「グッドデザインエキスポ2010」、移動体ユニットの公開審査
日産「リーフ」、ホンダ「CR-Z」、ヤマハ「EC-03」のデザイナーがプレゼン実施

グッドデザインエキスポ2010

2010年8月29日実施



 8月27日~29日に、アジア最大級のデザインイベント「グッドデザインエキスポ」が東京ビッグサイト(東5、6ホール)で実施された。会場では、グッドデザイン賞のプレゼンテーションと審査の一部が公開で行われた。8月29日には、移動ユニット「未来の社会像とモビリティ」から、日産自動車が「ゼロエミッション社会の推進のための包括的な取り組み」、本田技術研究所が「ハイブリット自動車 CR-Z」、ヤマハ発動機が「エレクトリックコミューター EC-03」について、会場のメインステージで公開プレゼンテーションを行った。

 いずれもエコに関連した製品だが、それぞれのエコに対する考え方や、捉える側面の違いが分かるプレゼンテーションとなった。

「リーフ」の登場とともに、EVを取り巻く包括的な取り組みが必要
 日産からは、グローバルデザイン本部デザイン・ダイレクターの長野宏司氏が「持続可能なクルマ社会を作るためには包括的な取り組みが必要」とし、同社の電気自動車(EV)「リーフ」の販売を開始するだけでなく、リーフを中心とした充電や発電、リサイクルへの取り組みを包括的に考えを示した。

日産自動車 グローバルデザイン本部デザイン・ダイレクターの長野宏司氏日産のEV「リーフ」は充電設備とともに展示された

 長野氏はリーフについて「世界中でいろいろなお客様に乗っていただける、普通の生活に十分に使え、普通のクルマと同じようなお手頃な価格で提供したい」と普及を目指す考えを述べ、走行性能についてもバッテリーといった重量物を車両中心に配置することや、モーターによる高加速性能を示し「日産ならではのキビキビ感を持った加速とハンドリングを実現」と説明した。

 さらに、EV専用ボディーを生かし、静かなEVゆえに風切り音を形状でコントロール、空気抵抗値を改善するとともにフラットな床下としてゼロリフトを実現することなどを目指したほか、最近話題となっているEVの静粛性の問題についても「歩行者に対して危険だが、20km/h以下で発する音のデザインも開発してきた」と説明した。

 EVならではの取り組みとしては、航続可能距離をカーナビの地図上に範囲として表示するとともに充電可能場所の表示をすることや、充電時間帯をタイマーセットしたり、乗車前にエアコンをバッテリーからではなく、充電用電源から取得してあらかじめ車内を冷やしたりといったことを検討していると述べた。

 また、EVはエンジンをかける操作がないため、「これからドライブするんだという気持ちを高揚させるためにも、スタートアップサウンドを考えた。アクセル踏むと前に進むことをお知らせしたい」とし、考案した起動音を会場で披露した。

 リーフの充電環境という面では、基本的な充電器は日産独自のものも開発し、全国の日産ディーラーに充電器を配置、半径40km圏内に急速充電器を1基、それ以外に普通充電器を合計2200個所に配置する予定も示した。

 長野氏はディーラー網への充電器の配置を、12月に予定しているリーフの発売までに完成させたいとし、「クルマの歴史では100年に1回の転換期。仕組みを変えていきたいと思っている」と希望を述べ、プレゼンを終了した。

持続可能なクルマ社会を作るためにバッテリーと電気自動車開発の歴史リーフの概要
加速性能についてバッテリーを車両重心に配置し、車両の挙動をコントロールしやすいパッケージとした静粛性について
携帯からプリエアコンや充電開始といった遠隔操作が可能エクステリアデザインについてカラーデザインについて
急速充電器もデザインした日産の充電ネットワーク。普通充電設備を約2200店舗に、急速充電器を約200店舗に設置する

エコカーにも“Fun”が必要~CR-Z
 「クルマが大好きで、クルマがあるからどこかへ行ってみる。今までの思い出には常にクルマがあった」と話す本田技術研究所の四輪R&Dセンター デザイン開発室 第1ブロック 1スタジオ 主任研究員の名倉隆氏は、「エコカーにもファン(Fun)が必要だ」と訴えた。

本田技術研究所 四輪R&Dセンター デザイン開発室 第1ブロック 1スタジオ 主任研究員 名倉隆氏ホンダ「CR-Z」は来場者が車内に乗り込めるようホンダのブースで展示された

 「多様化する趣味に、クルマはミニバン1台あればよくなった。そして、スポーツカーは普通の人の運転技術では扱えないものになってきた」と背景を説明し、環境面からもスポーツカーカテゴリーが縮小されている現状があるとした。

 また、「エコロジーを実践するのはお客様」とし、エコカーが多く購入されて普及するためには「ユーザーに使ってもらえる楽しさがあること。それがエコカーに必要」と話し、その考えがCR-Zにつながったと説明したほか、「次の時代にクルマの本来の楽しさが伝えるため、エコカーにはファンが必要だと考えた」とも訴えた。

 その上で開発されたCR-Zは、環境性能は大事としながらも「愛着がわく、毎日使って、クルマが愛しくなる」ことを重視したと言う。「クレイモデルを作る際、終始、手作業で作り上げた。人間の手が作り上げた面が、このクルマの官能さにつながるのではないか。コンピュータで作り上げるのではなく、長く乗れる愛しさを実現できた」と述べ、その結果「非常に艶やかで、色気のある造形ができた」と評価した。

 インテリアでは操作系と情報系をインパネに集め、内装のパーツも飽きが来ないものとした。メーター類は直感的に認知できるようにし、速度計は目の焦点が合いやすいものにしたと言う。

 プレゼンでは、スタイリングを追求した結果の、ある出来事が紹介された。発売から3カ月ほど経った際にある中学生から本田技研工業の伊東社長宛に一通の手紙が届いた。その内容は「大人になったらぜひ買って乗りたい。ホンダに入ってかっこいいクルマを作りたい」というものだったと言う。

 名倉氏はこのことについて「外観の魅力を含めて魅力を分かっていただけた」と、CR-Zを評価。来場者に対しても「ブースにあるので、本当かどうか確かめてください」と場内のブースに展示されたCR-Zを確認するよう促していた。

環境面からもスポーツカーカテゴリーが縮小されている現状がある環境問題はエネルギー問題、地球温暖化問題、大気環境汚染問題の3つがあると言うCR-Zのパッケージ。「愛着がわく、毎日使って、クルマが愛しくなる」ことを重視した
CR-Zに搭載するシンプルで小型・軽量なハイブリッドシステム。25km/Lの低燃費を実現するエクステリアデザインの特徴
CR-Zでは走行に関わるものは一眼メーターに集約し、クルマの状態をあらわすものは水平に表示する「スーパー3Dメーター」を採用した直感操作が可能なクラスターパネルを採用「SPORT」「NORMAL」「ECON」から選択できる3MODEスイッチを装備
SPORT、NORMAL、ECONの特性イメージエコアシスト機能も搭載するエコアシスト機能によってエコ運転度採点履歴、エコ運転度採点評価、燃費向上ヒントを確認できる

都市空間で活用できる電動二輪車
 9月1日から順次発売される電動二輪車「EC-03」についてプレゼンしたのは、ヤマハ発動機 執行役員 SP事業推進統括部長の小林正典氏。コンパクトシティという都市作りの考え方に対応、半径5km程度の移動に適した性能と扱いやすさに焦点を当て、企画・立案したものだと説明した。

ヤマハ発動機 執行役員 SP事業推進統括部長の小林正典氏電動二輪車「EC-03」

 小林氏は「コンパクトシティこそ、我々の近距離移動に適したパーソナルモビリティが生きる空間だと考えている」とし、原付クラスの小型の乗り物がEV化にふさわしく、エネルギー消費量の少なさのほか、駐車スペースをさほど気にしなくて済むといったメリットを挙げ、都市との親和性の高い乗り物だと強調した。

 EC-03の特徴は20インチの小径ホイールの自転車と同じホイールベースで、自転車に近いサイズ。パワーユニットは超薄型の一体型として、軽量コンパクト化したバッテリー、アルミフレームを採用した。近距離移動に最適なバッテリー容量で、コンパクトにまとめたと言う。

 今までの電動二輪車との違いは充電器を車載したプラグイン方式であること。バッテリーを外して家で充電するのでなく、二輪車から直接コードを延ばしてコンセントに接続して充電する。

 小林氏は従来の方式について「自宅での充電は便利だが、外出先では不便」とし、EC-03の充電方式は「自宅以外の複数の場所で充電できるという大きなメリットを生み出す」と説明した。充電にかかる時間は最大6時間。電気代は昼間の標準的な料金で計算して約18円。充電後は30km/hの定地走行で約43km、坂道や発進・停止のある都市走行で約25kmの走行が可能としている。

 スタイリング面については、「女性にも乗りやすいフレームの形状、背筋を伸ばす車姿勢はシティコミューターの原点。それを守った」と説明したほか、インホイールモーター、シート下の充電器、シート下にコンセントにつなげる線を配置、重量のバランスも運動性能を考慮した重量配分にしたとしている。

 さらに電動アシスト自転車、電動二輪車、四輪EVにおける必要なエネルギー量を比較した表を提示し、電動アシスト自転車に対して電動二輪車は10倍、電動二輪車に対して電動EVは約10倍のエネルギーが必要とした。このため、電動二輪車のバッテリーなら一般的なコンセントで済むために充電環境を大きく変える必要がないとし、「電動二輪車は現在の生活環境にそのまま取り入れられるEVの形である」と訴えた。

 また、充電インフラに関しては畳一畳程度のソーラー発電による充電設備付きのシェアリングシステムを提案。「たとえば、朝、駅前の充電器付きの駐輪場に止め、帰ってきたときには充電されている。そんな使い方はいかがでしょう」と提案していた。

 最後に小林氏は「人に優しく、街に優しく、社会に優しい、低炭素時代にふさわしい新しいモビリティと言えるのではないか」と結論付け、「EC-03で低炭素社会をリードしたい」と述べ、プレゼンを終えた。

二輪スマートパワーの研究開発について電動二輪車の量産車と研究開発原付クラスの小型の乗り物がEV化にふさわしく、都市との親和性の高い乗り物だと言う
2009年度の自工会調査結果によると、原付スクーターの1日あたりの走行距離は5~15kmが大多数で、月間300km以下が約80%を占めると言う二輪の持つ都市との親和性電動アシスト自転車PASとのサイズ比較
技術特徴外出先などでの充電が容易なプラグイン充電方式を採用する機能部品の搭載レイアウト
パッソルのデザインコンセプトを継承し、スタイリングと使いやすさを成熟したと言う必要とする充電環境充電インフラの例

バッテリーのリユースなど、環境面への取り組みを推進
 3社からのプレゼンテーションの後は、審査委員からの質疑応答の時間が設けられた。「移動ユニット」の審査委員はいずれもインダストリアルデザイナーで、移動ユニット長である山村真一氏、木村徹氏、サイトウマコト氏、福田哲夫氏。今回のプレゼンにはサイトウマコト氏は欠席し、3名での公開質疑となった。

左から、移動ユニットの審査を行う移動ユニット長である山村真一氏、木村徹氏、福田哲夫氏ディスカッション形式で質疑応答は進行した

 木村氏は日産にリーフの名づけのきっかけと空気抵抗係数について質問し、日産自動車の長野氏は「日産の名前は造語が多いが、象徴的なクルマだからダイレクトに葉っぱの『リーフ』と決定した」と返答、空気抵抗値については「公表値は0.29で、このクラスのハッチバック系で競争力がある数値だが、それに加えてゼロリフトに苦労した」と述べ、ゼロリフトを重視したことを強調した。

 福田氏は各社にさらなるリサイクルやリユース、そして軽量化への取り組みについて質問した。

 日産の長野氏は「バッテリーは5年で劣化したから処分するのではなく、劣化しても使える場所があり、リユースもビジネスとして考えている」と述べた。軽量化については、バッテリーを積むので車両自体の軽量化を図ったとし、その一端で「機器のレイアウトの工夫で、ワイヤーの長さを短くする検討を進めた」などの工夫が披露された。

 本田の名倉氏は、リサイクル素材をフロア下のアンダーカバーなどに積極的に多用したと回答し、軽量化についてはドアグリップを金属の無垢感を出しながらも軽量化したこと、ホイールの重さはインサイト比で1台あたり5kg軽量化したこと、ドアの開閉音の調整も部材を増やさずに形状の工夫で済ませ、重量増を抑えたことなどの工夫が披露された。

 ヤマハの小林氏はEC-03について「資源を大事にするという点で、小さく、コンパクトに軽く作った」とし、「1977年に発売した50ccバイク『パッソル』まで戻り、フレームに最小限のカバー付けるという小型2輪のプリミティブな世界へ戻った」と説明した。

 また、山村氏は各プレゼン内容に一定の評価をした上で「乗ったら血圧が測れて“今日は調子いいぞ”とか、うちに帰るまでにご飯が炊ける」などの、クルマに何か新しい取り組みや提案がないかと質問した。

 これに対して日産の長野氏は、「電気自動車の可能性が広がることは試した。クルマが生活を変えるという意味では、自宅の車庫にあるクルマをケータイやITを使って外から充電するといった、プラスアルファの機構は付け加えていきたい」と可能性を示した。

 一方、本田の名倉氏は「アイデアはあるが、うかつに出すことはできない」と現時点での新しい提案を否定し、そういった取り組みよりも「モーターアシストによってクルマを楽しむことができる」というメリットを強調した。

 プレゼンの最後に、審査のユニット長の山村氏は「今まで、自動車部門、二輪部門として物単体の審査だったが、環境に取り組む運動と自動車、仕組みづくりと物など、部門の変化を感じた」と統括。「移動部門は、日本の経済を支える大事なモノづくり。ハイブリッドやEVにデザインが加わって、日本が移動体をリードしていく時代が来ることを確信している」と期待を寄せて終了した。

 なお、今回の公開プレゼンをはじめ、グッドデザイン賞の審査結果は、移動ユニットを含めて9月29日に発表される。

(正田拓也)
2010年 8月 30日