなりの渋滞に巻き込まれることとなるので、時間を有効に使いたい場合はエクスプレスレールを上手に使ったほうがよい。

ホテルを正面から。じつに美しい外観を持つホテルだが、多くの利用者が空港から伸びるスカイブリッジでチェックインしてしまうため、その外観を見る機会が少ない。空港の周辺は道が広く、また一方通行も多いのでクルマで走るのも楽。ここを起点してドライブ旅行をするのもいいロビー・ラウンジのテーブルには電源が完備。フライトの待ち時間にコーヒーを飲みながらネット閲覧やブログを書いたり、なんてことも可能。バッテリー充電もOK。レストランは24時間営業なので、深夜のフライト前にお腹を落ち着かせることも可能だ

 さて、セパンサーキットはF1やMoto GPも行われているサーキットなので、設備はかなりしっかりとしている。メインゲートをくぐるとすぐに広場があり、この広場には多くの屋台が出て、エスニックな料理が販売される。そして、広場の先がグランドスタンドだ。基本的に観戦可能な場所は屋根が設置されている。と言うのも、セパンサーキットが位置するのは北緯2度45分と限りなく赤道に近い。炎天下でレースを観戦するのは暴挙と言っても過言ではない。また、突然のスコールで大雨となることもあるので、やはり屋根の下で観戦するのが正解だ。

 セパンサーキットの見どころはいくつもあるが、そのうちの一部を紹介しておこう。

 セパンサーキットの設計者は世界中の数多くのサーキットを手がけている、ヘルマン・ティルケ氏。スタート直後の1コーナーは大きく回り込む右コーナー、続いて切り返して2コーナーとなる。その後ゆったりとした右コーナーを回りながら、2本目のストレートに入る。続いて、右直角コーナー、大きなS字コーナーを抜けると再び短いストレートを通り、右に回り込んでいく。そして左まわりのヘアピンを抜けると、再び右に回り込んでS字から鈴鹿130Rを裏返したような右高速コーナー、裏ストレートを抜けると左ヘアピンの最終コーナーとなる。

 見どころはいくつもあるが、そのうちの一部を紹介しておこう。まず、グランドスタンドをはさんで両側にあるストレートからハードブレーキングをしてコーナーへ進入する場面。少ないリスクで先行車をパスする場合、この2本のストレートを使うのがもっとも多い。また、大きく回り込むことになる1コーナーは、マシンの接触が起きやすい場所。ここでのバトルもエキサイティングだ。セパンのコース長は約5.5km。鈴鹿サーキットより距離は短いが、昨年のデータでは鈴鹿よりもラップタイムは遅い。つまり、見た目とは異なり、テクニカルコースである一面も持っているのだ。

 そのテクニカルぶりを感じることができるのが、1~2コーナー、5~6コーナー、12~13コーナーという3カ所のS字コーナー。コーナリング時の横Gの方向が大きく変化するS字コーナーは、マシンにとってセパンの気温&路面温度とともにつらい部分で、レース後半になればなるほど、この場所での安定性が重要になってくる。

 さらに、ドライバー交代でのピットインも見どころだ。どのサーキットよりも過酷なドライビングを強いられるセパンでは、降りてきたドライバーがどんな様子なのかはレースの後半を予測するのに大切な場面。事実、過去のレースでもクールスーツの故障などにより、ドライバーが熱中症になってしまうような事態が数多く見られた。

セパンインターナショナルサーキットのメインゲート横にある看板。タクシーで「サーキット」と言って伝わらないときは、ハンドルを動かす動作をして「F1」と言えば理解してもらえるサーキットのゲートをくぐり、グランドスタンドの手前に出店する屋台はこんな雰囲気。食べ物のほかにもさまざまなグッズを売るお店が建ち並ぶ
写真左側の大きな傘のような部分が最終コーナーのスタンド。昨年のGT500クラスはHASEMI TOMICA EBBRO GT-Rが優勝を果たしたコースサイドののり面には、大きなマレーシア国旗が描かれていて、これがかなり特徴的な風景を作り出している。昨年のGT300クラスで優勝したアップル・K-ONE・紫電

 さて、アフターレースと言うべきか、マレーシアの観光情報も少し紹介しよう。

 まず基本的なことだが、マレーシアはイスラム教を国教としている。国旗に太陽と月が描かれていることからもそれは明らかだが、信仰の自由は認められているので、キリスト教徒もいれば仏教もいて、教会や寺院も存在する。イスラム教徒が利用する飲食店では提供されないが、キリスト教徒が訪れる飲食店では豚肉を食べることが可能だ。外観からそれをどう見分けるかは難しいところでもあるが、来店中に女性が髪の毛を隠しているなら、そのお店はイスラム教徒向けの料理を提供する店と思っていいだろう。そうしたお店で日本人が食事をしても何の問題もないし、歓迎してもらえるはずだ。

 市内を移動するなら、電車やモノレールを上手に使えばほとんどの目的地に行けることは前述のとおり。ただしKLタワーはタクシーがおすすめで、路線バスもタワーが建つ丘のふもとまでしかいかない。

マレーシアは立憲君主制なので国王が存在する。ここは国王が住む王宮で、12時に衛兵が交代するサーキット近くにあるモスク。街はもちろん人の集まるところにモスクがあり、イスラム教徒は安心してお祈りを行うことができるようになっている国立モスクは内部を見学することができる。ただし服装などに制限があり、肌の露出が多い場合は男女を問わず入り口で衣装を借りる。また、お祈りの時間は信者以外は入ることはできない
マレーシアの料理でもっともポピュラーで、日本人の舌にも合うのがナシゴレンだ。ナシとはご飯、ゴレンとは揚げる(フイラド)のこと。ちなみにミン(麺)ゴレンは焼きそば街中にはジューススタンドなどもたくさんある。現地の果物を使ったフレッシュジュースは、旅の疲れを取るのに最適。ただし、胃腸の弱い方はご注意を

 クアラルンプールの市内観光は、都市と民族性の両方を楽しむことができる。マレーシアはASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国の中で唯一、自国の自動車メーカーであるプロトンを有する国。今やプロトンはロータスを傘下にするほどの成功を収めており、SUPER GTやF1のスポンサーでおなじみのペトロナスもマレーシアの石油会社だ。

 そのペトロナスが所有し、同社のヘッドオフィスがあるのがクアラルンプールのランドマークとなっている「ペトロナスツインタワー」。これぞクアラルンプールの都市を感じられるスポットなのだが、一般的な高層ビルにつきものの展望台はない。ただし、41階部分の渡り廊下には定員制で入ることができる。タワーの下や周辺には高級品を扱うショップも多数あり、ショッピングを楽しむことができる。

 歴史的な建造物を見たいなら、クアラルンプール駅(旧中央駅)がおすすめ。2001年にKLセントラル駅が開業するまで使われていた駅で、マレー鉄道の歴史を感じることができる。隣にはマレー鉄道事務局ビルや国立モスクなどもあり、初めてクアラルンプールを訪れるなら、外すことができないスポットとなっている。

 そして夕方から夜にかけて訪れたいのがチャイナタウン。数多くの屋台がひしめく、混沌とした様はまさに“アジア”。中華料理店も多数あり、レース期間中はドライバーを含め、チームが食事を楽しんでいる光景をよく見かける。

 さらにゆったりとしたスケジュールが可能ならば、クアラルンプールを起点にマラッカや離島などにショートトリップするというスケジュールもありだ。都会、歴史、自然、あらゆる旅の欲求を満たしてくれる要素が、マレーシアには潜んでいる。

ライトアップされたペトロナスツインタワー。0時まで点灯している。消えてしまうとクアラルンプールの夜景は一気に異なる雰囲気となる旧中央駅は日本の鉄道駅にはない独特の雰囲気を持っている。駅舎そのものが歴史的建造物となっているので、この場所で結婚記念写真を撮影している場面もよく見られるマレー鉄道事務局ビル。アジアとヨーロッパの建築様式が入り交じる貴重な建物。かつてのクアラルンプール中央駅に隣接している
独立広場の向かいにある旧連邦事務局ビル。現在は司法裁判所として使用されている。ムーア様式と呼ばれる美しいレンガ造りのビル観光客向けのお土産店などが多数集まっているセントラルマーケットの近く。ヨーロッパ調の建物が並び、独特の雰囲気を醸し出している中華街の入り口。昼間に訪れても露店はなく、閑散とした雰囲気となっているが、夕方以降に露店が出てからは歩くのも大変なほどに人々が集まってくる
中華街では時計を始めさまざまなものが売られているが、イミテーションやコピーなど違法なものも多い。当然、国内への持ち込みは禁止されているので注意チャイナタウンの近くある、ヒンドゥ寺院のスリ・マハ・マリアマン寺院。市内でもっとも古く精巧な建物と言われている

(諸星陽一)
2010年 6月 7日