ハイブリッド車のワンメイクレース「第1回 Eco Car Cup」リポート
燃費だけでなく、速さも競う新ジャンルのイベント

富士スピードウェイで開催された「第1回 Eco Car Cup」

2010年6月27日開催



Eco Car Cupは全長920mのショートサーキットを使用

 6月27日、富士スピードウェイ(静岡県駿東郡小山町)でハイブリッド車のワンメイクレース「第1回 Eco Car Cup(エコカーカップ)」が開催された。このEco Car Cupは、スーパー耐久レースと併催する形で行われ、富士スピードウェイの約1.5kmのメインストレートを持つレーシングコース(以下、本コース)ではなく、走行会やドリフトイベントなどで使われるショートコースが用いられた。

 富士スピードウェイによると、これは初の開催とあってどの程度のエントリーがあるか分からず、またイベント運営にどのような問題が発生するか予想できないため。ただ、実際は24台のエントリー枠に対し、キャンセル待ちも出るような状態となり、Eco Car Cupへの人気の高さが証明される形となった。

 このEco Car Cupはクラス分けされており、ノーマルクラスと改造クラスに分けられている。ノーマルクラスはオイル類とブレーキパッドのみ純正以外に変更可能で、改造クラスはエアロパーツや、タイヤも公道走行可能なタイヤであれば交換が認められている。とはいえ、改造クラスでもエンジンや電装系のチューニングは不可能なので、改造範囲は限られていると言えるだろう。

 参加台数比で見ると全24台中、ノーマルクラスが15台、改造クラスが9台。ハイブリッドスポーツカーである「CR-Z」も参加していたが、そのすべてがエアロパーツなどを装着した改造クラスでのエントリーとなっていたのが印象的。

 通常ハイブリッド車によるイベントとなると、燃費を競うものが多いが、Eco Car Cupでは、国際的なレーシングコースを持つ富士スピードウェイでの開催とあって、速さを競う要素が取り入れられているのが特徴となっている。

 ステージ1~6まで6つのステージが用意され、ポイントの付かないステージもあるものの、それぞれのステージの順位を競い、総合ポイントで最終順位が決まる。まずはステージ内容と、ステージごとのポイントを見ていただきたい。

ステージ内容

 内容ポイント付与
ステージ1くじ引き第1予選あり
ステージ2タイムアタックあり
スペシャルステージ本コースをパレードランなし
ステージ3西ゲート給油所で満タン給油なし
ステージ420周スプリントレースあり
ステージ535分レースあり
ステージ6給油あり

各ステージのポイント

 ステージ1ステージ2ステージ4ステージ5ステージ6
1位620244896
2位619234692
3位618224488
4位517214284
5位516204080
6位515193876
7位514183672
8位413173468
9位412163264
10位411153060
11位410142856
12位39132652
13位38122448
14位37112244
15位36102040
16位2591836
17位2481632
18位2471428
19位2361224
20位1351020
21位124816
22位123612
23位11248
24位11124

 前述したようにこのEco Car Cupには24台がエントリーしている。ただ、ショートコースは狭いだけに、すべての参加者が同時に走るのは難しい。とくに初めての開催とあって、コース内で余裕が出るよう8台ずつ4チームに分けるステージ1のくじ引きが行われた。なぜか、このくじ引きについてもポイントが付与されており、Eco Car Cupのパンフレットには「レースには運がつきものです」と書かれていた。

 ポイントの付くステージ2~6までを見ると、2、4、5が速さを競うステージ、そして6がステージ3で満タン給油した後、いかに燃料消費量が少ないかを競うステージとなっている。ポイント配分を見れば分かるとおり、最大のポイントが付くのがステージ6。速く走れば必然的に燃料消費量は多くなり、速さを優先するとステージ6の順位が低くなる。つまり、参加者はどのステージでどれだけのポイントを稼ぐか戦略を練る必要があり、それがこのEco Car Cupの難しさでもあり、面白さになっている。

 当日はあいにくの雨、しかもエンジンなどは無改造のため、レースを観戦していてもタイヤが水を切る音だけが聞こえてくる。静かな中での争いとなっていた。各参加者それぞれに戦略が違うようで、燃費などを気にせず速く走るチーム、ゆっくりていねいに走るチーム、その中間を狙うチームといった具合に分かれていた。

富士スピードウェイのオフィシャルカーに続いてコースイン。コース内でのトラブルを避けるため8台ずつのレースとなっていた雨の中、レースは静かに進行していく

 ゆっくりていねいに走るチームの参加車両は先代プリウスが目立ち、速く走るチームの参加車両にはCR-Zが目立つ。CR-Zで走っていたチームに聞いたところ「初めて走るサーキットのため、燃費などのデータが分からず、とにかく飛ばして行く作戦」とのこと。確かにくじ引きで決まるステージ1はともかく、ステージ2~5で1位になれば92ポイントを獲得でき、ステージ6で順位が沈んでも最終的には上位になれそうだ。

レースをリードするのは、インサイトやCR-Zなどのホンダ車。速さ重視の戦略を採るチームは、ホンダ車ユーザーに多かった雨の中疾走するCR-Zteam MBM/YURA STYLE。レーシングカーデザイナーの由良拓也氏のチーム。ボディーも由良氏のデザイン
途中ドライバー交代が義務づけられるステージもある。これは、SUPER GT300クラスに参戦中の新田守男選手(右)、嵯峨宏紀選手チェッカーフラッグが振られたらレース終了。レース運営は本格的ショートサーキットを最終コーナー方面から望む。この距離になると雨の音のみが聞こえる静かなレース
スペシャルステージのパレードラン。本コースを多数のハイブリッドカーが走行ステージ3の燃料給油。西ゲートのエネオスで満タンにする。パレード走行後のため、給油渋滞が発生給油所は坂になっているため、燃料消費の影響を避けるため、給油渋滞となっても1方向からしか進入できない。右に給油口を持つ初代インサイトと、初代プリウスのみが給油渋滞を避けられていた
ステージ4開始前のドライバーミーティング。ステージ1、2での問題点を洗い出していくピットレーンでの約束を説明するスタッフ。危険を避けるため、20km/hの制限速度を守ることを強くよびかけていた参加者からの質問で、ショートサーキットへの進入方法を変更。より大回りする形でコースに出て行くことになった
ステージ5終了後最後の給油へと向かう。ここでは5分ごとに給油する台数を決め、給油所での渋滞を避ける工夫がされていた

 ステージごとに走行周回数や走行時間は異なるものの、朝から夕方までサーキットで走った結果は以下のとおりとなった。

順位チームクラスステージ1ステージ2ステージ4ステージ5ステージ6総合ポイント
1位Team ECO TORAプリウス1
(20位)
12
(9位)
15
(10位)
32
(9位)
80
(5位)
140
2位team MBM/
YURA STYLE
プリウス EXP2
(17位)
8
(13位)
3
(22位)
16
(17位)
96
(1位)
125
3位TOM'Sプリウス-206
(2位)
11
(10位)
8
(17位)
8
(21位)
92
(2位)
125
4位Team Tama from
PRIUSな日々SNS
プリウス-201
(22位)
2
(21位)
13
(12位)
22
(14位)
86
(3位)
124
5位チーム まったりプリウス-203
(14位)
3
(20位)
4
(21位)
26
(12位)
86
(3位)
122

 上位5名だけを掲載しているが、1位になったTeam ECO TORAは、くじ引きのステージ1はともかく各ステージでまんべんなくポイントを稼いでいるのが分かる。表彰式のコメントでも「各ステージでそこそこの順位になるように走った。コースのライン取りも(アウト・イン・アウトのような)速く走るライン取りではなく、走る距離が短くなるよう工夫した。後は秘密」と答えており、すべてのステージでポイントを取るような戦略が勝利に結びついた。

 2位のteam MBM/YURA STYLEは、レーシングカーデザイナーの由良拓也氏のチームで、ひたすら燃費だけを気にする走りを行ったとのこと。由良氏は「運もあって勝つことができた」と言い、最終的に1L未満の燃料消費量でステージ6を優勝している。これは、先代プリウスの燃料タンクの作りに理由があり、最終給油時の時に完全に満タンにならなかったかもしれないとのこと。実際、由良氏も給油状態を確認していたそうだが、計測上は1L未満となっており、この辺りは今後の運営における要改善点だろう。由良氏によるとおそらく3Lくらい消費したのではないかと言い、これが“運もあって”というコメントにつながったとのこと。

表彰トロフィー。24個用意されており、参加者は全員トロフィーがもらえる。参加した人にとってはなによりのおみやげに富士スピードウェイだけに、富士山の形をしているトロフィーの中央部には、本コースが刻まれていた
ノーマルクラスの1位と、改造クラスの1位には賞品が用意されていた。粘度は省燃費タイプの0W-20総合2位、改造クラス1位となったteam MBM/YURA STYLE。トロフィーを持つのが由良氏

 詳細な燃料消費量は発表されなかったが、上位のチームで3L程度、最下位で11L程度とのこと。多くのチームは5~6Lの燃料消費となっていたようだ。

 最終結果の1位~5位はいずれもステージ6の1位~5位(Team Tama from PRIUSな日々SNSとチーム まったりは燃料消費が同じだったため、3位と4位のポイントの合計を半分にして付与)となっており、燃費を重視することはやはり必要だったという結果になっている。ただ、上位のポイント差が僅差のため、くじ引きのステージ1のポイントしだいで、順位の変動があるものとなっていた。

 このEco Car Cupには、ベテランレーシングドライバーの黒澤琢弥選手のほか、SUPER GTに参戦中の折目遼選手、新田守男選手、嵯峨宏紀選手も参加していたが、いずれも上位にはなれなかった。プロのレーシングドライバーが異口同音に語っていたのが、「このようなレースはプロとアマが一緒に楽しめ非常に楽しい」ということ。由良氏は「1日たっぷり楽しめて、燃料代が1000円程度。こんなお得なイベントはない」と言い、多くの参加者も雨の中、戦略や通常のレースとは異なる駆け引きが必要となるEco Car Cupを楽しんでいた。

数々のレースで活躍してきた黒澤琢弥選手黒澤琢弥選手とチームを組んだ折目遼選手。SUPER GT第4戦セパンGT300クラスの優勝者新田守男選手(左、セパンGT300クラス2位)、嵯峨宏紀選手(右、同8位)
最後に参加者からアンケートを回収。始まったばかりのイベントのため、参加者の意見がEco Car Cupを育てていく

 富士スピードウェイによると、秋に1回、来春に1回開催を予定している。今や1000チーム以上が参加し富士スピードウェイの1大イベントとなった感のある「ママチャリグランプリ」もこのショートコースから始まり、本コースで行うイベントになった。それと同様、来春の開催では本コースを使って開催できるようなイベントに育てていきたいと言う。

 燃費だけを重視しても勝てず、また、速さだけを重視しても勝てないEco Car Cup、ノーマル車で手軽に参加できるので、興味のある方はぜひ参加してみてほしい。非常に静かなレース展開となるため、観戦するレースイベントではなく、参加してみんなでわいわい楽しみむイベントと言えるだろう。

(編集部:谷川 潔)
2010年 7月 2日