奥川浩彦の「WTCC(世界ツーリングカー選手権)フォトコンテスト」攻略ガイド【第1回】
撮影機材の選び方や、金網対策など


迫力のレースシーンが展開される「WTCC(世界ツーリングカー選手権)」

 10月22日、23日に鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で「2011 FIA 世界ツーリングカー選手権シリーズ 日本ラウンド(WTCC KENWOOD Race of Japan)」が開催される。WTCCの詳細は、「鈴鹿にWTCC(世界ツーリングカー選手権)がやってくる!!」(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20110905_473808.html)に紹介されているので、ここではWTCCでカッコイイ写真を撮る方法をご紹介したい。「WTCC(世界ツーリングカー選手権)フォトコンテスト」(http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/20110912_474283.html)も開催されるので、お気に入りの1枚で、是非コンテストに応募していただきたい。

 今回は撮影機材、撮影方法、WTCC撮影ポイント、フォトコンテスト攻略法を3回に分けて紹介していきたい。筆者は長年アマチュアとして一般の撮影エリアで撮ってきたが、ここ数年は報道エリアで撮影している。今回の記事用にフォーミュラ・ニッポン第5戦で観戦スタンドからの撮影を予定していたが、台風12号の影響で中止となったため、過去に撮った画像を使って紹介させていただくことをご了承いただきたい。

 この記事は、「デジタル一眼レフは持っているがサーキットの撮影はしたことがない」「せっかくサーキットに行くのでデジカメを使って写真を撮ってみたい」といったサーキット撮影初心者を想定しているため、普段からサーキットに通われている方にはあまり参考にならないかもしれないが、その点はお許しいただきたい。

撮影機材の選び方
 まずはサーキットで撮影するためのカメラやレンズ、その他の機材について紹介したい。デジタルカメラの種類は多岐にわたっていて、一眼レフ、ミラーレス一眼、高倍率ズームを搭載したコンパクトデジカメ、普通のコンパクトデジカメなどが一般的だ。場合によっては携帯電話のカメラでも撮影は可能だ(WTCCのフォトコンには、コンパクトカメラを対象にした、コンデジ賞もある)。

 どんな写真を撮りたいか、によって選択は分かれるが、サーキットを走行するマシンを最も簡単に撮れるカメラはデジタル一眼レフカメラだ。実際に一眼レフとコンパクトデジカメ(サイバーショットDSC-HX5V)で撮った写真を見比べていただきたい。

コンパクトデジカメで撮影デジタル一眼レフで撮影
コンパクトデジカメで撮影デジタル一眼レフで撮影

 それぞれ同じ場所で撮り比べた画像だが、解像度、画質の差もあるが、撮りやすさに絶大な差がある。コンパクトデジカメやミラーレス一眼は背面の液晶モニターを見ながら撮影を行う。液晶モニターに映る映像には遅延があり、動きの速い被写体を撮るのはかなり難しい。サーキットの風景やピットウォークでドライバーを撮るなら問題はないが、AF(オートフォーカス)の遅さやレリーズタイムラグ(シャッターを押してから実際に撮影されるまでの時間)もあるので、走るマシンをアップで撮りたい方にはデジタル一眼レフカメラをお勧めしたい。

 すでにデジタル一眼レフを使用している方は、それを使い倒していただければよい。筆者は現在EOS 7D、EOS 40Dの2台のデジタル一眼レフでサーキット撮影をしているが、2年前までは2004年に購入したEOS 20Dを使用していた。最新機種やプロ用、ハイアマチュア用でなくても撮れるし、2~3万円で買える中古のデジタル一眼レフでも充分撮影は可能だと思っている。

 これから購入する方は、どのメーカー、どの機種がよいか迷うだろう。現在発売されているもので使い物にならない機種はないと思うが、機種により多少向き不向きはあるのでポイントだけ確認しよう。メーカーに関しては特定のメーカーでなければならないということはないが、実際のサーキットではキヤノン、ニコンを使用している人が多い。レンズのラインアップが豊富なことなどが理由だと思うが、シェアが高いから当然の結果とも考えられる。

 デジタル一眼レフカメラのイメージセンサーは「CCD」と「CMOS」の2種類が多いが、これはどちらでもよい。画素数も現在売られている機種なら気にする必要はない。中古の800万画素のデジカメでも問題はない。ただし、イメージセンサーの大きさは、「フルサイズ」と呼ばれる大型のものより、小型の「APS-Cサイズ」のほうがよい。そのほうが望遠レンズを多用するレース写真では有利だ。APS-Cサイズだと、レンズの焦点距離が、レンズ本体に書いてある焦点距離の1.5~1.6倍になる。たとえば、300mmのレンズなら450mmや480mm相当となって、遠くのものをよりアップで写せることになる。

 連写性能(1秒間に何枚写せるか)は高いほうが気持ちよく撮れる。現在筆者が使用しているEOS 7Dは秒8コマ、40Dは秒6.5コマだが、40Dは7Dと比べ、もの凄く遅く感じることがある。人間は贅沢なもので、秒5コマのカメラを使い始めた頃は「速い」と思ったが、6.5コマを使うと秒5コマを遅いと感じ、秒8コマを使うと秒6.5コマも遅いと感じてしまう。秒3コマで撮れないことはないが、可能であれば秒5コマ秒以上の機種を選択したい。

 ISO感度に関しては、筆者は高感度よりも低感度を重視している。一部のカメラではISO200が最低感度となっているが、できればISO100以下が設定できることが望ましい。これは流し撮りの用にスローシャッターを切りたいときなどに感度が低いほうが撮りやすくなるためだ。

望遠レンズ
 サーキットでの撮影はカメラ本体よりレンズのほうが重要だ。レンズのスペックは「焦点距離」(○○mmという数字)と「明るさ」(F○○という数字、F値と言う)でほぼ決まる。また、焦点距離を変えられる「ズームレンズ」と、焦点距離が固定の「単焦点レンズ」がある。

 レンズの焦点距離は、数字が大きい(長い)ほど、望遠となり遠くのものを大きく写せる。また、明るさの数字は小さいほど、暗いシーンに強くなる。レース撮影には、長くて明るいレンズがよいということになるが、プロやハイアマチュアが使う400mm F2.8とか500mm F4のようなレンズは高価なうえに大きくて重い。

 レース写真でよく使うレンズは200~300mmくらいだろう。もっと長いレンズが欲しいシーンもあるが、全部を600mmで撮るということもない。APS-Cサイズのイメージセンサーなら、200~300mmのレンズを300mm~480mmくらいのレンズとして使える。焦点距離を1.4倍にする「コンバーター」を300mmのレンズに付ければ、キヤノンユーザーなら最大は672mmになる。今回のWTCCの舞台である鈴鹿サーキットは、撮影可能な場所からコースまでが近いので、200~300mmでもそこそこ撮ることが可能だ。

 ちなみに筆者は以前は300mm F4と200mm F2.8の望遠と焦点距離を1.4倍にする「コンバーター」、レースクイーンの撮影用に100mm F2、それと17-85mm F4-5.6の標準ズームを使用していた。現在は300mm F2.8と70-200mm F4がコースサイドの撮影用。100mm F2と17-85mm F4-5.6の標準ズームはそのまま使用している。

 ズームレンズか単焦点レンズかは意見の分かれるところで、筆者は以前は単焦点派だったが、ズームのフレーミングの自由度が高さとレンズを交換する手間を減らせるというメリットを優先し70-200mmのズームに切り替えた。手ブレ補正機能は動く被写体を撮るレース写真にはそれほど重要だと思っていない。あって困るものではないが、レンズの価格差もあるので、ほかの撮影との兼ね合いで判断すればよいだろう。

 初めてデジタル一眼レフを買うと、「18-50mm/F3.5-5.6」のような標準ズームレンズが付属してくることが多い。標準ズームだけではサーキット撮影は難しいので、次に買うレンズとしてお勧めしたいのは70-200mmクラスや70-300mmクラスのズームレンズだ。手ブレ補正は好みで選択。1本でサーキット撮影のすべてをこなすことはできないが無駄になることはないし、運動会などほかのシーンでも汎用性が高い。

 また、最近はレンズ技術の進歩によって10倍以上の高倍率ズームレンズが比較的安価に手に入る。タムロンの15倍ズーム「18-270mm F3.5-6.3 Di II VC PZD」に代表されるような高倍率ズームであれば、レースクイーン撮影から、サーキット撮影までマルチに対応できる。

タムロンSP 70-300mm F4-5.6 Di VC USD。標準ズームに加える次の1本として、70-200mm、70-300mmクラスの望遠ズームはオススメすべての撮影を1本のレンズですませたいなら、10倍以上の高倍率ズームが選択肢となるだろう。写真は15倍ズームの、タムロン18-270mm F3.5-6.3 Di II VC PZD

 もし、ダブルズームセットなどを購入し、すでに200mmクラスのズームを持っているなら、まずそのレンズで撮ってみよう。その上でもっと長いレンズが欲しいと思ったら300mm F4(もちろんF2.8ならなおよい)あたりを買い足せばよいだろう。

記録メディア
 カメラ本体、レンズの次は画像を記録するメディアだ。筆者が使用しているデジタル一眼レフの対応メディアはコンパクトフラッシュ(CF)だ。機種によりSDHC、SDXCの場合もある。デジタル一眼レフを使い始めた2004年は、今では考えられないくらい低容量の512MBのCFを使用していたが、現在は32GB、16GB、8GBを使用している。

 カメラの画素数が増えファイルサイズが大きくなったこと、連写性能が上がったこと、仕事で撮影するようになったことなどで、記録メディアも大容量のものが必要となった。

 大容量化に加え、高速化も記録メディアの大きな変化だ。CFに関して言えば600倍速の製品が2年ほど前から発売されている。後加工の容易なRAWで撮影する人は連続撮影枚数が増えるメリットがあるが、筆者はJPEGで撮影することが多いのでそれほどメリットを感じていなかった。

 ここへ来て、USB 3.0のカードリーダーが発売され、パソコンへの転送を簡単に高速化することが可能となった。パソコン本体もUSB 3.0対応のポートを搭載する製品が一般化してきたし、デスクトップパソコンならPCI Expressの増設ボードで簡単にUSB 3.0対応にすることも可能だ。

 比較実験を行ってみた。233倍速のCFと600倍速のCFを用意し、USB 2.0対応のカードリーダーとUSB 3.0対応のカードリーダーで画像を取り込んでみた。600倍速のCFはレキサーメディアの「Professional 600倍速シリーズ」の32GB、USB 3.0対応のカードリーダーはバッファローコクヨサプライの「BSCRA51U3」、Core 2 QuadのデスクトップパソコンにバッファローのUSB 3.0対応インターフェースカード「IFC-PCIE2U3S」を増設している。

レキサーメディア「Professional 600倍速CF 32GB」バッファローコクヨサプライ USB 3.0対応カードリーダー「BSCRA51U3」バッファロー USB 3.0対応インターフェースカード「IFC-PCIE2U3S」

 実験はCFとカードリーダーの組合せを変え、CFからパソコン内蔵のSSDへファイル転送を3回行い、その平均時間を計測した。EOS 7Dで撮影したJPEG画像1000枚(計2.68GB)の転送では、233倍速CF+USB 2.0の1分49秒76に対し、600倍速+USB 3.0は1分6秒27と40%ほど高速化の確認ができた。

環境時間
600倍速CF+USB 3.01分06秒27
600倍速CF+USB 2.01分37秒68
233倍速CF+USB 3.01分37秒57
233倍速CF+USB 2.01分49秒76

 同じ環境でRAW+JPEG同時記録で100枚(合計100枚、計2.80GB)の転送では、233倍速CF+USB 2.0の1分43秒51に対し、600倍速+USB3.0は50秒44と52%ほど高速化された。

環境時間
600倍速CF+USB 3.050秒44
600倍速CF+USB 2.01分31秒13
233倍速CF+USB 3.01分25秒27
233倍速CF+USB 2.01分43秒51

 ファイルサイズが大きくなったことでより高速化のメリットが確認できた。RAWでの撮影やフルHD動画の撮影をする方は、高速な記録メディアとUSB 3.0環境を用意することで作業時間を大幅に短縮することが可能だ。

ほかに便利な機材は
 望遠レンズを使うことの多いサーキット撮影には一脚があると便利だ。三脚はほかの撮影者の迷惑になるし、実際にサーキットで使ってる人は少ない。一脚の目的は手ブレ防止もあるが、重いカメラとレンズを支えて体力を温存できるメリットもある。筆者は300mmのレンズを使用するときだけ一脚を使用し、200mm以下のレンズは手持ちで撮影している。

 作風によっては、「NDフィルター」があると表現の幅を広げることができる。NDフィルターは、レンズに入る光の量を減らして、シャッター速度を遅くするためのフィルターだ。天気がよい日にシャッター速度1/15秒といったスローシャッターを切りたくても絞り込みの限界で不可能になることがある。NDフィルターがあればよりスローシャッターを切ることが可能となる。また、高画素化が進んだデジタルカメラは光の回折現象により絞り込むとボケてしまう。NDフィルターにより小絞りボケとも呼ばれるこの現象を避けることもできる。筆者はすべてのレンズにND4(絞り2段分)のフィルターを用意し、絞り値ができるだけF11以下になるようにしている。

脚立の使用風景

 カメラ以外であると便利なのは脚立だ。絶対ではないが、脚立があれば撮影場所の選択肢が広がる。2段でも3段でもよい、価格も1000円台のもので十分だ。ただし、他人の迷惑にならないように、使用シーンや持ち運びには注意しよう。

 小型のFMラジオもサーキットに持っていくと重宝する。鈴鹿サーキット、富士スピードウェイなど規模の大きなサーキットではFM放送で実況を聞くことができる。現地で放送される実況放送をイヤホンで聞けば、レースも楽しめるし、レースの流れも分かるので撮影にも役に立つ。

金網対策を考える
 観客席(観戦エリア)から撮る一般のカメラマンにとって、サーキットの撮影ポイント探しで重要なのは金網対策だ。マシンは上手く撮れていても、その前に金網が格子状に写っているとガッカリだ。「金網をどう避けるか」、一般観客席から撮る場合どうしても避けて通れない問題だ。対策の方法として脚立やNDフィルターの使用、レンズ選択もその一つなのでここでふれておこう。

わざと金網越しに撮ってみた脚立に乗って撮るとこうなる

 一眼レフカメラはファインダーを覗いたときは絞り開放の状態だが、シャッターを切ると絞り込まれて撮影が行われる仕組みだ。そのことを知らず、見たままに写ると思うと落とし穴にはまってしまう。特にシャッター速度を遅くしたときは、グッと絞り込まれるので注意が必要だ。金網越しの撮影では、絞り込みボタン(この機能のない機種もある)で金網の写りこみを事前に確認するようにしたい。

 金網対策は大きく分けて2つ、金網のないところで撮るか、金網をボカして撮るかだ。1つ目の金網のないところ撮るには、撮影ポイントを歩き回って探すのが一番だが、望遠レンズを持った人が集まっている場所は1つの目安となる。脚立は先ほども便利な道具と書いたが、金網対策の強力な武器となる。脚立は金網対策以外に、人垣対策としても使える。人気の撮影ポイントに行くと、撮る隙間がないほどカメラマンが集まっていることがある。その後ろに三脚を置いて一段登るだけで頭の上から撮影することができる。

金網があるところでは撮影が難しい金網のないところを探して撮ろう

 2つ目は金網をボカして撮る方法だ。まず基本的な知識として、望遠レンズほどボケる。絞りは開放に近いほどボケる。明るい(F値が小さい)レンズほどボケる。ようするに高価なレンズを使い絞り開放で撮ればボケるのである。サーキットでは使用している機材で撮れる場所に差が出る。300mmのレンズでは撮れない場所でも600mmなら絵になることもあるし、ズームの望遠端がF5.6のレンズでは金網が写ってしまうが、F2.8の単焦点レンズならボカして撮れたりする。

 今あるレンズで金網をボカして撮る方法を考えてみよう。1つ目は金網に近付くことだ。被写体であるマシンは数十m離れているはずだ。レンズ(フード)が金網に触れるほど近付けば、ボケて写らなくなることがある。2つ目は絞りを開放に近付け、できるだけ速いシャッター速度で撮影すればボケてくれる。但し、流し撮りをする場合はシャッター速度を遅くしたいので、撮影意図を反映できないことになる。これに関係するのはISO感度で、ISO感度を低くすれば絞りが開くのでボケやすい。カメラ選びでISO100以下が設定できる方が望ましいと書いたのは、スローシャッターに加え、金網対策もその理由だ。

目の前の金網は近付いてボカす。少し先にある金網は安いレンズではボカせないから隙間を狙って撮るそうするとこんな感じで取れる

 NDフィルターは金網をボカす小道具としても有効だ。ND8のフィルターなら絞りを3段分開くことができる。あるいはシャッター速度を3段遅くすることができる。1/1000秒では動きのない写真になるが、1/125秒なら流し撮りが可能となる。レンズのフィルター径ごとに用意する必要があるが、用意すればシャッターチャンスが増えるはずだ。


 撮影機材の選び方の指針と、サーキット撮影には欠かせない金網対策について紹介した。次回は、WTCCフォトコンテストの題材の一つ(レキサー賞、審査基準:スピード感のある流し撮り)にもなっている、流し撮りについて紹介していく。また、この流し撮りテクニックを使用すれば、横浜ゴム賞を狙う際の表現の幅も広がるだろう。

(奥川浩彦)
2011年 9月 20日