【特別企画】スタッドレスを履いて、無料高速の東北へ行ってみた(後編)
ETC付き普通車無料の観光振興を使って山形へ


東北地方の高速道路無料化図

 前編では全日全車種無料の被災地支援を使って宮城県の各所を巡ったわけだが、後編ではETC付きの普通車などが無料になる観光振興を使って山形県を訪ねてみる。と言っても、難しいことは何もない。普通車や軽自動車であればETC車載器にETCカードをセットして、土日祝日にかかる形で高速道路を利用すればよいだけだ。

 山形自動車道は笹谷IC(インターチェンジ)以東が被災地支援対象、以西が観光振興対象となっており、山形県内を南北に貫く東北中央自動車道も観光振興で無料となる。東北の太平洋側は全日全車種無料、日本海側はETC付き普通車は土日祝日無料と理解しておけばよいだろう。詳細はNEXCO東日本(東日本高速道路)のWebサイト(http://www.e-nexco.co.jp/)や関連記事を確認してほしい。

 無料高速を使っての東北旅行2日目(日曜日)は、仙台から山形へ向かう。山形の蔵王温泉に入って、地元の名物を食べて帰路につく予定だ。ルートは、東北道 仙台宮城IC~村田JCT(ジャンクション)~山形道 山形蔵王ICへという一般的なもの。宮城と山形の間には奥羽山脈があり、ここを境に天候が激変する。山形道では、笹谷IC~関沢IC間にあたり、この区間にある笹谷トンネルを抜けると、山形側は大雪だったということは、ざらにある話。今回は雪がちらつく程度であったが、気象情報をよく確認して走行してほしい。

村田JCTを山形方面に進路をとる山形道にも震災の影響が。本来2車線区間だが、途中1車線の個所があった山形道を代表するトンネル「笹谷トンネル」。全長3,266mのトンネルで、トンネルを出ると猛吹雪という気象も珍しいことではない
山形蔵王ICを出る。幸い天気は晴れ料金は0円

スタッドレスタイヤのグリップには満足
 今回の無料化の特徴は、高速道路だけでなく、有料道路も無料になっていること。山形市内と蔵王を結ぶ西蔵王高原ラインも土日祝日は無料になっており、西蔵王高原ライン経由で蔵王温泉に向かった。西蔵王高原ラインの半ばを過ぎると路面に雪が目立ちはじめ、さらに進むと目の前は白と黒の水墨画の世界に。一見雪のないように見える黒い路面もあるが、凍っている可能性があり、油断はできない。

 とはいえ、スタッドレスタイヤ「DSX-2」はグリップ感も十分あり、一般のドライ路面と同様な感覚で走行することができる。ただし、くれぐれも過信は禁物で、とくに下り坂などは注意が必要だ。

西蔵王高原ラインを蔵王温泉へと向かう。最初は橋の個所だけ積雪が残り、さらに進むと積雪路面に。これは、橋は路面温度が低下しやすく、雪が根雪になりやすい。凍結の可能性もあり、要注意ポイント
雪の中を楽々走る、ダンロップのスタッドレスタイヤ「DSX-2」。それほど積雪が深くなく、カチカチの凍結路面も現れなかったため、余裕たっぷり。この余裕が大切だ

 せっかくの雪路面になったので、ここで非金属チェーン「バイアスロン」の取り付けにチャレンジ。氷点下の中、S君が初めての取り付けに挑んだ。

 最初に説明書を読み込む必要があったものの、取り付けそのものは順調に進んでいく。バイアスロンをタイヤの内側に入れ、ひっくり返すような形でタイヤに乗せる。あとは3個所のクイックロックを専用工具で締め上げるだけだ。説明書を読み込む時間を除くと、最初の1本が約15分、反対側は約10分強で取り付けることができた。

 実際に走行してみたところ、金属チェーンよりはましだが、やはりそれなりに振動は発生する。スタッドレスタイヤでも十分グリップする雪面のため、スパイクピンのあるバイアスロンの本領発揮とはならなかったものの、取り付け時間が短いのはうれしいところ。夜間、路肩で作業する状況に陥ったこと思い浮かべると、作業時間の短さは安全にもつながる。取り付けの心理的抵抗も小さい。

 また、スタッドレスタイヤを装着していれば、チェーン規制の個所はどこでも走行できるように考えがちだが、冬タイヤであればOKのチェーン規制と、実際にチェーンを装着せねばならない規制がある。後者のチェーン規制に関しても、一般道はもちろん高速道路上で出る可能性があり、たとえスタッドレスタイヤであってもチェーンは必ず携行しよう。

 なお、基本的にチェーンは駆動輪に装着すればOKだ。前輪駆動であれば前輪に、後輪駆動であれば後輪に装着する。悩むのは4WDだが、これは愛車の取り扱い説明書を確認するか、ディーラーに確認しておこう。このレガシィの場合、前輪装着が指定されており、前輪に装着した。

 そのほかの注意点としては、必ずチェーンメーカーの車種別適合を確認しておくこと。カーメイトは、車種別適合情報を公開しているほか、車体のばらつきによる取付隙間の確認方法も公開している。チェーンを選ぶ際の参考にしてほしい。

カーメイト 車種別適合情報 タイヤチェーン
http://db.carmate.co.jp/matching/output/index.php?c=1&menuST=32

説明書を熟読するS君。説明書は防水加工されているなど、行き届いた配慮がうれしいバイアスロンをタイヤの内側に配置中内側から表側へ、バイアスロンをタイヤにかぶせるようにする。後はクイックロックを専用工具で締めるだけ
装着完成例。クイックロック(赤い部品)は、3個所あるまずは緩みを確かめるために、ゆっくりと進む。問題なしせっかくなので試走してみた。試走個所の積雪が薄かったため、それなりに振動がある。雪深い道ならもっと快適に走れるはずだ

 スタッドレスタイヤの場合、ある程度のグリップが残るため、チェーン装着時も極端な挙動変化は発生しない。しかしながら、夏タイヤ+チェーンの場合、チェーンを装着していないタイヤのグリップ力は極端に小さく、FFであればチェーンを装着した前輪を軸にスピンが容易に発生し、FRであれば曲がらないという問題が発生する。いずれにしろ、危険きわまりないので、東北に行くならスタッドレスタイヤは必須、チェーンも必須と思っていただきたい。

 また、蔵王ではワイパーの撥水状態を確認してみた。本来は雪が自然に積もればよかったのだが、小雪は降ったものの、フロンドウインドーに積もるほどではない。そのため、人工的に雪を降らせ(雪を投げつけ)、降雪状態を再現。シリコートスノーでワイピングしてみたものの、あっさり雪をどかすことができた。シリコートスノーを取り付け、1日走った結果撥水膜が生成されており、簡単にはねのけていたようだ。

積もるほど雪が降っていなかったので、あえて雪を投げつけて積雪を再現したつもり。すでに撥水効果が発揮されており、容易に雪をはねのけていた雪を乗せても、撥水効果があるため雪が滑り落ちてくる。トーナメント部がカバーされているため、雪が目詰まりすることもない

 チェーンが容易に脱着できることと、シリコートスノーの能力を確認したので、チェーンを外して蔵王温泉へと上っていく。山形側の蔵王には日本でも有数の巨大ゲレンデを誇る「蔵王温泉スキー場」がある。この蔵王温泉スキー場は、樹氷が見られることでも知られており、12月30日、31日、1月1日~2月29日(1月前半は3が日と、土日祝。1月21日~2月29日は毎日)には夜間の樹氷ライトアップを行う。共同浴場もあり、スキーやスノーボードなどをしなくても、自然の作る驚異的な景色を楽しめる。

 と、前置きが長くなってしまったが、我々の目当ては温泉。共同浴場もあり濃い目の源泉を楽しめる蔵王温泉だが、共同浴場の浴槽は狭く、男3人で入ってもむさくるしいだけなので、日帰り温泉施設「新左衛門の湯」へ。ここは源泉100%の浴槽のほか、蔵王の源泉が濃すぎる人のために加水したブレンド浴槽もあり、洗い場、内湯などもある。また、食事処や、土産物店もあるため、観光で立ち寄るにはお勧めだ。共同浴場と違って、新左衛門の湯には駐車場があるのもポイントと言える

滑らないように歩くのが大変な坂でも、きちんとグリップを確保して走行できた。後方に見えるのは蔵王温泉スキー場 上の台ゲレンデにある蔵王ベースセンタージュピア日帰り温泉施設「新左衛門の湯」。スキー場のリフト終了時刻になると混み合うため、温泉だけが目当てなら午前中がお勧め

蔵王温泉スキー場
http://www.zao-spa.or.jp/

新左衛門の湯
http://www.zaospa.co.jp/

山形ならではの食事を求めて
 一風呂浴びたところで昼食と行きたいところだが、せっかく山形まで来たのだから昼食は名物のそばにしたい。時刻は13時過ぎ、長井地区のそば店には間に合いそうもないので、「最上川三難所 そば街道」1番店の「そばの陣 じゅんさい」を訪ねることにした。そばの陣 じゅんさいであれば、15時まで営業しているため、蔵王温泉から約60kmという距離を考えても間に合うと判断したためだ。

 早速、蔵王温泉から一般道を使い、東北中央道 山形上山ICへ。山形上山ICから北上し、東根ICを下りて、村山市へと向かう。もちろん、この料金も0円だ。高速道路を利用したおかげで、そばの陣 じゅんさいに営業時間内に到着することができ、無事おいしいそばを食べることができた。

 そばの陣 じゅんさいは、店名にもなっているようにじゅんさいが名物。店舗の横にじゅんさいが育つ沼があり、季節によっては採ったばかりのじゅんさいを食すことができる。そばも、この地方ならではの「板そば」で、地元の水を使って作られている。

 注文したのは、お店のお勧めという「そばの陣セット」。このそばの陣セットは、冷たいそばつゆと温かいそばつゆが付いており、2種類の味を楽しめる。もちろん、別途じゅんさいも頼んだ。そばは腰のしっかりしたもので、食べ応えがある。冷たいつゆでも、温かいつゆでも、そばの香りがしっかり残り、地元の味を堪能できた。

東北中央道を北上中そばの陣 じゅんさいに無事到着そばの陣セット。右下が別途注文したじゅんさい

最上川三難所 そば街道
http://www.city.murayama.lg.jp/0190bunkakankou/kurashi/kankou/soba_kaidou/

そばの陣 じゅんさい
http://www.city.murayama.lg.jp/0190bunkakankou/kurashi/kankou/soba_kaidou/kameiten.htm#soba1

1泊2日のシメは山形牛で
 1泊2日の旅の最後を飾るのは、焼き肉でしょうということで「米沢牛だ!」「いや、やはり山形牛」と激論の末、山形牛のお店に行くことに決まった。そこで選んだのが「楓庵(かえであん)」。楓庵は、山形駅方面から蔵王温泉に向かう県道53号を使い、さらにそこから山間部に向かう道沿いにある。取材当日は雪が積もっていなかったものの、一度雪が降ったらなかなか溶けないような場所にあり、スタッドレスタイヤでなければ冬はたどり着けないだろう。

 楓庵は、単品で頼むことも可能だが、2人用~6人用のコースメニューを頼むことができ、3人用のコースメニューを注文。この3人用のコースメニューには、リブロース(2人前)、牛ヒレレ(1.5人前)、塩カルビ(2人前)、カルビ・ロース(2人前)が含まれるほか、野菜とサンチュが付属する。

 出されたお肉は、サシがきれいに入って、いかにも美味しそうなもの。これを炭火で焼いていただくわけだ。3人で美味しく食べたが、十分な量があり、このほかライスか冷麺を頼めば、量に不満を持つことはないだろう。肝心の味はというと、「“口の中でとろけるような肉”とは、このことを指すに違いない」と思えるほど。軽く炭火であぶって、火を通すだけでよく、焼きすぎは禁物だ。なお、事前予約が必要なため、訪ずれる前に必ず電話を1本入れておこう。

県道53号を蔵王方面に向かっていると、「楓庵」の看板が見える分かれ道がある。この分かれ道を左折すれば、楓庵にたどり着く楓庵の外観。民家がそのままお店になっている3人前のコースメニュー。各種の山形牛を炭火で焼いて食べることができる
若干、焼きすぎか?このくらいがちょうどよいかも。とろけるような肉だった

楓庵(食べログ)
http://r.tabelog.com/yamagata/A0601/A060101/6000006/

 楓庵で絶品の山形牛を食べた我々3人は、再び山形道 山形蔵王ICに向かい帰路についた。山形蔵王IC~村田JCT~東北道 浦和本線料金所を通過して、高速料金は2,150円(休日特別割引[22時~6時])。白河ICからの料金となるため、往路と同じ料金となった。

山形蔵王ICから帰路についた東北道 白河IC通過中。ICの看板の下には「無料最終出口」の文字が。ここから有料区間に入る高速料金は2,150円でした

 なお、今回は時間優先で動いたため、このような料金となったが、東北道 郡山JCT~磐越自動車道~常磐自動車道 いわきJCT~三郷JCTという経路にすれば、有料区間の距離が短くなる(水戸ICまで無料区間)ため、1,250円(休日特別割引[22時~6時])+東京外環自動車道 250円(休日特別割引[22時~6時])と、さらに安価な料金とすることも可能だ。この辺りは、東北無料化の料金対応が行われた料金検索サイト「ドラぷら」(http://www.driveplaza.com/)で、あれこれシミュレーションしてみてほしい。また、1月3日は平日だが、三が日と考えられており、休日特別割引の対象となる。

 取材のために東北へ向かったのは、12月10日、11日だったが、冬の寒さは厳しさを増し続けている。積雪も着実に増えており、すでに東北には本格的な冬が到来している。東北へ出かける際は、スタッドレスタイヤなど足まわりの装備、冬用ワイパーなど視界の確保の2点は、必ず行ってほしい。そのほか天気予報や、交通情報を確認して、これから何が起きるのか、今何が起きているのかをあらかじめ確認しておくと、冬道運転の心の余裕につながる。

 愛車で冬用の装備が難しければ、電車で東北に向かい、冬装備されたレンタカーを借りるのも1つの方法だろう。土日祝日は東北の高速道路が無料となるため、交通費を抑えられるのは間違いない。

 最後に山形でのルートを掲載しておく。今回、宮城県、山形県を足早に回ったが、被災状況の違いを感じることができた。とくに宮城県の沿岸部は今でも震災の爪痕が残り、現地の状況に絶句することもしばしば。石巻港近くでは被災したクルマがうず高く積まれ、その1台、1台に生活があったかと思うとやるせない気持ちになる。

 被災地支援・観光振興の無料化は、分かりにくい区分だと思っていたが、現地の状況を目にすることで、改めてその意味合いの違いを納得したしだいだ。この無料化施策は、2012年3月31日24時までの期間限定のため、うまく活用していただければと思う。


(編集部:谷川 潔)
2011年 12月 22日