日産「2010年度 先進技術説明会」リポート【第3回:ダイナミック・パフォーマンス】 フーガ ハイブリッドに搭載する電動パワーステアリング、電動型制御ブレーキを解説 |
日産自動車は7月27日、神奈川県横須賀市内の追浜グランドライブにおいて「2010年度 先進技術説明会」を開催した。
同社は「環境」「安全」「Life on Board」「Dynamic Performance」の4つの領域ごとに独自の先進技術を開発している。この4つの領域に基づき、今回はDynamic Performance(ダイナミック・パフォーマンス)についてお伝えする。
日産自動車 要素技術開発本部 シャシー技術開発部 主管 佐藤正晴氏 |
■ダイナミック・パフォーマンスとは
ダイナミック・パフォーマンスの説明は、日産自動車 要素技術開発本部 シャシー技術開発部で主管を務める佐藤正晴氏が行った。
ダイナミック・パフォーマンスの技術領域では、「静かさ」「ハンドリング」「乗り心地」「ブレーキ」「加速」といったクルマのパフォーマンスにまつわる部分の研究開発が行われており、経験や知識がなくとも「静か」「加速がいい」といった性能を誰にでも体感してもらうことを目指してさまざまな取り組みが行われている。
このダイナミック・パフォーマンスの技術開発においては、ドライバーのみならず、乗員すべてが性能を体感できることを目標にしており、減速からコーナリング、再加速に至るまでの連続操作をユーザーと同じ条件で評価するために、北海道の陸別試験場内に公道を再現した評価コースを作った。従来では、例えばパワートレーン部門、音振制御部門、サスペンション部門などがそれぞれが独立して研究開発を行っていたが、それぞれの部門が一体となってこの評価コースで開発を行うことにより、より理想的なクルマ作りが行えると言う。
今回の説明会では、今秋発売予定の「フーガ ハイブリッド」に搭載される「電動油圧式電子制御パワーステアリング」「電動型制御ブレーキ」を中心に解説が行われた。
ダイナミック・パフォーマンスの開発コンセプトは“誰でも、いつでも、どこでも”性能を体感できること | ダイナミック・パフォーマンスの目指す姿 | 今回紹介された技術 |
パワーステアリングギア |
■燃費を約2%向上させる電動油圧式電子制御パワーステアリング
同社では、ステアリングを開発する際に「人間の感覚特性を考慮し、自然で意のままにクルマの動きを操ることができる安心感の提供を目指している」と言い、人間の感覚特性を考慮した操舵力でクルマをなめらかにコントロールできるような味付けがなされる。
そのコンセプトを踏襲した電動油圧式電子制御パワーステアリングは、日立オートモーティブシステムズと共同で開発されたもので、油圧パワーステアリングのなめらかな操舵フィールを活かしながら、きめの細かい制御が可能な電動ポンプを組み合わせることで、理想な操舵力特性を実現したと言う。
操舵時のみモーターが作動する方式で、ドライバーが左右に転舵するとトルクセンサーが操舵力を検知し、ECUが操舵力、車速、舵角の信号を受信すると最適なモータートルクを計算し、モーターによってポンプを作動させる。アシスト時のみ作動するため、この電動油圧式電子制御パワーステアリングの採用により10・15モード燃費で約2%の燃費を向上できたと言う。
ステアリング開発時の考え方 | 電動油圧式電子制御パワーステアリングと従来の油圧パワーステアリングのシステム構成について |
■回生ブレーキシステムを搭載する電動型制御ブレーキ
ブレーキにおいても人間の特性を考慮して開発を行っていると言い、例えば緩やかに減速したいときはペダルをラクにコントロールできる特性に、速度の調整がしやすい特性に、しっかり減速したいときはペダルの踏み応えから、次のクルマの速度を予測でき、狙いの速度にあわせやすい特性に、コーナー進入時はしっかりした踏み応えを感じ、安心して減速できる特性にするなど、ペダル操舵力によってブレーキ特性を変化させることでブレーキ操作による身体的負担を軽減させていると言う。
こうした考えの元に開発された電動型制御ブレーキは、モーターが直接ブレーキシリンダーを作動させる倍力装置で、センサーがドライバーのブレーキ操作を検出すると、ECUがモーターをコントロールし、モーターの作動によってピストンが圧力を発生させる仕組みとなる。
また、減速時のブレーキを踏んだ際に発生する熱エネルギーを、電気エネルギーに変換する回生ブレーキシステムを搭載しており、モーターがブレーキ液圧とブレーキペダル反力を制御することで、自然なフィーリングを実現するとともにエネルギー回生効果が最大になるよう、摩擦ブレーキの油圧を最適化すると言う。
ブレーキ開発時の考え方 | 電動型制御ブレーキの特徴 |
パワーバック | 電動型制御ブレーキユニット |
フルサイズSUV「インフィニティ QX56」に搭載されるHBMCの体験会も行われた |
■操縦安定性と高い乗り心地を両立するHBMC
そのほか、北米市場向けのフルサイズSUV「インフィニティ QX56」に搭載されるHBMC(Hydraulic Body Motion Control)と呼ばれる荷重コントロール技術についての説明もあった。
HBMCはオンロードでの操縦安定性と高い乗り心地を両立することを目的に開発された技術。各サスペンションに設けられる油圧シリンダーと油圧パイプ、アキュムレーターと呼ばれる蓄圧器で構成され、サスペンションの油圧シリンダーを2系統のパイプで接続することで、路面からの衝撃を吸収するとともにカーブ走行時のロールを低減させると言う。
HBMCを搭載するインフィニティ QX56に試乗する機会を得たのだが、一般的なSUVでは腰砕けになりがちなタイトコーナーを、車体がロールすることなくスムーズに切り抜けられたことに驚いた。さらに荒れた路面をしなやかにいなす乗り心地のよさも持ち合わせており、一見相反する性能が同居する、素晴らしい技術だと感じた。
さらに作動動力源を必要としない、独立したシステムであることから、燃費とのトレードオフがないというのも特徴と言えるだろう。
試乗車のインフィニティ QX56とサスペンション | サスペンション内のカットモデルとアキュムレーター | |
ロールせずにコーナーをクリアしていく様子 |
(編集部:小林 隆)
2010年 7月 30日