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「自動運転はマツダが目指すところではない。走る喜びは運転する人が主人公」とマツダの金井誠太副会長

「IBMリーダーズ・フォーラム 2013 西日本」でマツダの事業戦略や自動運転の考え方などに言及

パネルディスカッションの様子
2013年12月2日開催

マツダの金井誠太代表取締役副会長

 日本アイ・ビー・エムは12月2日、広島県広島市のホテルグランヴィア広島で「IBMリーダーズ・フォーラム 2013 西日本」を開催。このなかで行われたパネルディスカッションにマツダの金井誠太代表取締役副会長がパネラーとして出席し、マツダの事業戦略や自動運転に対する考え方などについて言及した。

 同フォーラムは「成長への挑戦-テクノロジーが支える進化する経営」をテーマに開催したもので、パネルディスカッションでは、ジャーナリストの蟹瀬誠一氏をモデレータに、中国電力会長である中国経済連合会の山下隆会長、日本アイ・ビー・エムのシステム製品事業担当 三瓶雅夫専務執行役員とともに、マツダの金井誠太代表取締役副会長が登壇。「Sustainable Growth~成長におけるチャンスとリスク~」と題して、それぞれが意見を述べた。

 金井副会長は2012年に発表したマツダの中期経営計画について触れ、「中期経営計画ではSKYACTIV技術をテコにして成長を遂げ、年間120万台の世界販売を2016年3月期までに170万台まで拡大することになる。増加する50万台は海外工場を拡張することで増やそうとしている。これによって日本での生産台数を減らすことはない。純粋に海外生産だけを増やす計画である」とした。

 具体的な海外生産の計画では、2014年1月からメキシコ工場を稼働させる予定であるほか、ASEAN地域では販売ネットワークの強化と現地生産の強化、ロシアではすでに現地組立を開始しているという。また、2016年にはタイにトランスミッションの工場を稼働させるため、工場建設を開始したと説明する。

 金井副会長は、「マツダはグローバル企業だと言われるが、日本国内から輸出している台数はトヨタが1番でマツダが2番。海外で生産している台数ではまだ遅れている」とする。だが、「海外で同じオペレーション品質が確保できるのかといった課題や災害時のリスクマネジメント、知財などの漏洩や侵害のリスク、各国の自動車政策やエネルギー政策がどうなるのかといった見極めが大切である」とグローバル展開での懸念事項にも触れた。

 また、グローバル市場におけるアライアンスを進めていることにも言及。「今回発売したアクセラのハイブリッド車はトヨタの技術ライセンスを受けて生産している。インドネシアではスズキの3列シート車を展開する一方で、日産自動車にはSKYACTIV搭載車を供給。メキシコではデミオベースの小型車をトヨタに供給し、フィアットへの小型スポーツカーの供給も計画している」として、「マツダは1社で世界中すべての市場、すべての技術をカバーできるとは思ってない。とくに環境対応車では様々な技術が必要とされる。これを全部自前でやることはできない。地域(市場)、商品、技術という観点で、相互にうまく補完できるところはアライアンスを組んでいくことになる」と語る。その一方で、「競争しなければならないエリアで、絞ったところにおいては自前主義は大事にしていく必要がある」とも述べた。

「走る喜びを提供するのに自動運転は違う」

 マツダは“Sustainable Zoom-Zoom宣言”を推進しているが、「Zoom-Zoomは、日本語でいえば“ブー、ブー”。動くものへのワクワクした気持ちを示したものであり、日本語では走る喜びというように訳している。そうした走る喜びに対して、マツダは誰にも負けないクルマづくりをしたい。その上でSustainableという言葉を付けたのは、退屈なものであったら意味がない。燃費も、安全性においても優れたものでなくてはならない。Zoom-Zoomを永遠に継続させることがマツダの姿勢であり、それが“Sustainable Zoom-Zoom宣言”につながっている」とした。

 また、運転する喜びに関連して自動運転についても言及。「自動運転はマツダが目指すところではない。走る喜びは運転する人が主人公である。走る喜びを提供するのに自動運転は違うと考えている。運転することが目的であり、楽しみであるということをSustain(継続)したい」とした。

 このほか、日本では少子高齢化が問題になっているが、自動車産業ではその問題がすでに顕在化していると金井副会長は指摘する。「日本の自動車市場を考えると、自動車の販売台数は減少しており、少子高齢化は直面している問題である。ただ、モノづくりにおいては理系離れが指摘されるなかで、昨今の就職難も影響して優秀な方々に入社していただいている。骨太のエンジニアに育てていきたい」と語った。

 ブランド戦略の取り組みについても触れ、「ブランド価値向上の取り組みによって、お客様との信頼を強化していく活動を開始したところである。これまでは、製品の品質に焦点を当てた活動を行ってきたが、これだけではお客様との信頼関係は構築できない。“Sustainable Zoom-Zoom宣言”という価値観に基づいて、セールス、サービス、コミュニケーションまでが一気通貫で取り組む状況を作り、信頼関係を構築したい。製品だけでなく、企業として社会にどう貢献していくのかということも大切である」とした。

 最後に金井副会長は、「自動車産業の最大のリスクは作った製品が売れないということ。これは製品の競争力だけでなく、為替の影響や世界の経済環境にも影響を受ける。ただ、自分たちでコントロールできるのは製品の競争力である。自分の会社でしか提供できない価値を、しっかりと提供し続けるしかない。他社と同じことをやっていれば安心であるとか、失敗を恐れて挑戦をせずに尻込みするといった企業風土こそが1番大きなリスクである。日本の“失われた20年”の原因は、こうした心の隙か、もしくは風土のようなものにあるのではないだろうか。改めて挑戦し続けていきたいと考えている」と締めくくった。

(大河原克行)