SUPER GT第4戦SUGO「エヴァンゲリオンレーシング」リポート
初号機、またも表彰台を逃す。弐号機、事実上のデビュー戦


初号機、弐号機が並んで予選1回目の走行を開始。弐号機は初めて予選を走行した

 7月31日、2011 AUTOBACS SUPER GT第4戦 GT SUGO 250km RACEの決勝がスポーツランドSUGO(宮城県)で開催された。レース結果などはすでに別記事で紹介しているので、本記事ではCar Watchの読者に人気の高い、エヴァンゲリオンレーシングの各セッションの詳細、マシン、ドライバー、レースクイーンのフォトギャラリーなどをお届けする。

 今回の大きなニュースは、なんといっても7号車 エヴァンゲリオンRT弐号機DIRECTIONの復活だ。富士スピードウェイで行われた開幕戦の習熟走行でエンジンを壊した弐号機は、富士、岡山、セパンと欠場が続いていた。

 わずかながら走行した開幕戦も金曜日の午前中と午後の数分間だけだったので、予選、決勝は一度も走っていない。弐号機の走っている姿を見た人は貴重な存在と言えるほどだった。その弐号機が第4戦のSUGOでついにサーキットに帰ってきた。今回が事実上のデビュー戦と言えよう。

 一方、2号車 エヴァンゲリオンRT初号機アップル紫電はここまでの3戦は不運続きだった。開幕戦は早々に電気系のトラブルでリタイヤ、岡山、セパンでは走行中にドアが開きピットイン。セパンは表彰台に手が届きそうだったので悔しい結果となった。

 残り5戦、毎年チャンピオン争いをしてきたチームなだけに、そろそろ結果を出したいところだ。しかもSUGOは昨年優勝しているので大いにチャンスはあるはずだ。初号機に関する小さなニュースは、連続して発生したドアのトラブルに対応し、左右のドアを乗車中のドライバーが閉めることを可能にするステーが装着されたこと。ドアが開かないのがベストだが、もし開いてもピットインの必要はなくなった。

公式練習(7月30日)
 土曜日は朝から雨。初号機は加藤選手のドライブで、ウェットタイヤを複数テストしたいところだが、タイヤサービスが大忙しの状態となり、テストしたいタイヤが間に合わない。用意できた1セットのタイヤで加藤選手がコースインした。

 微妙な雨量のため、各車のタイヤは深溝、浅溝が混在していた。7周したところで加藤選手も比較のために一旦ピットインするが、20分ほど待ってもタイヤが組み上がらず、これ以上貴重な走行時間を無駄にできないと判断し手持ちのタイヤで再びコースインした。

 周回を重ね1分38秒189までラップタイムを短縮したところで360号車 RUNUP SPORTS CORVETTEのクラッシュで赤旗中断となった。比較用のウェットタイヤも組み上がり、加藤選手のドライブで確認する予定だったが、赤旗中断が20分続きセッション残り時間は10分、このままでは高橋選手の走行時間がなくなってしまうので、タイヤテストは見送り高橋選手にドライバー交代した。

 高橋選手は3年ぶりのSUGO、しかもウェットコンディション。午後の予選に向けコースに慣れる時間もなく、5周の計測ラップで1分43秒555を記録、消化不良のままセッションが終了した。

 一方、弐号機はカルロ・ヴァン・ダム選手が最初にコースインしマシンのセッティングを進めていく。ピットインを繰り返しながら17周を周回しラップタイムは1分40秒382、ここで一旦水谷選手にステアリングを譲った。水谷選手は徐々にタイムを縮め、7周目には1分42秒408を記録。ヴァン・ダム選手との差を2秒まで短縮したところで赤旗中断となった。

 長い中断が開け、再びヴァン・ダム選手がコースイン。ラップタイムを1分39秒384まで縮めたところでセッションは終了した。初の公式セッション参加なので、無事に走り切れたことが重要。復帰したエンジンにも問題はなく、午後は予選セッションに初めて臨むこととなる。

 公式練習の結果は、初号機が7位、弐号機は13位となった。クラストップタイムは43号車 ARTA Garaiyaの1分36秒302だった。

公式予選1回目(7月30日)
 今回の予選方式はスーパーラップ方式。公式予選1回目の上位10台がスーパーラップに進出することができる。スーパーラップは予選1回目10位のマシンから1台ずつ1周のタイムアタックを行い、最後に予選1位のマシンがアタック。ラップタイム順にスターティンググリッドの1位~10位が決まる方式だ。

 午後になって雨や止んだが空は雲に覆われていて、いつ降り出してもおかしくない状況だ。予選のスケジュールはGT300、GT500の混走時間が25分、切れ目なくGT300の占有走行時間が10分間となっている。オフィシャルからはウェット宣言が出されたが、路面は乾き始めている。

 この予選では、クラストップ3台の平均タイムの105%以内が予選基準タイムとなる。これを2名のドライバーがともにクリアしなくてはならない。コースコンディションがずっと同じであればなんら問題無い基準であるが、この日の様な天候では非常に厄介である。ドライコンディションで走り始め、ドライでの速いタイムが基準タイムとなり、もう1人のドライバーがアタックに入る前に雨が降り出し場合、基準をクリアすることが困難になる。そのため天候を見ながらドライバー交代のタイミングを見極める必要がある。その中でさらに上位10台によるスーパーラップへの進出も狙わなくてはならない。

 初号機はまず高橋選手がドライタイヤでコースイン。所々ウェットパッチが残るが全車コースインし、レコードラインは完全ドライに向かった。ラップタイムは1分31秒、30秒と徐々に短縮、4周目には28秒台を出し7周目に1分27秒338を出した。GT300クラスのトップタイムは25秒台に入り、基準タイムも30秒以内となるが27秒台なら充分クリアできると判断した。

88号車のスピンで赤旗中断。この後雨が強くなる

 ここで再び雨が降り出したため高橋選手をピットインさせ、加藤選手をコースへ送り出した。各チームも考えは同じで一斉にドライバー交代を行った。本格的に降り出すと基準タイムがクリアできなくなる。だが加藤選手からの無線は「もうコースは濡れてる~」。ここで88号車 JLOC ランボルギーニ RG-3がS字でスピン。縁石に亀の子状態となり予選は赤旗中断となった。直後に雨は激しくなるがすぐに止み、5~6分の中断の後セッションが最下位されるとレコードラインは急速に乾いてきた。

 混走時間が残り1~2分。続いて10分間がGT300の占有走行だ。加藤選手は1分28秒台から徐々にタイムを上げ、1分24秒202をたたき出した。この時点でクラストップタイムを記録。最後にスーパーラップ用のニュータイヤの皮むきを行い予選を終了した。

 弐号機はヴァン・ダム選手からコースイン。4周目に1分26秒713を出し基準タイムをクリア。続いて水谷選手がコースイン。1分29秒122を出しこちらもこの時点の基準タイムをクリア。さらにアタックを続けるが赤旗が出てセッションは中断された。

 セッション再開後はヴァン・ダム選手にドライバー交代しタイムアタックを開始。ラップタイムを1分25秒747まで上げスーパーラップ進出が見えてきた。ところが路面が乾くにつれ各車のタイムが急激に上がりスーパーラップ進出はおろか、水谷選手のタイムが基準タイムを下回る結果となってしまった。

 ヴァン・ダム選手の出したタイムは予選14番手だが、水谷選手が基準タイムをクリアできなかったため、基準タイムをクリアした16台の後ろの順位となり17位で決勝に進むこととなった。雨に翻弄されたとは言え、経験の浅さを露呈する結果となった。

スーパーラップ(7月30日)
 スパーラップは雨。路面は完全にウェットとなった。最初にアタックした87号車 リール ランボルギーニ RG-3は1分42秒台。続いてアタックした4号車 初音ミク グッドスマイル BMWは1分40秒台に留まった。3番目にアタックした25号車 ZENT Porsche RSRがコースアウトしたところで雨は突然止んだ。

 4番目の74号車 COROLLA Axio apr GTが1分38秒台、5番目の11号車 JIMGAINER DIXCEL DUNLOP 458が1分37秒台と徐々にタイムが上がっていく。このまま雨が降らなければ、最後に登場する初号機が一番有利となる。ところがまた雨が降り出してきた。

 6番目にアタックした43号車 ARTA Garaiyaは1分36秒台を出したが徐々に路面に水が浮き始め、33号車 HANKOOK PORSCHEは1分38秒台と後退。その後はタイムが伸びず初号機がアタックするころには完全にウェットに戻ってしまった。最後に登場した初号機は加藤選手がタイムアタックを試みるとセクター1で1秒近く遅れ、終わってみれば1分38秒866で6番手となってしまった。

スーパーラップ。最初に走行した87号車は完全ウェット雨が止み路面の反射がなくなった
再び雨が降り出すがまだ路面状態はいい初号機が走る頃には再び路面に水が浮いていた

 マシンの仕上がりもよく、同じ路面コンディションであれば加藤選手の12回目のポールポジションの可能性が高かっただけに、運がなかったとしか言いようのないスーパーラップとなった。

ピットウォーク・キッズウォーク
 SUGOでも土曜、日曜にピットウォーク、土曜のセッション終了後にキッズウォークが行われた。今回はオートバイの夏の祭典「鈴鹿8時間耐久ロードレース」と日程が重なったのでSUGOに登場したレースクイーンは式波・アスカ・ラングレー役の千葉悠凪さん、碇シンジ役の清水恵理さん、渚カヲル役の采女華さんの3人。エヴァンゲリオンレーシングのピットはいつもどおりの人気で多くのファンが集まっていた。今回は特別にレースクイーンのプライベートショットもお見せしよう。コスチューム姿もよいが私服の3人も見ていただきたい。

碇シンジ役の清水恵理さん式波・アスカ・ラングレー役の千葉悠凪さん渚カヲル役の采女華さん
ピットウォーク、キッズウォークには多くのファンが集まった
キッズウォーク中にドライバー交代の練習を続けるヴァン・ダム選手と水谷選手右から千葉悠凪さん、清水恵理さん、采女華さん。オフショット初公開

決勝(7月31日)
 決勝日の朝の天気は曇り。天気予報では雨は降らないようだ。朝のフリー走行は雨は降っていないが路面はウェット。初号機は前日に走り込めていない高橋選手の周回数を増やし決勝に備える作戦。弐号機も同様で、ヴァン・ダム選手は走行せず、水谷選手が走り込みを行った。

日曜朝のフリー走行は雨は止んだが路面はウェットカウンターをあてる弐号機
ピットウォーク中にマシンを整備する初号機と弐号機

8分間のウォームアップ走行へピットアウト

 決勝レースのスタート進行は約1時間前から始まる。まず8分間のウォームアップ走行が行われ一旦ピットへ戻る。その後全車コースを1周しグリッドに着き、全車がグリッドに整列したところでグリッドウォークが行われる。テレビで観るスタート直前のインタビュー等はこの時間に行われる。

 決勝レーススタートの1時間前。ウォームアップ走行で弐号車は大きなアクシデントに襲われた。スタートドライバーを務めるヴァン・ダム選手がステアリングを握りコースイン。その1周目に無線が入りピットが凍り付いた。と、同時にピットのテレビモニターにボンネットが開き、ほとんど視界のない状態でスロー走行する弐号機の姿が映し出された。


この状態でピットにたどり着いた衝撃でボンネットは変形していたワイパー部分を中心にフロントガラスが大きく破損

 ピットのミスで走行中に突如ボンネットが開くという、まさに予想だにしないアクシデントが発生した。走行中の風圧で勢いよく開いたボンネットはワイパーを強く叩き、フロントガラスは無残に割れてしまった。スタートまで1時間。誰しもがここでリタイヤかと思ったが、メカニックはすぐに作業を開始した。

ウォームアップを終え、グリッドに向けてコースインを待つ加藤選手グリッドウォークでもレースクイーンは大人気

 ボンネットを外し、接着されたフロントガラスを時間をかけワイヤーで剥がし取るように取り除き新しいガラスと交換。フォーメーションラップ開始直前にマシンの修復を完了、ピットスタートすべくピットロードエンドへマシンを送り出すことができた。

グリッドウォーク中にガラスを交換し接着中再びボンネットが取り付けられ、ピットスタートに間に合った修復作業を待つヴァン・ダム選手

 朝から雨は降らず路面は完全にドライ。決勝レースのスタートが切られた。初号機はスタートで1つ順位を落とし7位。5周目には直線スピードに優る4号車 初音ミク グッドスマイル BMWに抜かれ8位まで後退した。ここから加藤選手はいつも通りの追い上げを見せた。

GT300クラスのスタートが切られた33号車に抜かれ7位へ後退4号車に追われる初号機

 8周目に33号車 HANKOOK PORSCHEが最終コーナーで派手なスピンをして後退し、初号機は7位へ。10周目の1コーナーで74号車 COROLLA Axio apr GTを抜き6位。14周目に11号車 JIMGAINER DIXCEL DUNLOP 458をSPコーナーの入り口でパス、17周目に43号車 ARTA Garaiyaをバックストレッチで抜き4位まで浮上した。

4号車には抜かれたが74号車を抜き6位浮上11号車も抜き5位へ
43号車に迫る初号機43号車を抜き4位へ

一度抜かれた4号車に迫る初号機

 23周目に62号車 R&D SPORT LEGACY B4がリタイヤして3位、32周目にトップの14号車 SG CHANGI IS350、33周目に2位の4号車 初音ミク グッドスマイル BMWがピットインし見かけ上のトップに立った。そのまま44周目までトップをキープしてピットイン。タイヤ4本を交換し燃料を給油、ドライバーも交代、ピット作業は順調に進んだかに見えた。

 エンジンスタート。とその時、マシンの前に立ちドライバーにスタート促すスターターが一瞬「待った」のサイン。右リヤタイヤに何かあったか? しかしOKサイン。スターターがドライバーにスタートを指示し高橋選手はピットロードを駆け下って行った。

 コースインした高橋選手にピットから無線で「2番手で復帰」と伝えると、高橋選手の返事は「タイヤがはまってないないかも」。スロー走行する初号機を3位の74号車 COROLLA Axio apr GTがS字の立ち上がりで抜き去り3位に後退。バックストレッチではその後の集団に抜かれ大幅にポジションダウン。3分以上かけてピットに戻ったときには同周回の最下位、13位まで後退してしまった。


13位でチェッカーを受けた

 ピットで再びタイヤ交換を行いピットアウトするが、手の届きかけた表彰台が遠い彼方へ離れていった。悪いことは続くもので、2度目のタイヤ交換の際にジャッキアップ中にエンジン停止をしなかったためペナルティの裁定が下った。53周目にドライブスルーを行いトップから2周遅れでチェッカーを受けることとなった。

 毎戦、いずれかのセクションでトップタイムを記録したり、決勝でもトップに立ったりと速さは見せているが、結果に結びつかない。今回はミスによりレースを失っただけに大いに悔やまれる結果となった。

 一方の弐号機は、全車がスタートを切った直後にピットロードからスタート。最後尾の21位から追い上げる厳しい決勝デビューとなった。


ピットロードからスタートした弐号機最後尾でコースイン

 ヴァン・ダム選手はスタート時点で15秒ほどあった16位との差を3周目には12秒、7周目には10秒、10周目には8秒と縮めていく。ところが13周目に入るとブレーキトラブルが発生しペースダウン。15周目に緊急ピットインを行った。

 ブレーキが効かなくなった原因はタイヤカス。コース上に落ちているタイヤカスが運悪くブレーキローターに付着。高温に熱せられたローターに溶け着き異常を起こしていた。修復してコースに戻るも14分近いタイムロス。大幅に周回遅れとなり、我慢のレースを強いられることとなった。

序盤は完全な単独走行となったトラブルに耐えゴールを目指す弐号機

弐号機は初のチェッカーを受けた

 コースに戻ったヴァン・ダム選手は1分26~27秒台で走行を続け、38周目に水谷選手に交代。水谷選手は1分30台で走行を続け11周遅れの14位でチェッカーを受けた。予選の失敗、ピットミスによるマシンの破損など反省点も多いレースとなったが、4戦目にしてやっとレースデビューし、決勝レースを完走できたことの意義は大きい。

 シリーズ後半戦となる第5戦は8月20日、21日に鈴鹿サーキットで開催される。シリーズ最長の500kmレースだ。初号機の紫電は過去に優勝経験があるレースなので、奇跡の逆転チャンピオンを狙うには是が非でも優勝したい。弐号機はほろ苦いデビュー戦で得た経験を活かし、上位入賞をを目指してほしい。


エヴァンゲリオンレーシング フォトギャラリー
 以下に、エヴァンゲリオンレーシング関連の写真をフォトギャラリー形式で掲載する。画像をクリックすると、フルHD解像度(1920×1080ピクセル)などで開くので、その迫力の写真を楽しんでほしい。また、拡大写真については、Tv(シャッター速度)、Av(絞り数値)などのEXIF情報を一部残してある。撮影時の参考にしていただければ幸いだ。

(奥川浩彦)
2011年 8月 12日