NISMO、サーキット専用モデル「GT-R クラブトラックエディション」の引渡し式 講師が参加者に密着して行うレーシングスクールも開催 |
2011年モデルのGT-Rは、公道で体験できないGT-Rの真の運動性能を楽しめるように開発された、サーキット走行専用のGT-R「Club Track edition(クラブトラックエディション)」が存在する。
同マシンはNISMO大森ファクトリー、ノバ・エンジニアリング、ノルドリンクの3社(特約サービス工場協会/Authorised Servicefactory Association)で販売され、さらに同マシンを購入したユーザーが集い、プロドライバーのマンツーマン指導によるレーシングスクールを受講したり、クラブトラックエディション専用のレースを楽しむことができたりといったプログラム、車両の保管および輸送、メンテナンスを委託できるサービスなどが用意されている。
そして5月14日、東日本大震災の影響で延期となっていた同マシンの引渡し式および第1回レーシングスクールが、袖ヶ浦フォレストレースウェイ(千葉県袖ケ浦市)で開催された。今回クラブトラックエディションを購入し、本年度の同プログラムを受講するのは7名となる(今回は1名欠席)。
エクステリアこそ標準車とさほど変わりはないが、助手席や後席、アンダーコート類は剥がされるなど標準車より約70kgの軽量化が行われるクラブトラックエディション。ロールケージ、スリックタイヤ、6点式シートベルトなどが標準装備される。受注は現在も受け付けており、納車までに3~4カ月かかる。価格は1047万9000円 |
同レーシングスクールは、参加者のスキルに合わせた個別レッスンを基本とするもので、ドライビングスキルの向上させるべく、講師陣による先導走行や同乗走行のほか、データロガーや車載映像などを活用したミーティングなどが用意される。今年度の講師は、スクール校長であるノルドリンクの鈴木利男氏、プロドライバーの田中哲也選手と藤井誠暢選手を筆頭に、NISMOの契約ドライバーらがサポートを行う。
また、レッスンと同時に参加者によるショートレースプログラムも用意されており、より実践的な経験を積むことも可能になっている(この日は引渡し式を練習走行がメインだったのでレースは行われなかった)。
開会式では、協会会長であるノバ・エンジニアリングの森脇基恭氏や、GT-Rの開発ドライバーでもある鈴木利男氏らの挨拶の後、当日に残念ながら欠席となったGT-R開発責任者の水野和敏氏によるビデオレターが上映され、同イベントは「World of GT-R」の一環として、走りの“感動の創造”を目指した旨などが語られたほか、その後行われた車両引渡し式では、ゴールドに彩られたクラブトラックエディションの専用キーと、各自のネーム入りのキャップといった購入記念品が贈呈された。
スクールの実施概要説明の後、参加者はピットに並べられた各自のGT-Rに乗り込み、いよいよ走行開始。
すでにクラブトラックエディションを別の場所で試走したという参加者もいたが、初めての人が多く、また同コースを走るのは初めてという参加者もいたので、まずはクラブトラックエディションとコースに慣れるため、講師の先導にてコースイン。やがて講師がコースを離れ、参加者は心の赴くままにアクセルを踏み込んで走行。まずはクラブトラックエディションのパフォーマンスを楽しんでいる様子だった。
走行は30分ずつ計4回にわけて実施された。どのくらいタイムアップできるかを見るため、もちろんタイム計測も行うし、車両には各自のドライビングを細かく分析するためのデータロガーを装着する。また、講師による追従走行や、講師の横でドライビングを学べる同乗走行なども実施。そして、走行の合間に講師が上記のデータをもとにマンツーマンで綿密に指導してくれる。このレーシングスクールほど直接的にプロドライバーのレクチャーを受けることのできるスクールというのは、ほかには思い当たらないといった感じだ。
同スクールに参加するにあたっては、車両の購入とともにレーシングスクールプログラムへの申し込みと、車両保管委託契約が別途必要となるが、車両の搬送やメンテナンスなどは、まるっきり協会任せでOKとなる。
マシンは常にベストコンディションを保って会場に届けられるし、もし現場で何かあっても熟練スタッフが的確に対応してくれるので、なんの心配もない。そして、NISMO契約ドライバーである講師がマンツーマンで指導してくれる。おまけにケータリングも充実している。
要するに、オーナー氏は身体1つで会場に来て走りを楽しみながら学び、そのまま帰ればOKという、まさに至れり尽くせりのスクールなのだ。ちなみに、同様のレーシングスクールをフェラーリやポルシェといった海外のスポーツカーメーカーも行っているが、こちらの料金はケタ違いなのだそう。
走行する前に、各参加車両のタイヤ空気圧チェック、車両コンディションチェックなどがスタッフによって行われていた | ||
コースレイアウトなどについて鈴木利男氏が解説 | 今回の参加者は6名で、田中哲也講師、藤井誠暢講師はそれぞれ3名の生徒を担当した | スタート前。まずは各講師らが先導してコースレイアウトを紹介 |
参加者の多くはサーキット走行経験者なので、序盤からハイペースで周回する人が目立った。ちなみにクラブトラックエディションのボディーカラーは「ブリリアントホワイトパール」「メテオフレークブラックパール」「オーロラフレアブルーパール」「バイブラントレッド」「ダークメタルグレー」の中から選択でき、外装の加飾は各人の自由 |
走行後に講師陣から直接レクチャーを受けることができる。車両はデータロガーキットなどを装着するため綿密なデータ解析を行うことができ、講師はそのデータや追従走行の結果をもとに参加者にレクチャーする |
今回のレーシングスクールについて、講師陣に特長を聞いてみた。
藤井誠暢講師は、「GT-Rはただでさえ速いクルマで、クラブトラックエディションの加速はGTカーよりも速いし、それを止める減速力も相当なもの。スリックタイヤを履いているのでコーナリングも速く、クルマの限界を引き出すには僕でも苦労します。このようなクルマを一般の方が買えること自体に価値があるのではないでしょうか。クラブトラックエディションを上手く操るにはもちろん練習が必要ですが、参加者の皆さんは思ったよりも早く掴んでいらっしゃるようで、最初に予想したタイムよりもだいぶ速いし、上達の早さに自分が驚いているほどです。このスクールはマンツーマンで教えることができるのが特徴で、僕らは生徒さんの細かいクセまでつかめるので、責任を持って上達のプロセスを見届けることができるし、それがタイムとして結果がでるので、とてもやりがいがあります。例えサーキット未経験の方がいらしても、年末にはちゃんとレースを走れるほどになれるようお手伝いできると思います。年末のNISMOフェスティバルでのレースは、本当にコンペティブなものになると思いますよ」と述べていた。
また、田中哲也講師は、「参加者さんからは、さすがこうしたスクールに来ようという人だけあって意識が高く、ブレーキングポイントや、ライン取りなど具体的なコーナーの走り方についての質問が多く、ぐんぐん上達してタイムも上がっていきましたね。同じセッティングのクルマなので、同条件で参加者や講師との比較もできるし、マンツーマンで指導できるので、極端な話まったくの初心者の方でもそのスキルに見合った練習ができます。また、GT-Rのような高性能なクルマだとトラブルも怖いところですが、メンテナンス体制が非常にしっかりしているので、その心配がないところもありがたいですね。雰囲気も殺伐としていないし、そうした恵まれた中で楽しみながら上達できるところが、このスクールの特徴ですね」と紹介してくれた。
藤井誠暢講師 | 田中哲也講師 |
「最終的に自分がどの領域まで走らせることができるか楽しみ」と語っていた参加者 |
一方、参加者の声は以下のような感じ。レース経験はないものの、2007年モデルのGT-Rでサーキット走行をしていたという参加者の声を訊いたところ、「GT-Rはノーマルで乗っていたが、いくところまでいったという感じだったので、もっと高い次元で楽しみたいと思ったので参加しました。市販車とクラブトラックエディションはぜんぜん違い、いつでも止まれていつでも曲がれる印象で、どこが限界か分からないほど性能が高く、それでいて扱いやすい。また、水野氏のビジョンに共感し、私もその世界を感じたいと思い、早い段階で参加に手を挙げた」と述べるとともに、スクールの印象について「プロドライバーの同乗走行が印象的で、自分との違いをコンマ何秒の世界まで映像とデータによって理解させてもらえるというのは本当に勉強になる。これをワンパッケージで、リーズナブルに楽しませていただけることに対し関係者の皆さんに感謝したい。最終的に自分がどこまでいけるか楽しみ」と語っていた。
また、別の参加者は、「サーキット走行歴は長いが、本格的にこうしたレクチャーを受ける機会がなかったので、非常に勉強になった。自分はどのコースもそうだったが、コーナーの進入で無理をして、頑張れば頑張るほど旋回速度が落ちていたことを実感した次第。講師はコーナー手前でスピードを落とし、立ち上がりが速い。それを自分もそれを心がけたら、タイムがポンと2秒も上がった。目標はスムーズに走れるようになることで、ラップによってタイムが2秒も3秒も変わらないようにしたい。ベストの2秒落ちぐらいで走るぶんにはタイムが安定するが、それをベストの走り方で安定させられるようにしたい」と、具体的な目標を語っていた。
1日を通して印象的だったのは、これほどマンツーマンでプロドライバーと直に接することができるレーシングスクールというのは、そうそうないだろうということと、コストパフォーマンスの高さだ。
クラブトラックエディションという高性能車の性能を楽しみつつ、ドライビングテクニックを磨けるという意味において、高価ではあるものの、同じ金額を払うのであればこれほど内容の濃いものが提供されるイベントというのは、世界中どこを探してもなかなか見つからないだろう。開発責任者の水野氏がいう「World of GT-R」の裾野の広がりを感じさせるGT-Rの新しい世界が、今、スタートしたといった印象だ。
なお、クラブトラックエディションの販売、レーシングスクールプログラムの運営等の詳細は、NISMO大森ファクトリー(東京都品川区南大井2-10-6 Tel:03-3763-3120)、ノバ・エンジニアリング(静岡県駿東郡小山町大御神220-1 Tel:0550-78-0329)、ノルドリンク(埼玉県入間市宮寺2723-8 Tel:04-2935-2135)で確認されたい。
このレーシングスクールへの参加にあたっては、「レーシングスクールプログラム」への申し込みと「車両保管委託契約」が別途必要となる。
●参考価格
・基準車(4点式ロールケージ仕様):1047万9000円
・6点式ロールケージ装着車(新車装着時):1113万円
・レーシングスクールプログラム 年会費:200万円
・車両保管委託契約 年間委託料:100万円
(岡本幸一郎)
2011年 5月 16日